軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

125:聖アンザンシ教会前

「状況はどうですか?」

「「「っ!?」」」

「「「んっ……!?」」」

移動用闇人間に乗ったワタシが王都の中を密かに駆けること暫く。

『聖アンザンシ教会』を見張っている騎士たちの待機場所に着いた。

ただ、直前まで隠蔽の魔術を使っていて、急に声をかけてしまったせいか、騎士の何人かは思わず身構え、剣を握り、身体強化の魔術を使ってしまっていた。

うんまあ、驚かせてしまったワタシが全面的に悪い話なので、その辺が外に漏れる事が無いように隠蔽したけれども。

それはそれとして、移動用闇人間の見た目に笑いかけた、そこの新人っぽい五人は後で説教ものだろう。

既に五人の背後に先輩騎士らしき人物が立っている。

「あ、ああ。落ち着け。『闇軍の魔女』様だ。各自警戒に戻れ。お疲れ様です。『闇軍の魔女』様」

「お疲れ様です。それと驚かせてしまって申し訳ありません。それで状況はどうですか?」

「異常は見受けられません。既に陽が昇り始めている事もあり、動き出しが早い者が行動を始めていますが、それぐらいです。目標であるサキ・イストフィフスについては教会内の何処かに居るはずです」

「なるほど。分かりました」

急いで来たのだけれど、その意味は特になかったようだ。

まあ、『ブラックハート』の拠点が次々に落とされていると言う連絡が来ていなければ、普段通りに過ごして当然なのだから、おかしな事ではないか。

後、新人っぽい五人は裏に引きずられていきました。

うん、仕方がないね。

『『闇軍』。分かっていると思うが、第二段階に移行する際には、他の場所と突入の時間は合わせて貰うからな』

「分かっているので大丈夫です」

前の場所でも見た、『風鳩の魔術師』様の作った風のハトが入ったカゴから、『風鳩の魔術師』様の声が響く。

なお、他の場所と言うのは、王城の中、イストフィフス侯爵領の王都屋敷、その他幾つかの建物である。

本来ならば、『ブラックハート』の拠点で王族のティーカップが見つかった時点で、ノータイムで動き出し、次の段階に移るべきだったのだろう。

が、戦力の都合で少し時間が空く事になっているようだ。

「確か王城の『石抱きの魔術師』様の下にはヘルムス様たちが向かう。でしたか?」

『その通りだ。『石抱き』の下には『船』『渦潮』『雷釘』の三人が向かう。何も無いとは思うが、まあ、念のために十分な戦力をってやつだな』

「そして侯爵の屋敷にはジャン様でしたよね」

『そうだな。『焔槍』と『剛拳』の二人が騎士たちを連れて行く。こっちもまあ、過剰戦力気味だが、抵抗された場合を考えないわけにはいかないからな』

ワタシは暇つぶしも兼ねて、『風鳩の魔術師』様に今後の事を確認する。

今ここで名前が挙がった面々は『ブラックハート』の拠点制圧にも向かっているので、それで時間が必要なわけである。

ちなみにグレイシア様はあのまま『ブラックハート』の拠点で精査を続け、一通り見終わったら王城に戻ってさらに確認。と言う作業をする事になるようだ。

ある意味では一番大変かもしれない。

『『闇軍』。これも分かっている事だと思うが、まずは事情聴取に素直に応じるかどうかの確認からだ。サキ・イストフィフスはどっちなのか分からない相手だからな。素直に投降して、拘束されてくれるのなら、そっちの方が良い』

「分かってます。ワタシとしても武力行使をしなくて済むなら、そっちの方が良いですから」

『分かってもらえて何よりだ。その辺、若い騎士連中だと不満を漏らすことも時々あってなぁ……。まあ、そう言う奴は頭を一回蹴って怯ませてから、何度か髪の毛を掻き毟って分からせてやるんだが』

「ワタシたちが武力を行使するのは他に手段がなかったから、やむを得ず取る手段である。と言うのは建前かもしれませんが、守らなければいけない建前ですからね」

『そう言うこったな』

一応、サキさんはまだシロともクロともつかない相手である。

だから、まず最初にやるべき事は事情聴取であり、これに素直に応じてくれるかどうかは、その後の対応を決める根拠にもなり、非常に重要な物である。

また、ワタシたち王城の側が正しい事を国内の貴族と民衆に示すと言う意味でも、手順を守る事は大切である。

故に、まずは素直に応じてくれるか、正面から、堂々と尋ねなければいけない。

これはイストフィフス侯爵の為ではなく、国全体の為に必要な事なのだ。

『注意事項として、相手は精神属性。しかも二年前まで王城の魔術師団でまだ若いにもかかわらず精鋭と評された女だ。分かってるな?』

「はい。だからこそワタシ、ですよね?」

『その通りだ。精神属性魔術によって妙な干渉をされたら、とんでも無い事になるかもしれないからな。相手の出力だけでなく、密かに事を進めるような上手さも考えたら、『闇軍』のような自分で自分の異常を感知して対処できる人間じゃないと危なくて仕方がない』

「同感です」

『そんなわけで。教会に居る他の連中は騎士たちに任せて、『闇軍』自身はサキ・イストフィフスへの対応を第一にする事。はっきり言って、教会に居る連中の大半は何も知らないだろうから、サキ・イストフィフスさえ確保できればそれでいい。覚えておいてくれ』

「分かりました」

精神属性魔術による干渉は……色々と考えられる。

単純な好意の増幅、ある種の魅了によって見逃すように促される。が一番ある形として。

他にも、シンプルな洗脳。恐怖の増大によって二の足を踏ませる。注目する先を誘導して隠れ潜む。色々とあるはずだ。

それこそ、滞留している魔力に精神を与えて、悪霊としてけしかけて来る。これぐらいはサキさんなら出来ると言うか、『ブラックハート』の拠点で既にやられていると言っても良い事である。

うん、油断だけはしないようにすると共に、常駐防御の中でも自己モニターの魔術については確認頻度を上げつつ、異常判定の参照元に干渉されないように守りを厳重にしておこうか。

『さて時間だな。総員、行動を開始しろ』

「「「了解!」」」

時間が来たと言う事で、ワタシは騎士たちに続いて待機場所から移動し、『聖アンザンシ教会』へと入っていく。

その足取りは整然としたもので、決して駆けたり、慌てたりはしない。

これもまた、ワタシたちが正しい事を示す手順の一つ、と言うところだろう。

「これはいったい……」

「我々は王城に所属する騎士である。朝早くから押しかけるような真似になってしまい申し訳ない。だが、こちらにも事情があっての事である。どうか我々に従って欲しい」

で、教会の普通の修道女の方と騎士の方が話を始めたところで、ワタシは自分に隠蔽の魔術をかけて離脱。

サキさんを探して、教会の中を『人間』属性による感知で手早く確認していく。

勿論、属性感知だけで個人の識別は難しいが、何処に人が居るかだけでも確認のスピードは上がると言うものである。

「……。これは……」

そうしてワタシが行き着いたのは教会の地下倉庫だった。

地下倉庫の扉には人払いの魔術が掛けられていて、この魔術の力を上回れない人間では、地下倉庫に近づこうとすら思わなかっただろう。

だが、人払いの魔術があるからこそ、ワタシは誘い込まれたような気分になっていた。

この程度の人払いの魔術ではワタシには全く効果がないばかりか、むしろ目立って仕方がないくらいだからだ。

「……。行きましょうか」

ワタシは地下倉庫の扉を『万能鍵』属性で開けると、中に入る。

地下倉庫の中は相変わらず魔力が滞留しているものの、大半の呪われた物品は部屋の隅に移動させられる形で片づけられているようだった。

「そこに居たんですね」

「よくいらっしゃいました。宮廷魔術師様」

目当ての人物……サキさんは直ぐに見つかった。

右手で紐付きのトリニア教のシンボルを持ち、垂らした姿で、堂々と立っていたからである。

「サキ・イストフィフスさん。今日は貴方に事情をお聞きしたい事があってまいりました。素直に従っていただけると、ワタシとしても楽なのですが」

ワタシはサキさんに事情聴取に応じるよう、話す。

精神属性の魔術は……うん、使われていない。

「申し訳ありません、宮廷魔術師様。私にはやらなければいけない事がございまして、その為には、まだ王城の方々に下るわけにはいかないのです」

対するサキさんはワタシに向かって深々と礼をしつつも、戦闘の姿勢を取って来る。

「……。抵抗する、と?」

「はい。その抵抗も含めて、やらなければいけない事なので」

どうやらサキさんには何か目的があり、だからこそ抵抗するし、この場から逃げるつもりでもあるらしい。

改めて感知してみると、ワタシが入ってきた物とは別の道が地下倉庫にはあるようだった。

うん、逃げられるわけにはいかない。

と言うわけでだ。

「では、抵抗の余地もなく眠ってください。行け。暗黒支配、闇人間ナイトメアバージョン」

ワタシはサキさんの体内の闇を掌握した上で、複数体の闇人間を向かわせた。