軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

満ち満ちて、潮

ごまみそと競いあうようにソードフィッシュを掬い取っているうちに、潮が満ちてきていた。

残念ながら磯遊び終了のお時間だ。

ひたひたと迫ってくる潮に飲み込まれないよう、急いで獲った獲物と持ち込んだ道具を纏めあげる。一足早く浜辺にたどり着いたごまみそに、はやくはやくと急かされながら、また岩場をぴょこぴょこ飛んで帰るのだ。

「そのままじゃ風邪をひくぞ、リン」

「へ? あ、ああ! ありがとうございます!! 自分で体感する度に思いますけど、魔法って凄いですねぇ……!」

「そうなのか? ……あー、でも、魔法がない世界から来たら、そうなる、か……?」

「なると思いますよ! 未だに魔法を見るたびドキドキでワクワクしますからね!」

濡れたままで帰路に就こうとする私を引き留めて、ヴィルさんが洗浄魔法と乾燥魔法をかけてくれた。初めて会ったとき、ヴィルさんが自分にかけてた魔法だ。

改めて自分で体感すると、凄い魔法だな、って思うよ!

海水でベタついてた身体はさっぱりするし、肌に張り付いてた服と髪がカラっと乾いちゃうし!

魔法の力って、すげー!!

……まぁ、魔法だけじゃなくて、アリアさんの操糸とかも見ていてもの凄く興奮するんですけどね!

「そういえば、今日獲った魚はどうするんだ? ギルドで買い取ってもらうこともできるぞ」

「せっかくなんで食べちゃおうかな、って思ってます! ソードフィッシュは唐揚げにして、ガンセキダイはお刺身とか……鯛茶漬け的なのでもいいなぁ!」

「そうやって、すぐにメニューがポンポンと出てくるところがすごいな、リンは」

岩から岩へと移る道すがら、ヴィルさんが買い取りもできることを教えてくれたけど、今回は食べちゃおうと思いますよ!

生存戦略(サバイバル) さんが「美味しい」って言ってるし、こっちの世界に来てから初めて獲った獲物だし、美味しく頂きたいよね!

お腹も背中もパンパンだし、コレは美味しいんじゃなかろうか!?

沖から寄せてくる波に追われるように、近くに止めてあった 野営車両(モーターハウス) へと舞い戻る。

波打ち際からは結構離れてるし、漂流物から見てここまでは潮は満ちてこないようだし、このままここで下拵えをしちゃいましょうかね!

「…………ということで、さっそく捌いてみました!」

「なるほど……皮自体にも縞目が付いているんだな」

「鱗だけかと思いきや、ちゃんと皮にも色が付いてたんですね」

まな板の上には、切り身状態になったガンセキダイが鎮座していた。

それと向き合う私の横からヴィルさんが手元を覗き込んできて、足元でアラに残った身をオヤツ代わりにむちゃむちゃと食べていたごまみそが毛づくろいをしている。

ついでに、私たちも中骨に残った身を削ぎ落して味見をしてみたんだけど、これが〆たてとは思えないくらいおいしかった。

普通だったら熟成されていないから旨味が少ないはずなのに、舌の上に広がるのはしっとりとした脂気と、ほんのりと甘い肉の味だ。しかも、むっちりとした身を噛み切ろうとすると、ぷりぷりと歯を押し返してくる新鮮な歯触りも残っている上に、だ。

噛みしめる程に身の奥からじわじわと旨味が滴ってきて、飲み込んだ後に鼻から磯の風味が抜けていく。その磯の風味も、決して強すぎず、弱すぎず、食欲をそそるばっかりだ。

……え、どういうことなの?

釣りたてでも十分に旨味が深いとか、異世界の魚、どういう構造してるの!?

……いや、おさんどん係としては、手間がなくて嬉しい限りですけど! 楽ちんで美味しいとか最高ですけど!!!

「本当はゴマダレに漬けて鯛茶漬けにしたかったけど、ゴマがないもんなぁ」

「ごま?」

「ものすごくちっちゃい植物の種……みたいなヤツです。私の世界でも、かなり昔からある植物なので、こっちの世界にもあるとは思うんですが……」

あのほんのりと甘くてトロっとしてて香ばしいゴマダレに、むっちりした鯛の身を漬けておいて……と、想像だけで涎が出そうな鯛茶漬けだけど、残念ながらゴマがないんだよなぁ……。

どうせソードフィッシュの唐揚げを作るのに油を用意するので、コレは皮ごとブツ切りにして、フライにしようと思います!

ついでに、冷蔵庫に残ってるオーク肉のロースも揚げて、トンカツならぬオークカツにしちゃおう!!

コカ肉も唐揚げじゃ!! 油風呂の刑じゃ!!!

異世界や 浜の獲物は 尽きるとも 世に揚げ物の タネは尽きまじ……じゃ!!

今日の夕飯は祭りじゃ!! 揚げ物祭りじゃ!!! Let's Party!!!

…………まぁ、ゴマ自体は古代エジプトの時代にはもうすでに存在してた植物だし、こっちの世界にもありそうな気はするんだよね。

明日、市場見て回る時に探してみよう!

「よーし! 鯛ちゃん冷蔵庫にしまったら、ソードフィッシュを洗ってー……と!」

『朕の! そのおたたな朕の!! 朕食べるの!!』

「はいはい。ソードフィッシュもあげますよー。ヴィルさん、ごまみそ抱っこしててあげてください。蹴っちゃいそうで危なくて……!」

「ああ、わかった。……とはいえ、ごまみそは 翼山猫(ウィングリュンクス) だからな。防御力もあるし、むしろ蹴ったリンの方が痛い思いをしそうだが……?」

「え、なにそれこわい……ヴィルさん、ごまみそのことぎゅーっと抱きしめてあげててくださいね!」

ソードフィッシュはザルに空けて、わしゃわしゃと洗って鱗を落とすんだけど、あらたなおやつに気付いたごまみそが足元でにゃごにゃごと騒ぎ始めた。

脛の辺りに頭を擦りつけながらうろうろと歩き回る子猫なんて、ふとした拍子に蹴りそうになるし、躓いて転びそうになるし、非常に危ない物体でしかない。

しかも、蹴られたごまみそじゃなくて、蹴った私の方にダメージが来るってどういうことなの!?

仕方がないのでソレをヴィルさんに抱いていてもらうことにした。

ヴィルさんに抱かれた途端にゴロゴロと喉を鳴らして目を細める現金な子猫様に、と、何匹かのソードフィッシュをヴィルさんに渡す。

ヴィルさんには、ごまみそを撫でつつおやつを与える任務に就いてもらおうと思うよ! 誰にでもできる任務ではないので、しっかり励んでほしいと思います。

……で、その間に、鱗が取れたソードフィッシュの水気を切るじゃろ?

小麦粉と塩・コショウとを混ぜた粉を全体にまぶすじゃろ?

「Feuer!!!」

熱した油の中にドボンじゃ!!!

途端に、ジュババババババッッと油面が沸き立つほどに鍋が咆哮を上げた。窓際のソファーでソードフィッシュを貰ってご満悦だったごまみその耳が瞬時にピンと立ち、尻尾がぶわりと膨らんだのが見える。ヴィルさんも何事か、という顔でこちらを窺っている。

男子二人の不審げな視線は、気にならない。

私が集中しなければいけないのは、飛び散る油から身を守ることと、水蒸気の中フライパンの中身を掻き回すことだからだ。

それでも、しばらくすると勢いも弱まってくるので、ちょっと箸で摘まんでみて……。

「よし! 良い感じ! ってか、新鮮な奴だから多少生でもイケるでしょう!」

掴んだ箸先から、ジジジ……と軽い振動が伝わってきたら頃合いだ。

「私たちもおやつにしましょう!」

「それはいいな! 天気も景色もいいし、外で食うか?」

「ああ、いいですねぇ! ヴィルさんお皿持って外行っててください!」

私が携えた唐揚げがてんこ盛りになったお皿と、窓の外の光景を交互に眺めたヴィルさんが、ニカッと笑って提案してくれた。

ひたひたと戻る波と、少し西に傾いだ太陽を見ながら、揚げたての唐揚げを食べる……。

最の高じゃない? じゃない??

そうと決まれば、お皿をヴィルさんに持っててもらって、私は無限収納から折り畳み椅子とミニテーブルとを取り出して、急いで外へと駆けだした。

なお、なんで折り畳み椅子が2個あるの、と聞かれれば、釣り場で使う小さめのものと、キャンプ時に使うひじ掛けや背もたれが付いた大きめの物の2種類があるからだ。

その椅子を二つとも海の方を向けて設置して、椅子の間にミニテーブルを広げて、お皿を置いたらセッティングは完了だ。

体格的に、ヴィルさんには大きい椅子の方に座ってもらおう。

「ひゃぁぁぁぁ! 絶景かな絶景かな!!」

「そんなに日差しも風も強くなく、波も穏やかで……いい日だな、今日は」

私とヴィルさんとの間でうろうろしていたごまみそだったが、最終的に私の膝の上に落ちついた。

さっさと丸くなる毛玉をもふもふと撫でながら、目の前の光景を眺める。

ほんのりと赤みを帯び始めたそらと、照り返す海面と、風に揺れる防風林。

そんな絶景を眺めながら食べる、アツアツ揚げたてのソードフィッシュ唐揚げの旨さたるや……!!

カリカリの衣は歯の芯がギュッとなるほどに熱くて、それにも負けずに歯を立てると固く脆く割れる。中の魚は、程よく火が通ってほっくりとしている。

内臓を取らずに揚げたけど、苦みは殆ど感じない。いや、多少は苦いんだけど、ほこほことした身の旨味が濃いおかげで良いアクセントにしかならない、というのが正解だろうか?

青背の魚だけあって、魚の匂いが少し強いけど、今はそれすら美味しい。

「魚っていうのは、美味いもんだったんだな……」

「新鮮なお魚は美味しいですよー! っていうか、この世界の食材はだいたいみんな美味しい気がします!」

「……そういえば、リンに初めて食わせてもらったのも魚だったな」

「そうですね……アレから大して日は経っていませんが、なんだかもの凄く長い時間が経過した気がします……」

……ソードフィッシュフライを摘まんだヴィルさんのしみじみとした呟きに、私もふと今までのことを思い起した。

…………そうだ。異世界最初のご飯も、ヴィルさんと二人で食べたんだったな……。

なんだかなぁ……こっちの世界に召喚されてから、日数はさして経ってないんだけど、内容が濃すぎてもうどっぷり浸かってる感しかないよね。

ほぼ直近の記憶だというのに、何故か懐かしさすら覚えながら……私とヴィルさんはソードフィッシュ唐揚げを摘まみ続けた。