軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

お助けキャラ

リーベルトとプリムラ様が無事和解して一安心。

はしゃぐ人々の中、俺はジュリ様と目を合わせてほっと息を吐き、笑みを交わす。

プリムラ様を抱き締める前にリーベルトは一旦剣を地に置いた。鞘を持って行ってあげなきゃな、と思ったが……盛り上がってるところだから邪魔しない方がいいかと思って後回しにして、俺はグレゴリーの方へ足を向けた。

吹っ飛ばされたグレゴリーの近くには介添人と学院の治癒師、ニフリート先生が集まっている。

「……彼、どういう状態ですか?」

俺が問うたすぐ後にニフリート先生と治癒師がグレゴリーの体を起こし、腕や足を軽く触っていた。意識はちゃんとあるようだ。胸当てを外し胴体を軽く触られると、少年は呻いた。

「ウグッ……!!」

「折れてるな」

痛そうな顔をしたグレゴリーにニフリート先生がさらっと言う。

「……えっ!! 骨が?!」

俺はびっくりして"そりゃそうだろ"ってことを言ってしまった。他に何が折れるっていうんだ。心とかか。

「ふむ、肋骨ですね。大丈夫、すぐに治せます。骨折は初めてですか?」

「いえ……」

「ではこの後のことは大体わかりますね、魔力酔いは長引くでしょうが安静にしていれば……」

「あっ、あのー。グレゴリー殿、先生、もしよければこちらを差し上げようかと思うんですが」

慌てて治癒師先生の言葉を遮ってしまったが、俺が瓶を差し出すと三人ともそれに注目する。

「"万能魔力薬"です。魔力酔いがマシになるかと……」

「……え? でもあの薬はまだ……あ」

他の二人は頭上にハテナを浮かべているが、治癒師は喋っている途中に気付いたらしい。

「ええ、開発者はうちの義兄です。今日のために特別に都合してもらいました。新薬ですので使うかどうかは当人と先生にお任せしようかと思います……不安ならここで一口飲んで見せてもいいですが」

ファウント様は王立研究所にいた人だし、新薬の情報は王都にいる治癒師には比較的すぐ回るそうなので学院の治癒師の耳にも入っていた。

瓶には責任者表示としてファウント=スカルラットと俺の直筆サインが入ったラベルが貼られている。薬瓶には作った者と処方する者(普通は治癒師だけど今回は俺がリーベルトに渡すつもりだったので俺が書いた)のサインを入れることになっている。

「……いえ、毒見は不要です。魔力酔いに効くのなら、使わせていただきたいです。……先生」

額に脂汗を浮かべたグレゴリーがそう言って目配せすると治癒師が頷いて瓶を受け取った。

友達ならまだしも面識があるだけの学生から知らん薬を差し出されても信用できないかな、と一応毒見を申し出たけど……まあこんなアホほど人目がある場で毒物を渡す馬鹿はいないと思ってくれたようだ。

体を離したけれど赤い顔で向かい合っている二人を、顔を上げたグレゴリーが遠い目で見た。

「……彼女の相手は彼だってわかってくれた?」

「ぁ、……ええ。まさか本当に、あちらだったとは……」

「リーベルトは良い男だよ」

「……はい」

失恋した騎士見習いは痛みを堪えるような笑みを浮かべる。骨の痛みでも心の痛みでも、どのみち胸の痛みか。軟派なモテ男とて、軽い気持ちではなかったのだろうと感じさせられた。

……うん、こんな公衆の面前で勝負に負けた上に失恋、きっっっついよなぁ~~~~……!!

覚悟はしてただろうけど……いや、してたのかな、わからんけども。

「……まあ、だから、君に何かが足りなかったとか悪かったとか、そういうことじゃない」

彼らに入り込む隙が無かっただけで、グレゴリーがダメだったわけじゃないと思う、というフォローの気持ちを込めて笑って見せると、彼は目をぱちくりさせた。

治癒師が肩を貸して怪我人はよろりと立ち上がる。俺もいい加減戻るか、と思ったらニフリート先生が呼び止めてきた。

「ああ、アマデウス君、おそらくリーベルト君も折れてるぞ」

「……えっ!? 嘘ぉ!?」

「左腕だ。今は戦意で高揚していて大した痛みではないんだろう。後で養護室へ連れてきなさい」

「は、はい……」

…………も、もうちょい早く言ってほしかった――――!!!

魔力薬は一瓶しか持ってきてない。今更グレゴリーに「やっぱ返して」なんて……言えねえよ……!!

ハイライン様はリーベルトの方が断然実力が上みたいな言い方してたけど(身内贔屓だな多分)、実際上ではあったけど、なんだかんだで良い勝負ではあったんだなぁ。

……仕方ない、フラれた上に骨も折れたグレゴリーの方が可哀想度は高いし、薬はこのまま彼に進呈しよう。

「―――――――あ。あと、俺はジュリ様一筋なんでね!! 覚えておいて!!!」

「え、あ、はい……」

漠然とした情けなさから捨て台詞みたいな言葉をグレゴリーに吐いて、その場を離れた。

決闘後のお祭りみたいな騒ぎも落ち着いた頃に確認したら、確かにリーベルトの左腕は折れていた。ヒビが入った程度ではあったようだがじわじわと痛みが強くなってきていたらしい。

ニフリート先生が言っていた通り、アドレナリンが出てたのか本人も気付いてなかった。

その後二人で養護室へ行くとグレゴリーは既に帰った後で入れ替わりだった。勝者と敗者が顔を合わすのも気まずいだろうから助かった。

魔力酔いで寝込むことになることを見据えて、歩くことは問題ないためそのまま寮の部屋に治癒師先生と一緒に帰り、その場で治癒してもらう。負傷はすぐに治ったが、骨折はなかなかの重傷なので魔力酔いは結構かかる。短くても三日はベッドの住人になるという。

「無傷で戻るって言ったくせに、これは恥ずかしいな……」

「まあまあ。かっこよかったから大丈夫だよ」

治療に付き添い、後はリーベルトの侍従に任せて俺は治癒師の先生と一緒に寮を出た。

そういえばグレゴリーも寮生だったような……と思って治癒師に聞いてみたら、「あの薬のおかげで治療後も魔力酔いが軽微で、普通に歩いて帰ることが出来ましたよ」と言われた。

帰宅してから急いでファウント様にお願いして万能魔力薬をもう一瓶得て、翌日朝一でリーベルトに届けたところ。

「え、すごい、かなり楽になった……今日登院出来るかも……」

と驚いていた。念のため今日までは安静にしとこうと諭しておいた。

翌々日にはグレゴリーもリーベルトも平気な顔で登院することが出来て、驚いた周囲に色々聞かれ、結果的に万能魔力薬の良い宣伝になったのだった。

※※※

決闘の前日に、ネレウス様との面会が叶った時のこと。

ジークも一緒にと思ったが聖女用治癒魔法の治験の話し合いをするので一人で来いとのお達しだった。カリーパンとあんパンをお土産に包んで向かう。

国指定薬物に仲間入りそうなカレーだが、ファウント様はカリーパンを作ったり売ったりすることは推進していく方針らしい。秋に予定している姉上との結婚式にも出す気満々。

「ほう……ふむ……」

予想通りネレウス様はあんパンの方をお気に召した様子である。

どっちも一つずつ食べた後、三口くらいで食べられる小さめのあんパンをノンストップで三つ食べた。四つずつ持ってきて一つか二つは俺が食べるつもりだったんだけど。まあいいけども。

試作のパンは、見分けやすいようにあんパンの上にシャン豆(あんこの材料)を一粒乗せ、カリーパンは楕円形にしてもらった。

あんパンにはゴマをまぶせたらより馴染みがある感じになったんだけど、ゴマが見つからなかった。そういえばこっちに来てから見たことがない。探すにも上手く説明できなかったので諦めた。なんかちっさい種みたいな……黒かったり白かったり金だったり……香ばしくて……ゴマってどういう植物でどうやって収穫できるんだ? 考えてみたら知んないわ。

全部小麦を使うと値段が高くなってしまうので、売るのは小麦とライ麦を混ぜた生地にした。少し酸味がある。焼きたては外がカリカリで中がふわっとしてて良い。時間が経つと固くなってしまうが軽く炙れば美味しく食べられる。

貴族の食べる高級パンは良い小麦を使っててバターなんかも入ってて柔らかいが、平民が食べる普段のパンは安いパンほど固くて黒っぽい。安いのはライ麦や大麦を使ったカチカチパンで、スープや酒に浸して食べる。固い分日持ちはする。

男爵家にいた頃は時々黒くて固いパンも出てきた。俺は(今日は固いパンの日か、顎が鍛えられるな……)くらいしか考えてなかったが、多分毎日柔らかいパンを焼くには予算が足りなかったんだろう。伯爵家に来てから気付いた。

ネレウス様がもぐもぐしている間に俺はリーベルトの決闘のことを話した。

「――――そんなこんなでついに明日です」

「ふむ、僕の力が以前ほど強かったらあんパンの礼に予知しても良かったんだが」

「予知への対価安っ。大丈夫ですよ、今回は先に結果を知っても俺ができることはないと思いますし……」

ジュリ様の決闘の時は相手が相手だし無事かどうかだけでも知りたかったけど、今回は実力は同等と思われる二人だし、未来予知してもらってもリーベルトには話せないし。

「そうか。僕としてはジークリートを誑かす不届き者に勝たせたくないのだがな……畢竟、君がこっそりエナジードレインすれば済むだろう」

「ふ、不正を勧めるもんじゃないですよ……」

グレゴリーが『ネレウス殿下とのことは考え直せ』と言っちゃったことはさすがに話さなかったが、彼がしつこく女の子を紹介しようとしてジークに嫌われてることはさっき話してしまったのだ。

ネレウス様は気に入らないからってあからさまなことはしないと思うんだけど、万が一何かされたらごめんグレゴリー。

閑話休題。

「聖女用治癒魔法の治験に関してだが、話が通った。教会も治験候補には心当たりがあるが、コレリック家の被害者を優先するので希望者の人数がわかったら知らせてくれとのことだ。不都合がなければ君にも男性被験者への治癒要員として参加してほしいと」

「おお、有難いです。勿論参加します。新しい大司祭様って、えーと……」

「名はジョアンナ。中央神殿の修道女のまとめ役を長く務める老女だ。口調が荒いが協力的なので心配いらない」

口調が荒いのか……。聖職者で口が悪い人に当たったことがないのでちょっとイメージしづらいが。

ペティロ卿の後任の大司祭様は女性だった。

なんとなく大司祭という立場を地球で言う法王とか教皇みたいな感じに捉えていたので、次も男性だと勝手に思っていたがそんなことはなかった。キリスト教だと女性は司祭になれなかった気がする。

決闘当日、ネレウス様もジークと一緒に見物に来ていたのを遠目で見た。

ジーク曰く「グレゴリーが負けて満足そうでした」。ジークも見るからに嬉しそうな笑顔。

グレゴリーが嫌いなのはわかったがそこは『リーベルトが勝ってよかった』にしとこうぜ弟よ。

―――――――やがてグレゴリーが遊び人として社交界で名を馳せ、中立の隠れシレンツィオ派としてあらゆる派閥の貴族女性の情報を(頼んでなくとも)俺に流してくれるお助け情報屋キャラみたいになるとは、まだ誰も知らない。