軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

147:レリックの脅威

「「「……」」」

「お、お揃いのようで……」

ワタシたちの前に現れたライアー・イストフィフス……イストフィフス侯爵の義弟は、簡単に述べてしまうのならば、くたびれたおっさんだった。

おどおどとしながら馬車から降りてくる動きを見た限り、騎士や魔術師のような戦う人間ではないだろう。

ただ、ワタシの暗黒支配を警戒するように体内の闇は魔道具で払っているようだし、他にも幾つかの魔道具を隠し持っているのが漏れ出る魔力の気配から分かる。

うん、闇払いの魔道具以外はレリックだと想定しておこう。

「こ、これだけですか?」

「君にそれを尋ねる権利があると思うのかね? ライアー君。挨拶も御託も不要だ。早々に要件を述べたまえ。でなければ、吾輩たちは君を使者のフリをした時間稼ぎとみなし、この場で拘束する」

「ヒッ……」

ライアーはワタシたちの人数を数えると、どこか残念そうと言うか、困った風と言うか、とにかく想定外と言った空気を出す。

うん、ドバート様じゃないが、『鉄弓の魔術師』様が先んじて撃ってしまっても良かったんじゃないかな? 出来ないのは分かっているけど。

「も、申し訳ありませ……」

ライアーが土下座をして、その手を地面に着く。

それと同時に、ワタシはライアーを中心として半径50メートルほどの地面に魔力が注ぎ込まれていくのを感じ取る。

ワタシはそれを攻撃の前兆と判断すると、周囲に居る王城側の人間の足元から闇人間を生み出し、抱えさせ、ライアーから一気に距離を取り始める。

「……んが、死んでください。私の為に」

「「「!?」」」

直後。

ライアーの近くの地面から順にそれが飛び出してくる。

途上にあるもの全てを……馬も、馬車も、侯爵の手の者も、岩も、まるで水を裂くかのように抵抗なく引き裂きながら、飛び出してくる。

そして、それはワタシが事前に感じ取っていた範囲全てを埋め尽くすまで飛び出し続けて、ようやく止まった。

「助かりました。ミーメ嬢」

「うん、助かったよミーメ君。君が居なければ死んでいた」

「間に合ってよかったです」

こちら側の被害は、少なくともワタシが感じ取れる範囲ではない。

ちゃんと全員を範囲外まで運び出せている。

その事実を感じ取ったところで、ワタシは改めてそれを見る。

「それでミーメ嬢。これはレリックですか?」

「はい。間違いなくレリック……トリニティアイが作った魔道具による物です。同じトリニティアイとして保証します」

それは簡単に述べてしまうのなら、土で作られたカカシたちだった。

大量のカカシが地面から突如現れて、その身に纏っていた魔力だけで出来た透明な壁を刃のようにすることで、自分が出てくるのを邪魔した物を切り裂いていた。

地面は一瞬にして耕され、かき回され、今しばらくは砂煙が立ち込めていそうだった。

逃げる途上、余った魔力で闇人間を作り、接触させたときの感覚と外見から察するに、込められている属性は……第一属性が『土』。

第二属性で『案山子』あるいは少し捻って『畑』。

第三属性は強力さと言うか、あり得なさからして、『バリア』や『シールド』とでも言えばいいのか? とにかく魔力だけで作られた透明で強固な壁のような何か。

そして、第零属性『魔力』もしっかりと含まれているようだ。

「ただ、恐らくは使い捨てで、数も少ないと思います。この規模と威力の魔術を繰り返し使える魔道具にするのは流石に無理があると思うので」

「なるほど。それならば、空中にまで攻撃が及ばない事を含めて、対処のしようもありそうですね」

「空中?」

「先ほどミーメ嬢に逃がしてもらっている間に、水の塊をカカシたちの上を通るように投げてみました。その際、干渉された感覚が無かったので、あのカカシの攻撃範囲は見た通りのままです。なので、私なら水の船で空中に逃げれば問題は無いかと」

「ふむふむ。流石はヘルムス様ですね。そこまではワタシも気づいていませんでした」

「いえいえ、これもミーメ嬢が回避に専念してくれていたからです」

ワタシの言葉にヘルムス様が嬉しそうにしている。

しかし、空中には届かないのか……。

岩も切り裂いていた事を考えると、生やせるのはあくまでも土からだけ、と言う事だろうか。

でもそれなら、これだけの範囲と威力を持つレリックなのに、オルッカさんが王城へやってきた際に一緒に居た連中が謁見の間で使わなかったのもうなずける。

対処についても、カカシ同士の間に僅かながらに隙間がある事を思えば、ただ空を飛ぶ以外にも幾つかの方法がありそうだ。

「コホン。さて、これで奴らに交渉がする気がない事は明らかになった。以降、無力化が完了するまで、交渉には一切応じなくていい。これは宮廷魔術師長としての命令だ」

宮廷魔術師長様がそう言うと同時に、魔術の効果時間が切れたのか、ライアーがレリックによって生み出したカカシが崩れ落ちて土くれに変わっていく。

一部は細かい粒子となって散っていくため、薄まりかけていた土煙がまた濃さを増す。

「ミーメ君。ライアーの位置は分かるかな?」

「分かります。さっき居た場所と変わりないですね。ライアーの足元の影から闇人間を出して制圧しますか?」

「いや、先に吾輩がやろう。強度を確かめておきたい。ヘルムス君。逃げる時に撃ったと言う水の着弾地点はライアーの近く。そうだね?」

「その通りです。水の網を放つことでこの土煙も消せますが?」

「では頼む」

土煙の中からはライアーの笑い声が響いている。

『人間』属性の応用で感知した限り、位置を変える事もなく、ただ笑っているようだ。

うん、此処でライアーが逃げないどころか自分の位置を声でも教えている事や、明らかに状況が動いているのに動く様子を見せていない領都の人間たちの辺りに、イストフィフス侯爵家全体の驕りのような物を感じずにはいられない。

「では放ちます。水よ。浩々と湧き出して網となり、広がり、霧散せよ。『アクアネット』!」

ヘルムス様の手から巨大な水の網が放たれて、土煙全体を覆うように広がり、土煙を抑えながら地面にまで落ちていく。

「はははははっ! やった! やったぞ! 三人だけだが宮廷魔術師を魔術師でもない私が……」

そんな状況の中で、ライアーが哄笑を上げつつ姿を現す。

どうやら、防御用のレリックも身に着けていたらしく、ライアーの身体は透明な壁を球状に変形させた物の内側にある。

ただ、土煙、カカシ、土下座のせいで、こちらの状態を掴めていなかったようだ。

周囲の地面の湿り具合や、馬や人の血が自分の足元にまで来ている事にも気づいていない様子だし、土煙を晴らしたのがヘルムス様の魔術である事も気にしていない様子だった。

「『スチームエクスプロージョン』」

「っう!?」

「流石は宮廷魔術師長殿」

そこへ宮廷魔術師長様の魔術が放たれる。

ライアーの周囲にある大量の水分を一気に蒸発させて、高温の蒸気を爆発的な勢い……と言うより、正しく爆発を発生させる。

ワタシが居る距離ではもはや爆音ではなく衝撃波であり、大量の蒸気によって体が軽く炙られる。

ワタシでも備えなく受ければ致命傷になり得る、宮廷魔術師長の名に相応しい一撃だった。

「宮廷魔術師長様。ライアーは生きてます。防御用のレリックに守られたまま飛んでいって、城壁に衝突したみたいです」

「そうか。うーん、駄目だったみたいだねぇ。ただ、砲弾代わりにはなったようだ」

「ならば良しとしましょうか。元々城壁の破壊は部分的には必要だろうと思われていたわけですし」

水蒸気が晴れた後、ライアーの姿はそこには無かった。

代わりに領都を囲う城壁の一部が崩落していて、破壊の痕跡はその先……領都の内部にまで続いているようだった。

どうやら、防御用レリックの桁違いの防御能力が、宮廷魔術師長様の爆発と言う推進力を得た事で、期せずして進路上にあるもの全てを粉砕するような砲弾になったらしい。

「ああそれと。宮廷魔術師長の今の一撃で検証も出来ました。私の考えた方法以外にも通じる手段は多いかと」

「それは重畳。ならば、防御用レリックの脅威度はだいぶ下がりそうだ」

ヘルムス様と宮廷魔術師長様がしているのは、たぶん力押し以外で防御用レリックの守りを突破する手段だろう。

うん、相手がレリック持ちと判明した時点で考えていない訳がないので、ワタシとしても安心である。

「では、一度陣地に戻るとしようか。相手も動き出したようだ」

「分かりました」

「了解です」

見れば領都の門が開かれて、そこから侯爵の手勢が姿を現し始めていた。

その数は……数だけなら、千人近いかもしれない。

だが数だけだ。本当に戦力になる騎士や魔術師は合わせても百人に満たないだろう。

なので、レリックを勘定に入れなければ、ワタシ一人どころか、ヘルムス様一人でも対処できるかもしれない。

しかし、戦場では何が起きるのか分からないし、誰か一人に功績があるのも良くなく、楽をできるのならば楽をした方が良い。

そのような判断から、ワタシとヘルムス様は宮廷魔術師長様と共に、こちら側の陣地へと戻った。