軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第5-27話 ミノタウロスと魔術師

『ファイアボール』に込めた魔力は街を破壊しないギリギリ。

だが、それでは到底ミノタウロスを破壊するには届かない!

「……チッ」

爆炎を切り裂くようにして飛び出してきたミノタウロスの顔に浮かんでいるのは獰猛な笑顔。戦いを楽しむ 狂戦士(バーサーカー) の顔だ。

「……お前を相手にしてる暇は無いんだよ」

市壁を焼いた黒炎は間違いなく“咎人”のもの。

こんなところでグズグズしている間に、アリシアたち皇族が襲われてしまう。

イグニは地面を踏み込んで、『 装焔機動(アクセル・ブート) 』を発動すると、後方に大きく飛ぶ。それを追いかけるようにミノタウロスはイグニめがけて直進。牛の名を冠するモンスターに相応しく、まっすぐ突っ込んでくる。

なるべく人のいない方へミノタウロスを誘導しながら、イグニは静かに息を吐いて詠唱。

「『 装焔(イグニッション) : 極小化(ミニマ) 』!」

小さく展開された『ファイアボール』がイグニの後方に撃ちだされると、後光のような加速炉を通って加速開始ッ!

――キィィィィィイイイイッ!!!

『ファイアボール』の高速加速によって、空気を切り裂く音がイグニの後方から響き渡る。

――ィィィィイインンンンンッ!!!!

「『 発射(ファイア) 』ッ!」

ズドッッツ!!!

撃ちだされた『ファイアボール』が前方の空気を圧縮し、断裂。

亜光速まで達した極小の『ファイアボール』がミノタウロス目掛けて撃ち込まれて、

『――SHA!!』

ギィィィイイインンン!!

金属同士がぶつかったかのような重低音を響かせて、ミノタウロスは『ファイアボール』を鉈で 払(・) っ(・) た(・) 。

「……マジ?」

流石にそれは予想していなかったイグニに取って、驚愕の事態。

亜光速の速さに対応してきたこともさることながら、その 重(・) い(・) 一撃を剣技だけで受け流したその技量にも驚きを隠せない。

まさに、化け物。

「ドラゴンより強いんじゃねえのか」

「あら。失礼しちゃうわね」

「ハイエム!?」

イグニの独り言に、果たして返ってきた声がある。

フードを脱いで、青い髪を日の光にさらす美しい女性。

透き通るような声と、最強種としての余裕。

それらを意識せずとも周囲にまき散らして、“ 冰(ふゆ) ”のハイエムがそこに立っていた。

「どうしてここに!?」

「魔法が見れると思って」

「……使わないぞ。こんなのに」

「あら、そうなの。残念ね」

その言葉に嘘は無いのだろう。

本当に残念そうにしながら、ハイエムは肩を落とした。

「それよりもハイエム。あれ、どうにかできるか?」

ミノタウロスは突然舞い降りた最強種に怯んだかのように、動かない。

その隙を逃すまいと、イグニは焼け落ちた市壁を指さした。

「壁を直すのかしら」

「違う。あそこから入ってくるモンスターをどうにかして欲しい」

「 戻(・) っ(・) て(・) も(・) いいかしら」

「戻らずに頼む」

「お安いごようよ」

ハイエムはまるでティータイムの令嬢のように、優雅にほほ笑むと跳んだ。

「『帰りなさい』」

竜の 命令(えいしょう) 。

言葉そのものが強力な魔術となるのは、竜種に許された特権。

最強の一声にてモンスターたちの動きが止まると、ガタガタと震えだし、ダンジョンに戻るように走り始めた。

「これでいかが?」

「流石だな」

「良いのよ。魔法が見れるなら」

「だからこいつには使わないって」

イグニは呆れたように返すと、周囲に7つの『ファイアボール』を同時展開。

「『 装焔(イグニッション) : 砲弾(キャノン) 』」

魔力の密度を最大限まで押し上げることによって信じられないほど 重(・) く(・) なった『ファイアボール』がぐるりと回転すると、ミノタウロスに標的を絞る。

「『 砲撃(ファイア) 』ッ!」

ズドドドッ!!!

7発同時に発射!

刹那、ミノタウロスは大きく鉈を振るうと7発のうち4発を弾いて3発を甘んじて受け入れた! 遅れてミノタウロスの胸で火球が爆発すると、その身体を大きく後方に吹き飛ばす!!

だが、ミノタウロスは空中で姿勢を直すと地面に着地すると同時に前方に向かって飛び込み。自身を砲弾のようにしてイグニに飛び込む!!

「『 熾転(イグナイト) 』」

ぐるり、とイグニの体内魔力が大きく回転。

そして、その回転数を押し上げるッ!!

未だに彼は、超高速回転時に身体の制御が取れはしない。

自分の身体能力の向上に、認識がついていかないのだ。

だが、それは動かなければ。

「……せイッ!!」

ドンッ!!!

爆発じみた音がするが、それは爆発の音ではない。

イグニがミノタウロスを 受(・) け(・) 止(・) め(・) た(・) 音だ。

回転数は毎秒130回転!

イグニがもし一歩でも前に踏み出せば、そのままどこかに吹き飛んで行ってしまうだろう。

だからこそ、イグニは動かない。

両の脚を地面に打ち込んだかのようにがっしりと固定すると、ミノタウロスの腕を掴んだ。

『――WoooOOO!!』

ミノタウロスが焦ったように腕を引くが、まるで魔術によって空間にがっしりと固定されてしまったかのように動かない。それに僅かな恐れを抱くが、既に時は遅く。

ゆっくりと、本当にゆっくりと。

イグニは自身の身体の動きを見誤らないように、ミノタウロスに向かって張り手を打ち込んだ。

パァン!

と、水風船が破裂するような音を立てて、ミノタウロスが 破(・) 裂(・) した。

「よし。戻るぞ!」

「……今の何かしら」

事の一部始終を見ていたハイエムが、声に困惑と恐れを含んでイグニに尋ねる。

「今度また教える! 今は時間がない!!」

「約束よ?」

「ああ。これが終わったら、時間なんてたくさんあるからな」

だが、イグニはすぐにアリシアの元に戻らねばならない。

ハイエムと約束を交わして、『 装焔機動(アクセル・ブート) 』を発動。

刹那、帝都の市壁、その全てを覆うようにして黒い炎が上がった!

まるで、帝都から誰も逃がさないように。

「……ッ! 今度は何だよ!」

黒い炎はまるで鳥かごのようにぐるりと街を囲って、帝都を制した。