軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

85:宮廷魔術師たちの戦いぶり

「「「ーーーーー!!」」」

「っ!?」

先ほどの水蒸気爆発を生き延びた魔物の中で最も強大な魔物はキマイラのような魔物なのだろう。

恐らくはノスタの魔道具が起動する際に正常に起動せず、魔道具同士で互いを食い合った結果生まれた偶然の産物。

その姿は狼、猪、熊、鳥、蛇の頭と手足をドラゴン並に巨大な体から生やした姿をしていて、瓦礫ではなく肉で出来ていたら、見る者の多くに嫌悪をもたらすような事になっていただろう。

そんなキマイラの狼の頭が叫ぶと共に一番近くに居た兵士に向かって跳びかかり、大きな口を開き、兵士の体を食い千切らんとした。

「させるか!」

「!?」

だが、その前に宮廷魔術師長の隣に立つ、立派な鎧兜を身に着けた人物が腕を振る。

すると、それに合わせるようにキマイラの目前に光の盾が生み出されて、キマイラの牙も、無数にある手足の爪も阻む。

だけでなく、そのままキマイラを弾き飛ばし、たたらを踏ませる。

今の光の盾は強度的に間違いなく第二属性を含んだ魔術だった。

つまり、あの鎧兜の人物は宮廷魔術師の一人なのだろう。

そして、この場に居る宮廷魔術師は彼だけではない。

「土よ。壁となりて、石となりて、刃となりて、断て。『グラベルウォール』」

「水よ。這え、掴め、回れ、回れ、回りて捻じれて絞り切れ。『ワールプールシャックルス』」

「雷よ。我が釘に誘われて……落ちろ。『サンダーボルト』」

「「「ーーーーー!?」」」

誰がそうなのかは分からない。

だが、明らかに第二属性を含んだ魔術が幾つも放たれている。

キマイラの巨体を押し返すように、地面から何本も土の壁が湧き出して、突き上げる。

キマイラの無数にある手足や関節を、一か所につき一個、強い粘性を持つ球体の水が包み込み、その水が回転する事によって、キマイラの手足を捻じ曲げて、痛みを与え、自由を奪う。

キマイラの身体を構築している釘に何処からともなく強烈な電撃が落ちて、その体を単純に焼く。

ワタシであってもきちんと防御をしなければならないであろう規模の攻撃が幾つも放たれて、キマイラの体をその場へ釘付けにする。

「長よ。仕込んだぞ」

「分かった。では、水よ。我が火に炙られて、その内より蒸気と化せ。一斉に。『スチームエクスプロージョン』」

「「「!?」」」

そうして動けなくなったところに宮廷魔術師長の魔力が放たれて、キマイラの身体が内側から爆発し、粉砕され、大量の水蒸気を体の脆い所から外へと漏らす。

「「「ーーーーー~~~~~……」」」

「うーん、やっぱり単純な物理的破壊だと時間がかかりそうだ。この分だと、今はもう体全てが魔物であり、魔道具であり、魔術であると言うところかな。やれやれ、ノスタ・ルージアも厄介な魔術を考えついたものだ。ミーメ君はこれをどうやって倒したんだか」

が、そこまでされてもキマイラは残された足で立ち上がり、壊れた部位を周囲の瓦礫を取り込む事でゆっくりと直し、周囲の人間へ襲い掛かる機を窺い始める。

ワタシの名前を呼ばれた気もするが……流石にちょっとよく聞こえなかった。

「この場に居る兵士、騎士、魔術師に告ぐ! このデカブツは宮廷魔術師に任せよ! 代わりにそなたたちは小さい魔物たちを任せた! 決して一人で当たるな! 油断もするな! 元に戻らなくなるまで、丹念にすり潰せ!!」

「「「ーーーーー!!」」」

それはそれとして、鎧兜の男性の言葉に倉庫近くに居る騎士たちが鬨の声を上げて、指示通りに集団で魔物に対抗し始める。

「ヘルムス様。ワタシも……」

此処まで見たところで、ワタシはこの場に助力するべく、まずは先駆けとして闇人間を送ろうとした。

『ようし。『船』『焔槍』『凍え』『闇軍』。四人ともしっかり揃ってんな』

「!?」

が、その前に聞いた覚えのない声が窓の方からして、ワタシは驚きながら声がした方へと向き直る。

そこに居たのは、半透明の……風で出来た鳥。それが男性の声で喋っていた。

うん、間違いなく第二属性込みの魔術だ。

たぶんだが、ワタシの闇人間のように視覚の共有と声の伝達が出来る魔術であり、偵察と伝達に特化した魔術なのだろう。

ワタシが闇人間の方へ意識を向けていたのもあるが、この魔術の気配がとにかく薄く、分かりづらい。

「『風鳩の魔術師』殿ですか。宮廷魔術師長の指示ですね」

『その通りだ。『闇軍』は初めましてだな』

「あ、はい」

『が、悪いな。ちんたらと自己紹介をしている場合じゃないんで、とっとと伝えるぞ。『船』『焔槍』『凍え』『闇軍』の四人には、王城の中ではなく王都に出現した魔物の方に対応してもらいたい。この部屋に居る他の連中は必要な処理をしたら、緊急時対応だ』

そう、それは考えてみれば当然の話だった。

王城の中でノスタの魔道具が発動したのなら、より発信源に近いであろう王都の方にあった未発見の魔道具たちも起動していて当然の事だった。

そして、王城の中は万全の備えと言ってもいい状況であるのに対して、王都の方はノスタに気づかれないように事を進めようとしていたので、備えは隠して出来る範囲でしかない。

どちらの方がより拙いことになっているかなど、考えるまでもない事だった。

「分かりました。ミーメ嬢、行きましょう」

「はい」

「わたくしも行きます」

「俺っちの仕事が来ちまったか」

なのでヘルムス様、ワタシ、グレイシア様、ジャン様の四人で部屋の外へと飛び出すと、そのまま王城の外へ繋がる道に向かって駆け出し始める。

なお、歩幅などの観点から、ワタシは移動用闇人形に搭乗済み。

状況が状況なので、周囲からの文句も無しだ。

『『船』の。もうちょっと詳しい状況説明は必要か?』

「お願いします。まず陛下たちは問題ないのですか?」

『問題ない。ちゃんと安全な場所で『光盾』以外の親衛隊連中に守られている。『白花』も一応ついているし、大丈夫だろうよ。ちなみに『赤顔』『光盾』『雷釘』『土壁』『渦潮』で大物に対応中で、まだまだ時間がかかりそうだ』

『赤顔』は宮廷魔術師長だったはず。

他の四人の二つ名に当てはまりそうな現象も目にしたので、大物と言うのはキマイラの事だろう。

「王城の近くは?」

『『鉄弓』が隣でバカスカ撃っていて、『硝子』『石抱き』も王城近くと貴族街を担当。まあ、この辺は問題ない。問題は平民街の方だな。『賭事』『剛拳』が駆け回っているし、騎士と兵士と魔術師も多めに回しているんだが、相手の数も多いし、まだ小規模だが火も出始めているようだ。ぶっちゃけマズい』

「倉庫の方から人を持ってくるのは……」

「無理だと思います。ヘルムス様」

「そうですか。ミーメ嬢がそう言うのなら、そうなのでしょうね」

えーと、合わせて五人くらいの宮廷魔術師と、沢山の騎士たちで王城の外には対応しているようだ。

ただ、火事も起き始めているし、懸念していた通りに魔物の数も多い。と。

確かにこのままだと拙そうだ。

だが倉庫の方……キマイラに対応している宮廷魔術師を減らすことは出来ないだろう。

こうして移動しつつ、倉庫の方を見てみるが、まだまだ戦闘は続いているようだった。

『……。治療に関しては『白衣』と『調薬』が居るから安心しろ。生きて辿り着きさえすれば、何とかはなるはずだ』

「そうですか。ところで貴族院の方は? 後、貴族街と平民街ではどちらの方が危険ですか?」

『貴族院は『封蝋』がちゃんと詰めてる。馬鹿のせいで内側が大変なことになっている可能性は否定しないが、上から見る限りでは問題は無いな。貴族街についても、さっき言った面々と貴族が個人的に雇っている連中も居る。何とかなっている。だから、上から見た限りの話になるが、やっぱりマズいのは平民街の方だ。とにかく手が足りていない』

「なるほど」

『風鳩の魔術師』様はとにかくワタシたちに平民街の方へ救援に行って欲しいらしい。

彼の魔術がワタシが思っている通りのものなら、本当に上空から状況を確認していて、平民街の方が良くない事になっているのだろう。

『次の指示が来るまではこっちも戦闘対応に戻る。一匹はヘルムスに付けておくから、何かあったら頭を小突け。それで分かるからな』

「分かりました」

風で出来た鳥……いや、ハトはそう言うと、ヘルムス様の隣で黙ってホバリングを始める。

そしてワタシたちは王城の正門上、王都の多くを見渡せる位置にまで来て、見た。

瓦礫で出来た魔物たちが暴れ回り、少なくない数の黒煙が上がり始めている王都の姿を。