軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

196:王都への帰路

「公爵様、コルエ様。そしてトレガレー公爵家の皆様。この度は誠にありがとうございました。おかげさまで、不自由なく、楽しい一時をトレガレー公爵領で過ごす事が出来ました」

「ミーメ様。貴方のお陰で私も楽しく過ごす事が出来ました。それだけでなく、思いがけぬ脅威からトレガレー公爵領を救っていただき……本当にありがとうございます」

「また来てもよろしいでしょうか?」

「勿論。何時でも来て頂戴」

舞踏会の翌日。

ワタシとヘルムス様が王都へ戻る日がやって来た。

と言うわけで、朝早くに公爵家の屋敷前に、ワタシたち王都へ向かう人たちと、コルエ様たち見送る側の人たちが集まって、別れの挨拶を交わしていた。

「父上。お世話になりました。何事も無ければ、今度は冬にお会いいたしましょう」

「そうだな。そうなる事を儂も願っている。ヘルムス、分かっているとは思うが、くれぐれも気を付けるように」

「はい。気を付けさせていただきます」

ヘルムス様と公爵様も別れの挨拶を交わしている。

「それではミーメ嬢」

「はい。ヘルムス様」

そして、挨拶が終わったところで、ヘルムス様がワタシに向かって手を出してきたので、ワタシはその手を取って、公爵家が所有する豪華な装いの馬車へと乗り込み。

馬車は王都に向けてゆっくりと走り出した。

「ミーメ嬢、トレガレー公爵領は如何でしたか?」

「とても素敵なところでした。明るくて、賑やかで、食事も美味しく、見た事が無い物も沢山あって、本当に楽しかったです」

「それは良かった。そう思っていただけたなら、私としてもミーメ嬢を誘った甲斐があったと言うものです」

馬車の外の光景がゆっくりと変わっていく。

入り江の中の旧街、旧街と新街を隔てる切り通し、新街、そして街の外へと。

「しかし、少々大変な事もありましたね」

そんな中で、ヘルムス様の視線が、わざわざこの馬車の中へと持ち込まれた大きな箱へと向けられる。

「そうですね。大変か否かで言えば、大変な事だったと思います」

王都への帰り道。

ワタシたちが乗る馬車以外にも、沢山の馬車が同道する事が決まっている。

それはワタシたちの荷物を運ぶためであったり、王都に居る人たちへのお土産を運ぶためであったり、ストリンさんのような同行者を運ぶためだったりする。

そしてお土産だが……。

基本的には、トレガレー公爵領名物である海魚の干物、数種類の舶来品、様々なお酒と言ったところ。

だがそれだけでなく、ワタシが市場で見つけて購入した魔物の素材、ヘルムス様と共に釣って得た魔物の素材も含まれている。

特にギガントスイムクラブのハサミと甲殻、冷凍された少量の肉は、第二属性持ちの魔物の素材と言う事もあり、ドラゴンの素材並みの貴重品と認識され、専任の騎士まで付けられているくらいである。

「ですが。苦労に見合うだけの希少な素材は手に入ったと思います」

「そうですね。それについては私も同意見です」

そんな中で、ワタシたちの快適さを犠牲にしてでも、この馬車の中へと持ち込まれた箱には、当然ながら相応の物が入っている。

そう、ギガントスイムクラブの素材で最も貴重な物……ワタシが下処理を施して腐らないようにした二つの瞳である。

この素材は万が一すらあってはならないと言う事で、ワタシが無理を言って、この馬車へと積んでもらったのだ。

この判断については、ヘルムス様も賛同。

だから、今ここに箱は置かれているのだった。

「ふふふ。さて、この素材でどんな魔道具を作りましょうか」

「属性については『水』属性と『金属』属性に近い何かを持っている瞳。魔力量についてはドラゴン並。でしたか。多くの魔道具職人にとっては、喉から手が出るほどに欲しい素材でしょうね」

「そうですね。そうだと思います。でもまずはワタシが使い道を考えます。ワタシが得た物ですから」

「ええ勿論です。ミーメ嬢が得た物なのですから、そうするのが当然です」

まだ詳しい調査も出来ていないので、今のところは、この瞳をどんな魔道具にするかと言う構想は立っていない。

しかし、これほど貴重で強力な素材を無駄にする選択肢などワタシには無かった。

だからこそ、トレガレー公爵や宮廷魔術師長たちにはハサミと甲殻で満足してもらい、ワタシは瞳を手に入れる事を選んだのだから。

「ところで素材で思い出しましたが、ストリンさんは大丈夫でしょうか? 王都までの道のりは結構な長旅になりますよね?」

話は変わってストリンさんについて。

ワタシたちの乗る馬車は、当然のことながら厳重な警備で守られている。

ストリンさんとペスティア様が乗る馬車も、公爵家が所有する馬車の一つであるので、同様とまではいかないが、守られている。

それは公爵家の騎士、魔術師、兵士が同行しているという意味でもあるが、多数の闇人間が警戒しているという意味でもある。

野盗、山賊の類など居ない世界なので、相手は魔物限定だが、これだけの数になれば、昼の街道を行く分には魔物に襲われる事は殆どなく、襲われても対処は容易となる状態だ。

なので、魔物については心配していないのだが……。

「そこについてはメクセル村から領都に向かう旅もあったはずなので、大丈夫だと信じましょう。同行するペスティア殿が旅慣れた方なので、対処法もご存じのはずです」

「そうですか、そうですよね」

別の問題。つまりは酔いや疲れの不安はあった。

まあ、ワタシの位置から助けられる話ではないので、ペスティア様を信じるしかないか。

「不安ですか?」

「そうですね。王都に着いた後の事を考えると、少々不安ではあります」

ストリンさんは王都に着いた後、準備が整ったら王家へ品を献上する事になっている。

それは魔物素材を糸化した物を利用して作られた品であり、ワタシが聞いた範囲だと……シロートガイの貝殻だけで織ったハンカチや、ギガントスイムクラブの甲殻の糸で刺繍を施したマントなどだそうで、言うまでもなく非常に貴重な品である。

「……」

ストリンさんは……考え方を伝え、手本のような物を見せた以上、ワタシの弟子と言っても過言ではない相手であり、しかもワタシより年下の子供である。

そんな子供の将来をワタシの何気ない言葉一つで歪めてしまった自覚がある以上、何事もなく終わって欲しいとワタシが願うのは当然の事ではあった。

「大丈夫です、ミーメ嬢。王都ならば、私たちの手の届く範囲です。ですから、何かあれば私たちが助ければいい。そうは思いませんか? 不安に思う必要などありません」

「はい」

だが、ヘルムス様が大丈夫だと言ってくれるのなら……。

ワタシの事を守ってくれる彼がそう言ってくれるのなら……。

うん、何とかはなるはずだろう。

「ところでヘルムス様。ペスティア様が今朝、馬車に乗り込む時、とてもいい笑顔で笑っているのを見かけたのですが、そちらについてはどう思いますか?」

「あー……そちらについては……どうなのでしょうね? 私にも分かりません」

ちなみにペスティア様は王都に着いたら、ワタシたちにストリンさんを任せて、自由行動をする予定らしい。

五年ぶりの王都だとかで、宮廷魔術師として色々と報告しないといけないだとか、ちょっと話をしないといけない相手が居るだとか……そんな感じの話をしていた。

まあ、ペスティア様がディム様の以前仰っていた、追放された事にした宮廷魔術師なのだから、きっと色々とあるのだろう。

「まあきっと大丈夫です」

「そうですね。大丈夫でしょう」

うん、ワタシたちに迷惑が掛からない形で話が進むなら、気にする必要は無いだろう。