軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

169:顔合わせ完了

「ミーメ嬢! 何故ですか!? 私の時はあれほど……それこそ師匠と呼ばれる事すら嫌がっていたではありませんか!? それなのに、今回はそんなあっさりとだなんて……。いえ、分かってはいます。ミーメ嬢の事ですから、ご自身が素材の糸化についての発想を漏らしたことでストリン嬢に迷惑をかけたとお思いなのでしょう。ですが、その件については……むぐっ!?」

ヘルムス様の声が唐突に途切れる。

見れば、ヘルムス様の口元に長めの葉っぱが貼り付いて、口が動かせないようにされていた。

「『リーフパッチ』。ヘルムス、今は大切なお話し中です。少し静かにするように」

「もごもぐ……」

どうやらコルエ様の魔術によって、喋れないようにされたようだ。

そしてコルエ様は話の続きをするように、ワタシとペスティア様に視線だけで促してくる。

「えーと、話を戻しますが。ペスティア様。ストリンさんの事を助ける事についてはワタシも構わないのですが、具体的には?」

「そうだねぇ……。一つは素材の糸化についての助言かね。普通の『闇』属性魔術ならアタシが教えてやれるが、素材の糸化については下手な助言をして出来なくなったらマズイって事で、アタシでは手助けが出来ないんだ。だから、頼まれたらでいいから、助けてやってくれ」

「分かりました」

素材の糸化についての助言となると、八顕現についても話すことになるかもしれない。

現状で八顕現を勝手に広めるのは良くないはずだし、後でヘルムス様に教えても大丈夫かと言う相談をしてみた方が良いだろう。

「後は……。そうだね……ストリンとの仲の良い姿の一つでも見せてやるとか、ストリンが作った糸化素材を利用した物を身に着けておくとか、その程度で十分さ。それだけでストリンには『闇軍の魔女』の後ろ盾があるのだと、多少面倒なくらいの連中までなら、理解して手を出さなくなる」

「なるほど。それくらいなら大丈夫だと思います」

「期待しているよ。この方面に限ってはアタシの名前はそこまで有用じゃないからねぇ」

もう一つの頼みごとについても、そこまで気にしなくても大丈夫だろう。

ストリンさんは未だに指導を受けているが、その様子……真剣かつ丁寧に、一つ一つ地道にこなしている姿から察するに性格が悪い子ではないようだし。

「ペスティア殿。有用では無いのは、貴方の名前が宮廷魔術師として知られていないからですか?」

「その通りだ。アタシは昔、第二属性に目覚めた頃に、アホな貴族共のやっかみにウンザリさせられてね。表向きは王城から去った事にしちまったんだ。そんな奴の名前を使っても、大した抑止力にはならない。だから、アンタたちに頼むのさ。アタシにも仕事はあるしね」

あ、コルエ様の説教が終わったらしいヘルムス様が戻って来た。

「仕事と言うと?」

「そうだねぇ……。辺境伯領などを巡って、問題を種や芽の内に潰す事はしているね。疫病とかだと、広まる前に食い止められるかどうかで、話が大きく変わってくるから、大切な仕事だよ」

聞くところによれば、ペスティア様はイストフィフス侯爵領のように、立ち入るだけでも危険な領地でなければ、王国のだいたいの場所に行った事があるらしい。

うん、疫病の食い止めも本当に仕事としてしているのだろうけど、内偵のような事も軽くやっている気がする。

話を聞いているだけのワタシとコルエ様は勿論の事、ヘルムス様も何も言わないが。

「後はそこのクソガキやストリンのように、トリニア教の教えを受けていない魔術師を見つけては、最低限……魔術師としての心構えと魔術の危険性を教える事かねぇ。まあ、こっちは大抵、トリニア教の教会に報告してお終いなんだが……」

ペスティア様の視線がワタシに向けられる。

ワタシは思わず視線を逸らす。

この件に限っては、ワタシにとっては気まずいとか、黒歴史とか、そんな言葉しか思い浮かばないので。

「当時のミーメ嬢がどのような人物だったか、詳しくお伺いしても?」

「話しても面白そうだが、お断りだね。本人は隠したいようだし、ストリンの件で協力してもらおうって言うんだ。機嫌を損ねるような真似はしないよ」

「そうですか……」

「くくくっ。ま、アレだね。『自分が魅力的だと思うのなら、女の過去は他者に語らせるのではなく、自分自身に語らせてみせよ』っ奴さ。頑張りな、色男」

「ペスティア様!?」

そんな格言は初めて聞いたんですけど!?

いったい何処のお話で!?

そして、ヘルムス様は『なるほど』と言った様子で頷かないで欲しいのですが!?

いやまあ、周囲にアレコレ勝手に語られるよりははるかにマシではあるけども!

「ちなみにこの格言。男の場合だと、『男の過去は他人に語らせてナンボ。求められてもいないのに自分から語り出すなど女々しい事この上ない』になるのさ。面白いねぇ」

「ふむふむ……」

ワタシは納得して頷いているヘルムス様から、コルエ様の方へと視線を向ける。

コルエ様は……うん、実に落ち着いていて、読み取れない。

他の人たちも同様。

うーん、本当に何処の格言なんだろうか……。凄く直接的だから、貴族ではなく平民の間の話っぽい雰囲気もあるが。

「ま、年寄りの戯言さ。覚えなくたって構いやしないよ」

「はぁ……そうですか」

「なるほど」

「お待たせいたしましたー」

ストリンさんへの指導が終わったのか、机へと帰って来る。

「ストリン。今後はそっちの二人もアンタに協力してくれるそうだから、仲良くするんだよ」

「っ!? は、はい! お二人とも、よろしくお願いします!」

「はい、よろしくお願いします。ストリンさん」

「こちらこそよろしくお願いします。ストリン嬢」

ストリンさんは先ほどよりもゆっくりとした動作で、丁寧に礼をする。

早速指導が生きているようだ。

「あの、『闇軍の魔女』様。協力をしてくださると言うのなら、お聞きしたい事が沢山あるのですが、よろしいでしょうか?」

「ワタシは構いません」

ワタシは返事をしつつ、コルエ様に視線を向ける。

この場の支配者は公爵夫人であるコルエ様なので、そちらの顔を立てるためだ。

そんなワタシの視線に気づいたコルエ様は静かに頷き、話を促してくれる。

素材の糸化については、コルエ様も気になる話なので、むしろこの場でした方がいいようだ。

「ではその、お尋ねしますが。『闇軍の魔女』様の御歳は一体幾つなのでしょうか? ウチより小さいけれど、凄く落ち着いていらっしゃるし、少し聞こえた限りでは十年前に師匠の弟子だと言う話もありましたし……」

「あー……ワタシは十六歳です。背の方は十歳ほどで止まってしまいましたが」

「十六……年上……いや、うん。何もおかしくはないけれど、なんで……」

最初の質問がそれでいいのだろうか? と言うツッコミはしないでおく。

後、ストリンさんに悪意の類は一切ない。

単純に、ワタシの年齢が外見からは一切読み取れなかったので、尋ねずにはいられなかったのだろう。

それで実際に尋ねてしまうのはどうかと思う所ではあるけれど。

「……。ま、今日の所はこの辺りにしておこう。ヘルムスだったね。アンタたちは公爵領にどれぐらい居るんだい?」

「二週間を予定しています。主に休養と観光で過ごすつもりです」

「分かった。なら、それを基準にこっちも予定を立てておくとしよう。ストリン、頑張りなよ。全てはアンタの頑張り次第だ」

「は、はい!」

とりあえず、今日の所は顔見せだけにしておいて、素材の糸化についての助言はまた別の機会と言う事になるようだ。

うん、それならそれで構わない。

ワタシは頼まれたら力を貸すだけだ。

こうして、この日は無事に終わる事になるのだった。