軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

126:3+0 VS 1+2

「ふふふ、怖いですね」

サキさんの言葉と共にワタシの暗黒支配が強制解除される。

『ブラックハート』との関わりがあるのなら当然の事ではあるが、サキさんもやはり闇払いの魔道具を持っていて、それを起動する事によって暗黒支配から免れたようだ。

が、そんな事は想定していて当然。

ワタシの本命は、拳に触れた者を強制的に眠らせて悪夢を見せるように魔術を施した闇人間たちだ。

「怖いのなら素直に眠ってください」

向かわせた闇人間は五体。

サキさんの正面から三体、背後に一体、そして足元から一体だ。

相手が並みの人間なら、正面に気を取られて背後に対処できず、背後のに気づいても足元が疎かになり、足元に注意を向けるのなら他の四体に反応できない。

そう言う布陣だ。

「お断りします。此処で眠ってしまっては、私の目的が果たせなくなってしまいますので」

それに対してサキさんは体に純粋な魔力を通すことで身体強化を行い、横に跳ぶ事で、五体の初撃の攻撃範囲から逃れて見せる。

やはりサキさんは並の相手では無いらしい。

だが所詮は一人で、『精神』属性だけ。五体の闇人間で囲い、追い続ければ、何処かで触る事が出来る。

ワタシはそう判断すると、闇人間たちに包囲する事を優先させつつ、サキさんを追わせる。

「逃げ切れるとでも?」

「そうですね。このままではよくないので……。お願いします、義兄様」

サキさんが何かを呟きつつ、手にした紐を振るい、トリニア教のシンボルを先端に据えた鞭のように動かし、闇人間の一体……その頭部を打つ。

打たれた闇人間は……。

「なっ!?」

頭部が弾け飛んで、そのまま消えてしまう。

ワタシはその事実に思わず目を大きく見開き、驚きの表情を露わにしてしまう。

だって、あり得ない事が起きたからだ。

ワタシが今使っている闇人間たちは、間違っても手を抜いて構築した個体ではない。

きちんと『魔力』属性を含む四属性で構築し、それこそ、ドラゴンから殴られても耐えるし、ヘルムス様の全力の一撃だって魔力量的には問題なく耐えられるだけの出力で出している物だった。

それを一撃で破壊する?

確かにサキさんの攻撃には何かしらの魔術が込められている事は確認できたが……『精神』属性で痛みの増幅や精神破壊を行ったところで、そもそも闇人間に精神はない。

魔術の構築にも異常は見られず、破壊されたようには思えない。

第一属性の魔術だけでは到達不可能な威力による純粋な物理的作用で以って、破壊されたように見えた。

だとしたら、闇人間は……ワタシは何をされた?

この謎を解明しなければいけない。

そうでなければ、サキさんを捕らえるどころではない。

「二つ!」

「っ!?」

二体目の闇人間が同じように打たれて消える。

だが、一体目の時と違って、今度は何が起きているのかを確認するだけの心構えが出来ていた。

だからワタシは冷静に何が起きたのかを……どんな魔術で闇人間が打たれて破壊されているのかを解析する。

そうして感じ取ったのは……三つの属性。

サキさん自身の物である『精神』属性に、あと二つは……『土』と重さに関わるような何か。

「随分と無茶をしますね。サキさんも『石抱きの魔術師』様も」

「……。たった二回で気づかれますか。流石は宮廷魔術師様……。いえ、伝説のトリニティアイとお呼びするべきでしょうか?」

ワタシはサキさんが何をしているのかを理解すると共に戦慄する。

とてつもない理論、訓練、信頼の下で初めて成り立っている技術をサキさんと『石抱きの魔術師』様が使っている事が分かっているからだ。

恐らくだが、サキさんは自分が今見聞きしている物を『精神』属性魔術の応用で以って、王城に居る『石抱きの魔術師』様に伝えている。

そして、『石抱きの魔術師』様はサキさんから送られてきた情報を基にして、遠隔で魔術で行使している。内容としては、サキさんの攻撃に数十キログラム分の土の重みを加える。とかだろうか。

そこへサキさん自身も、痛みを強化するような魔術を加えている事だろう。

うん、言葉にしてしまえばそれだけの話だが、実際に行えるかどうかを問われれば、間違いなく超絶技巧と評していい行いであり、安易に真似できるような技術ではない。

なにせ、離れた場所に居る二人が、同時に、目標と方法の意識にズレなく、目当ての魔術を行使する事によって、三属性混合魔術とほぼ同じだけの出力向上を受けているのだから。

分類としては儀式魔術の類になるのだろうか、少し前に浄化の儀式で見せてもらった物とは、色々な意味で別物である。

「……。宮廷魔術師でお願いします。トリニティアイである事はワタシ自身が好き好んで隠している事なので」

「かしこまりました。トリニア教の今の上層部を考えたのなら、そちらの方が良いと私も思います」

その上で、サキさんにはワタシがトリニティアイである事を知っていると言う、情報面や精神面でのやり取りをする余裕もある、と。

正直に言いたい。

何でこの人、イストフィフス侯爵如きに従っているの?

どう考えても、サキさんがその気になれば、イストフィフス侯爵領もトリニア教も牛耳れる気しかしないのだけど。

グロリアブレイド王家のバックアップを受けて、積極的に動いていれば、絶対に出来ると思うのだけど……。

「それはそれとして。助けてください、義兄様。彼の者の罪に相応しき重石を授けたまえ」

「っ!?」

ワタシが馬鹿な事を考えている間に、サキさんは三体の闇人間の猛攻を交わしながら、何かしらの魔術を放つ。

感じたのは重圧。

ドラゴンのブレスのような、強烈な攻撃の到来。

間違ってもそのまま受けてはいけない魔術の気配だった。

「闇よ! 影よ! 畏れよ! 頭蓋となりて我が身を包み封じ、外より来る魔を阻め!」

故にワタシは即座に詠唱による防御魔術を行使。

一見すれば巨大な頭蓋骨のように見える闇の中にワタシの体を収めて、『万能鍵』属性で鍵をかける事によって攻撃が入る場所と言う名の入り口を閉じ、自身の身を守る。

直後、ワタシを守る頭蓋骨越しに感じたのは多大なプレッシャー。

意識どころか、肉体をそのまま押し潰し、全身の骨が砕かれそうな重みだった。

「本当に。本当に、別格の宮廷魔術師様ですね。『闇軍の魔女』ミーメ様は。私と義兄様によるこの魔術が成立したのに真正面から防がれたのは初めてです」

「そうですか。ワタシとしても、これほどに強い一属性の人間は初めてです」

恐らくは、相手の何か……これまでに重ねてきた罪か、罪の意識あたりを参照にして重さを加える魔術だろう。

この手の魔術は行使者がある程度身勝手に計上できるものでもあるので、威力がとにかく高まり易い。

三属性混合による出力補正も考えると、ワタシも相応の防御をしなければ危うい一撃だった。

なんだったら、頭蓋骨の外に居た三体の闇人間は潰されて消滅してしまっている。

「ですがタネは割れました。そろそろ反撃させていただきます」

ワタシは右手に杖を持ち、防御魔術を杖に任せると、闇人間ナイトメアバージョンを再度生み出し、移動させ始める。

「またそれ……何処へ? まさか!?」

ただし、向かわせる先はサキさんではない。

王城にいる『石抱きの魔術師』様の下だ。

「サキさん。貴方の魔術は『石抱きの魔術師』様の協力が前提になっている。だったら、『石抱きの魔術師』様を眠らせれば、それで済む話です」

「ですが、義兄様が王城の何処にいるか、正確な所在までは貴方には……」

「そうですね。分かりません。ですが、ヘルムス様なら何処にいるかは分かりますし、何なら貴方が通信に用いている魔術と言う道しるべもある」

「くっ……」

「それらを探れば、凡その位置は掴めますし、十分に近づければ、後は闇人間の視界を借りれば問題ありません」

『石抱きの魔術師』様の正確な位置は分からないが、ヘルムス様に持たせている『 わたしだけのみち(ダイダロス) 』の目印が何処にあるかはある程度集中すれば分かる。

距離についても此処から王城までならどうとでもなる。

サキさんが魔術による通信をしてくれれば、それが一番楽だ。

送受信される魔力さえ傍受できれば、何処にいるかは確定する。

それがなくても、闇人間の視界から情報を得て指示すれば、それで済む。

ワタシの事を警戒しているサキさんを眠らせるよりも、『石抱きの魔術師』を不意打ちあるいはヘルムス様たちと協力して落とす方が明らかに楽である以上、こちらの手段を採らない理由は無かった。

そして、流石にこの展開は予想外だったのだろう。

此処に来て、初めてサキさんがその表情を苦し気な物に変えた。

恐らくだが、ワタシの動きを止めていると言っても過言ではない重圧の魔術を解除するか否かを、『石抱きの魔術師』に連絡するか否かを悩んでいるのだろう。

「……」

そうしてサキさんが悩んでいる間に、ワタシは王城内に居る『石抱きの魔術師』を見つけた。

ちょうど、部屋の中に釘を含んだ水の円盤が高速回転しつつ突っ込んでいく所でもあった。