作品タイトル不明
119:口直しの雑談
「少し、空気を変えましょうか。湿っぽい話が続いたせいか、空気が淀んでいるようにも感じますので」
「同意でございます。窓や扉を一度開けましょうか」
「では、お茶も淹れ直してきましょう。冷えてしまっていますから」
「じゃ、俺っちは適当な菓子でも自分の部屋から持ってくるか」
ワタシの提案でグレイシア様たちが動き始める。
うん、これで呪いが寄ってくるような事は無いだろう。
全くこれだから、呪い周りは嫌なのだ。
どうしても全体的に暗くなる。
で、ワタシの想像通りならサキさんは怪しい。
だが、それが正しい証拠は現状では存在しない。
なら今は心の内に秘めておいた方が良いだろう。
これ以上空気を悪くする理由はない。
話すのは、ワタシの想像が正しいと証明できてしまうような証拠を集めてからだ。
「折角なので、アイアマイン公爵領産の高級茶葉で淹れてみました。如何ですか? ミーメ嬢」
「そうですね……。香りが良くて、なんだかスッキリする気がします」
「それは良かったです」
とりあえず今は目の前のお茶を楽しもう。
と言うわけで、ワタシはヘルムス様が淹れてくれた紅茶を飲んで、心を落ち着かせる。
「こちらの茶菓子は王都の有名な菓子店の物でございますね。ノスタの件で被害を受けたと聞きましたが、無事に再開されたのですね」
「ああ。この間、ちょうど販売を再開したところだったからな。折角だから買ってきたんだ。ただ俺っちが買ったところでお終いだったから、俺っちが帰る時に『賭事の魔術師』のおっさんが買えなくて項垂れてたな……」
「それは……いつもの光景でございますね」
茶菓子はジャン様が買ってきてくれたクッキー。
硬く焼き上げられて保存が利きやすいようにされた物だが、パキパキと心地いい音と共に噛み砕けつつ、味はしっかりとしたものだ。
ノスタの件で店が壊されると言う被害を受けたそうだが、人に被害が無かったので、早期再開にこぎつける事が出来たようだ。
「いつもの光景なんですか?」
「ええ。割とよくある事ですね。『賭事の魔術師』殿はどうしてか、そうなる事が多いようです」
『賭事の魔術師』と言う人については……うん、ノスタの時に大怪我をしていたのと、二属性とは思えない威力の魔術を撃っていた覚えしかない。
ただ、ヘルムス様たちの表情からして間が悪いと言うか、タイミングに恵まれないと言うか、そう言う人ではあるらしい。
「そう言えば『賭事の魔術師』殿の名前で思い出しましたが、次回の貴族院での講演は彼でしたね」
「そういやそうだったな」
「そうでございましたね」
「講演ですか?」
「ええそうです」
ヘルムス様曰く。
貴族院では年に何度か宮廷魔術師を招いて講演をさせているのだとか。
と言っても、未熟な学生、粗暴な学生には教えてはいけない事も多いので、だいたいは第二属性を得ればこんな事も可能になる。と言うのを示すだけの講演になるのだとか。
で、これは宮廷魔術師が持ち回りでやっていて、次回の講演は『賭事の魔術師』様がやるらしい。
……。
何故だろうか、これまでの話を聞いていると、非常に嫌な予感がするのだが……。
いや気のせいだろう。
『賭事の魔術師』本人も、自分がそう言う人間だと分かっていて、色々と対処している事だろうし。
そもそも、何かあったとしても、ワタシたち四人にお鉢が回ってくるような話でも無いだろう。
「ヘルムス。貴族院で思い出したが、野外学習もそろそろじゃなかったか?」
「そう言えばそうですね」
また知らない話が出てきた。
ただ、こちらの話はグレイシア様もよく知らない話のようで、首を傾げている。
「ミーメ嬢、グレイシア嬢。野外学習と言うのは貴族院の行事の一つでして、騎士・魔術師を志望する生徒と希望者を集めて、王都の外……魔境の近くにまで赴いて、実戦的な訓練を行うものです」
「具体的に言えば現地まで徒歩での移動。魔物との戦闘。野外での拠点の作り方。そんなところだな。ちなみに王城に騎士として入りたいなら、参加はほぼ必須だな」
「なるほど」
それは有用そうな行事だ。
騎士・魔術師になって王城に勤めるのならば、時には野外で活動し、建物など無い場所で数日過ごすような任務に従事する事だってあり得る。
そんな仕事なのだから、貴族院に居る頃から学んでおいて悪い事は無いだろう。
と言うか、ここでよほどの真似をしたら、その時点で王城入りが絶望視されそうな気がする。
兵士が含まれていないのは……貴族院を卒業して、兵士になるような子が殆ど居ないからだろう。
「ちなみに場所は何処ですか?」
「さあ? 毎年場所も日数も違うので、確認してみないと分かりませんね。グロリベス森林で無い事だけは確かですが」
「今にして思えば、良くグロリベス森林で野外学習をした時に問題が起きなかったよな。俺っちはマジでそう思う」
「深層の入り口が森の奥地の限られた範囲にしかなかったのが幸いでしたね。ただ、だからこそ、これまでは知られていなかったわけですが」
「不幸中の幸いと称すべきか、悩むところでございますね」
場所や期間についてはワタシたち宮廷魔術師には基本的に関わりのない行事なので分からないようだ。
なお、宮廷魔術師が関わらないのは、生徒たちが赴く魔境がそこまで危険ではないところである事と、兵士や騎士がそれなりに多く動員されるからであるらしい。
むしろ、宮廷魔術師が関わらないといけなくなったら、それはもう野外学習をしていられるような事態ではないとの事。
それは……うん、その通りだと思う。
それにしてもだ。
「貴族院ですか……」
貴族院はやはりイベントがたっぷりとある場所であるらしい。
ヘルムス様たちは貴族院に通っていた頃に起きていたアレコレを楽しそうに語っている。
ただ、数年の差があるため、同じ話でも見方が違っていたり、細かい事情が変わっていたりと、時間経過で何が起きていたりと、驚きもあるようだ。
「ミーメ嬢も貴族院に通ってみたいと思いますか?」
「通いたいとまでは思いませんね。気にはなりますが」
「なるほど。そう言う事なら、何処かの機会に見に行くのも有りかもしれませんね。魔術以外の分野ならばミーメ嬢にとっても得るものは多いでしょうから」
「大丈夫なのですか?」
「そこは陛下や学院長などの許可が下りれば問題ないかと」
そんな貴族院だが……実はシステム上はワタシでも通えるらしい。
ただ、宮廷魔術師としての仕事の忙しさを考えると、ワタシが通うことは無いだろう。
調べ物や相談事で行くことはあるかもしれないが。
王城の図書館は立派であるし、専門家も沢山居るけれど、この世の全てを網羅しているわけではないので。
「……」
「どうした? ジャン」
「いや、ミーメ嬢だったら、生徒として貴族院に潜入捜査をする事とかもあるのかなって思っただけだ。まあ、無いよな」
「流石にありませんよ。ミーメ嬢の顔は既に知られています。潜り込むのは無理です」
「そりゃあそうだった」
なお、潜入捜査はヘルムス様曰く無いらしい。
うんまあ、そこは頼まれても出来ない事だと思うので、頼まないでくれた方が助かるのだけど。
ワタシは狩人兼宮廷魔術師ではあるけれど、捜査官の類ではないので。
「そう言えば……」
「だったら……」
その後も話は続いて。
今日の所はこれで一先ず切り上げる事となった。
さて、明日にはディム様の所へ報告に行くことになるだろう。
そして、その際には色々と尋ねる事になるが……出来る事ならば、ワタシの想像が当たっていない事を願うばかりである。