軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

モーちゃんは走るよどこまでも

ヴィルさんを助手席に乗せて走り出すまでいろいろとありましたが、何とか無事に出発できましたよ!

シートベルトで身体を固定されることに対して「イザという時、咄嗟に動けない!」と渋られたのを、「万が一事故った時に衝撃が怖いから!!」と免許更新時の安全講習の如き話で説得したりとか、さあ締めるぞーとなったら、装備一式が存外に邪魔で脱ぐ脱がないの話になったり……ね。

結局今後は、『モーちゃんには隠蔽効果があるから敵から見えないし、結界効果もあるから中に入ってきたりしない! けど、脱いだり着たりは時間がかかるから助手席の人の装備はある程度軽いものにする!!』ということに落ち着きました。

今回は、走行予定のルートで魔物が群れを作っていたこともないし、周囲を囲まれることもなかろう、ということで胸当てを取ってもらいましたよ。ヴィルさんのガタイが良い分、ベルトを極限まで伸ばしても地味に足りなかったんだもん……。

小一時間ほど走っていると、だいぶヴィルさんも車で走っていることに慣れてきたようで、ヴィルさんは結構なスピードで流れていく窓越しの景色を眺めたり、意味もなくダッシュボードを開けたり閉めたりしてみたりと、危険がないと分かった初めての車に興奮冷めやらぬ様子が見受けられる。

……あれかなー。やっぱり男の子はいくつになっても乗り物が好きなんですかねぇ……。

「…………これは、良いな……! 御者台を想像していたんだが、比べ物にならん!」

「そんなに違いますか?」

「全然違うぞ! ここまで上等なクッションではなかったし、揺れはひどいし……そもそも馬車自体、乗っているだけで尻の皮が剥けるかと思うくらいだ」

「あー……サスペンションとかなさそうですしね……」

衝撃を吸収する機構がなければ、揺れがダイレクトに伝わるでしょうしねぇ……。

しかしそうですか……尻の皮が剥ける程ですか……。乗る機会はないだろうけど、馬車に乗るのが怖くなる話ですな!

何とも恐ろしい移動手段の話はともかく、モーちゃんは順調に街道を進んでおりますよ。

未舗装の道だというのにそこまでの揺れや振動を感じないでいるのは、よほど足回りがいいのか、所謂『魔法的な』力が働いているのか……。

考えても答えがわかんないから、堂々巡りになっちゃうんだけどね。

それにしても、レアル湖周辺は草原時々林・森……みたいな風景で、轍の残る草原を走っている感じだったのが、今は煉瓦でしっかりと舗装がされた道を走っている。おっきい街道に出たのかな?

今までとは比べ物にならないほど、しっかりと整備がされた道は、子どもの頃に西部開拓時代を舞台にしたドラマで見ていたような馬車がすれ違えるほどの幅があり、モーちゃんが走るには都合がいいので、有難く使わせてもらっています。

そのお陰か、平均時速40キロと、予想よりも若干速めの速度で走ることができていた。

「しかし、本当に早いな……! もう大街道に出たのか!」

「大街道? 幹線道路か何かですか?」

「ああ。王都と各地を繋ぐ道のことだ」

ふむ。大街道がバイパスで、そこからさっきみたいなやや整備された街道だったり、獣道に毛が生えたような感じの道に枝分かれしてくんだろうなぁ。そんでもって、その整備のされ具合は重要度と比例する、と……。

だとすると、やっぱりエルラージュの街はかなりの要所なんだろう。……まあ、国外との窓口になってる唯一の港町であり、交易の中心地ともなればそれも当然か。

宿場町のような役目を果たすらしい集落が、通り過ぎていく窓の向こうにいくつか見えている。

レアル湖周辺では見られなかった光景だ。レアル湖、重要度低いのかな?

…………うん。確かに、ミルクトラウト釣りは楽しかったけど、何か産業があるかと聞かれたら……うん……。や、野営地、とか??

そして、恐れていたことが……。

整備のされた主要な街道……ということで、少しずつモーちゃん以外に道を行く馬車や旅人が出始めたのだ!

これ、まだ数が少ないから避けられるけど、街の近くになってもっと数が増えちゃったら身動きが取れなくなっちゃうんじゃ……!?

「……リン。提案だが、エルラージュの少し前でこの 野営車両(モーターハウス) を降りて、徒歩で行った方が良いかもしれないぞ?」

「ですね。これじゃあいつ事故を起こすかわかんないですし……車体が見えない、っていうのも考え物だなあ……」

「だが、流石に 野営車両(コレ) を人目に晒すのはリスクが大きい」

「何とかだましだまし進むしかないですかねぇ」

どうやら、ヴィルさんも同じようなことを考えていたようだ。

モーちゃんが他の人にも見えていれば、避けるとか何かしらの回避行動をとってくれるだろうけど、モーちゃんは他の人には見えないからね……。

実際はモーちゃんが走ってる所に、急に進路を変えた馬車が突っ込んできてもおかしくない、旅人が急に飛び出してきてもおかしくない。

事故るか事故らないか、そんな殺伐とした旅なんてイヤすぎる!! ストレス半端ないよ!!

それに、街に入るには車も降りなきゃいけないだろうし、そうなると他の人からは何もない空間からいきなり人が出てくるように見えるだろう。

…………騒ぎにならない方がおかしい……。

かといって、モーちゃんの外観が見えるようになったらなったで、アレは何だ誰の仕業だ仕様はどんなだと騒ぎになる未来しか見えないわけで……。

どっちにしても騒ぎになるとか、もうね……。

煉瓦も壊れよという勢いで駆けてくる早馬らしきものを道の脇に避けてやりすごしていると、どうにも堪えきれないため息が漏れた。

いっそ舗装はされていないけど、街道の脇を走ってしまおうか……?

目視する限り、煉瓦で舗装されている部分と脇の未舗装の部分には、段差や溝などの境目は見当たらない。

道行く馬車や旅人で、舗装されていない所を走ろうとする酔狂な輩もいなさそうだし。まぁ、歩きにくい場所と歩きやすい場所、どっちを行きたいか、っていったら……ねぇ?

「ヴィルさん、ちょっと手すりに掴まっててくださいね!!」

「は? いきなりどうし……うわっっ!?」

進行方向に人や馬車がいなくなったのを確認し、若干アクセルを強めに踏みながらハンドルを左斜めに向けて、切る。

目には見えなかったものの、何かしらの隔壁はあったようで、ガコンと何かを乗り越える衝撃が伝わってきた。

走り心地自体はレアル湖周辺の草原を走っているときとあまり変わらない。舗装してある道を走っていた時と比べれば、多少振動が来るかなー、程度で収まっている。

十二分に許容範囲だ。

「よーし! このまま街の近くまで行っちゃいますよー!」

「ずいぶん力業だな!」

「着ければ良かろう、なのですよー!」

何かが琴線に触れたのか、楽しげに笑うヴィルさんの声を聞きながら、地面のデコボコに車体が取られないよう、私は改めてハンドルを握り直した。