軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

113:儀式魔術-浄化

「すぅ……。心よ。信ずる心よ。我らを繋ぎ給え。『コネクト』」

修道士・修道女の数は合計六人。

彼らはサキさんが持っていた紐を握りつつ、呪われた品を囲むように魔法陣の所定の位置で跪く。

そして、サキさんが精神魔術を発動。

恐らくだが、紐を握っていた人の心の表層部と魔力を繋げて、調子を合わせやすくしたのだと思う。

つまり、サキさんは精神属性の魔術師としては非常に珍しく、きちんと精神属性の魔術を学び、正しく扱う事が出来る魔術師であるらしい。

話を戻して。何故この場でサキさんが精神共有とでも言うべき魔術を使ったかと言えば……。

これから使う魔術が、一人では発動させるのが困難な魔術だからだろう。

儀式魔術。だったか。

複数人が綿密な打ち合わせの上で協力して行使する事で、一人では実現不可能な規模の魔術を行使できるようにした技術。

特殊な技術なので、概要はともかく、詳細については王城だと魔術師団でも極一部の人間しか学んでいないそうだ。

「1……2……1……2……」

そんなワタシの感想はさておき。

サキさんがリズムを刻み、他の修道士と修道女も同じようにリズムを刻み……動き出す。

おおトリニアよ。我らがトリニアよ。目を覚ましたまえ。

おおトリニアよ。我らがトリニアよ。瞼を上げたまえ。

おおトリニアよ。我らがトリニアよ。瞳を向けたまえ。

大いなるトリニアよ。慈悲深きトリニアよ。どうか見て欲しい。

そこに在りしは 魔酔い(迷い) 児。行き場無き人の心。

罪より産まれど罪は無き子。無明に在りし嬰児。

大いなるトリニアよ。優しきトリニアよ。見たならば考えて欲しい。

彼は本当に無明に在るべき子であろうか?

どうか救ってあげて欲しい。どうか誘って欲しい。どうか導いて欲しい。

御身が御許まで。

大いなるトリニアよ。トリニアよ。トリニアよ……。

我らが魔の片鱗を持たせて送り出すから、どうかすくい上げておくれ。

光満ちるかの地まで。

貴方様の深き深き慈悲を、お見せくださいませ。

ピュリフィカ

「歌、ですか」

「そうですね。今行われているのは儀式魔術の一種です。行使の為には意思の統一も、魔力の統一も必要です。それを効率よく合わせようと思うのならば、歌は適切でしょう」

それは歌だった。

歌声が部屋の中に響き渡る。

歌に合わせて、六人の修道士・修道女の間で魔力が循環し、魔術が形成されていく。

魔法陣が光り輝き、修道士たちの身体から光のように輝く魔力が湧き立って、天井へ……その先の天へと魔力が昇っていく。

そうして昇っていく魔力に釣られるように、呪われた品からも魔力が引き出されて、立ち昇っていく。

光の魔力と呪いの魔力が交わって、光によって浄化されるように、分解されるように、消えていく。

分解はやがて呪われた品そのものにまで及び、崩れ落ちて砂と化していく。

やがて、呪われた品は完全に砂となり……。

「儀式……完了です」

それを確認したサキさんの言葉と共に、魔法陣から光は失われ、修道女たちはその場で精魂尽き果てたように倒れ、脱力した。

「その、大丈夫ですか」

「ご安心ください宮廷魔術師様。これくらいはいつもの事ですので」

「……」

サキさんがそう言う中で、ワタシは修道女の一人へと視線を向ける。

彼女はワタシを心配させないように笑顔を浮かべながら、軽く手を振って見せる。

どうやら本当にいつも通りのようではあるが……。

「浄化の儀式は、トリニア教に伝わっている儀式の中でも負担が大きい部類のものなのです。私の魔術によって意識の統一を図り、消費を抑えるようにしても、なお、です」

「……」

口を出すべきだろうか?

いや、宗教や伝統と言った部分に安易に口を出すのは非常に危険な事だ。

言いたい事は色々とあるが、少なくとも今この場では口にするべきではないだろう。

「後はこちらの灰を当教会の地下倉庫に収めるか、お持ち帰りいただいた後に陽が良く当たる場所に埋めていただくか。そのいずれかになります」

サキさんは手早く灰を集めると、予め用意されていたらしい壺に灰を収める。

今回は……埋めることになるので、ジャン様が受け取り、きちんと蓋を閉めて固定した上で、鞄に戻している。

「では皆さまは外へ」

「えーと」

「出ましょう。ミーメ嬢。修道士たちもあのような姿を見られ続けたくはないでしょうから」

「あ、はい」

ワタシたちはサキさんと共に部屋の外に出る。

ヘルムス様が小声で話した内容はその通りと言えばその通りなので、頷く他ない。

「それでは皆様はこちらで暫しお待ちください。地下に入るための鍵を持って来ますので」

で、待合室のような場所へと移動。

そこでワタシたちだけで少しの間待つことになった。

「さてミーメ嬢。教会の浄化の儀式を見てどう思いましたか? 私としては素晴らしい魔術だと思ったのですが」

「そうですね……素晴らしい魔術だとは思います。ただ同時に無駄……とは少し違いますね。適性のそぐわなさは感じました」

「ふむ。適性ですか」

ヘルムス様が先ほどの浄化の儀式について尋ねてきたので、ワタシは率直かつ端的に返す。

実際、悪い魔術では無いと思う。

浄化作用は光属性だけで、精神属性はほぼ補助しかしておらず、属性複合による効果向上は殆ど起きていないと言っていいだろう。

だが、複数人の浄化を合わせる事によって、第一属性の人間一人では不可能な規模の現象を起こし、呪いは実際に浄化された。

しかも、完全に魔力まで分解されて、絶対に再利用されないような形で。恐らくは呪いならば抵抗も出来ない形で。

正直なところ、浄化と言うよりは成仏と言った方が正しいようにも思える。

だからこそ惜しい。

たぶんだが、この浄化儀式が本来想定しているのは、もっと大規模な物……土地そのものだとか、もっと大量の呪いだとか、そう言うものだ。

少なくとも、人ひとりが鞄に三つまとめて持ち歩けるような大きさと呪いの品に使うような代物では無い。

その程度の物に使うには、あまりにも規模と消耗が大きいように思える。

うーん、サキさんに他の浄化と言うか、呪いに関わる儀式魔術が無いかは確認した方が良いかもしれない。

少なくとも、対人向けの儀式はあるはずなんだし。

「ちなみにミーメ嬢なら今回の品に関わっている呪いはどれぐらいで解除できますか?」

「あの程度ならほんの数秒ですね。引き抜いて、破壊して、それで終わりです。が、ワタシのこれは呪いを解除するだけですから。先ほどの儀式とはたぶん細かい部分で色々と別ですね」

「なるほど」

頷くヘルムス様の顔は珍しく何処か納得していないようだった。

ヘルムス様はサキさんに対しても仮面のような笑顔で応じていたし……トリニア教相手だと、もしかしなくても色々とあるのかもしれない。

ただ、期待に沿えないようで悪いが。

ワタシは自分の魔術に絶対の自信は持っている。

持っているが故に、自分が扱っている物とは系統や詳細が異なり、正しく評価できているとは限らない魔術については、それなりの敬意と慎重さを持って応じるべきだと思う。

なので、これで正解だろう。

うーん、ちょっと事情を聴いておこうか。

「ところでヘルムス様……」

「宮廷魔術師の皆様。地下の鍵を持ってまいりました」

「……」

「お話のお邪魔をしてしまいましたか?」

「いえ、問題ありません」

と思ったのだが、その前にサキさんが来てしまった。

その手には金属製の鍵が握られている。

「ヘルムス様。後で話をしましょう」

「分かりました」

「……。では、ご案内いたします」

まあ、急ぎではないし、この場でする事でもないか。

と言うわけで、ワタシたちはサキさんの案内で地下倉庫とやらへ向かった。