軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第5-29話 黒炎と魔術師

「『 装焔(イグニッション) : 徹甲弾(スピア) 』」

「『 火炎槍(ファイアランス) 』ッ!」

「『 発射(ファイア) 』ッ!!」

両者ともに魔術を行使。

イグニとフラムの周囲に展開された炎の魔術は空中を直線で駆け抜けると、お互いの魔術に激突しあって爆発。

「『 穿孔炎弾(ファイアバレット) 』ッ!」

フラムの詠唱によって生み出された黒炎の弾丸をイグニは回避。

右手を前に突きだすと、短く詠唱。

「『 装焔(イグニッション) : 極小化(ミニマ) 』ッ!」

目に見えず、無数に展開されたそれは空気中で他の分子同士と擦れあって負の電荷を帯びる。

「ははッ! 純粋な魔力だな! 初級魔術しか使わねえつもりか!? イグニ!!」

「お前には、それで十分だろ?」

空気中に強制的に生み出された激しい電荷の差を埋めるために、そこには莫大な電流が流れる。それは、自然の摂理であるが故に、

「『 落雷(ファイア) 』ッ!」

ズドッ!!

フラム目掛けて叩き落とされるのは巨大な紫電。

イグニの使える『天災魔術』。

雷の直撃は相手がまともであれば、それだけで全てを終わらせるだけの性能を持つ。だが、相手は普通ではない。

黒炎がフラムの周囲を覆っていた。

【火】属性魔術の防御魔術である『 火炎壁(ファイアウォール) 』だろう。

イグニには使えない魔術だ。

「随分と、器用なことをするな。イグニ」

「効くだろ。雷は」

そういうイグニの手元には2つの『ファイアボール』が既に展開されている。

「『 装焔(イグニッション) 』ッ!」

そして、魔力が込められた。

前方を堅く後方を柔らかくしたそれは、防御魔術を突破するために練り上げられた魔術。

「『 発射(ファイア) 』ッ!」

バァン!!

と、空気を破裂させる音を立ててイグニの手元から『ファイアボール』が放たれる。フラムは再び防御魔術を発動。黒い炎が壁となってイグニとフラムの間に立ちふさがる。

だが、後方にあった『ファイアボール』が爆発ッ!

空中でさらに加速した『ファイアボール』はフラムの防御魔術に直撃、貫通ッ!!

そして、イグニは『ファイアボール』を空中で爆破させた。

遅れて、壁の向こうからフラムが煙とともに現れる。

そこに向かってイグニは詠唱。

「『 装焔(イグニッション) : 徹甲弾(ピアス) 』ッ!」

「『 黒炎(フラミット) 』ッ!」

イグニの周りに生み出された5つの『ファイアボール』に魔力が込められ、回転開始。激しい回転によって、空気と擦れて音が鳴る。

だが、フラムも黙ってそれを見ているわけでは無い。

煙の中に居ながら詠唱。イグニに向かって手をかざし、

「『 発射(ファイア) 』ッ!」

「『 火炎槍(ファイアランス) 』ッ!」

お互いの魔術が同時に空中を駆ける。

それと同時にイグニは地面を蹴って、フラムに向かって直進!

お互いの魔術が空を切り、全く無関係の場所に着弾して燃え上がる。

フラムが続きの詠唱を行おうとした瞬間、イグニがそこに踏み込んで、

「『 熾転(イグナイト) 』」

魔力を回した。

自らの身体が動いているので回転数は控えめの30回転!

世界が急に鈍化して、イグニだけが世界に取り残される。

その中でイグニは周囲を索敵しながら、ゆっくりと手をフラムに伸ばした。

全てが遅くなった世界の中でフラムが両腕をクロスしてガードする。

だが、イグニの方が早く、重い。

ぐしゃ、と音を立ててフラムの両腕を粉々にするとそのまま大きく吹き飛ばしたッ!

「『 装焔(イグニッション) : 拡散弾(クラスター) 』ッ!」

イグニの手元に生み出された『ファイアボール』の中に無数に『ファイアボール』が生成されて、

「『 爆撃(ファイア) 』ッ!!」

指向性を与えて爆発ッ!

無数の『ファイアボール』がフラム目掛けて直進して、

ズドドドドドッツ!!!

周囲を爆炎で埋め尽くした!

「まだまだ行くぜッ!」

「……クソッ!」

両腕が砕けたフラムは慌てながら、ポーションを取り出す。

だが、それを飲ませるわけにはいかないイグニが連続して『ファイアボール』を使う。

フラムは回避に専念し、攻撃に回ることが出来ない。

「『 装焔(イグニッション) : 散弾(ショット) 』」

逃げ惑うフラムには、逃げられないほどの『ファイアボール』を、

「『 発射(ファイア) 』ッ!」

撃ち込めば、良いだけだ。

「クソが!!」

フラムの叫び声で、帝都を覆っていた黒い炎の檻が消えた。

それは魔術をそこまで行使しているだけの余裕がないことを指す。

確実にフラムを追い詰めている。

それをイグニは実感として、受け取った。

「『闇よ、炎を飲み込み給え』」

イグニの後方でドロリと魔力が動く。

聞きなれた友人の声に、イグニは振り向かなくても何が起きたのかを理解した。

「ミル会長から対抗魔術を習っておいてよかったよ」

後ろにいるのは、白髪の少年。

【闇:S】という恵まれた適性を持ち、何よりも支援魔術に優れている彼がアリシアたちを囲っていた黒い炎の檻を破ったのだろう。

「ありがとう。ユーリ」

「ううん。気にしないで」

「後は俺がやる。みんなは避難しててくれ」

イグニはフラムのことをただの魔術師だとは思っていない。

奴は十中八九、魔法使いだ。

当然、それを直観で判断しているのではない。

黒い炎という特殊性。

イグニも色々と【火】属性について学んできたが、黒い炎なんてものは聞いたことが無い。故に、使い手は相当数限られる。

生誕祭というタイミングで攻め込んでくるのは“咎人”だろうというセリアの推測。

ハイエムから聞いた彼女の住処を襲った黒い炎を使うという“咎人”。

そして、何よりもイグニが抱いていた親近感。

それは、もしかして魔法使いとしての親近感では無いのだろうか。

「……フラム。最後に聞いておく」

イグニの魔術により体力と魔力を削られて、何とか治癒ポーションを抱えているだけになったフラムにイグニは告げる。

「お前、“咎人”か?」

「……黒い、炎はどうやって出来ると思う?」

「質問に答えろ」

「……おかしい、と思わねえか。人の感情からにじみ出る人の澱みは、莫大な、エネルギーだ。どうして、使わない?」

息も絶え絶えに、フラムは言葉をつなぐ。

「何が言いたい」

「……澱み、とは、暗く重く、底に溜まった、物。だから、俺の炎は……」

しゅるり、とイグニの右腕に黒炎の砲弾が直撃した。

「 重(・) い(・) んだ」