作品タイトル不明
第6-28話 下校と魔術師
吸血鬼(ヴァンパイア) の死体を燃やすだけ燃やして、イグニは帰宅しても良いことになった。
さっさと帰って寮で寝ようと思っていたのだが、校門を出たところには小柄な少女がイグニを待っていて、
「あ、あの! イグニさん!」
「おっ、エスティアか。どうした?」
「その……一緒に帰りませんか?」
「ああ、良いよ」
もしかして、ずっとこうして待っていてくれたんだろうか?
イグニは校門に立ったままだったエスティアを見て、そう思った。
「エスティアは大丈夫だったか?」
「は、はい……。その、私のところは何もなくて、慌ててたらいつの間にか、終わってて……」
「それなら良かった」
イグニはそう言って、笑顔を浮かべる。
学校に現れた 吸血鬼(ヴァンパイア) は十体ほど、それも学校に召喚されたばかりの密集している間にほとんど決着がついていた。
だから、 吸血鬼(ヴァンパイア) たちに襲われたのは模擬戦場の近くにいた学生だけなのだろう。
今の所、イグニは死者の報告を受けていない。
多少のけが人はいるそうだが、生きているということは治癒魔術でどうにでもなるということだ。
「それで、エスティアはどうして校門のところに?」
「その……あの……」
答えにくそうにエスティアが顔を伏せる。
「母が、イグニさんにお会いしたいそうで……」
「……ん? エスティアのお母さんが?」
「は、はい。前に、私の家に友達として来てもらったじゃないですか」
「ああ、そうだな」
エスティアからのお願いという流れで、イグニはエスティアの家に足を運んだ。
その時に、イグニはエスティアの姉妹たちと顔を合わせているのだが、確かに母親とは顔をあわせてはいなかった。
「あの後、妹たちが母にイグニさんのことを自慢しまして」
「自慢」
「は、はい。その……妹もイグニさんのファンで……私が、イグニさんを家に連れてきた日からイグニさんの話で持ち切りだったんです」
「ありがたいな」
女の子たちに噂されて嫌な思いはしない。
「あまりに妹たちがそういうものだから、母もイグニさんに興味を持ちまして」
「なるほど。それで」
「は、はい。それに、私……友達がいないので、母もぜひイグニさんにお会いしたいと言っていて……その、もしよろしければ来ていただけませんか?」
「もちろんだ」
そのために校門で待っていたのかと、イグニは納得した。
だが、その前にエスティアには言っておかないと行けないことがある。
「ただ、エスティア。一個だけ良いか?」
「は、はい! 何でしょう?」
「俺たちはもう友達だろ?」
「……えっ!?」
エスティアはイグニの言葉に目を丸くして驚くと、
「おっ、お、おっ、恐れ多いです! 私なんかがイグニさんの友達なんて!」
「だって同級生だし、家にも遊びに言ったし昼飯も一緒に食べたし。もう友達じゃんか」
「た、たしかに……」
エスティアはほわほわとした顔で頷く。
「で、でも……イグニさんは……す、すごい人ですから……。私なんかが友達になったら迷惑じゃないですか?」
「そんなこと無いぞ。俺だって友達は少ないからさ。エスティアと友達になりたかったんだ」
「ほ、本当ですか!?」
ちなみにイグニのいう友達が少ないというのは本当である。
だが、ここで切り出したのは理由がある。
モテの作法その11。
――“女性との共通点を探せ”。
人は自分と似たようなところのある人を好きになる。
モテるためには、相手と自分の共通点を探し出すことによって、相手に親近感を抱かせることが大切なのだ。
これは大前提なのだが、イグニは別に女の子から尊敬されたいとは思っていない。
モテたいと思っているのである。
確かに尊敬がモテにつながることもあるのだが、イグニはそんなまどろっこしいことを考えるよりも純粋にモテたいと思う派である。というか、難しいことを考えられないので考えたくない派である。
「本当だよ。だからエスティア。俺と友達になってくれ」
「は、はい……! 私なんかで良ければ……!」
「エスティアが良いんだよ」
優しくイグニがそう言うと、エスティアは顔を真っ赤にしてイグニの手を取った。
「よ、よろしく、お願いします」
「こちらこそ」
未だに照れ続けるエスティアの顔を見ながら、「可愛いなぁ」とのんきなことをイグニは考えた。
「うちの母は家に帰ってくるのが遅いので、少し待つかもしれません……。大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ」
心配そうにイグニを見るエスティアに、イグニは安心させるようにそう言うと、続けた。
「エスティア。せっかく友達になったんだから、敬語やめにしないか?」
「……う、うん。イグニさんがそういうなら、そうする」
「こっちの方が友達っぽいな」
「不思議、な感じ。家族以外、の人と敬語でしか喋ったこと……ないから。なんだかイグニさんと家族になったみたい」
「俺が弟か?」
「ううん。イグニさんは、お兄ちゃんだよ」
「お兄ちゃんか」
「うん。イグニさん、頼りになるから」
エスティアはそう言って、イグニの顔を見上げた。
「そういうエスティアもしっかりしてるだろ?」
「う、ううん。私はぜ、全然だよ!」
顔を真っ赤にしながら首をぶんぶん横に振るエスティア。
「でも、妹たちのためにお姉ちゃんやってるんだろ? 十分、凄いじゃないか」
「そ、それは……しょうがないから……」
エスティアはもじもじしながら地面を見ると、顔を上げた。
「イグニさんは、兄弟とかは……いないの?」
「 昔(・) は(・) い(・) た(・) な」
イグニは縁が切れたという意味でそういったのだが、エスティアはそうは取らなかったみたいで急に顔を青くした。
「ご、ごめんなさい。変な、質問しちゃって……」
「ん? 別に気にしてないから大丈夫だぞ」
イグニはそういうが、エスティアは少し顔が沈んだままで。
これは少し返答を間違えたかなあ、とイグニは反省。
今の話題を払拭するために、イグニはあえてエスティアに話を振った。
「エスティアは新しく兄弟が出来るとしたら、上と下とどっちが欲しい?」
「……う、上が良い、かな」
「どうして?」
「……わ、笑わないで、ね?」
「もちろん」
「あ、甘えたい……から」
かっっっっっ!!!
可愛すぎてイグニの語彙が死んだ。
「お、俺で良ければいつでも兄と思ってくれ」
そして、テンションにまかせてそんなことを言ってしまう始末である。
だが、その言葉でぱっとエスティアの表情が明るくなった。
「ほ、本当に?」
「ああ、もちろんだ……」
「わ、私……ずっとお兄ちゃんがほしかったの……!」
下と違って、上の兄弟は望んでも手に入るものではない。
だからこそ、エスティアのそれは叶わぬ夢で。
「それで、イグニさんがお兄ちゃんだったらなぁって、ずっと思ってたの!」
……うん?
イグニは思わず首を傾げる。
「じゃ、じゃあ! 二人っきりの時はお兄ちゃんって呼んでも良い……?」
!??!?!?!?!?
イグニの脳がオーバフローとスタックフローを起こして熱暴走して、壊れた。