軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

鼓舞

【Side:ジュリエッタ】

貴族学院の制服は白の中衣に濃い灰色の軍服のような上着で、下に履くものは限定されない。

男子は大抵灰色や暗い色のズボンを複数用意するが、女子は脛まで届く比較的に動きやすいスカートを何種類か用意する。

華やかな色のスカートを纏う女子も多いという。騎士団を希望する者は女子もズボンを着用することもあるが、珍しいので目立つのだとか。

学院でも茶会室を借りてパーティーを開くことは出来る。

卒業式典の後には講堂で送別会という名のパーティーが行われるのが恒例になっている。

社交界では婚約者の髪や瞳の色の装飾品を身に付けることで仲の良さを顕示することがよくあるため、学院のパーティーや送別会でスカートを婚約者の髪や瞳の色にして参加し、婚約者にエスコートしてもらうという状況に多くの女子が憧れているらしい。

「お嬢様、着心地は如何でしょう」

「問題ないわ、モリー」

学院用に仕立てた良い生地を使った灰色や白、薄紅色のスカート。上品な刺繍が施されていたり控えめにフリルがつけてあったりして地味過ぎないようになっている。

学院に着ていくことはないかと思うが、騎士団の練習に参加する際に使っている濃い灰色のズボンも新調している。背が伸びることを見越して裾が折り返して縫ってあった。

―――――――――――――…アマデウス様の髪のような、鮮やかな緋色のスカートを纏うことが出来たら。

そしてエスコートして頂けたら。

なんて。

…妄想くらいは自由よね。

今まではどんなに良いドレスや装飾品を見て心が躍っても、自分が身に付けたらこれらのものを生かせない、宝玉の持ち腐れとはこのことかと沈んだ心持になってしまった。

でも、今は少し違う。

アマデウス様の気を引くことが出来るかもしれない、ほんの少しでも良い、可能性があるかもしれない、という期待が心を浮き立たせる。

顔が駄目でも体や振る舞いが立派に女らしければ、アマデウス様の御眼鏡に叶うかもしれない……

モリーに、「一般的に男性は胸やお尻の大きい女性が好きなものと聞くけれど本当かしら…」と聞くと「概ねその通りかと…勿論男性それぞれに好みはあるかと存じますが」と返された。

大して効果は望めないだろうとはわかっているけれど、胸を大きくする効果があるという噂の食べ物を出してもらったり、按摩してみたりしている。

お尻が大きいと剣術で素早く動くのに少々難があるし、お尻を大きくする方法というのは調べてもどうにもわからなかったので、定期的に腰を捻る体操をして腰を細くしたいと思っている。元々体は鍛えているので結構引き締まってはいるが。

仕立屋が帰った後、家庭教師の元で勉強し、音楽室へ向かった。楽器の腕を磨いておきたくて、時折練習しに行っている。

『是非いつか歌を聴かせてもらいたいです、こっそり私だけにでも』

アマデウス様はそう仰ったけれど。

こっそり二人きりになって歌を聴かせるだなんて、家族か恋人でないと出来ない。

これはもしや口説かれているのかとひどく赤面してしまったが、音楽狂いと言われるほどの音楽好きでいらっしゃると後で聞いたので社交辞令というか、本当に歌が聴きたいだけかもしれなかった。考えれば含みなど何もなく見える無邪気な笑顔でいらっしゃったから。

……でも、もし、万が一ということもあるかもしれないから…!

歌も練習しておこう。

廊下の先からロレッタが歩いてくるのが見えた。

「あらご機嫌よう、お姉様。どちらにいらっしゃるのですか?」

「ご機嫌よう、ロレッタ。音楽室へ行くわ」

「音楽の授業ですの?」

「いいえ、…少し練習するだけよ」

「まぁ…まさかとは思いますけれど、音楽好きだというお噂の貴公子に媚びを売ろうとお考えですの?」

眉を下げたロレッタは甘ったるい声で言う。

「お可哀想なお姉様…! 例の貴公子は女性には見境のない方だとか。そんな方に想いを寄せてもお姉様がお辛くなるだけでしてよ ?それに公爵家の娘が格下に縋るなんてみっともない…と思われてしまうかも…。きっと他にもっとお姉様にぴったりな方がいますわ! 恥ずかしい姿を晒す前に諦めた方が良いかと…」

心配しているように見せて、その口元の笑みからは私を見下すことを楽しんでいることが窺えた。

母親のロレンツァが普段からこういう態度だからロレッタも真似をする。私を見下していい対象だと思っていることが言葉の端々から伝わってくる。ロレッタの侍女もにやにやとしていた。

どうせ私に婿など見つけられっこないと思っているのだろう。努力したって無駄だと。

「差し出がましいわよロレッタ。貴方の意見など聞いていないわ」

「えっ……お、お姉様?」

「失礼するわ。姉へ対する礼儀を覚えるまで私に話しかけないでほしいものね」

「―――――――――――――――――ぶ、ぶっさいくのくせに…!! なんなのあの態度…!」

ロレッタが小さな声で言ったのが聞こえる。聞こえても構わないと思って言ったのだろう。全く礼儀知らずの小娘だ。でもロレッタと侍女のあの呆気にとられた顔。思い出すだけで一月は笑える。

今まで私は継母と妹の嫌味を受け止めるだけだった。言い返す気概がなかった。思いの外無気力だったのかもしれない。

初めてだ、反撃したのは。

平気だった訳ではないがこの顔では蔑まれても仕方がない、と思っていたのに。

猛烈に言い返したくなった。せっかくの良い気分に水を差すな、と。

不細工だから何だ?

不細工が恋をしてはいけないだなんて法はない。親か恋した相手以外に諦めろと言われて諦めてやる義理はない。

「…お嬢様。お強くなられて……」

こんなに嬉しそうなモリーの声は久々に聞いた。

「……生意気になっただけかも」

「いいえ。前向きになられたのですわ」

「そうね…次あの子が何か言って来たら、ベールを捲って見せてあげましょうか?」

「フフッ…お嬢様がよろしいのでしたら」

何年も前に一度私の顔を見たロレッタは泣き叫びながら逃げ出した。

その後も暫く私を恐れてびくびくしていたが、私が気を遣って顔を見せないようにしていたら安心したのか喜々として嫌味を言うようになったのだ。

もうあの子に気を遣うことはないだろう。

そもそも何で気を遣っていたのだろう? 年下でまだか弱いと思っていたからか。でももうあの子も10歳だし、そろそろ自分の言葉の重みには自覚を持ってもらわねば。

こちらを見下すようなら泣かせてやればいい、気絶させてやればいいのだ。平気になるならなるで度胸がついたということだ。

悪く言われるのが恐くて、顔を見られるのが恐かった。

しかし今は不思議と恐くない。

頭の中で、歌詞はわからないけれど軽快で、背中を押してくれているような音楽が鳴り響いている。