軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

150:スケアクロウ

「……」

移動用闇人間に乗ったワタシは、領都の城壁の崩れた部分に何処からともなく現れたカカシに近づいていく。

そうして距離が詰まり、肉眼でも見えるようになってくると、細かい部分まで分かるようになってきた。

カカシは本体部分については、特別豪華に着飾ったようなものではなく、布や木、土を組み合わせて作られた普通の物に見えた。どことなく男装の麗人を思わせる容姿なのは、作り手の趣味だろうか?

手足を模している棒からは、あの障壁としか言いようのない魔力で出来た手足が生えていて、それで二足歩行をしたり、物を掴んだり出来るようだ。

大きさは……本体だけなら2メートル。透明な手足込みなら3メートルと言う所か。

そんなカカシは侯爵の手勢の兵士に槍を向けられていても、全く気にした様子を見せていない。

布とボタンで作られた顔は、隠密状態で城壁に向かっているワタシを正確に捉えている。

ワタシの隠密は対人間に合わせてあるので、人間ではないカカシには通じていないようだ。

「ソコで、止まりなサイ」

「「「!?」」」

城壁までの距離が300メートルを切ったあたりで、城壁から飛び降りてきたカカシが大きな声を上げた。

明らかにワタシに向かって発せられていたため、ワタシはそこで移動を止めて、カカシと視線を合わせる。

「貴方はこの都市に攻め込んでいる側の勢力に所属スルとりにてぃあいデスネ。隠蔽を解除した後。名前、所属組織の名称、城壁を破壊した意図、攻め込んでいる理由について話しなサイ」

カカシはゆっくりとワタシの方へと近づいてくる。

その足取りはしっかりとしたもので、言葉は若干の訛りは在れど聞き取れないほどではない。

そして何より、その言葉と動きには明確な知性を感じた。

だから、ワタシはこのカカシが交渉可能な存在だと判断。

指示通りに自分に掛けている隠蔽を解除すると、一先ずは話をする事を決めた。

「ワタシの名前は『闇軍の魔女』ミーメ・アンカーズ。グロリアブレイド王国所属の宮廷魔術師です。城壁を破壊した意図については、使者を装って攻撃を仕掛けられたため、それに対する反撃をしたところ、城壁に攻撃が命中した物になります。攻め込んでいる理由については、この地を治める侯爵が反乱を企てたためです」

「ぐろりあぶれいど王国……。現在は王国歴何年ですカ?」

「王国歴516年です」

ワタシの言葉にカカシは何か悩むような様子を見せる。

このカカシは……ゴーレムの一種ではあるのだろう。

ワタシの闇人間、ヘルムス様の水水夫、ノスタの魔物など、ゴーレム魔術は他の属性でも出来るものではある。しかし、ゴーレム魔術を最も得意としているのは、やはり『土』属性。

出来も安定性も持続性も段違いの物になり易い。

そして、レリックから読み取る限り、このカカシの作り手は『土』属性なのは確実なわけだが……。

そう言った要素を込みで考えても、このカカシの出来は凄まじい。

「侯爵の反乱に証拠はありますカ?」

「あります。グロリアブレイド王家を害そうとしたものも含めて。必要なら持ってきましょうか?」

「それは不要デス。そこまでの判断機能は搭載されていまセン」

カカシは明らかに自律思考をしている。

周囲の状況やワタシから情報を得ようとしている。

どちらに非があるのか、自分がどうするべきなのかを考えているようだった

うん、間違いなく、レリック……それもライアーが使っていた攻撃用レリックよりも、数段出来がよい代物。

恐らくだが、レリックの作り手の属性を可能な限りストレートに生かして作り上げた逸品。

出来る事なら、戦闘を避けたい相手だ。

「……。当機の名前はスケアクロウゴーレム・ナンバーエイトと申しまス。スケクロでも、エイトでも、お好きなようにお呼びくだサイ。そして、今から独り言を呟かせていただきマス」

「独り言?」

カカシ……スケクロが一礼をする。

うん、此処までで既に分かっていたけれど、スケクロはイストフィフス侯爵やライアーなどよりもはるかに交渉する価値がある相手のようだ。

そんなスケクロが独り言となると……聞く価値は大いにありそうだ。

「当機はこの都市を守る事を命じられていマス。起動条件は、主が城壁内に仕込まれた魔物除けのカカシが破壊される事デス。起動すれば、破壊された理由を探り、必要ならば都市に迫る脅威を排除しなければいけまセン」

「っ!?」

ワタシは移動用闇人間に何時でも逃げられるように構えさせると共に、杖を手に持って、何時でも魔術を使えるように備える。

そうして反射的に身構えてから、体がスケクロから放たれるプレッシャーに気づき、心に芽生えた恐怖を常駐魔術が魔力に変えて抑え込む。

「撤退条件は、当機の内包する魔力量が、当機が駐留する施設へ戻るまでに必要とされる魔力に特定係数を掛けた値を下回る事デス。あるいは最低限の脅威が排除されたのが確認される事デス」

「そう……ですか」

スケクロが少しだけ腰を落とし、前傾姿勢を取る。

その姿は大型の肉食獣が獲物へ襲い掛かる前触れ以外の何物でもなかった。

「当機は魔道具です。求められた役目を果たさなければなりまセン。当機は魔道具です。守る者を選びまセン。当機は魔道具です。思考は真似事に過ぎまセン。ですので、どうか全力でご対処くだサイ。人間の命は尊きものデスので」

「はい」

色々な意味で残念な事に、スケクロとの戦闘は避けられないようだ。

スケクロの言葉を信じるのなら、撤退ラインを割り切るまで魔力を削るか、ワタシが死ぬかで、スケクロは撤退する。

当然ながら、スケクロを壊してもいいのだろう。

「デハ、ご健闘をお祈りいたシマス」

だが、それは並外れて難しい事である事は間違いない。

だって相手はレリック……それも、素材の一つ一つに拘り、持てる技術の全てを注ぎ込んで、自分の属性に適した魔術を込める形で、昔のトリニティアイが作り上げた作品なのだから。

断言しよう。

スケクロは、ワタシが倒した二体のドラゴンよりも確実に強い。

「……。行きマス」

「っ!?」

スケクロが動き出す。

凄まじい勢いで地面を蹴って加速し、勢いそのままに刺突のような形で腕型の障壁を突き出してくる。

移動用闇人間はスケクロが動き出すと同時に動いていた。

斜め後ろに一度跳んだ後、足を伸ばして地面を蹴る事で、更に横へ跳ぶ。

そして、移動用闇人間の挙動が正しかったことを示すように、スケクロは突き出した腕を横へと動かして、斜め後ろに跳んだだけでは避け切れなかったであろう位置まで切り裂いてくる。

「素晴らしイ」

「そう……ですか!」

スケクロの攻撃を受ける事は考えてはいけない。

障壁の性質は捉え切れていないが、防御に優れると同時に攻撃への転用も可能な、バリアのような属性である事は確実。

その強度は、少なくとも、ワタシが使う防御用の魔術で防げるような代物ではない。

「闇人間たちよ!」

「この程度で良いのデスカ?」

ワタシはスケクロから距離を取りつつ、大量の闇人間を出現させて、四方八方から襲い掛からせる。

だが、スケクロは片足を地面に突き刺すと、その足を軸として高速回転し、更には爪を伸ばして、ワタシの闇人間を一瞬にしてバラバラにし、消滅させてくる。

正に鎧袖一触で、スケクロは疑問を覚えたようだが……これで良いに決まっている。

「闇よ。影を掴みて、主を掴め。鍵をかけて、縫い留めろ」

「っ!? 素晴らしイ」

ワタシの詠唱込みの魔術がスケクロの影に向かって伸び、掴み、その位置と形を『闇』の錠と『万能鍵』によって固定。

影は主に追従するが故に、主もまた影に従うと言う理屈で以って、スケクロの動きを止める。

この魔術をスケクロは褒め称えるが、出力差か属性相性か……既に『闇』の錠にはヒビが入っていて、もう何秒も保たないのは明らかだった。

だから、本命の魔術を急いで準備する。

「『闇軍の魔女』ミーメ・アンカーズの名において命じる。闇よ、魔よ、畏れよ、我が下へと集え」

「ですガ……」

錠が破られる。

スケクロが自由を取り戻す。

「来たれ来たれ我が 僕(しもべ) 。骨は人、肉は闇、血は魔で、纏うは鍵。飾るは影、死、恐怖、黒、災い、悪意、侵食に悪夢」

「この程度ならバ……」

詠唱しつつでも出来る範囲で闇人間を生み出し、向かわせる。

だが、スケクロは自分の身に障壁を纏ったまま前進し、自分を砲弾のようにして突撃。闇人間たちは触れる事すら出来ずに吹き飛び、千切れ、消滅していく。

「持つ武威は狩人、戦士、軽業師にして英雄。目指すは我が前に立ち塞がる艱難辛苦の粉砕にして突破、排除、制圧」

「貴方は此処で終わりデス。幼キとりにてぃあい。みーめ・あんかーず」

移動用闇人間は必死になって逃げる。

しかし、スケクロの方が速く、細かく切り返しても撒けない。

やがて目の前にまでスケクロが迫り……。

「我が敵を撃滅せよ。『 ひとのまのもの(ジャガーノート) 』」

「!?」

出現と同時にジャガーノートが放ったショットガンによって、スケクロは吹き飛ばされ、ワタシは窮地を脱する事に成功した。

「なるほど。そちらが本命ですカ。みーめ・あんかーず」

「ええそうです」

ワタシの隣にジャガーノートが立つ。

全身に鎧を身に着け、両手に異なる武器を持った特別製の闇人間。

普段の狩りや並みの相手なら、この上なく頼りになる、ワタシ自慢の魔術。

「ですので、早急に帰っていただければ助かります」

「まだ、撤退条件は満たしていませんノデ、お付き合いお願いいたしマス」

ただ、吹き飛ばされて立ち上がったスケクロに傷も汚れも無いのを見てしまうと……これでようやく五分五分かもしれない。

それくらいには厳しい戦いの気配がした。