軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

148:戦場に立てる者は限られる

陣地に戻ったワタシは物見櫓の上などに置いた闇人間からの情報を、陣地内にある天幕の一つで得ていた。

周囲にはワタシの闇人間と同じように遠隔操作が可能な魔術を持つドバート様の他、宮廷魔術師長様と数人の兵士が居る。

ワタシとドバート様が得た情報を宮廷魔術師長様に伝え、宮廷魔術師長様が対応を考え、考えたそれを必要な部署に兵士が向かって伝えると言う形だ。

「「「……」」」

ただ、現状は静かである。

と言うのも、イストフィフス侯爵の手勢は王城側の陣地の前に着く事は出来たものの、残り100メートルちょっとと言う距離を詰められないでいるからだ。

侯爵の手勢はゆっくりと近づこうとするが、こちらが魔術を放つ気配を見せると、そそくさと逃げ帰るを繰り返している。

だがこれは当然の結果とも言えた。

「ふむふむ。何処の陣地も問題なし。良い事だねぇ」

「そうですね」

侯爵の手勢の中には戦闘訓練を積んだ騎士と兵士だけでなく、武器を持たせられただけの平民も数多く居る。

侯爵の手勢は、卑劣にも平民を盾や囮にする事で陣地への接近を試みた。

しかし、こちらにはヘルムス様を始めとして宮廷魔術師が数多く居る事もあって、文字通りに火力の桁が違う。

無理やりに近づこうとした侯爵の手勢は降り注ぐ魔術の雨に打たれて、骸を晒すことになったのだった。

そして、そんな物を見てしまったら、真っ当な感性や損得勘定を持っている人間はもう近づけない。

侯爵が忠誠を誓うに値しないどころか、大いに嫌われている事も相まって、侯爵の手勢はまごまごとしている。

なお、このまま待っていれば破滅するのは侯爵側である。

この辺はこの世界特有の事情となるのだが。

時間が経てば背後の魔境から血の匂いを嗅ぎつけた魔物たちがやって来て、人間を見れば見境なく襲い掛かるのだ。

そうなれば、ワタシたちは陣地に居るので十分対処できるだろうが、領都まで逃げなければならない侯爵側の人間が対処できるかは怪しい。

これもまた、この世界で大規模な人同士の争いが滅多に起きない理由である。

「それで? 防御用レリックを使っている人間は現状見つけられないんだね」

「はい。ワタシが確認している限りでは誰も」

この状況を侯爵側が打開するとしたら……呪いの類か、レリックを用いるかだろう。

だが前者はワタシが観測している限りではまるで見受けられず。

なんなら、『ブラックハート』関連で居てもおかしくなさそうな闇属性魔術師そのものを見かけない。

後者については、ワタシたちも遭遇した攻撃用レリックについては別の陣地で一度使われたが、遠い所に居た騎士が持っていた物が倒されると同時に誤爆したものでこちらの被害は無し。

防御用レリックについては見かけず。恐らくだが、そこまで数がないので、侯爵の身内くらいにしか渡せていないのだろう。

「代わりに視線誘導のレリックが使われているけどな。ああもう、対処が面倒で仕方がない。こう言うのは俺の専門じゃないってのに」

そう言うドバート様がしているのは、実は偵察だけではない。

と言うのも、今の状況に陥ると同時に、領都の城壁上に準備されていた物に掛かっていた布が取り払われ、その下から畑に立っているカカシそのもののような見た目のレリックが現れたのだ。

そのレリックの効果は視線誘導……より正確に言えば、一度認識したら、遮蔽物などで隠されない限り、常に視界の何処かには入るように視線や首を誘導されてしまうと言うもの。

この効果は極めて強烈で、陣地に居るワタシたちも影響を受けるほどであり、防衛に支障をきたす可能性もあった。

「頑張りたまえ、ドバート君。次期宮廷魔術師長は君かもしれない」

「頑張ってくださいドバート様。貴方の働きは貴方にしか出来ない事で、間違いなく評価に値するものです」

「俺をこき使っている宮廷魔術師長は後で覚えているように! 『闇軍』の称賛は素直にありがとう!」

「そんなぁ……」

「気持ち悪かったので宮廷魔術師長の貸しは一つ追加で」

「……」

そこでドバート様の魔術が役に立った。

風のハトを視線誘導のカカシの前にまで移動させて、暴風を発生させる事で城壁の上から領都の方へと叩き落とし、その後も運ばせないようにし続ける事で無力化して見せている。

うん、誇張でも何でもなく、現状一番の功労者はドバート様だと思う。

後、宮廷魔術師長様は現状的に、怒られても仕方がない態度だったので、ワタシは助けません。

「ミーメ嬢。宮廷魔術師長。『風鳩の魔術師』殿。現状はどうですか?」

「ヘルムス様。今は宮廷魔術師長様がドバート様に怒られ……ちょっと待ってください。動きがありました」

なんにしても、今はまだ軽い気持ちで居られる状態……そう思っていたのだが、ここでワタシの闇人間が侯爵の手勢に動きがあったのを捉えた。

今出しているワタシの闇人間はワタシと五感を共有できるだけでなく、隠密能力もかなり高めてあるので、気づかれないように接近させて詳しい状況を探らせる。

「お前たち何をグズグズしている!」

「で、ですが……」

「一介の騎士如きが俺様に意見をするなぁ!」

「ーーーーー……!?」

「「「!?」」」

場所はワタシたちが居る陣地の前だった。

そこに現れた一人の男……事前に貰った人相書き通りなら、トレイタル・イストフィフスが、兵士たちを押し退けながら一番前までやって来て、そこでまごついていた人間の中の一人……きちんとした鎧兜を身に着けていた騎士を槍の一振りで真っ二つにしてしまった。

当然のように行われた凶行に周囲の人間はざわつくが、トレイタルに睨みつけられた事で竦み上がり、動きを止める。

今の一撃は……間違いなくレリックだ。

トレイタルが振るった槍の刃の根本には、カカシを模した人形のような物が付いているので、アレがそうだろう。

恐らくだが、極めて鋭利で強固な十字型の刃を武器に与えるレリック。

その切れ味については、放たれているのがトリニティアイの魔術である事を考えれば、普通の手段では防御不可能と捉えても問題は無いだろう。

「王城の腰抜け共に告げる! 俺様、トレイタル・イストフィフスが来てやったぞ! 潔く降参するのなら、宮廷魔術師共の首で勘弁してやるが、そうでなければ貴様らは皆殺しだ!」

「これはこれは……」

「だがこう言っても矮小な貴様らは理解できないのだろう? だから一つ見せてやろう! 俺様の力をなぁ!」

「やれやれだねぇ」

「決闘だ! 決闘を申し込む! さあ、誰が出て来ても構わんぞ! 一対一の決闘だ! 臆病者で無いと言うのなら出て来い!」

「どうすんだこれ」

トレイタルは防御用のレリックも持っているはずだ。

事前資料や王都での一件を考えれば、これはほぼ間違いないはず。

アレの強度は『剛拳の魔術師』様の全力も、宮廷魔術師長様の大爆発も難なく耐え切るほどなので、ワタシでも破るには苦戦する事だろう。

そうなると、トレイタルは攻守両方ともにレリックによって強化されている事になるし、他にもレリックを隠し持っている可能性もある。

「ワタシが出る……」

「うおっ!? なんだコイツ!?」

不意にドバート様が声を上げた。

「訳にはいかなさそうですね」

「……。ドバート君。何が起きたのかな?」

「動くカカシが現れて、そいつに襲われた。何だアイツ、無茶苦茶速かったし……なんか城壁の崩れた部分から、俺のハトを見ているんだが」

「「「……」」」

おまけに、トレイタルよりもはるかに厄介そうな奴が出て来てしまったらしい。

ワタシの闇人間でも遠目に捉えているが、確かに透明な魔力の手足が生えたカカシが城壁の上に居て、ワタシの闇人間やドバート様の風のハトを見ているし、まるで状況を把握するように、こちらの陣地や侯爵の手勢、自身に剣を向けて警戒する領都の兵士など、次々に視線の先を移していっている。

「ミーメ君。君には新たに現れたカカシの対処をお願いしたい。恐らくだが、君しか対応は出来ない」

「分かりました」

ワタシは席を立つと、陣地から外に出るために移動用闇人間や隠蔽の魔術の準備を始める。

「トレイタルの方は……」

「私が出ましょう。絶好の機会でもありますし、対策も講じてあります。この陣地に居る宮廷魔術師の中では、ミーメ嬢の次に可能性があるのは私でしょう」

「頼んだ、ヘルムス君」

ヘルムス様も素早く準備を整えて、天幕の外へと向かい始める。

「ミーメ嬢。どうかお気を付けて。そのカカシとやらが私が想像している通りの品物であれば、トレイタルなど話にもならない大物だと思いますので」

「分かっています。ヘルムス様もどうか気を付けてください。仮にトレイタル自身が貧弱であったとしても、使っているレリックの性能は間違いなく本物なので」

ワタシとヘルムス様はお互いに声を掛け合うと共に少しだけ抱きしめ合う。

震えはない。温かさはある。

うん、ワタシもヘルムス様も大丈夫だろう。

「では行ってきます」

「はい」

ワタシは誰にも気づかれる事なく、闇人間で陣地から飛び出した。