軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

189:舞踏会の歓談

「ストリンさん。どうでしたか?」

「とても素敵な方でした。ウチみたいな田舎者にも丁寧に接してくれて……メクセル村の事も知っていて……それでいて馬鹿にしたりもせず、失敗しても助けてくれて……本当に、本当に素敵な方でした……」

「それは良かったですね。ではもう少し具体的な事をわたくしに教えていただけますか? 何か教えられる事もあるかもしれません」

「あ、はい。そうですね……」

舞踏会の中心から少し離れた場所へと移動してから、ワタシは話を始めたのだが……。

ストリンさんの表情が見事に恋する乙女のそれである。

まあ、この件については、ワタシは静かに見守るだけだ。

ヘルムス様にも教えられたが、貴族同士の結婚は個人の意思だけでなく家の意思も関わるし、現状ではロッド君の意思も分からないのだから。

だからだろう。キャシーさんも興味津々と言った様子でストリンさんから話を聞いているが、それに対する助言は無難な物に留まっている。

「……」

ワタシは一度周囲に目をやる。

とりあえず、ストリンさんとキャシーさんで話をしているのが見えているからか、暫くの間は周りから人が近づいてくる事はなさそうだ。

なので、ワタシは二人の話を聞きつつも、少しだけ魔術で聴力を強化して、聞き耳を立ててみる。

すると、舞踏会で多くの貴族が集まっているからこそ、様々な話が聞こえてくる。

「アレがヘルムス様の婚約者、ミーメ様なのね。可愛らしい見た目なのに、凛ともしていて不思議なお方ね」

「元平民だと聞いていたから、少し不安に思っていたのだけれど……アレなら誰も文句など言えないと思いますわ」

「まだ16歳なのよね。貴族学校に通っていてもおかしくない年頃なのにドラゴンを狩って、宮廷魔術師だなんて……。末恐ろしく感じてしまうのは大丈夫かしら?」

「お優しい方とも聞いているから、失礼な振る舞いをしなければ大丈夫じゃないかしら。出来る事ならお近づきになりたいのだけれど……」

これはワタシに関して話しているご婦人方あるいは令嬢方の声か。

流石に公爵家主催の舞踏会と言う場で、公爵家の三男でもあるヘルムス様の婚約者に対して、あからさまに誹るような声はない。

ワタシの見た目や年齢に対して不安を覚えるのは……むしろ自然な事なので、気にするものではない。

「ミーメ嬢のあの外見。つまり、あの方がヘルムス様の恩人、第二属性に至る道筋を示された御方か。長年の思いを叶えられた。と言う所だろうか?」

「そうなるのだろう。私は今日初めてお見かけしたが、まさかヘルムス様の仰った通りとしか言いようがない程の方とは思わなんだ」

「お二人の婚約。もしかしなくてもヘルムス殿の方が努力せねばならない婚約なのかもしれませんな。なにせ、ミーメ殿はギガントスイムクラブもお一人で狩ってしまわれるほどの方なのですから」

「ところで第二属性についてですが、噂では王城が第二属性持ちを増やすべく、特別な知識を授ける相手を探しているとの事ですが……」

あちらではヘルムス様について、男性貴族たちが話をしているようだ。

ただ途中から、王城の第二属性持ちを増やす政策についての話に移行してしまったようだ。

どうやら彼らはどうにかして自分の身内に『八顕現』を教えて欲しいらしく、王城だけでなくワタシにも近づく事を考えているようだが……。

ワタシから教える事はないので、取り入るなら公爵家に取り入ってください。

トレガレー公爵家なら枠はあると思いますので。

「ミーメさんは……耳がよろしいのですね」

「そうですね。魔術を使っていますが、普通の人よりも鋭い自覚はあります。森の中だと音が聞こえるかどうかで生死を分ける事もありますし」

「なるほど。便利そうですね。わたくしの魔術の腕ではそう言う事は出来ませんので」

「そこは発想次第です。魔術とは道具ですので、使い方次第です」

「なるほど。ミーメさんがヘルムス様の師である事がよく分かる言葉ですね」

キャシーさんがワタシの様子から、魔術で周囲を探っている事に気づいたらしい。

ただ、ワタシの言葉にキャシーさんが笑みを浮かべる理由はよく分からないが。

「魔術……。ウチでも出来ますか?」

「ストリンさんも出来るとは思いますが、今は駄目です。此処には色々な話が流れていますので、無暗に聞くと災難を呼びます」

「はぁい……」

ちなみにワタシの聞き耳は、各所にある闇や影に闇人間の耳だけを潜伏させることによって聞いていて、『闇』と『人間』と『魔力』の三属性魔術なのも有り、高精度・高感度な聞き耳となっている。

だが、精度を気にしないなら、音によって震える闇の動きを正しく感知する事によって、闇属性なら誰でも出来る聞き耳でもある。

なので、ストリンさんにも出来るのだが……。

「田舎者であるメクセル男爵の三女風情がどうして公爵家の屋敷に寝泊まりを……」

「あのドレス。『闇軍の魔女』様にそっくり。一体どこから盗んできたのかしら」

「ヘルムス様にも気に掛けられているようで気に食わないわ……」

「見て。あの立ち振る舞い。礼儀がなっていないなんてものじゃないわ」

うん、これらの声をストリンさんに聞かせたいとは思えない。

なお、ワタシはドレスの内側にペンとメモ帳と手だけの闇人間を仕込んでおり、聞き耳で聞こえた話は、ワタシが知覚したかに関わらず、一通り書き記している。

要するに、この舞踏会で行われた全ての会話は、ワタシの知るところである。と言う事である。

今日は第三の目の隠蔽もしていないし、全力を出さないといけない状況も想定されていないので、実に簡単である。

「ストリン・フォン・メクセルの後ろ盾は『闇軍の魔女』様と言う事かしら? 一緒に居て、同じ生地のドレスと言う事はそう言う事よね?」

「そうなるのでしょうね。見た目だけなら姉妹にも思えなくもないし」

「それにしても、あのドレスの刺繍に使われている糸はいったいどこから手に入れた糸なのかしら? 見た事がない輝きを放っているわ」

「今気が付いたのだけれど。公爵夫人様のドレスにも同じ糸が使われているようなの。だから、もしかしたら……」

おっと。目敏い人間はちゃんとストリンさんの糸にも気づいているようだ。

では、気が付いた人の見た目まできちんとメモをしておこう。

最終的にどちらになるかは分からないが、ストリンさんの味方候補だ。

「もぐもぐ。やっぱり美味しいですね。ギガントスイムクラブ」

「そうですね。こんなに美味しい蟹をわたくしは初めて食べました」

「ワタシは二度目ですが、カラフルペッパーを主体とした調味料を付けても美味しいですね」

さて、聞き耳をしつつも、目の前の事を楽しむのも忘れてはいけない。

と言うわけで、ストリンさん、キャシーさんの二人と共に、ワタシはギガントスイムクラブの料理を賞味。

うん、前回のバター焼きも良かったが、今回のも良い。

噛み締める度に、五色のカラフルペッパーを主体に作られた調味料の風味と蟹の風味が良い感じに混ざり合って、刺激的でありながらもとても味わい深い。

もしも殻付きの蟹の脚がこの場に置かれていたら、貴族としての外聞も気にすることなくほじくり返していた人間が沢山居ただろうと予想出来るくらいには美味しい。

「こんなに大きな蟹が領都に現れていたとは……なんと恐ろしい」

「ああまったくだ。私が所有する船が襲われなくてよかったよ」

「第二属性持ちだった上に、ドラゴン並の魔力量。そしてこの巨体。本来ならどれだけの被害が出ていた事やら」

「ところであの船から何か見つかったのか? 噂では人の死体を原料とするような違法な魔法薬を運んでいたから狙われたそうだが……」

おや、ギガントスイムクラブの事を恐れている会話かと思ったら、襲われている船についての会話だ。

ワタシは少し気になったので、聞き耳の精度を上げようとした。

「失礼。少々よろしいだろうか?」

「どちら様でしょうか?」

だが、その前にワタシたちに声をかけてきた人物が居たので、キャシーさんが対応している間に、聞き耳の意識を再調整。

ワタシも声をかけてきた人物の方を向く。

「はい、どうか我々と一曲踊っていただけないかと思いまして」

相手は三人。

いずれも十代後半の恐らくは貴族学校の学生。

ただどうしてか、その笑みからは軽薄な物しか感じられなかった。