軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

フライの山にタルタルは足りたるか

できたての山盛りフライをテーブルに運んでいけば、そこは食卓とは思えないほどピリピリと緊迫した空気を孕んでいた。

その空気の発生源は、テーブルの中央にでんと据えられたタルタルソースが入ったボウル。

味見をしたヴィルさんの口から、その衝撃的な味が伝えられたらしい。

「ヴィルから、聞いたよ……リンちゃん、なんてもの作っちゃったのさ……!」

「揚げ物によく合う、濃厚なのに爽やかなソース……戦争になる未来しか見えないのですが……?」

「……こんなのって、ないよ……!!」

「ああ。追加の分の卵、今茹でてますから。殻剥きを手伝っていただけるなら、いくらでもおかわりしてもらって大丈夫ですよ!」

「乗った!!!!」

フライの大皿をテーブルに載せながら親指を立ててみせれば、吼えるようなヴィルさんの声と共にみんなの手が一斉に組まれ、食前の祈りがさっくりと呟かれる。

みんなどんなにお腹が減ってても、ちゃんとお祈りしてから食べ始めるもんな…………と思ってたけど、私も手を合わせて「いただきます」してから食べる派だったわ。

ナカーマ、ナカーマ!

私も手を合わせて……売り切れないうちに争奪戦に参加しますよ!!

「――――――っっっっ!!!」

「えー! ちょっと反則でしょ、リンちゃん!!!」

「リン……あなたという人は……!!」

「…………………………!!!!!」

タルタルソースをつけたアツアツの揚げたてフライを頬張った、8つの瞳がこちらを見つめている。

ただ眼を見開いて次のフライを皿に盛っているヴィルさんに、困ったような怒ったような嬉しそうな……何とも言えない顔を私に向けつつもフライを取る手は止めないエドさんとセノンさん。

そして、ただただひたすら瞳を輝かせて、もくもくとフライを食べ続けるアリアさん。

……うん、ごめん……マヨネーズ系はみんな好きな味だろうなぁ、とは思ったけど、まさかこんなことになろうとは……!

「あのねぇ! 基本は確かにコッテリ系なんだけど、リンちゃんレモン入れたでしょ? そのおかげで後味がさっぱりしてて、フライと食べても重くないんだよー!!」

「刻んだ玉ねぎとピクルスの食感が、濃厚な卵ソースの中で非常に生きていますね……そこに、カリッと揚がった衣の感触が加わって、食べ飽きる感じがしませんね」

フライ争奪戦を繰り広げつつも弁舌を振るってくれるエドさんとセノンさんの勢いに、頷くしかなかったよね……。

よ、喜んでいただけて何より、です……?

見る間になくなっていくフライの山とタルタルの海に、ただただ圧倒されるばかりだ。

……とはいえ、ここで怯んでいたら今日の晩御飯を食いっぱぐれちゃう!!

慌ててフライの山に箸を突っ込んで、何個かを取り皿に確保する。

そこに、先ほどから無我夢中で……それでも、ときおりキラキラした目でこちらを見ては激しく頷いてくれるアリアさんが斬ってくれたレモンを絞って……タルタルソースをてろりとかける。

「はふっ! あつっっ!! フォグバードフライにタルタル、合う!!」

アツアツの香ばしい衣と、ひんやり冷たいタルタルソースの温度差を感じながらフライを噛みしめれば、ちょうど話題のフォグバードのお肉だった。

歯が入った瞬間からジュワッと肉汁が溢れてくるほど、汁気がたっぷりだ。

肉質も、高温でさっと火を通したのが功を奏したのか、硬くなっている感じはない。むしろ、程よい弾力のあるお肉は繊維がしっかりしていて、それなりに噛み応えがある。

予想通りあっさりしたお肉に、濃厚なタルタルソースが絡んで……!

ほんのり甘いのは、隠し味に混ぜたケチャップかな?

カリカリの衣からは油が滲み出てくるんだけど、一緒に混ぜたタマネギのさくさくした歯触りと、ピクルスの漬物独特の風味が、程よく中和してくれる。

少し大きな玉ねぎの破片を噛むと、ピリッと辛みの刺激が舌を刺激してくれて、飽きずに食べることができた。

一緒に混ぜたレモンの香りが、最後に鼻を抜けていくのがまた……!

「……合うどころの騒ぎじゃないぞ、リン……! 何だ、このソースは!? フォグバードもそうだが、ガンセキダイのフライにも合うぞ!」

「ちなみにヴィルさん。基本的にあっさりめの素材によく合うソースだと思っているので、キノコのフライに付けても美味しいと思いますよ」

「なん、だと……!!」

半ば夢でも見ているかのように瞳を蕩かせて、一心不乱にフライに挑んでいたヴィルさんが、ようやく現実世界に戻ってきてくれた。

口の端に着いたソースを指の腹で拭いつつ、やっと焦点が定まってきたイチゴ色の瞳でこちらをじっと見据えている。

……ああ……知ってしまったんですね……お肉のフライだけでなく、魚のフライをタルタルソースで食べる悦楽を……!

個人的に、魚のフライにウスターソースをちょろっとかけて、そこにタルタルソースを乗せると非常にご飯が進むんだけど……これはちょっと 暴食の卓(ウチのパーティ) に教えたら、ご飯がいくらあっても足りなくなりそうなんだよな……。

新たな味覚への誘惑に固まるヴィルさんの目の前で、ちょうど皿に取っていたキノコにタルタルソースをかけて、一口。

傘の開いていないマッシュルームを、そのまま大きくしたような感じのキノコは、さくさくとした歯切れのいい食感だった。

肉厚で、噛むたびに繊維の奥からじゅわぁっと風味豊かなエキスが口の中に滴ってくる。

そこに、マヨネーズの酸味と卵の濃厚さが加わったら……最高じゃなかろうか……?

「……リン…………ソース、なくなっちゃった……」

「え!? あ、思ったより早かったですね。それじゃ、ちょっと卵の殻剥き手伝ってもらっていいですか? 第二弾作りますので!」

「ん! 任せて!!!!」

負けじとキノコのフライにも手を伸ばしたヴィルさんを眺める私の隣から、非常にか細い声がした。

しょんぼりと眉も肩も落としたアリアさんが、きれいに空になったボウルを片手に、私の服の裾を引っ張っている。

でもまぁ、ある意味予想通りなので、先ほどの宣言通り茹で卵の山をテーブルに載せれば…………皆さんもの凄い勢いで殻剥きを手伝ってくださいましたとも!

見る間にツルンと剥けていく卵をフォークで潰しつつ、私はマヨネーズの威力を心底思い知らされていた。

…………この調子だと、チキン南蛮…………というか、フォグ南蛮とかコカ南蛮も一瞬で消えるんだろうな……。

ボウルの中に気前よくマヨネーズを掬っては落とし掬っては落としを繰り返しつつ、しばらくはタルタルソースは封印しようと心に決めた……。