軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

チャーシュー丼 ドドンが丼

洞穴マスに勢いよく食らいつくごまみそを背後に放置し、ようやく席に着くことができた。

テーブルの上に並ぶのは、湯気を上げる味噌汁と、肉汁を滴らせる分厚い肉を豪快に乗せた丼だ。香ばしい肉の香りと穀物の甘い匂いが混じり合い、暴力的なまでの威力を持って空の胃の腑を殴りつけてくる。

「お待たせしてすみませんでした!」

「いや。従魔の面倒を見るのも仕事だからな……さて俺達も飯にするか」

「ええ、そうしましょう! 我等の食せんとするこの賜物を祝し給え」

「数々の御恵みに、感謝を」

「慈しみを忝み今日の糧を賜ります」

「いただきます!」

もう既に席についていたみんなに頭を下げるも、みんな快く頷くばかりだった。お腹空いてるだろうに、心が広いな……!

ヴィルさんの声を皮切りに、、みんなが食前の祈りを我先にと捧げてスプーンを手に取った。それに負けじと私も手を合わせ、目の前におかれた箸を持つ。

摘まんだだけで箸先が脂身に食い込んでしまう程に柔らかくなっているお肉は、持ち上げても重力に逆らえずにくったりとしなだれかかってくる。それをどうにかこうにか持ち上げて、まずは一口。

「~~~~~~っっ!!」

「美味しい! お肉、美味しいよ、リン!!」

噛みしめた歯の隙間から、殺しきれない悲鳴が漏れた。私の隣では、アリアさんがスプーンを片手に一言快哉を叫んだかと思うと、ひたすら無言で丼を抱えて食べる作業に戻っている。

ぶ厚めに切ってあるにもかかわらず、歯どころか唇だけで噛み千切れそうな程に柔らかい。噛み切れば噛み切ったで中に閉じ込められていた濃厚な脂と肉汁がどっと溢れ出て、口の中で甘しょっぱい煮汁と混じり合っていく。

ともすればクドくなりそうなほどの脂の量なのに、脂っこい感じや口の中がべとつく感覚が全くない。

下茹でをしてある程度脂を除いたせいだろうか? 保温中に余分な脂が抜けていったせいもあると思う。

それどころか、よく煮込まれてほろほろと崩壊する脂身は、体温によって舌の上でトロリと蕩けて甘い旨味を撒き散らした。

口内が冒涜的な旨味に支配されている間に、タレの染みたふっくらご飯を放り込んでやる。

ふくよかに炊けたお米の食感とほのかな甘みが優しく脂と肉汁を包み込み、手を取り合って喉の奥へと消えていく。

生存戦略(サバイバル) さんが言っていた『肉質は柔らかで、上質の脂身は加熱すると蕩けるように柔らかで甘くなり、非常に美味』という言葉に嘘はなかったぜ!!

それどころか、予想をはるかに上回る美味しさですよ、コレは!!!

一心不乱にスプーンを動かす男性陣がお肉の為のオーク殲滅計画を企てる程度には、気に入ってもらえたようだ。

「こうまで美味いと、また狩りに行きたくなるな」

「えー? オークジェネラルは上位種だし、そう簡単に見つかるとは思えないよー? またコレが食べられるなら、狩りに行くのは構わないけどさー!」

「ええ、まったく。これを味わってしまえばジェネラルを見つけるためにオーク共を殲滅するというのもやぶさかではありませんね」

「………………キングなら、もっと美味しい、かも……!」

大きな丼にたっぷり盛りつけたにもかかわらず、ペロリと中身を平らげたアリアさんが、ふと顔を上げて呟いた。

その言葉に、みんなの動きが止まる。

「オークキングか! 確かにキング種がいれば、護衛の為にジェネラル種だっているだろうな……」

「……ってことは、キングのお肉もジェネラルのお肉も手に入るってことじゃない?」

「今の戦力であれば、キングと複数のジェネラルとを相手取っても互角以上には持ち込めるでしょうし、勝算は高いかと」

ペロリと唇を舐めたヴィルさんが、真剣な目で呟いた。エドさんとセノンさんも、今にもオークを見つけに走りそうな勢いだ。

見れば、いつの間にか私以外のメンバーの丼と味噌汁椀は空になっていた。早っ!!

そして多分、オークキング・オークジェネラル狩猟殲滅作戦なんて考えつくってことは、まだお腹に余裕がある証拠なんだろうなぁ。

だが、今回の私はちゃんと多めにご飯を炊いてたからね!!

おかわりがあることを告げて、お肉のために全滅させられそうな可哀想なオークを救わなくては……!!

……いや、オークが可哀想かどうかはともかく、お腹いっぱいになれば「誰か偉い人に会いに行く」っていう本筋を、みんな思い出すかなぁ、って。

「あの……お肉はもうないですけど、ご飯と煮汁とお味噌汁ならまだありますから……」

「煮汁があるだけ御の字だ! 感謝する、リン!」

「オレ思ったんだけど、ご飯にお汁かけても美味しいんじゃない?!」

「その食べ方……ねこまんまも美味しいと思いますよ。私はもう十分なので、残りは皆さんで食べてください」

「え……リン、いい、の?」

「大丈夫ですか、リン? 後悔しませんか?」

「流石にこの量のお肉とご飯を食べたら、もうわりとお腹は満足です!」

……いや、私もよく食べる方だとは思うけど、流石に総重量1㎏近い量の丼を平らげた後におかわりはできないかなぁ……。

私がそうを告げるや否や、食べ終わった組がガタンと椅子を鳴らして立ち上がった。

あわや争奪戦かと思いきや、残ったご飯を四等分する ヴィルさん(パーティリーダー) を中心に、煮汁をかけるアリアさん、お味噌汁をよそうセノンさん、空になった調理器具に洗浄魔法をかけるエドさん……と、それぞれに役割分担をしていた。

うんうん。仲良きことは美しきかな、ですね。

「まぁ確かにオークキングのお肉が気にならないでもないですけど、確かこの後ヴィルさんのお知り合いに会いに行くんですよね?」

「………………そういえばそうだったな……正直、アレに会いに行くならオークキングを狩りに行く方が何百倍も楽しそうではあるんだがな……」

本音を言えば、私だってオークキングとやらのお肉は気になるけど、それよりもまずは今回の聖女召喚だのダンジョンの出現だのに関しての報連相をしに行く予定だったのでは??

タレご飯ですら美味しそうに口に運んでいるヴィルさんにふと聞いてみれば、その途端にヴィルさんの顔が曇り、眉根がぎゅうっと寄せられた。

……どうやら、これから会いに行かなければならない人は、今回みたいなイレギュラーなことでもなければ積極的に会いたくない部類の人なんだろうなぁ……。

顔も知らない人だけど、ここまで嫌われてるってどういうことなの? ヴィルさんとの間にいったい何があったって言うんだろうか……。

「……とりあえず、飯が終わったら貰った報酬を清算するぞ。その後、この後の予定を決めていこうと思う」

苦虫を噛みつぶしたような顔でスプーンを歯噛みするヴィルさんを気にするでも恐れるでもなく、みんなが軽~い感じで頷いている。

それに倣ったわけではないけど、私も了解ですよ。

とりあえず、増えた食材の整理をする時間と、買い物をする時間は欲しいかなぁ……。欲を言えば、せっかく海の近くにいるんだから釣りをしたりタイドプールを漁ったりする時間もあれば嬉しいですな!

洞穴マスを食べ終わったごまみそが私の膝の上に飛び乗って、満足げに毛繕いを始めている。

そのリズミカルなざしざしという音と、盛大なヴィルさんのため息をBGMに、私は丼に残っていた最後のお肉を口に放り込んだ。