軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

おなかがからっぽになる(概念)

中庭には二羽の鶏も他の冒険者の方々の姿も見当たらなかった。これ幸いと隅っこの方に 野営車両(モーターハウス) を顕現すると、みんなに素早く中に入ってもらう。

出入りするところを見られると、ちょっと面倒だからね。

車内には、チャーシューの煮汁の香ばしい香りと、ご飯が炊けた甘い香りが漂っていた。予約炊飯を初めて使ったけれど、ご飯は無事に炊けていたようだ。

「それじゃ、小鍋のチャーシューを温める間に、ご飯ほぐして、と……」

ボス戦の予想外の展開やら、ギルドへの報告やらを挟んだおかげで、ご飯をほぐさないまま長時間保温していた……という致命的な状態だったにも拘らず、炊飯器の蓋を開けたら、そんなことを露とも感じさせないほどツヤツヤふっくらとしたご飯が現れた。

杓文字を入れた時の感触も、「炊き立てと比べると若干固くなってるかな?」程度で済んでいるのだ。

既に知ってはいたけれど、改めて思う。この炊飯器、めっちゃ高性能じゃない!?

「リン、何か手伝うか?」

「ありがとうございます! じゃあ、冷蔵庫からお茶出してもらっていいですか?」

待ちきれないのか、そわそわしながら手伝いを申し出てくれたヴィルさんにお茶の用意をお願いして、私は冷蔵庫に残っていたハジロカンランをザク切りにする。

それでお味噌汁を作れば…………本日の調理らしい調理は終了だ。

……。

………………。

うん。「手抜きじゃね?」って言いたい気持ちはわかる。わかるよ?

でもね、もうメインのチャーシューは作り終わってて、ご飯も炊けてて……他に何をしろと!?

副菜だのなんだのを作ろうと思えば作れるけど、みんなこのチャーシューの匂いに負けちゃったらしく、まだかまだかという勢いでご飯を待ってるし、私自身もお腹がペコペコなんだよぅ!!

それもこれも、チャーシューからいい匂いが漂ってくるのが悪いんだー!!

「あー! もうムリ! 我慢するのム~~リ~~~!! だいぶ温まったから、もういい! これで仕上げ!!!」

半ばやけくそ気味にチャーシューを温めていた小鍋の火を止めて、濃い飴色に染まった肉の塊をまな板の上に乗せてみた。

砂糖と醤油が混じった甘く香ばしい匂いが、いっそう強く周囲に漂う。

途端に勢いを増した腹の虫の鳴き声をどうにか捻じ伏せて、目の前の肉の塊の温度を指先で確認する。

……うん、うん。

程よく温まってる感じはあるし、多少冷たくてもアツアツご飯に乗っければ、熱伝導で温まるよね、うん!

その勢いのままに食い込んだ糸をバツンと切れば、その衝撃で肉全体がふるふると揺れて震える。

おぅ! いい具合に柔らかく煮えてくれたみたいだ!

軽く指で押しただけでほろりと崩れる程に柔らかくなっている脂身に、そっと包丁を入れて5mm~1cm程の厚みにスライスしていく。

「おや……苦戦していますね、リン」

「 野営車両(モーターハウス) の包丁、ものすごく切れ味が良いんですけど、それでもこの程度の厚みになっちゃうんですよね……もう少し薄い方が良いような気もするんですが……」

「そうですか? この柔らかさなら、このくらいぶ厚くても噛み切れると思いますし、そもそも分厚い方が食べ応えがあっていいと思いますよ」

ひょいっと横からまな板を覗き込んできたセノンさんの声に、ため息をつきつつ肩を落とす私……。

本当はもっと薄く切りたいんだけど、とにかくお肉が柔らかくて、私の腕前じゃあこれ以上薄くするとボロボロになる可能性が……。

とはいえ、包丁を進めるたびに切り口からとろりと脂が滲み出てくるお肉に釘付けになっているセノンさんの様子や、いつものみんなの食べっぷりを考えれば、薄切りじゃなくてぶ厚い方が満足度は高そうだなぁ。

それじゃあ今回は、この分厚いままご飯に乗せてしまいましょうかね! とはいえ、何かの折に包丁技術が要求されるシーンがないとも限らないし、柔らかいお肉でも薄くスライスできるよう腕を磨いておこう。

この間にも滴る肉汁がまな板の上に溜まって海のようになっている。

ああ、はやくご飯の上にお肉を乗せてあげないと……!!

ふっくらご飯に、この煮汁と脂の混じった肉汁が染みたら…………これは箸が止まらなくなるんじゃなかろうか……?

「みなさん、ご飯大盛で良いですか?」

「ん!! 大盛、好き!!」

「了解です。お肉が乗せられる余地を残した大盛にしますね!」

声に出して応えてくれたのはアリアさんだけど、隣にいるセノンさんを始めとした男性陣も、大盛と聞いて目を輝かせていた。

うん、よし。日本昔話みたいな山盛りは無理だけど、なるべくご飯は多く盛ることにしよう。どのみち、 暴食の卓(ウチ) に限って言えば、ご飯の盛りが多くても多すぎる、ってことはないもんなぁ。

おかわり分のお肉は確保できない可能性が高いけど、ね……。

丼に盛られていくご飯とその上に乗せられていくお肉を、こちらもいつの間にか隣に寄ってきていたアリアさんが見つめている。ワクワクを殺しきれないようで、口元が綻んでいるのが横目にもわかった。

ビシっと親指を立ててくれたアリアさんに、手は止めないままにお礼の意味も込めて目礼を返す。

「……えーと……ご飯盛って……お肉乗せて…………煮汁もかけて……よし、こんなもんでしょう!」

「運ぶ! わたし、運ぶよ、リン!」

「ありがとうございます、アリアさん。それじゃ、お願いしますね!」

盛り付けの終わった丼を満開の笑顔で手を差し出してくれたアリアさんに委ね、私はお味噌汁をよそうことにした。

甘いようなしょっぱいような味噌の香りが胃を刺激したのか、胃の辺りがきゅうきゅうと締め付けられる。いや、もう痛いと言ってもいい。

私が そう(・・) だから……というわけではないけど、たぶんそろそろみんなの空腹も限界に達する頃だろう。早くご飯にしよう……! 空っぽの胃の腑に届くよう、お肉とご飯を噛みしめよう……!

『朕のは!? 朕の! ごあんは!』

「あ、忘れてた! 今あげますよー」

今日一番の衝撃が……必死で鳴くごまみその頭突きが、弁慶の泣き所に炸裂した。

どんなに防御しても無駄な場所への攻撃に涙目になりつつ、洞穴マスを取り出すべく冷蔵庫の扉に手をかけた。