軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

市場における物価の推移から見る世界情勢に関して

「リン! リン! あの串焼き、美味しい、よ!!」

「あ! あそこの屋台のジュースも、新鮮な果物だけ使ってるからすっごく美味しいんだよ!!」

「わかりました! 美味しいお店がいっぱいあることはよ~~~くわかりました! わかりましたから、まずは必要な買い物を済ませますよ!!」

現在、私の右腕はアリアさんに、左腕はエドさんにがっしりと掴まれたまま、市場の中心であっちだこっちだと連れまわされているところである。

……な、なるほど……! ヴィルさんとセノンさんが言ってたのはこういうことか……!!

いつもの食欲から察しなさいよ、っていう話でもあるんだけど、まさかこれほどまでとは思わなかったんだよぅ!

……しかも…………しかも、だよ……?

『朕もなー、朕もなー、あそこのおたたな、おいしいとおもうー』

「おみそもちょっとお口チャックね! 忘れないうちに必要なもの買わせて!」

前足を右肩に、後ろ足を左肩に乗せて周囲を見回すごまみそが、肉や魚の焼ける香ばしい匂いに鼻をひくつかせ、美味しそうなものを見つけるたびに尻尾でてしてしと私の頬を叩くのだ。

気分はもう、テンションが上がった子どもの相手をする先生もかくや、という感じ。

右に左に引っ張られつつ、ときおり頬を叩かれつつ、ステレオサウンドで繰り広げられる「アレが美味しい」「コレが美味しい」との誘惑を振り切りながら人ごみの間を縫うように進んでいく私の行く手には、様々なお店が立ち並んでいる。

……値段、例のダンジョンに行く前に寄った時と大して変わらないように思うけど、家計簿とか付けた方が良いのかなぁ?

やっぱり、底値とかセールとか特売とか、積極的に狙っていくべき!?

「……………………ねぇ、リンちゃん。穀物とか、乾物とか、長期保存できそうな食べ物の値段に、あんまり変化がないのわかる?」

「?? そうですね。この前買い物したときと、ほとんど変わんない感じがします」

「…………麦とか、は……キナ臭くなる、と……高くなるよ……」

「…………!」

買うものはあらかた決まってはいるものの、他に何か掘り出し物はないかと露店を覗く私の耳に、少しひそめたエドさんの声が届く。

何となく顔を動かしてはいけない気がして視線だけでエドさんを見上げれば、先程とほとんど変わらない……それでいてどこか張り付けたような笑みがエドさんの顔に浮かんでいる。

いったい何事か、と訝しんだまま露店の先に足を進めて……にこにこと楽し気に微笑んだまま囁くアリアさんの声に、にっこりと笑みを張り付けたまま固まるしかできなかった。

「あれ? リンちゃんあのお店気になる?」

「あそこは、ケバブが、美味しい!!」

「ちょうど店先も開いてるし、休憩しよう、休憩!!」

「ジュースも、美味しい……よ!!」

普通通り、を意識するあまりぎこちなくなった私の腕を取ったまま、エドさんとアリアさんはそれはもう自然な感じで路地の一角にあるお店へと私を連れ込んだ。

香辛料をたっぷり使った肉が焙られる香ばしい匂いと、平焼きの粉モノが焼ける甘い匂いを周囲一帯に振りまいているお店だ。

入り口から中をのぞくと、店内は空いているわけでもなく込み合っているわけでもなく、適度な人数のお客さんで埋まっていた。

慣れた様子で料理を注文するエドさんをカウンターに遺し、アリアさんは私と手を繋いだまま、通りに面したテラス席に腰を下ろした。

ややもしないうちに、食べ物と飲み物をこれでもかと満載したトレイを抱えたエドさんが戻ってきて……にこにこと笑みを崩さないご夫婦がそっと話し始める。

「食べながらでいいから、ちょっとお話しようか! さっきも言ったけど、食べ物とか、服とか、値段変わってないでしょ?」

「そう、ですね……なにかが極端に値上がりした、とか値下がりした、って感じではないですね……」

「アリアが言ってたとおり、戦争が起きる前だったりとか、魔物の被害が増えてる時って、食べ物……特に長期保存ができる乾物とか、兵糧になる穀物の値段が上がることが多いんだ」

「……布とか、金属、も…………高く、なる」

もぐもぐとお肉たっぷりのケバブを食べながら、ほんの少しだけ声を潜めたエドさんとアリアさんが教えてくれる。

……ふむふむ……戦争前に保存食品や穀物が高くなるのは、何となくわかる。兵糧用に大量購入したり買い占められたりする分、流通が減るせいだろう。

魔物が増えると高くなる、っていうのも、輸送時に護衛を付けなきゃいけなくなったりした分のコストが入るから……なんじゃないかな。

そう考えると、武器とか防具とかの材料になる布製品や金属の価格が高騰するのも、納得が行くなぁ。

……なるほど……経済的な観点から今起きてることを知ることもできるのか……。

「……あれ? でも、物価に変わりはないんですよね?」

「ないねー。だから、『聖女召喚』とやらは何のために行われたんだろうね、っていう話なんだよー」

「……別に、乱世でも、ない……でしょ?」

「…………そういわれてみれば、確かに…………今日もすっごくのどか、というか……平和ですよね……」

市場は今日も活気がある。品揃えが少ないとか、品質が悪いものばっかり売っている……という感じは全くない。市場を行き交う人々も、みんな溌剌とした元気に満ちているようで……戦争とか、魔物の大発生とか、そんな昏い影が落ちているようには見えないんだよねぇ……。

……コレやっぱり、『今回の』聖女召喚って、なんか壮大なペテンかなんかなんじゃなかろうか……。

「調査兼ねてもう一軒行こう!」「お店見て回りながら食べ歩きしよう!」と瞬く間にトレイの上のお肉たっぷりケバブとサイドメニューを食べ尽くした肉食系ご夫婦の催促を左から右に受け流しつつ、私の意識は思考の渦に飲まれていった。