軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

120:報告と考察

「とまあ、そんな事がありました」

「なるほどのぉ」

翌日。

ワタシはディム様に教会であった事を一通り話した。

部屋の中はワタシとディム様の二人だけで、他に人は居ない。

そう、とても珍しくヘルムス様も居ないのだ。

これはワタシがディム様相手なら一人でも報告できると共に、アンカーズ子爵家として部外者には見せたくない資料を頼んだのと、ヘルムス様が色々と調べたい事があって時間がないと言う要素が重なった結果となる。

そして、今回の事に関するワタシの考察を、なんとなくだがヘルムス様たちには聞かせたくなかったと言うのもある。

「ふむ。その悪霊とやらの顔は再現できるかの?」

「色以外なら。こんな感じですね」

ワタシは闇人間によって、教会で遭遇した悪霊を再現する。

サイズについては部屋に収まるように調整したが。

で、ワタシが再現した顔を見たディム様は迷うことなく言い切った。

「この顔はイストフィフス侯爵じゃな。間違いない」

悪霊の顔はイストフィフス侯爵を模した物である、と。

「そうですか。じゃあおかしいですね」

「うむ。おかしいの」

だからこそ、ワタシもディム様も揃っておかしいと頷いた。

「確かに呪いは術者の顔や姿を模倣する事もある。激しい感情に基づいて発せられた呪いに、術者の顔が転写されてしまったと言う奴じゃな。大概は目と口の部分に穴が開いてそれっぽくなる程度じゃが、呪いの強度次第でははっきりと術者の顔が出る事もあるんじゃ」

「そうですね。ワタシもそれらしき物は見た事があります」

「じゃからこそ、おかしい。イストフィフス侯爵は確かに呪う側ではある。じゃが、自分の手で誰かを呪うのではなく、術者に命じて呪わせる側の人間じゃ。そもそも魔術や呪いに関する知識もそこまでの物ではなく、呪いは闇の専売特許と思っておるはずじゃ」

そう。悪霊の顔にイストフィフス侯爵の顔が出るのはおかしいのだ。

話を聞く限り、イストフィフス侯爵が呪われる事や、部下に命じて誰かを呪わせることはあっても、当人が誰かに呪いをかけるような人物ではなかった。

しかし、現に悪霊の顔はイストフィフス侯爵だった。

となればだ。

「つまり、あの悪霊はサキさんが何らかの手段で発生させた悪霊だった。と言う事になりそうですね」

「そうなるじゃろうなぁ。まあ、精神属性の魔術なら、そう言う事も不可能ではないんじゃろう」

あの悪霊は、やはりサキさんが発生させたもの。と言う事になるだろう。

ディム様はサキさんがどうやってやったのかについて悩んでいる様子だが、ワタシにはその辺りの理屈も分かる。

たぶんだが、滞留していた魔力に、自分はイストフィフス侯爵である。と言う感じの精神を生成、付与、その精神を核とするように自発的に魔力を吸い込むように促し、悪霊にしてみせたのだろう。

ただ、何をしたのかは分かっても、動機が分からない。

これは他の疑惑についてもそうで、だからこそワタシはディム様に幾つかの資料を求めていた。

「ディム様」

「うむ。ミーメの嬢ちゃんが頼んだ資料ならあるぞ」

と言うわけで資料を確認。

滞留している魔力と呪われた道具の数や質の相関関係。

ここ十数年の呪いによるものと思しき事件とその被害者について。

此処一年ほどで『聖アンザンシ教会』に持ち込まれた呪われた物品の資料。

と言った物を読み込みつつ、此処に来る前に確認しておいた。先日の呪い返しで抑えられた『ブラックハート』とやらの末端が持っていた物品と書類に関する資料の内容も思い出していく。

うん、やはり一致していくと言うか……かなり臭い。

そして、これだけの資料があると言う事は……たぶん、王城は把握している。

イストフィフス侯爵は国に仇為す罪人である、と。

後ついでに、『ブラックハート』やトリニア教の上層部が何をしているのかも、だいたい分かった。

しかし、そうなるとサキさんの動機がますます分からない。

二年前のドラゴン討伐の時の話を聞く限り、役目をきっちりと果たし、責任感もありそうで、頭もよく回りそうで、なにより侯爵本人は貶されてもサキさんは貶されていなかった。

そんな人が、何故、明確に犯罪者である侯爵に従うのかも疑問なら、あの場面で侯爵の顔を悪霊に載せてワタシたちに見せるのも妙だ。

アレがわざとなら……サキさんは王城側からスパイとして侯爵側に潜り込んでいる?

そして、敢えてワタシたちに違和感を持たせた。と言う事になるのだろうか?

「ディム様。質問なのですが、爵位が上の人間を捕まえる事は、やはり難しいですか?」

「難しいの。明確な罪状と物的証拠。円滑な捕縛計画に、捕まえた後に空いた爵位をどうするかと言う問題。加えて、大量に存在する取り巻き共への対処も迫られるからのぉ。しかも、地域によっては魔境への対処をどうするのかと言う問題つきじゃ」

「なるほど」

うん、スパイ説は通りそうな気がする。

だったら、大きな悪を始末するためならば、罪のない人間を貶める事もあるなんて考え方をしてもおかしくはない。

と同時に、サキさんについては口を噤んでおいた方が良さそうでもある。

下手な事を言って邪魔するよりは、周囲に居る傷ついた人を助けた方が良い。

もしも二重スパイとか、単純にワタシが間違えているだけとかだったら……その時は遠慮なく叩き潰せばいいか。

実のところ、『ブラックハート』の人間にあの呪い方を教える行為のように、サキさんはスパイだとしても、許されないような行為ももうしているのだし。

まあ、その呪い方、あるいはその発展形として思い浮かぶアレが出来てしまったからこそ、王城側に慌てて情報を流しているのかもしれないけれど。

で、侯爵がアウトだと把握していても、王城側が逮捕できないのは、ディム様が言っているものの問題があるのだろう。

侯爵領に悪党しか居ないのならともかく、そうでないのなら、領地ごと根絶やしにするわけにはいかないのだから。

「これは独り言じゃがな」

「はい」

「イストフィフス侯爵がその座に就く前。奴の上には二人の兄が居た。トリニア教、グロリアブレイド王国方面の方面長も居た。他にも、トリニア教の教えを正しく守る貴族が沢山居た。が、彼らは次々に死んでいった。ある者は毒に当たり、またある者は不幸な事故に巻き込まれた。暴漢に襲われた者、魔物に襲われた者、借金で首が回らなくなった者、政治闘争で負けた者。経緯は様々じゃが……あの男は既に六十を過ぎ、後継者も孫も居るのに、未だ権力の座にしがみついている」

「……」

つまり侯爵は真っ黒であるらしい。

そんな男にどうして爵位を継がせたと言いたいところだが……。

年齢的に陛下ではなく前王かさらにその前なんだろう、たぶん。

そして、碌でもない人間であると知られているのに、王城側が手を打てなかったと言う事は、それだけ上手くやってきたのだろう。

夥しいほどの血を自分以外の誰かに流させることによって。

「なるほど」

「独り言。じゃがなー」

でもそうなると確かに警戒は必要そうだ。

それほど上手くやってきたと言う事は、王城や王都の中にも、侯爵に与する人間が居ると言う事なのだから。

ただそうなると……少し話は戻ってしまうが、サキさんの行動が迂闊と言うか、自分はスパイですと言わんばかりの行動をしてしまって大丈夫かと心配したくなる。

まあ、たぶん大丈夫なのだろうけど。

あるいは、危険を冒してでも伝えなければいけない何かがあったのかもしれない。

それこそ王都や王族全体に関わるような何かとか。

そう考えた時、誰にそれを伝えようとしたのかと考えると……。

「……」

「何とも言えない顔をしているのう。ミーメの嬢ちゃんや」

「そうですね。そう言う顔をしている自覚はあります」

まあ、ヘルムス様なんだろう。

サキさんが本当に王城側のスパイなら、家単位でイストフィフス侯爵家と敵対しているトレガレー公爵家のヘルムス様は情報を渡すのに色々と都合がいい相手だから。

その事が……うん、なんとなくだけど腹立たしい。

と言うか、もしかしなくても、ヘルムス様が今している調べものとは、正にその事ではないだろうか?

そこまで考えたら、やっぱりワタシとしては腹立たしいと言うか、ハブられて悲しいと言うか……何とも言えない気持ちになる。

「まあ、今回のこれは、今見えている範囲ではミーメの嬢ちゃんの力を借りるほどの事ではない上に、貴族の暗闘そのものみたいな話じゃからなぁ。ヘルムスの坊主がミーメの嬢ちゃんを巻き込みたくないと言うのは分からんでもない」

「……」

ただ、怒りはない。

ワタシがこの手の面倒事に関わりたくないのをヘルムス様は知っていて、それで離している部分もあるのは理解できるので。

「さて、そう言う状況なら儂は備えておくかの」

「と言いますと?」

「儂がサキの嬢ちゃんを知らんわけが無かろう。あの嬢ちゃんがそう言う振る舞いをしたなら、何としてでも止めなければいけない計画が動いたか、掴めれば即王手になるような証拠が現れたかのどちらか、あるいは両方じゃ」

「なるほど」

「何か追加で良い情報があったら、その時は頼むぞい」

「分かりました」

とりあえずヘルムス様と合流しよう。

ワタシの計算通りなら、連中が碌でもない事をしているのは確実なので、それは伝えなければいけない。