軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

標的の日常

初めは、入学して数日経った日だった。

授業が全て終わった~と校舎沿いに歩いていると、いきなりドン、と突き飛ばされて転んだと思ったら直後にガシャンと重めの音がする。

俺が今立っていた所に鉢植えが落ちて割れていた。

「ひえっ」

「っ…誰だ?!」

横にいたリーベルトが叫びながら頭上に視線をやり、俺も鉢植えが落ちてきたであろう所を見上げるが誰もいない。

リーベルトが咄嗟に気付いて突き飛ばさなければこれ、俺の頭上に…… いやこれ死ぬ死ぬ。

「ありがとうリーベルト、マジで……上、誰かいたの?」

「人影が見えた気がするんですけど…」

リーベルトが腰の模造刀に手をやりながら上の窓を睨む。

つーか反応速度えぐいな。一緒に歩いてて俺何っっっにも気付かなかったんだが???

少し気弱で可愛い系の美少年顔してるリーベルトがこの護衛騎士っぷり、ギャップがある。俺が女子だったら惚れてた。

ほんの少~~~~し顔にそばかすがあるくらいでこのリーベルトが平凡顔だなんて、本当世の中間違ってるなぁ!!!!!!!!

騎士志望の学生は帯刀に慣れるために模造刀…木で出来た剣を腰に付けて過ごしている人も多い。

生徒は本物の剣を院内では持ち歩いてはならない。学院の所々に剣を持っている王都の騎士が見張りに立っていて、何かあれば知らせて助けてもらう。警備員さんみたいなものだ。

騎士に知らせると、「ふむ…あの窓の鉢植えが風で落ちてしまったということではないか?騒ぐほどのことではあるまい。まぁ、一応報告しておく」と軽いリアクションだった。

「そんな強風吹いておりません! 窓の鉢植えは固定されているしひとりでに落ちるようなものでは…」

リーベルトが本当それ、ということを訴えたが、

「やかましい、男がこれくらいのことでいちいち喚くな! 見苦しい」

と騎士に一喝された。

――――こ、これくらいのことって…あれ頭に直撃してたら死んでたかもしれんぞ。王子にも同じこと言えんの??

「あの騎士…少しおかしいよな?」

「ええ…なんなんでしょう」

※※※

「おわっ!?」

そういうことがあった次の日、ボールが飛んできた。野球ボールのような大きさの黒い球だ。間一髪で避けたが、飛んできたと思しき方向を見ても誰もいない。

「これは…狩りに使う鉛玉では?」

「そうだな…アマデウスを目がけて飛んできた」

一緒にいたリーベルトとハイライン様が落ちた黒球を見て言う。食肉になる動物を狩る時に投げて使う道具の一つらしい。飛んできたのは肩口くらいの高さだった。体に当たったら打撲くらいだろうが、頭に当たったらやはり危ない。

近くの騎士(昨日と違う人)に報告すると昨日ほどぞんざいな態度ではなかったが、それは何となく侯爵子息のハイライン様が睨みつけていたからのような気がする。

「昨日のこともあるし…デウス、もしかして狙われているのでは」

「私が? 狙われ…?」

リーベルトが真剣な顔で言うが俺はピンと来ない。命を狙われる覚えなんてない。

「そうだな…二度も不可解な攻撃があったとなると…アマデウス、貴様過去に遊んだ女にでも恨まれているんではないか?」

「いませんそんな人は!」

ハイライン様の中の俺のイメージが悪い。

「伯爵様にも報告した方が良いよ」

「そうだね…」

昨日の事も一応アンヘンに伝えて報告はしている。

※※※

報告を聞いたらしいティーグ様は夕食の席に顔を出し、「……もしかすると、シレンツィオ関連かもしれぬ」と言っていた。

「ジュリエッタ様ですか?」

「いや……んー… 確証はない。調べてみるが…アマデウスは周囲に充分気を付けろ。リーベルト君が傍にいてくれて助かるな」

貴族学院に侍従は基本的に入れない。

狙われている、と推測出来たとしても護衛を引き連れる訳にもいかないのだ。リーベルトはあくまで友達なので護衛みたいに扱うのはアレだが、彼が気を付けてくれて助かるのは事実。グロリア子爵家にはお世話になりっ放しである。落ち着いたら何か御礼したいね……

その後も結構色々よくわからんことが起きた。

図書館のクソ重い本が急に頭上に落ちて来て背中を打ったり(頭は回避出来た。何故落ちてきたかは不明)、二つ上のすごい美少女の先輩に呼び出されて「貴方、有名な女好きらしいけど私を口説くんじゃないわよ」と謎の釘を刺されたり(これは命狙われていることとは多分無関係)、教科書の間にカミソリが仕込まれていたり(手を切る前に気付けた)。

万が一カミソリに毒でも塗られていたらアレなのでティーグ様に提出した。学院の警備騎士はちょっと信用がならないかもしれないということで。俺を狙っている勢力に買収されている可能性があると。

また、リーベルトとハイライン様と廊下を歩いていると水色の髪の美少女が俺達の前に立ちはだかった。

「貴方がアマデウス殿ね。わたくしの家は貴方の御母上のせいで大変な迷惑を被ったのよ。誠意を見せるべきでは?」

また何だかよくわからん美少女に絡まれたな。

「はぁ…私の母が、ですか?」

「貴方、今でこそ伯爵家にいらっしゃるけど元は男爵家の血筋でしょう? そして、母親は悪名高いアロガンテ元公爵令嬢」

周りにいた人達がざわざわと戸惑う。リーベルトとハイライン様も知らなかったのか驚いているようだ。

産みの母親がやらかしたことはティーグ様に一応聞いている。

だがざっくりとなのであまり詳しいことは知らない。ティーグ様が教えなかったということは知らなくても問題ないのだろうと思っている。

アロガンテ公爵令嬢アマリリスに迷惑を被った家…今の国王陛下の婚約者候補だった侯爵家か?で、水色…「青の髪」というと。え~~~~と…

「エストレー侯爵家の方…ですか?」

「わかっているようね」

ヨシっ。合ってた―――――――ピンポンピンポン。正解。

「わかっているのなら、どうすればいいかわかるわね」

…わからんが……。

誠意を見せろって言ってた? 何だ誠意って。金か? ヤクザの脅しかな?

貴族ってのはメンツを大事にするし学校の中ではヤンキーさながら派閥もある。

俺はアルフレド様の友人兼取り巻きとして下についているような感じになっている。舎弟的な。

――――――つまりは、うちの派閥に入って子分になりなさいと要求されている…と見た。

そんな理不尽なカツアゲに応じる訳にはいかない。いや金を要求している訳ではないだろうけど、何かしら俺に圧力をかけようとしていることは伝わる。

「ご挨拶に伺わずに足を運ばせてしまいまして、申し訳なかったです。私の誠意と致しましては、いたずらに御前に姿を現して先輩を不快にさせないことに注力したいと思っております」

こういう手合いは関わらないが吉だろう。

心に決めた相手(アルフレド様)がいますんで無理です。

「な…、貴方、母親の所業を申し訳ないと、埋め合わせをしようという気持ちがないの?」

「…先輩、お忘れなのかもしれませんが…」

なるべく嫌味っぽくならないように明るく笑いかけながら言う。

「私はもう、あの人とは違う家の人間になったんですよ」

軽く礼をして、驚いた顔で固まった美少女の横を通り過ぎる。リーベルト達もはっとして俺の後ろに続いた。ハイライン様がジト目で見てくる。

「……母親が公爵家の人間だったとは初耳だぞ」

「私もよく知らないんですよね」

「何故母親のことを知らんのだ」

「あんまり会ったことないので…」

肩を竦めると二人とも微妙な顔になる。同情してくれてるのかもしれないが、マジで普通に知らんだけなんだよな……

ハイライン様が憂いを帯びた顔でしみじみと言った。

「…お前が異様に女好きになったのは母親に蔑ろにされた反動なのかもしれんな…」

「う、うわぁその仮説嫌過ぎるのでやめて下さい! 違いますぅ!」

ま、ま、ま、ま、マザコンちゃうわ!!!!!!!!!!!!