軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

闇と剣王祭【十三】

先鋒戦を見事勝利で飾った俺は、重たい体を引きずって舞台を降りた。

すると、

「す、凄いわ、アレンくん……っ! まさかあの『神童』イドラ=ルクスマリアを倒すなんて……っ!」

「やるじゃないか! この私と肩を並べているんじゃないか!?」

「いや、どう考えても私らより格上なんですけど……」

興奮した様子の会長たちは、早足に駆け寄って来た。

「ありがとうございます。苦しい戦いでしたが、なんとか勝つことができました」

四人でそんな会話をしていると――会長は何かを思い出したようにハッと口に手を当てた。

「あっ、ごめんなさい……っ。話の前に治療が先だったわね……っ」

彼女が医務室の方へ足を向けたそのとき。

「……いや、その必要は無いぞ」

リリム先輩は、俺の体をジッと見ながらそう言った。

「二人とも、アレンくんの体をよく見てみろ。――もう傷が塞がりかけているぞ?」

「「「え?」」」

俺たち三人は同時に声を挙げた。

「そんなわけ……っ。う、嘘……っ!?」

「……も、もう治り始めているんですけど!?」

「ほ、ほんとだ……」

胸にあったはずの深い太刀傷は、もうほとんど塞がっていた。

血も完全に止まっており、まるで数日前に負った傷のようだった。

「あ、アレンくん……。あなた、本当に人間なの……?」

「あの身体能力にこの回復力――完全に人間を辞めてないか……?」

「むしろ『人間じゃない』と言ってもらった方が、納得できるレベルなんですけど……」

「あ、あはは……。冗談はよしてください、どこからどう見ても普通の人間じゃないですか」

そうして俺が苦笑いを浮かべると、

「むむむ……っ。それにしても、やっぱりいい体をしているわね……」

「どれ……ほぅっ! これは弾力のあるいい筋肉だなっ! よくぞここまで鍛え上げたものだ!」

「……触り心地、けっこういい感じなんですけど」

会長たちはそう言って、細い指を俺の胸筋や腹筋に走らせた。

「せ、先輩……っ。く、くすぐったいですよ……っ!」

俺がなんとか笑いを 堪(こら) えていると、

「――さて! 壮絶な先鋒戦が幕を閉じたところで、そろそろ次鋒戦へと参りましょうか!」

イドラさんが医務室へ搬送され、実況解説が大声で剣王祭を再開させた。

それと同時に、先ほどの一戦で温まった観客は大いに沸き上がる。

「いよっし――次は私だな! アレンくんが作ってくれたこの最高の流れを――決して無駄にはしないぞ!」

「頑張ってください、リリム先輩!」

「リリム、負けたら承知しないわよ!」

「責任重大なんですけど……」

俺たちの声援を受けた彼女は、

「ふふっ……あぁ、任せておけ!」

こちらに向けてグッと親指を突き立て、気力に満ちた表情で次鋒戦へと向かった。

その後、次鋒戦・中堅戦と続けて 執(と) り行われたが……。

リリム先輩とフェリス先輩は、共に敗北。

白百合女学院の層は厚く、次鋒・中堅を任された剣士も凄まじい腕前だった。

そうして始まった副将戦。

会長は『アークストリア』の名に恥じない、立派な戦いぶりで見事勝利をもぎ取った。

これで結果は二勝二敗。

勝負の行方は大将戦に持ち越された。

しかし、

(ここまで、か……)

肝心の『大将』――生徒会副会長セバス=チャンドラーさんは、ここにはいない。

セバスさんは神聖ローネリア帝国へ旅立ったきり、行方不明となっているのだ。

だから俺たちは、大将戦にもつれ込む前に何としても勝負を決めなければならなかった。

「さぁ、それではこれより――千刃学院対白百合女学院の『大将戦』を行います!」

実況解説が大将戦の開幕を宣言する。

「千刃学院が大将――セバス=チャンドラー選手! 手元の情報によりますと――セバス選手は、千刃学院の生徒会副会長! さらにその実力は、先ほど凄まじい戦いを披露したシィ=アークストリア選手を越えるとのことです!」

高らかにセバスさんの紹介文が読み上げられたが……。

当然、舞台へ上がるものは誰もいない。

なんとも言えぬ沈黙が会場を包み込む。

「……お、おや? せ、セバス=チャンドラー選手! どうぞ舞台へお上がりください!」

実況解説がもう一度アナウンスを行ったが、通りのいい声が 木霊(こだま) のように響くだけだった。

「か、会長……。これはもう……」

「えぇ、棄権するしかないわね……」

彼女が千刃学院を代表して、剣王祭実行委員へ声を掛けたそのとき――舞台の遥か上を一台の小型ジェットが通過した。

すると、

「う……ぉおおおおおおおおっ!?」

ボロボロの服に身を包んだ一人の男が、凄まじい速度で落下してきた。

(なっ!? み、身投げか!? あの高さ、助からないぞ……っ!?)

重力に引かれて落下速度はみるみるうちに上昇していき、

「が、は……っ!?」

謎の男はその全身を石畳へと叩き付け、舞台の中央に巨大なクレーターが生まれた。

突然の事態に会場はシンと静まり返る。

そして、

「……ふぅ、危ない危ない。まさかパラシュートが開かないとは……。もう少しで怪我をするところだったぞ……」

謎の男はまるで何事も無かったかのように立ち上がり、服に付いた砂埃を払った。

(な、なんて人だ……っ!?)

数百メートルもの高さから落下し――無傷。

夏合宿時のレイア先生や十八号さんを思い起こさせる頑強さだ。

そうして彼の体をジッと見ていた俺は――驚愕に目を見開いた。

(あの黒い 外套(がいとう) は、黒の組織か……っ!?)

彼が身に纏っていたのは、黒の組織が着用する例の黒い外套だった。

(くそっ、狙いはリアか……っ!?)

俺が咄嗟に剣を引き抜こうとしたそのとき。

「――せ、セバス!? あなたどうして空から!?」

両手を口に当て、目をまん丸くした会長が声をあげた。

それに続いて、

「遅いぞ、セバス! 死んじまったかと思ったじゃないか!」

「……四か月の行方不明は、割とシャレにならないんですけど」

リリム先輩とフェリス先輩が、どこか親し気な空気を漂わせながら口を開いた。

(こ、この人が副会長のセバスさん……!?)

セバス=チャンドラー。

茶色く染められた、まっさらなストレートヘア。

どこか柔和な印象を抱かせる優しい顔つき。

身長はほとんど俺と同じぐらいであり、何故か黒の組織の外套をその身に纏っていた。

「あぁ、今日はなんてついてるんだ……っ! まさか降り立ったその場所に、愛しの会長がいらっしゃるなんて……っ! これはまさか……運命っ!?」

セバスさんは、リリム先輩とフェリス先輩に目もくれず――会長の前に 跪(ひざまず) いた。

……これまたかなり癖の強い人のようだ。

「もぅ、遅いじゃない! いったいどこで道草していたの!」

まるでお姉さんのように会長がそう問い詰めると、

「す、すみません……っ! ここから泳いで密入国には、成功したんですが……。掘れども掘れども見つからず、そのうえ黒い外套を纏った貧弱な集団に襲われ、帰りが遅くなってしまいました……っ。 あなたの(・・・・) 騎士(・・) として、あるまじき失態です……っ」

セバスさんは強く歯を食いしばり、悔しそうに舞台を殴り付けた。

どうやら彼は、会長に恋をしているようだった。

「うんうん、事情はわかったけれど……勝手に私の騎士にならないでね?」

しかし、彼女に『その気』は無いようで、セバスさんの熱い想いを右から左へ受け流した。

「それで……見つかった?」

「はい、もちろんです! どうぞご覧ください!」

そう言ってセバスさんは、懐から握りこぶし大の鉱石を二つ取り出した。

「神聖ローネリア帝国――その地下深くでのみ採掘される超希少な鉱石、ブラッドダイヤです!」

(ほ、本当に取ってきたのか……っ!?)

俺が驚愕に目を見開いていると、会長は満面の笑みを浮かべた。

「わぁ、綺麗……っ! ありがとう、セバス……っ!」

「も、もったいなきお言葉……っ!」

会長から感謝の言葉を受け取ったセバスさんは、とても幸せそうだった。

(ど、どう見ても手のひらで転がされているけど……。本人がいいならそれでいい……のか?)

俺がそんなことを思っていると、

「さてと……それじゃセバス、いよいよあなたの番よ! 白百合女学院の『大将』を倒してちょうだい!」

会長はそう言って、かなり難しいオーダーを出した。

「僕の番ですか……? よくわかりませんが、会長が望むのであれば――倒しましょう! その大将とやらを!」

そう言ってセバスさんは、意気揚々と腰に差した一本の剣を引き抜いた。

それは遠目から見てもわかるほどに錆び付いており、あまりに頼りない一振りだ。

すると、

「な、なんという派手な登場でしょうか!? 剣王祭史上、これほど目を引く登場の仕方があっただろうかぁっ!?」

事情を知らない実況解説が 煽(あお) り、観客席は大いに盛り上がった。

どうやらさっきの一幕は、『パフォーマンス』として受け取られたようだ。

「さてさて会場を盛り上げたセバス選手に対するは、白百合女学院が大将――リリィ=ゴンザレス選手! その流派は、圧倒的な破壊力が自慢の金剛流! 恐らくこの世代最強の『腕力』を誇る白百合女学院の 女傑(じょけつ) です!」

紹介を受けた一人の女生徒が、ゆっくりと舞台へ上がった。

(で、でかい……っ!?)

リリィ=ゴンザレス。

ポーラさんを一回り小さくしたような――熊の如き巨体。

短く刈り上げられた金髪。

堀の深い 精悍(せいかん) な顔つき。

その澄んだ瞳には、強い自信の色がありありと浮かんでいた。

彼女がとてつもなく優れた剣士であることは、一目ではっきりとわかった。

「両者、準備はよろしいでしょうか!? それでは――始め!」

試合開始と同時に、リリィさんは魂装を展開した。

「ぶちかませ――< 虚無の衝突(ボイド・クラッシュ) >ッ!」

二メートルを越える巨大な大剣が、何も無い空間を割いて出現した次の瞬間。

「金剛流―― 破岩斬(はがんざん) ッ!」

一瞬で間合いを詰めたリリィさんは、大上段からの強烈な一撃を振り下ろした。

しかし、

「――遅い」

彼女の魂装は、セバスさんの放った 一撃(・・) のもとに砕け散った。

「馬鹿、な……っ」

それと同時に――リリィさんはゆっくりと意識を手放した。

(は、速い……っ!?)

セバスさんの『一撃』は、まさに目にも止まらぬ連撃だった。

(二十、いや……三十を超えるか……っ!?)

しかも魂装を破壊するだけにとどまらず、リリィさんの意識を狩る斬撃まで放ってみせた。

(……強い)

純粋な剣術なら、確かにあの会長すら上回るだろう。

「り、リリィ=ゴンザレス選手戦闘不能! よって勝者、セバス=チャンドラー選手ですっ!」

実況解説が勝敗を高らかに宣言し――その衝撃的な結末に会場は騒然となった。

そんな中、

「ところで会長―― 彼(・) はいったい誰ですか? 見たところ、うちの生徒のようですが……」

一瞬で試合を終わらせたセバスさんは、俺の制服を見ながら会長へそう問い掛けた。

「……へぇ、あなたが他人を気にするなんて珍しいわね。理由を聞かせてもらえるかしら?」

「それはもう…… 超弩級(ちょうどきゅう) の『人外』がうちの制服を着ているのですから、気になって当然ですよ。……しかし、いったいどこで見つけて来たんですか? まさにただただ大きな力の塊――こんな『化物』、そうそういるものじゃありませんよ」

セバスさんはそう言って、恐れと警戒の入り混じった視線をこちらへ向けた。

(じ、『人外』に『化物』って……)

まだ自己紹介すらしていないのに、とんでもない言われようだった……。