軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

40:婚約の挨拶回り その2

「……」

「随分と緊張してますね」

「7年ぶりの実家ですので……」

ワタシとヘルムス様はトレガレー公爵家所有の馬車に乗ると、王都の平民街……スラム街ほどではないけれど、平民全体で見れば下よりな区画へと向かう。

行き先はワタシの生家。

つまりは7年前に出て行った切り、同じ王都に住んでいるのに一度も帰っていない家族の元である。

いったい何を言われるか、どういう反応をされるのか、これから起きるであろう事を想像したならば、緊張するなと言う方が無理があると言うものである。

なお、そんな場所に今のワタシたちが乗っているような立派な馬車が現れたら、騒ぎになるのは確実である。

なので、今現在、この馬車にはワタシが隠蔽の魔術の一種……そこに馬車がある事は分かるけれども、それに興味を持てないようにする。と言う、そんな魔術が存在している事も表には出すべきではない魔術を行使している。

まあ、ワタシのこれは魔術を行使している事すら疑問に思わせないので、出力差も相まって、種明かしさえしなければ、バレる事など無いが。

「着きましたね。では行きましょう」

「はい」

馬車が止まり、ワタシたちは外に出る。

ワタシの家の外観は……経年劣化で少しボロくなった気はするが、周囲の家々も含めて大きな変化はない。

「すぅ……」

ワタシは一度息を吸ってから、家の扉をノックする。

ヘルムス様は、そんなワタシの一歩後ろに立ってくれている。

「はいはい。どちら様だい?」

直ぐに母の声がして、扉が開かれる。

「ん? んんん?」

母はまずヘルムス様を見て首を傾げ、それからワタシの方を見て、更に疑問を抱き……。

「まさか、ミーメかい!?」

少し悩んでから、目の前に居るのが自分の娘だと気づいたようだった。

「あー、うん。そう。ただいま」

「はー……あー……とりあえず中に入んな。昔に出て行った娘ではあるけれど、話は聞いてあげるよ」

「うん、ありがとう。母さん」

「ありがとうございます。御母堂」

と言うわけで、ワタシとヘルムス様は、ワタシが出て行った時から多少変化したらしい家の中に入る。

「それで? 何があったんだい? そっちのお貴族様の 形(なり) からして、金の無心をしに来たんじゃないのは分かっているけどさ」

「簡単に言えば報告かな」

「ふうん」

ワタシは母にここ最近の事を話していく。

つまり、宮廷魔術師として王城に勤める事になった件、アンカーズ子爵家の養子になった件、ヘルムス様の婚約者になった件だ。

全てを話したりはしない。

なんならヘルムス様の家の爵位も伝えない。

母は魔術に詳しくない、平民にしてはちょっと美人なだけで、本当にただの一般人なので、伝える話は限った方が良いと言う判断だ。

「……」

で、ワタシの話を一通り聞いた母はヘルムス様の顔を一度見る。

対して、ヘルムス様は穏やかな笑みで返す。

それからワタシの方を改めて見る。

結果。

「え? 大丈夫なのかい? ミーメ、アンタ騙されてはいないよね?」

「怖い事に騙されてない。陛下からも『闇軍の魔女』と言う二つ名を直々に貰ってる」

「はー……。そりゃあ確かに怖いね……」

まず心配したのは詐欺の類だった。

分かる。身に覚えがないほどに持ち上げられると怖いのだ。ワタシのような小市民にとっては。

「まあ、騙されていないってんなら、頑張って来な。アタシと父ちゃんは此処からこっそりと応援する事しか出来ないけれどね」

「それで大丈夫。そもそも家を出て行った時点で、『何かあっても助けないが、助けを求める事もない』と言う約束だったからね。ワタシの実力なら、直接的な物はどうとでもなるから安心して」

「そりゃあ心強い。期待しているよ」

そして応援してくれた。

うん、実にワタシの母親である。

「ああ、後そうだね。どうやったのかは知らないけれど、こんなに顔のいい貴族様を捕まえたんだ。きちんと逃さず物にするんだよ」

「ははははは……」

なお、一般人なので、ワタシがヘルムス様を捕まえたと思っているらしい。

実態は逆なのだが。

「ご安心を、御母堂。ミーメ嬢が私の事を捨てる事はあっても、私がミーメ嬢を捨てる事などあり得ません」

「そうかい? なら、その言葉が本当である事を信じているよ」

「ええ、信じてください。必ずやミーメ嬢は幸せにして見せます」

うーん、ヘルムス様がキラキラとした笑顔で笑っている。

ヘルムス様としては本心からの言葉であり笑顔なのだろうが……。

「ところで御母堂。ミーメ嬢の言葉を疑ったり、驚いたりはしないのですね」

と、ここでヘルムス様が話題を変えるように疑問を口にする。

「ああその事かい。この子は昔から魔術が大好きで、色々ととんでもない事をやらかしていたからねぇ。こう言っちゃなんだけど、家を出ていってからも同じように魔術を続けていたなら、そりゃあお偉い魔術師ぐらいにはなれるさ」

「ほうほう。とんでもない事とは?」

「そうだねぇ……アンタが5歳の時だったかい? 魔力に目覚めたのは。で、目覚めた日は透明な魔力の塊を使っていたのに、次の日にはそれが真っ黒の球になっていて、目の色も黒になっていて、アレは驚かされたねぇ。他にも……」

「あー! あー! 母さん、話はそこまでで!」

うん、この流れはよろしくない。

と言うわけで、ワタシは半分無理やりにでも断ち切るべく、声を上げる。

「そうかい? じゃあ、そうしておこう」

「残念です」

「ははは。ヘルムス様だったかい? アンタに色男としての自覚があるんなら、自分の力でミーメから聞き出してみるんだね。なに、この子はなんだかんだで身内には甘いから、そう難しい事じゃないさ」

「分かりました。頑張ってみようと思います」

ぐぅ……。話の流れは切れたけれども、その内ヘルムス様から尋ねられる事になってしまった。

「ああでも、流石に七年前に出て行った娘の外見が胸の大きさ以外殆ど変っていない事には驚いたね。いったいどうしたらそうなるんだい? 飯はきちんと食べていたし、だらけていなかったのは体つきを見れば分かるけど、それなら普通は背も伸びるだろう?」

「あ、あー……それについては……気が付いたらなっていたとしか……」

母の質問にワタシは思わず顔を逸らす。

実を言えば、ワタシの外見が10歳の頃から胸のサイズ以外変わっていない件については、その原因に心当たりが無いわけではないのだ。

ワタシが10歳の頃に始めた事と言えば、第零属性『魔力』の研鑽だった。

魔力属性は魔術を扱う上で全ての基礎と言ってもいい属性であり、この世のものの殆どは量の多寡こそあれど魔力を含んでいる。

その魔力を扱う属性の研鑽を積んだのなら……成長や老化に影響が出てもおかしくないとは思うのだ。

ただ、この話を表に出すことは出来ない。

第零属性『魔力』が最低限扱えるようになる事こそが第一属性に目覚める条件なのはよく知られた話だが、第零属性と第一属性と第二属性の三属性それぞれの八つの顕現を一つの魔術としてまとめ上げて行使する事こそが第三属性に至る方法である以上、これは墓場にまで持っていく話である。

「ふうん。ま、そう言う事にしておこうかね」

「おや? 良いのですか?」

「母親としてミーメは聡い子だって知っているからね。その子が明らかに言い淀んでいるなら、それはあたしが聞くべきじゃない話って事さ」

「なるほど」

どうやら察してくれたらしい。

流石はワタシの母である。

「母さん、今帰った……ぞ……」

「おや父さん、お帰り。ミーメが顔を見せに来ているよ」

と、ここで父が家に帰って来たようだった。

母を見て、ワタシを見て、それからヘルムス様を見て……。

「娘をよろしく頼む」

「かしこまりました。御尊父」

即座にヘルムス様に一礼した。

「え、えーと反対とかは? 父さん」

「七年前に出て行った娘の今にどう反対しろと言うんだ、お前は。立派にやっているのも服と態度を見ていれば分かる以上、反対する理由なんぞあるわけがないだろ。ああ、やっかまれると面倒だから、金も品も置いていくんじゃないぞ。元気にやってくれていれば、それで構わん」

「あ、はい」

うーん、実にワタシの父親である。

まるで変わりがない。

「それでは御尊父、御母堂。我々はこれで」

「と、そうですね。今日はまだ行かないといけない場所があるので」

「そうか」

「分かったよ。じゃ、元気でね。宮廷魔術師様」

こうして、ワタシが心配するような事は何も起こる事もなく。

ワタシとヘルムス様はワタシの家を後にしたのだった。

これでワタシの挨拶回り第二弾は終了。

残すは第三弾……トレガレー公爵家の王都屋敷である。