軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

奥の手

決闘当日。

俺ですら朝から授業に集中できなかったのだから当人達はもっとだろう。

教師兼立会人はよりにもよってニフリート先生である。

あの時と同じように介添人として立っている俺、ちょっと気まずい。

ニフリート先生本人はいつもの主人公みたいな真剣な真顔で、過去の敗北を気にしているようには見えないが。

オルデン先生から聞いたところ、立会人は騎士クラス教官達全員のくじ引きで決まったそうだ。

やりたくないというより気楽に見物したい人が多かったとか。ニフリート先生くじ運悪いな。

この決闘、学院中に知れ渡ってしまっているのでかなりの見物人が押し寄せている。決闘が決まった翌日にちょっぱやで行われたジュリ様とニフリート先生との決闘とは比べ物にならない数の……。一種のお祭り騒ぎだ。

わかる、美少女の取り合いで決闘だなんてわくわくの見世物だよね。無関係なら。

グレゴリーの介添人は知らん男子生徒がやっている。あっちも友人だろう。

学院に身内がいるし介添人はリリーナがやるかと思ったが、

「冷静にこなせる自信があまりなくて……お兄様への反発と応援と神への祈りで……。アマデウス様、頼まれていただけませんか? 後ろ盾が強い方が向こうに圧を与えられますし」と託された。

この度の兄の行いを全面的に支持できないという心持もあり、応援はしているが、決闘の結果によってはプリムラ様との関係や思い描いていた未来が色々と変わってしまうと思うと複雑なのだろう。始まる前から手に汗握っていた。

リリーナやジュリ様達は周囲の視線からプリムラ様を守るように囲んでこちらを見守っている。

当のプリムラ様は沈んだ目をしつつ扇で顔を半分隠している。何も知らずに見るとおっとりとした美少女が憂いを帯びて佇んでいるように見えるが、今までの付き合いを鑑みて俺が見ると(機嫌悪そうだな……)と感じる。見物に来ている人達の興味本位の注目が心の底から鬱陶しいと思ってそう。

「――――――これより、グレゴリー・ムルシエとリーベルト・グロリアの決闘を執り行う! グレゴリーが勝利した場合、リーベルトはプリムラ・ロクティマ嬢との婚約を解消すると誓約。リーベルトが勝利した場合、グレゴリーは今後一切プリムラ嬢への求愛を行わないと誓約する。双方、相違ないか?」

「異議なし」

「異議ありません」

ニフリート先生の宣言に二人が同意し、介添人も頷く。剣の長さが同じであることを確認し、一度介添人に剣を預け、上着を脱ぐ。

「ありがとうね、デウス」

「全然。怪我しても俺が治すから、頑張れ」

介添人を引き受けたことに関する感謝を改めて告げられ、俺は短く激励する。リーベルトは緊張した面持ちをわずかに崩して微笑んだ。

「それは助かる。でも、無傷で戻るよ」

返す言葉がカッコよすぎるだろ……と思いながら上着と鞘を受け取って野次馬と同じくらい離れる。

学院の治癒師も控えてくれているが、リーベルトが怪我した場合俺が治しても別に文句は言われまい。

そして今日俺はなんと――――――『万能魔力薬』の試薬を一瓶、持ってきている!

ファウント様に頼んで特別に頂いたものである。安全性は確認されているがまだ非売品。

今秋、姉上との結婚式でお披露目する予定だ。購入はマルシャン商会か中央教会を通していただきます。

"黒い箱"封印の時よりも改良が進み、今持っている一瓶(コップ二杯分くらい)でもかなり魔力酔いが抑えられるとのこと。まだ改良はしていくが製品としては体裁が整ったと。

俺が大怪我を聖女用治癒魔法で一気に治しても、これさえ飲めばかなり気分がマシになる代物。アフターケアの準備は万全だぜ。

「――――――――――始め!!」

ニフリート先生の声が響いた直後、両者の剣の色が変わる。

魔力を扱えずとも騎士になることは出来るが、剣に魔力を渡らすくらいは出来ないと騎士クラスで上位には入れないと聞いた。攻撃の威力が段違いだそうだ。

リーベルトの剣は目の色と同じ、明るくも濃い青。

グレゴリーの剣は彼の髪と同じ赤褐色から赤のグラデーションで、熱せられた鉄のような色合い。やっぱ剣の色変わるのカッコいいな……なんて暢気なことを思ってしまう。

先に踏み込んだのは赤。

低い場所から大きく斬り込んだ一太刀を往なした青の剣はそのままぐるりと回転して赤の剣を横から叩く。その剣先には物理的な力だけでなく魔力の重さが含まれ、稲妻のような光が走った。

耐えたグレゴリーはその場で飛び、真っ直ぐリーベルトの顔へ剣を突き出す。速っ、と思ったがリーベルトはそれをなんなく躱した。次の瞬間カウンターのように突き出された青の剣がグレゴリーの胴に入る。

早くも決まったかと思ったが、一瞬で鉄製の盾が現れて剣戟を防いでいた。

少し距離を取った二人は睨み合う。

わぁっ……!! と歓声が上がった。関係者は緊張に息を詰めているが観衆は盛り上がっている。

「二人とも良い動きだ、魔力の扱いも安定してる!」

「実力はそう違わないみたいだな」

後輩らしきどこかの男子生徒の会話が耳に入る。彼らは別に悪くないが、ハラハラしているモロ関係者の俺は(楽しそうにしやがってよ~……)とちょっとイラっとしてしまう。

「そうでもないぞ」

「え?」

すぐ横から聞こえたそれはハイライン様の台詞だった。目を向けると俺に説明する気は特にないらしく、しれっとしている。何に対する「そうでもない」なのかわからないまま視線を闘いに戻す。

打ち合いが続いた。

リーベルトは一度左側に盾で剣を受け、衝撃の重さに顔を歪める。すぐに持ち直してグレゴリーの右腕に同じような攻撃を食らわせ、同じく盾で防がれた。

ダメージを受けたであろう左側に攻撃を重ねる赤、右側を攻める青。

違いが表れてきたのは表情だった。

グレゴリーは徐々追い詰められたような苦しげな顔になってきている。

リーベルトも真剣な顔ではあったものの、どこか余裕がありそうだ。はったりだとしてもその様子にグレゴリーが焦っているのを感じた。そろそろ互いに魔力の限界が来る。

これが決め手というようにグレゴリーの剣が赤く輝き、剣を振り下ろす。煌めいた剣戟が避けられない速さでリーベルトに届いた。

ニフリート先生ほどの規模ではないが、当たったら訓練場の端まで吹っ飛ばされそうな強風が吹き荒れる。

「ぅ、…………あ!?」

風を受け思わず瞑った目を急いで開けると――――――――爆風と攻撃を防いだその盾は、透明だった。

リーベルトは透明な盾を構えながら一気に距離を縮め、相手の胸当てを剣で突く。

まともに喰らったグレゴリーはバチッという電撃音とともに宙に浮いた。

…………ああ、魔力ってちょっと電気に似通ってるんだよな、なんてことが脳に過る。

光と共に地に倒れたグレゴリーは藻掻いたがすぐには起き上がれず、青の剣を鼻先に突き付けられた。

「……いつの間に、透明の盾……」

「本当なら、六年最後の模擬試合まで隠し玉にしておくつもりだったらしい」

「ふっ、油断しなければリーベルトが負けるものか、あの程度に」

「ムルシエも悪くなかったが、そうだな」

俺が呟いた言葉にペルーシュ様が返事をし、ハイライン様が得意げに鼻を鳴らす。アルフレド様がグレゴリーを評価しつつ頷いた。

"透明の盾"を使えるようになったこと、この三人は知ってたらしい。同じ騎士訓練仲間だからだと思うが、教えてもらえてなかったことがちょっとだけ悔しい。

「―――――――――――勝者、リーベルト・グロリア!!」

…………よしッッッ!!!

鞘を握りしめてガッツポーズが出る。一際大きい歓声が上がり、拍手が起きる。

リーベルトは一度姿勢を正して地面のグレゴリーに深く頭を下げてから、盾は消し剣を持ったまま、早足で向かう。

プリムラ様の前へ。

「っ……、はぁ、……っ、プリムラ様!!」

「……は、はいっ!」

まだ息が少し上がっているリーベルトは二回深呼吸をして、彼が勝ったことをまだしっかり飲み込めてなさそうなプリムラ様と向き合った。

「……貴方は、確かに私にはもったいないくらい、素晴らしい人です。努力家で、優秀で、綺麗で、毅然としていて……、……正直に言えば、私は貴方の傍で、みじめに感じることが、ありました」

「! …………」

哀しげに曇ったプリムラ様の目を見つめて、リーベルトは眉をぐっと上げた。

「……それでも!! 貴方と作ったブローチと貴方があの日くれたハンカチで、みじめさなど一生分吹き飛んでしまったので!! ……プリムラ様と結婚できないなら、もう一生独り身で構いません!!!」

"美人なら誰でもいいんでしょう"への彼なりの答えを、全力で叫んでみせた。

プリムラ様は顔を隠す扇を持つ手も下がってぽかんとしていたが、ぱちぱちと瞬きをしてから息をすうっと大きく吸い込んだ。

「――――――――――っ、わたくしは!! ……あなたがいいのです!!!」

リーベルトがぽかんとする番だった。

淑女らしからぬ大声で主張した乙女はじわじわと赤面していく。その赤が濃くなるにつれて内容を理解していった少年も、つられて頬を染める。

どうすればいいかわからず視線だけをおろおろと動かした結果、俺と目が合った。

するとハッと何かに気付いたような顔をして、……目の前の女の子をそっと抱き締める。

令嬢が抵抗せず少年騎士の胸に擦り寄った瞬間、決闘の時とは違う、黄色さを含んだ大歓声が上がった。