軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

151:トリニティアイの戦場

「行け! ジャガーノート!」

「参りまス」

ジャガーノートがスケクロに向かって駆けていく。

スケクロは少しだけ前傾姿勢になり、迎撃の構えを見せる。

ワタシは移動用闇人間に命じて、戦いの場から距離を取る。

そうしてジャガーノートとスケクロの間で始まったのは……巻き込まれれば、一瞬にして命を落とすと確信できる死の舞踏だった。

「っう!?」

ジャガーノートは左手のショットガンによって牽制と目くらましを仕掛けつつ接近し、右手の鎌にも似た斧をスケクロの身体へ叩きつける。

だけでなく、蹴りやタックル、フェイントも織り交ぜて、スケクロへの攻撃を果敢に仕掛け続ける。

対するスケクロは両腕を振り回し、体を回転させ、周囲にあるもの全てを切り裂いていく。

草も土も岩も関係なく全てが切り刻まれ、地面には無数の傷痕が刻まれるが、あまりにも切れ味が鋭いためか土埃は殆ど舞い上がらない。

そして、ジャガーノートの攻撃はスケクロにまるで通用しなかった。

真正面から叩き込んだ攻撃はスケクロが張った障壁によって防がれて衝撃すら伝わらず。

不意を打てても、自動的に張られた障壁によってダメージにはならず、少し吹き飛ばすだけ。

同時に、スケクロの攻撃をジャガーノートは避け続けた。

防御が通じない攻撃である事は分かっていたから、ジャガーノートは徹底的に武器同士がかち合うのを避け、縦横無尽に跳ね回り、まるで踊るように躱し続けた。

もはやワタシの指示を待つ暇など無いため、ジャガーノート自身の判断で回避している。

音は空気を裂くものばかりで、光は飛び散らない。

一見すれば地味にも見える光景。

けれど、戦いの場はまるでワタシが引くのに合わせるように……いや、事実それに合わせているのだろう。確実に広くなっていて、スケクロの爪は十数メートルに伸び、ジャガーノートの影は目で追うのが難しくなってきている。

此処に足を踏み込めば、トリニティアイでない魔術師は一瞬にして命を落とす事だろう。

「このままじゃ拙いか」

それでも一見すれば、お互いに攻め手を欠き、互角の状況ではある。

だが、ジャガーノートは一撃受ければ終わりで、スケクロは自動防御があるから何発受けても構わないとなれば、こちらが圧倒的に不利である事は間違いなかった。

おまけに、スケクロは少しずつだが、ジャガーノートの動きに慣れてきているように見えた。

このままでは、遠からずジャガーノートは狩られるだろう。

だから、ワタシも動かなければいけない。

「行け、闇人間」

ワタシはジャガーノートの維持と回避や防御に必要な量の魔力を残して、魔術を行使し始める。

闇人間をスケクロに向かって飛び掛からせる。足元から出現させた闇の手でスケクロの足を掴む。私の手元に生成したショットガンを撃ち込む。闇をスケクロの視界を封じるように出現させる。姿だけジャガーノートそっくりにした闇人間を生成して分身のようにする。

その他、思いつく限りの魔術をスケクロに向かって行使して、スケクロの動きを遅延させ、隙を作り、ジャガーノートをサポートする。

そんな嫌がらせを受けてか、スケクロは時折爪を伸ばしてワタシに攻撃を仕掛けてくる。

だが、その攻撃は移動用闇人間が走る事で避けると共に、ジャガーノートが反撃のチャンスにしてくれる。

「……。舐められてる、か」

より正確に言えば、スケクロはワタシ自身に対しては、ワタシが避けられるように攻撃を仕掛けているように思えた。

つまり、手加減をされていた。

まあ、されても仕方がなくはあるのだろう。

スケクロは主の居ないゴーレムであるのに、ワタシたちより明らかに強いのだから。

と言うか、単純に属性の相性が悪い。

スケクロの第三属性はバリアのような壁だが、仄かに光っているようにも見える壁は『闇』を跳ね除けるし、単純に硬いから『人間』では手が出ないし、『万能鍵』は扉を開ける属性であって壁を壊す属性ではないので、とにかく通りが悪いのだ。

ただ、そう言った事情があり、理解できても、納得がいくかはまた別で。

「ムカツク」

ワタシは怒りのままにショットガンを大量に生み出すと、次から次へ撃ち出していく。

親指大の弾丸をただ放つのではなく、闇の侵食を込め、胃酸の溶解を込め、隙を扉と見立ててこじ開けるように弾丸を撃ち込んでいく。

恐怖を魔力に還元して、笑みを浮かべて、連射していく。

「ほウ。素晴らしい」

だがスケクロはそんなワタシの苛立ちを難なく受け止めていく。

ジャガーノートもワタシに合わせて攻撃を仕掛けてくれているのだが、そちらも含めて壁で防いでいく。

実力の差を思い知らされる。

「みーめ・あんかーず」

「っ!?」

スケクロがワタシの名前を呼ぶ。

ただそれだけであったのに、恐怖を魔力に還元している状態なのに、ワタシは自分の背筋が凍りつくような恐怖を覚えた。

「そろそろ当機の魔力は基準を下回りマス。ですので、この一撃を放てば、この交戦は終わりとなるでショウ。凌いでくだサイ」

「地面へ!」

気が付けばスケクロの右腕……あらゆる攻撃を防ぐ盾でありつつ、あらゆる物を切り裂く矛でもあるそれに、無数のひび割れが生じていた。

そして、スケクロは右腕を引き、勢いよく振るための体勢に入っていた。

ワタシはスケクロが何をしてくるかを察した。

だから、移動用闇人間を制御し、地面を掴ませることで、ただ伏せるよりも早くワタシの体を地面に近づけていく。

だが、地面に伏せた程度で防げるような攻撃でない事は明らかだった。

なのでワタシは一つの魔術を行使する。

「緊急式『 わたしだけのみち(ダイダロス) 』!」

ワタシの身体が、地面に生じているワタシの影の中へ、闇の世界へと沈み込んでいく。

そうして沈み込む中で見る。

「行きまス。『ばりあばーすと』」

スケクロが右腕を振る。

ジャガーノートはショットガンと斧の同時攻撃でスケクロの腕の動きを止めようとしたが、止める事は叶わず、穴だらけにされて吹き飛ばされていく。

そして、ジャガーノートを吹き飛ばしたそれ……細かい破片となって飛翔する無数の障壁が扇状に広がりつつ、進路上にあるもの全てを蹂躙していく。

「っう……くうぅ……」

幸いにして闇の中にまで攻撃が届く事は無かった。

スケクロの攻撃によって命を落とすことは避けられた。

だが、十分な備えなく闇の中に入ったせいだろう。

ワタシの体に闇が入り込もうとしてくる。

身に着けている物、常駐の防御魔術、ワタシ自身、その全てが闇に溶け出そうとする。

ワタシは『闇』と『人間』を駆使してそれに耐えるが、それは深い深い海の底で息を止めて耐えているようなもので、長く続けられる事ではなかった。

それでも何秒か耐え続けて……。

「はぁはぁはぁ……うっっ」

ワタシは体を地上へと引き上げる。

顔を上げられない。体が震えて仕方がない。冷や汗がダラダラと流れて、胃の内容物全てをこの場でぶちまけたくなってしまいそうなほどの恐怖を感じる。

ワタシの体を守るための魔術一切が剥がれ落ち、構築し直すのもままならない。

「お見事デス」

「っ!?」

そんな中でスケクロの声が響き、ワタシはどうにか顔を上げる。

スケクロは……自分の意思で破壊したはずの右腕を既に復活させ、ワタシに向かって拍手をしていた。

「当機の魔力は撤退推奨域に達しましタ。故に、当機は事前規定に従い、これより帰投を始めマス。ついてきまスカ?」

「冗談はよしてください。死んでも御免です」

「そうですか。なお、当機の魔力補充は12時間ほどで完了いたしマス。起動条件はお伝えした通りデ、他にございまセン。みーめ・あんかーず、貴方が今後もご健闘される事をお祈りしていイます」

「そう……ですか……」

スケクロは優雅な動作で以って一礼をすると、その場で跳躍。

一足飛びで領都を守る城壁の上にまで跳び、次の一歩で領都の中へと消えていった。

「本当に……これでもかと言うくらいに……手加減されていたわけですか」

ワタシはどうにかして常駐防御魔術、対人隠密魔術、移動用闇人間を展開すると、ヘルムス様たちが待つ陣地へと帰った。

スケクロの存在はイストフィフス侯爵側にとっても想定外の存在だったのか、ワタシが追撃のような物を仕掛けられる事は無かった。

ワタシの胸中には、この上ない程の敗北感が残った。