軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

114:教会の地下倉庫

「こちらが地下倉庫です。中には呪われた品が無数に収められていまして、自然に浄化されるのを待つと共に、浄化の儀式によって浄化される順番が来るのを待っています」

教会の片隅、少なくとも一般人が決して迷い込む事はないであろう位置の階段を下ること暫く。

地面の高さを基準として、10メートルほど潜ったところにそれ……浄化の間の物よりも更に重厚で、魔術による強化と付与が幾重にも重ねられた扉はあった。

恐らくだが、中にある呪いが無秩序に飛び出たりしないように抑えているのだろう。

そんな扉を前にしてワタシは自然と感覚が鋭くなって……気づいた。

「では開けますが……」

「待ってください。中に何か居ます」

「中にですか?」

ワタシはサキさんが手にした鍵で扉を開けようとするのを止める。

そして、警告を発しつつ、中に居るそれの詳細を探ると共に、ヘルムス様たちの方を一度見て、警戒を促す。

「扉の向こう、闇の中を何かが動いている感覚があります。ただ、肉体は持っていない……魔力だけが生物のように動いている状態ですね」

ワタシは自分が感じている物を素直に話す。

実に奇妙な感覚だが、闇の中を泳ぐと言うか、這うと言うか、とにかく何かが動いている感覚は闇属性の感知によって捉えている。

ただ、その動いている何かが闇を掻き分けたり、邪魔したりは一切していなくて、物理的実体は感じられないのだ。

有体に言ってしまえば、気持ち悪い。

目ではそこに居るのがはっきり見えているのに、手では触れていない感じだろうか。

「……。悪霊が発生しているのかもしれませんね」

「悪霊ですか?」

「先ほど述べた通り、この先では呪われた品が大量に保管されています。呪われた品は周囲に呪いをばら撒いています。浄化できる程度には外へと漏らしていますが、逆に言えば、浄化できない分は中に籠もっています。その籠もった呪いが何かしらの切っ掛けを得て、悪霊とでも呼ぶべきものになっている可能性は過去の事例から考えてあり得る事です」

「なるほど」

サキさんはそう言うと、少し困った様子を見せる。

しかし悪霊か。

ワタシは初めて見るものになるが、そんな物が本当に居るのだろうか?

「ヘルムス様」

「そうですね。悪霊と言うのは、魔物としてはゴースト、スピリット、レイスなどと呼ばれるものの総称と言うのが近いでしょう。大量の魔力が地形などの都合で一か所に集まり、何かしらの切っ掛けで自我のような物を得たものとされています。普通の剣や槍が通じない厄介な魔物です」

実在はしているし、知られても居るらしい。

グロリベス森林でワタシが会った事が無いのは……条件を満たす地形が無いのと、こんな魔力の塊があそこに居ても、霞を食うように他の魔物に食べられてしまうからなのだろう。憶測でしかないが。

しかし、相手が魔力の塊だと言うのなら……まあ、対処法はそれなりにあるか。

「宮廷魔術師様。此処の処理は私に任せていただけませんか?」

「え?」

ワタシは倉庫内の悪霊とやらに対処するための魔術を考え始める。

が、それを遮るようにサキさんが手を挙げて、申し出る。

「ここは『聖アンザンシ教会』。かつて居たトリニティアイの名を冠した神聖なる教会であり、トリニア教が所有、管理する建物です。そこに悪霊が出たならば、対処するのは管理者である我々の役目でございますので」

「……」

まあ、制度とか建前とか道理とかで話をするなら、その通りなのかもしれない。

だがサキさん……修道女に任せて大丈夫なのだろうか?

ワタシは思わずサキさんに訝しむような目を向けてしまう。

そんなワタシに対して声を掛けてきたのはジャン様だった。

「あー、ミーメ嬢。上の修道士たちならともかく、サキなら大丈夫だ」

「そうなのですか?」

「詳細は今は省くが、二年前までは王城の魔術師団に所属していた魔術師で、しかも精鋭の部類だった。あの頃から腕が鈍っていないのなら、今この距離でヤバさを感じない程度の魔物なら大丈夫だろ」

「勿論、鈍ってなどいません。むしろ、あの頃より研ぎ澄ましているくらいです。ジャン隊長」

ジャン様の言葉を応じるように、サキさんは頭を下げると、先ほどの浄化の儀式でも使っていた紐を手に巻き付けて、その先……トリニア教のシンボルが描かれた金属板を錘としてユラリと提げる。

その動きは堂に入った物で、彼女の実力の程を窺わせる物だった。

しかし二年前……ジャン隊長……そう言う事だろうか?

うん、気になるけれど、その辺は後回しでいいか。

今はそれよりもだ。

「分かりました。でも闇人間は鍵開けと相手の拘束の為に出します。こんな事で怪我人の類を出したり、倉庫の中を荒らしたりするのは馬鹿らしいので」

「感謝いたします。それだけのご支援をいただければ十分です」

倉庫の中の悪霊をどうにかする方が先決である。

と言うわけで、ワタシは闇人間を複数体出して、その内の一体はサキさんから地下倉庫の鍵を受け取らせる。

「では、開けます」

そして解錠。

鍵を外し、扉を開け、地下倉庫の中……暗闇に満たされた空間を視界に収める。

「アレが悪霊」

「あの姿は……」

「人型……まあ、人から人への呪いを切っ掛けとしていれば、当然の姿か」

「そうでございますね。醜いとも言えそうですが」

その空間の天井近くにそれは居た。

倉庫内に滞留している魔力を吸い込み、取り込み続ける事で、己の存在を保持していた。

全身が半透明のそれ……悪霊は顔は老人のようであったが、手足は筋張っていて、力強く空中を握り締めていた。

『……』

悪霊が倉庫の外から差し込む光に気づき、続けてワタシたちに気づく。

その眼光は生への渇望、執着心、害意に満ち溢れたものであり、正気は一切感じ取れなかった。

『ーーーーー~~~~~!!』

悪霊が吠えながらワタシたちの方へと向かってくる。

うん、これは魔物だ。

姿かたちこそ人間ではあるが、少なくともワタシの『人間』属性はこれを人間と捉えなかったし、ワタシもそうでは無いと思った。

反射的にそう思えてしまうほどに、悪霊の動きは人間離れした、獣のような動きだった。

なんにせよ、その動きは急いで止めなければならない。

「行け、闇人間!」

『ーーー!?』

ワタシは複数の闇人間を向かわせ、悪霊に掴みかからせる。

あちらが霊なら、こちらは闇。

闇に本来実体など無いのだから、同じく実体がない霊も掴めるし、空を踏み締める事も出来ると言う理屈だ。

ただ、悪霊を掴んだ感覚は……今までに感じた事がない不思議な物だった。

近い物を挙げるならば、半端に空気が入った風船、ぬるぬるのウナギ、と言ったところだろうか。

間違いなく掴んでいて、抑え込んでいるのに、上手く掴めていないようにも感じるものだった。

しかし、悪霊が魔力の塊と言うのも正しいらしい。

大量の魔力が魔力だけで肉を構成し、思考を形成し、意思を有している。

確かにこれだと、普通の剣や槍では破壊出来る体が無いのだから、効果は薄そうだ。

今までのワタシの経験から類例を挙げるのなら、肉の体を取り戻す前のノスタの魔物が近いかもしれない。

つまり、核となっている何かを壊せれば、それで霧散して、死を迎えると言う事だ。

いや、と言うか、そもそもとしてこの悪霊は本当に自然発生した物なのだろうか?

何処か作られたような……。

そこまでワタシの考えが及んだ時だった。

「『ペインインパクト』!」

『ーーーーー!?』

サキさんが手にした紐を鞭のように扱い、トリニア教のシンボルを悪霊の顔面に叩きつけ、そこへ更に精神属性魔術を行使する事で、ただの一撃で以って悪霊を霧散させてみせた。

何時踏み込んだのか、詠唱したのか、武器を振るったのかも分からず、悪霊を拘束する闇人間には掠らせもしない。見事としか言いようのない一撃だった。

「宮廷魔術師様。拘束ありがとうございます。おかげさまで、簡単に払う事が出来ました」

サキさんはそう言うと、悪霊に叩きつけたシンボルを手元に戻し、懐に収める。

その動きに淀みは無く、サキさんにとって慣れ親しんだものである事を窺わせる。

なるほど、悪霊が魔力だけで……もっと言えば魔術だけで全てをどうにかしていた以上、精神属性魔術は特効的な作用を有していたのだろう。

だから、一撃で倒せたのだと思う。

「それでは、倉庫の中をご案内いたします。とは言え、見て価値がある物はそう多くは無いと思いますが」

「あー、はい。お願いします」

「……」

サキさんが倉庫の入り口にまで戻って来て、照明のスイッチを入れる。

倉庫の中は……意外と呪われた品が少ないようだった。