軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

84:不安が変化する

「報告です!」

夜明けと共に報告書を持った女性が部屋にやって来て、ヘルムス様に何かを渡している。

ヘルムス様はそれを速読した後、部屋の中の全員に伝わるように喋り始める。

「良い知らせと悪い知らせがあります。良い知らせについては、『イーリィマップ』のおかげでノスタの魔道具が発見され始めているようです」

ヘルムス様によれば。

『イーリィマップ』の効果でノスタの不安を探った結果。普通なら不安を抱かないであろう場所にノスタは不安を抱いていた。

そこで、その不安が生じているであろう場所……住宅の軒先にある花壇の中を探ったところ、隠蔽の魔術が掛けられた袋が見つかったとの事。

そして、その袋の中にはノスタが作った魔道具……魔物の骨を加工して作られた装飾品が入っていたそうだ。

「悪い知らせは、袋の大きさに対して、明らかに入っていた装飾品の数が少ない事です」

「……。前向きに捉えるのなら、使った袋の大きさと入っていた装飾品の大きさが違っていた。だけですね」

「そうですね。ですが、私たちの立場上、悪い様に捉えざるを得ません。つまり、本当はもっと沢山の装飾品が入っていて、捜索している王城の兵士より先にそれを持ち出してしまった。と言う物です」

ワタシは一応、前向きに捉えた場合の話を出す。

が、ワタシ自身も含めて、部屋に居る誰もがヘルムス様の言う悪い場合の方が可能性としては高いだろうと思っている事だろう。

なにせ、ノスタの魔道具は見かけについては、それなりに価値がありそうな装飾品になっているのだ。

それが捨てられているようにしか見えない状態なら、一部の平民なら勝手に拾って、自分で身に付ける事も、売り払う事も、そうおかしな事ではないだろう。

「非合法魔道具を作っている連中の取り締まりもその内しないと駄目そうだな。ヘルムス」

「そうだな。が、今は目の前の事だ。ジャン」

なお、袋の形をした隠蔽の魔道具は王都に住んでいる非合法魔道具職人……主に闇属性、が作っている物である。

主な用途は密輸。

サイズによっては誘拐などに利用される事もあり、完全に非合法の品である。

見抜けるかどうかは、魔力量の差や、単純な勘や知識、魔力周りの各種技術次第となる。

うん。こういう連中が居るから、闇属性のイメージが悪くなるのだ。

閑話休題。

「話を戻しましょう。ノスタの魔道具を貧民の類が持って行ったとしましょう。ですが、スラム街にそのような反応は見られません。恐らくですが、既にノスタの意識からも外れてしまっていて、『イーリィマップ』では反応しないのでしょう」

「となると回収は後回しにするしかございませんね」

「そうなります。ノスタ本人を捕らえて無力化した後に、件の魔道具について公布。その後に地道に回収していくしかないでしょう」

ノスタ自身が何処へ行ったか知らない魔道具は『イーリィマップ』に映らない、か。

これについてはもう諦めるしかない話だろう。

仕様上、致し方ないと言う奴だ。

「ですのでグレイシア嬢。我々の仕事はまだあります。ノスタが今抱いている不安を感じ取る事で、相手の状態や居場所を測ります」

「了解でございます」

「では、ワタシは隠蔽の維持を続けます」

「俺っちは護衛だな。このまま何もやる事が無いのが望ましいけど」

ただ、ノスタを対象とした『イーリィマップ』は維持される。

『イーリィマップ』に示される不安は、現状のノスタが抱いている不安であり、人が何に不安を抱いているのかは、その時々次第のものだ。

だから、『イーリィマップ』に変化があれば、ノスタが今何処で何をしているのかを読み取れる可能性がある。と言う事であるらしい。

うん、上手く行って欲しい話だ。

そして、願う事ならばジャン様の言う通り、ワタシたちについては何もやる事が無いのが望ましいのだが……。

「っ!?」

グレイシア様が何かに気づいたように反応する。

そんなグレイシア様の反応に、ワタシたちの視線は『イーリィマップ』……より正確には『イーリィマップ』によって氷の粒が降り積もった地図へと向けられる。

今現在の地図は王都全域を示したもの。

ついさっきまで氷の粒は王都全域に薄っすらとかかりつつも、一部の場所には積もると言う形で、濃淡がある状態だった。

だが今は違った。

今は……。

「王城にだけ不安を覚えている?」

ワタシたちも居る王城にだけ氷の粒が積もっていた。

それはまるで、王城だけが警戒対象と言っているかのようで。

裏を返せば、他の場所はもはや警戒するに値せず、不安を抱く必要も無いと言っているかのよう。

さっきまでは自分の仕掛けが見つかるか不安で仕方が無いはずだったのに、突然にこれほど不安の抱き方が変わったとするならば……。

「ジャン!」

「総員警戒態勢!」

「魔道具を隔離します!」

「全員、警戒でございます!」

ヘルムス様がジャン様に声を掛けつつ、部屋の入り口を見る。

ジャン様が何処からか短槍を取り出すと、周囲を警戒する。

ワタシが『イーリィマップ』に載せられているノスタの魔道具を闇で包み込んで、闇の外からの魔力が中に届かないようにする。

グレイシア様が『イーリィマップ』から手を放して、杖を構える。

「これはノスタの魔力……!?」

直後。

部屋の中ではワタシだけだったが、強烈な指向性あるいは意思を有するものの、魔術とするには極めて弱い、まるで電波のような魔力が体を通過していく。

状況からしてそれはノスタの魔力以外には考えられないものだった。

ーーーーー~~~~~!!

そうして、魔力が通り抜けていった直後だった。

ワタシの考えが正しい事を示すように、何処かで爆発音のような音がして、二度三度と、先ほどと同じような魔力が体を通り抜けていく。

「ヘルムス様! 状況を確認させます! 来い、闇人間」

「お願いします、ミーメ嬢。グレイシア嬢、再観測を」

「『イーリィマップ』再起動でございます」

「さて、何が起きているよ……?」

魔力の波が落ち着いたところで、ワタシは魔道具の隔離を解除。

それから、視覚と聴覚を持たせた闇人間を生成すると、先ほどの爆発音がした方向に向かって、壁をすり抜けて走らせる。

「これは……」

先ほどの爆発音の出所は、やはりと言うべきか、ノスタの魔道具が集められている場所だった。

そこには主に石や木、土、僅かに肉と鉄釘で作られた、歪な姿の魔物が何十体と居た。

外見だけで判別する限り、狼、猪、鳥、熊、蛇と言ったところだが……中には綺麗に一体の魔物になるのではなく、前世知識で言う所のキマイラのように複数の頭や余分な手足を持っている個体も居るようだ。

そして、既に戦闘は始まっていた。

魔物たちは手近な人間……警備のために集められていた、兵士、騎士、魔術師たちに襲い掛かり始めている。

勿論、彼らは戦闘に関する教育を受けているため、一方的にやられるような事にはなっていないが……このままでは拙そうだ。

「ミーメ嬢。やはり倉庫ですか?」

「その通りです。今から援護を」

「いえ、それは待ってください。何かが起きても、倉庫なら大丈夫なはずです」

「ヘルムス様? 何を言って……」

ワタシはヘルムス様の声に応えつつ、遠隔で闇人間を生み出そうとした。

が、その前にヘルムス様が制止する。

その事にワタシは反論しようとし……。

「あちらには宮廷魔術師が何人も控えています」

その前に戦場と化した倉庫の周囲に変化が起きた。

鋭い断面を持つ壁が地面から何本も生えて来て、魔物を切り裂くか、そうでなくとも動きを止める。

稲光が戦場の中を走り回って、動きが止まった魔物たちを電撃によって一瞬だが脱力させる。

脱力した魔物を引きずり込むように渦潮が生じて、魔物たちが一か所に集められる。

そうして一か所に集められた魔物たちの周囲を光で出来た盾が囲って……直後に現地に居る闇人間だけでなくワタシ自身の耳でも捉えられるほどの大爆発が起きたのだった。

「はぁー、参った参った。吾輩たちの出番はないものと思いたかったのだけど」

「相手の方が一枚上手だった。いや、我々が手を打つのが遅かった。そう言う事だろう。ならば諦めて対処する他あるまい」

事前に決めていたであろう通りに連携し、多くの魔物を葬り去ると共に現れたのは、宮廷魔術師長を含む複数の魔術師たち。

その大半にワタシは見覚えが無いし、中には立派な鎧兜を身に着けた騎士にしか見えない人物も居るが、ヘルムス様の言葉通りなら、彼らは宮廷魔術師たちだった。

「「「……」」」

だが、あれほどの爆発があっても、一部の魔物たちは上手く動いて難を逃れたらしい。

水蒸気の向こうから、キマイラのような魔物と、他の狼や鼠、猿の形をした小さな魔物たちが現れる。

「「「ーーーーー!!」」」

「構えろ宮廷魔術師長。相手はまだ死んでいない」

「うーん、そもそも死ぬのだろうか? さっきまで死んでいたわけだし」

「なら動かなくなるまで潰すまでだ。動かなくなる方法の解析は任せた」

「任された。ま。それが吾輩の仕事か。知ってた知ってた」

そして、現れた魔物たちは本能のままに、あるいはそう命じられていたのか、目の前の人間に襲い掛かろうと再び動き出す。

同時に、宮廷魔術師長たちも動き出した。

この場から一匹の魔物も逃がす気は無いと言わんばかりに戦意を漲らせて。