軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

いざ尋常に……勝負!!

青白い静寂の世界で、ごまみその魔の手を逃れたソードフィッシュ(幼魚)の群れが自在に形を変えながら泳いでいる。

…………ん? でも、その奥に、何か……???

キラキラと煌めく銀色の鱗のその向こうに何かがいた気がして目を凝らせば、小魚の群れの向こう側に、ゆったりとたたずむ大きな影が見えた。

「……っ、はっ……!! いた!! なんかでかいのいました!!」

「どうした、リン!?」

「めっちゃデカイのいました!! ちょっと……ちょっと私行ってきます!!!!」

正体を見届けたかったけど、息が続かない!!!

急いで浮上して、ヴィルさんに報告して、また潜る。

ヴィルさんが焦ってたようにも見えたけど、「大丈夫」という代わりに親指を立てながら水の中に沈んでいくに留めた。

ごまみその言葉を借りるなら、「ちょっと私今真剣!」だからだ。

「…………………………!!!」

潜ってほどなく、ぬらりとした黒い影が目の前を横切った。

――――――――ヤツだ――――!!!

何本もの縞が入った大きく肉厚な魚体。岩場にへばりついた貝類が主食なのか、鋭い歯が並ぶ口元。

引き潮の時にたまたまこの辺で回遊してて、海に戻れず取り残されちゃったのかな?

【ガンセキダイ(毒~非常に美味)

大きいものでは80cm程にもなる磯の魚。磯の潮流の中で育つお陰か、身に弾力があって美味。

食用に向くのは4~50cm程のもの。小さいものは脂の乗りも旨味も乏しい。

大きなものは脂の乗りも旨味も強く非常に美味だが、

生物濃縮された神経毒が身に蓄積している可能性がある。

この個体に関しては、神経毒は保有しておらず、食用に適している。】

「食用に適している」という文字から目の前に視線を移したと思ったら、ガンセキダイの黒い目と視線がかち合って……。

次の瞬間、私の腕は目の前のタイめがけて銛を打ち込んでいた。

ブツッッと固い鱗と分厚い肉を貫く感触と共に、銛から逃れようと激しく身を捩る魚の抵抗が振動となって伝わってくる。すぐ後ろが岩壁だったせいで、力の逃げ場がなかったのだろう、銛の先端はしっかりと魚の頬の辺りを貫いていた。

水の底へ、底へと逃げようと、身を捩る魚の力は強烈だった。それこそ、気を抜けば私の身体もつられて水底に引きずり込まれてしまいそうなほどには強かった。

両足でしっかり水を掻き、銛を持たない方の腕で近くの岩にしがみ付きながら、私は水面を目指す。

だけど、瀕死の魚の必死の抵抗が存外に強力で、思うように上に上がれない。一番深い所にいる、って言うのも効いてるんだろう。なかなか水面が近づかない。

息が、苦しい。

息が…………。

…………いき、が……っ……!

「ぷはぁぁぁっっっ!!!!!」

水面(みなも) で揺れる光のステンドグラスを突き破って、大きく一息。

体の細胞の隅々にまで、酸素が行き渡っていく。

手には、魚が刺さったままの銛。青い空。明るい太陽と、こちらを見ている四つの瞳。

込み上げてくるどうしようもない喜びと嬉しさに、空の手が拳を握り、宙に突き上がった。

「獲った、どー!!!!!!!!!」

「ずいぶんと大きいのを獲ったな、リン!」

「やりました! やりましたよー! 晩御飯!! 晩御飯です!!!」

銛を提げたままヴィルさんの元に泳ぎ寄れば、大きな掌が差し伸べられた。遠慮なくそれに掴まって、陸へと上陸することにした。

……いやぁ……さすが陸上……重力がフルで襲い掛かってきますわぁ……身体が重いですわぁ…………。

水棲→陸棲への進化って、大変だっただろうなぁ……。

へふへふと荒い息を吐きながらも、獲った魚の処理をする私の前にスカリが寄せられてきた。

小窓から中を覗けば、さっきよりも増えたソードフィッシュがビチビチと生命を主張している。

「あれからごまみそも、追加のソードフィッシュを獲ってたぞ」

『朕すごいでしょ? かっこいいでしょ?』

「おお、凄い!!! ……そういえば、この魚とかソードフィッシュの幼魚、獲っちゃって大丈夫だったんでしょうか……? 海産資源的な意味合いとか……」

「? 冒険者が獲物を獲るのに、何か問題が……? ガンセキダイもソードフィッシュも、繁殖力は強いし、潮溜まりで獲るくらいは大丈夫だと思うぞ」

例によってドヤァッと胸を張る子猫の頭を、ヴィルさんがぐりぐりと撫でている。わりかしパワフルめに見えるけど、まぁ、ごまみそもボスでしたしおすし。大丈夫でしょう!

獲った後で気が付いたけど、漁業権とかも大丈夫だったみたいで一安心ですな。

……というか多分、冒険者の人がある程度「漁師さん」的な仕事もしてるんじゃないかな? 討伐のついでに海藻の採取……とか、討伐ついでに可食部分を市場に出す……とか。

「よし! そうと決まれば、ソードフィッシュもうちょっと獲って、唐揚げにしておかずにしますか!」

『朕も! 朕もとる! 朕もシュッシュッってするー!!』

「負けないからね! 競争だから!!!」

得物を銛から網に持ち替えた私を見て、ごまみそがまた岩の縁に座って前足を振る。

それに大人げなく返しながら、私もまた網を構えて海に潜った。