軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

菓子と共に去りぬ

「そういえば、エルラージュの街ってどんな所なんですか?」

「そうだな……この大陸の中でも、割合に大きな規模の街で、人間以外の種族が多く住んでる」

「人間以外が……」

「……ああ、そうか。リンは知らないのか」

居室部分(キャビン) の窓際にしつらえられたソファー――走行中も座席として使えるようシートベルトが付いている――に腰を下ろし、焼きあがった第1陣スパイスクッキーのうち、味見として残しておいた分を大事に食べながら、私はこれから行く街の話を聞いている。

ヴィルさん曰く、今私たちがいる『リースフェルト』というのはちょっと小さ目な大陸で、周囲を海に囲まれているせいで外来種との接触が少なく、 鬼竜(ドラグール) などの独自な進化を遂げた種族が元々多かったらしい。

そこに輪をかけるように、大昔に他の国では圧倒的に数の多かった人間に追われて逃げてきたエルフやドワーフ、そして彼らと恋仲になった人間などがリースフェルトにやってきて、現在のように様々な種族が混在する国になったのだそうな。

今現在は、人間もそうでない種族も共に歩む国とは交易などを行っているものの、差別的な人間はまだまだ多いため、交流があるとはいえあまり積極的な人の行き来はないらしい。特に、リースフェルト側から他の国に……というのは少ないようだ。

それを踏まえた上で、これから私たちが向かう予定のエルラージュの街は、海沿いの港町であり様々な人種や物品が集まる交易の場所になっているとのことで……。

…………。

……………………。

…………えーと……なんだか話が大きくなってきた。いつの間にか、国の成り立ちとか世界情勢とか……そちらの話になってませんかね??

だいぶスケールが大きくなってきた話題に内心ため息をつきながら、スパイスクッキーの最後の一かけらを口に放り込んだ。

ほんのりと甘いソレは、噛み砕くと焼き締められた中に閉じ込められていたスパイスの香りが口いっぱいに広がっていく。ふんわり甘く薫るシナモンとナツメグが、ピリっと辛いショウガの後味を引き立てる。時折顔を出すほんのりとした苦みはオールスパイスかな?

甘くて、辛くて、ちょっと苦くて……と、とっ散らかりそうになる口腔内を、スパイスの女王カルダモンがまとめ上げる。

……あー……コーヒー飲みたーい……。

作ってる時から思ってたけど、改めてコーヒー飲みたい! 甘さと辛みの余韻が残る口の中に、ちょっぴり甘いミルクコーヒーを流し込みたい!!

「ねぇ、ヴィルさん。港町って言うのであれば、コーヒーとかあったりしませんか? 焙煎した黒くて苦い豆を、砕いて煎じた飲み物なんですけど……」

「話を聞く限り、『カファー』に近い感じがするな……『香茶』と一緒に取り扱っている店があったはずだぞ」

「こうちゃ? 紅茶もあるんですね!? やったー!!!」

「南の国からの輸入品だから、値段はそこそこ高いけどな」

お、おぉぉおおおぉぉ……やっぱり舶来品はハイカラでおハイソな感じなんですかね?

コーヒーも好きだけど、紅茶も好きなんだよなぁ……。

…………うん。お金、貯めよう……! 私の文化的な食生活のために!!!

それまでは、ハールベリーの葉っぱとかその辺に生えてる 野草(ハーブ) で作った、ブレンド薬草茶でごまかしておこうっと。

1つ1つは個性が強くても、混ぜてしまえば個性はまぎれるって、ばっちゃが言ってた! そんなばっちゃのお手製ドクダミ茶は、すいすいごくごく飲めちゃう代物でしたよ。

「ちなみに、ここからエルラージュの街までどのくらいかかるんですか?」

「徒歩で3日くらいか? 馬を使えばもっと早いと思うが……」

「3日!!!」

け、結構かかるのね……いや、それも当然か。徒歩だもんね、徒歩。

えーと……休憩を挟みつつ、時速4キロで1日8時間分くらい歩けると仮定した場合、8h×4km/h×3日=96㎞……!

数字に起こしてみると大した距離に思えないけど、これはアレだね。向こうで車に乗り慣れちゃってるから……そうだ!!!!

「モーちゃん! モーちゃんなら、100キロあるかないかくらいなら3時間ちょいで行ける!!」

「まさか、そんな……3時間だと!?」

ついついソファーから立ち上がる程の勢いで叫んじゃったけど、後悔はしていない。

ヴィルさんがビックリしたような顔でこっちを見てくるけどキニシナイ!

そうだ……そうだよ! モーちゃんがいるじゃん! 飛ばされたところからレアル湖まで、30~40キロくらいのゆっくりした速度だったけど、問題なく走ってこられたじゃん!

もし、エルラージュまでの道が、さっきの街道みたいな舗装もされてないけどしっかり踏み固められてる道だったり、丈の低い草が茂った草原的な場所を走れるんだったら、同じくらいのスピードで走れるんじゃない?

流石に70キロとか80キロで走るわけにはいかないけど、それでも徒歩の10倍くらいは早いと思うよ? それに、路面の状況が良ければ50キロくらいで走れるかもしれないし、もっと早く着けるかも!!

『信じられない!』という表情のヴィルさんが呆然と声を上げるけど、可能だと思うのですよ! 平均速度を35キロと仮定すれば、計算上は3時間かからないで着けますからね!!

「今がお昼くらいなので、今から出ればまだ明るいうちに着けると思います!」

「お、おい、リン! どこへ行くつもりだ?!」

「運転席に!! キャビンじゃ運転できませんからね!」

「運転席……御者台のようなものか……?」

「ヴィルさんも、助手席に……隣に乗ります? 眺めは良いと思いますよ?」

「……………………よし、行こう!」

『善は急げ!』と言わんばかりに言うが早いがドアを開けて外へ飛び出した私の後ろから、焦ったような慌てたようなヴィルさんの声がかけられた。

自動運転とかラジコンじゃないから、キャビンでゆっくりしてるわけにはいかない仕組みなんですよぅ!

ヴィルさんは……どうだろう? 環境は変わるけど助手席に乗ってもらった方がいいかな?

なにしろ、これからモーちゃんがヴィルさんを乗せて初めて動くわけだし、一人でキャビンにいるより、一緒の空間にいた方がまだ気が紛れそうじゃない?

景色が流れる空間に一人だけで座って何が何だかわかんないより、多少なりともおしゃべりしてたりする方が精神衛生上いいんじゃなかろうか。

そんな思いを乗せてヴィルさんに提案してみれば、しばしの逡巡の後、未知なる体験への不安と好奇心が滲む顔で頷いてくれた。

事故らないように気を付けますから、そう気張らなくても大丈夫ですよ!

一応これでもゴールド免許ですしね!!

私に続いてキャビンから降りてきたヴィルさんを助手席に誘導する私の胸には、まだ見ぬ街に対する期待と高揚感が渦巻いていた。

…………それにしても、魔物とか獣とかを 轢き殺(ロード・キル) しませんように……!

もし跳ねちゃったとしても、モーちゃんが大破するような事態は避けられますように!!

私の生命線であり今後の進退にも関わる事柄を思うあまり、街で購入したいものリストに交通安全のお守りが加わったのは言うまでもない……。