軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

闇と剣王祭【七】

無事に初戦を制した俺は――舞台袖で見守ってくれていた会長たちの元へ戻った。

すると、

「さっすがアレンくん、見事なものね!」

「素晴らしい前蹴りだったな! 惚れ惚れしたぜ!」

「お疲れ様なんですけど……」

彼女たちはそう言って、俺の勝利を手放しに喜んでくれた。

「ありがとうございます」

笑顔でそう返事をしてから、観客席の方へ視線を送ると――ばっちりリアと目が合った。

大きな声でずっと応援してくれていたリアに手を振ると、彼女は大輪の花のような笑顔を浮かべた。

そうこうしていると、実況解説のよく通る声が響いた。

「いったい誰がこのような結果を予想したでしょうか!? アレン=ロードル、もしかすると今大会の『ダークホース』になるやもしれません……っ! ――さぁそれでは続きまして、第二戦『次鋒戦』を開始致します!」

千刃学院の次鋒は、リリム=ツオリーネ先輩だ。

「応援しています、リリム先輩!」

「アレンくんの繋いだいい流れを活かすのよ、リリム!」

「頑張って欲しいんですけど……」

「ふっふっふっ、この私に任せなさいっ!」

そう言って彼女は、意気揚々と舞台へ上がっていったのだった。

その後、リリム先輩はまるで烈火の如き攻めを見せ、危なげなく次鋒戦を制した。

そして続く中堅戦――フェリス先輩は、やや苦戦を強いられながらも何とか無事に勝利を収めた。

そうして先鋒戦・次鋒戦・中堅戦――三戦全勝を収めた俺たちは、

「剣王祭予選Aグループ――記念すべき第一戦の勝者は、五学院が一つ千刃学院です! おめでとうございます!」

無事に強豪校と評判の人狼学院との初戦を制することができた。

すると、

「やるじゃねぇか! どれもこれもいい試合だったぜ!」

「おいおい、今年はいよいよ『常勝』千刃学院の復活か!?」

観客から祝福の声と割れんばかりの拍手が送られた。

「――それでは続きまして第二戦、 日暮(ひぐれ) 学院対 霧島(きりしま) 学院の試合を行います! 千刃学院と人狼学院のみなさまは、選手控室へとお下がりください!」

それから俺たちは、実況解説の進行に従って選手控室へ向かった。

長い廊下を歩き、俺が控室の扉を開けたその瞬間。

「……っ」

控室に待機するほぼ全ての剣士が、ジッと俺のことを見つめた。

横目でこちらの様子を窺う者

品定めをするような視線をチラチラと向ける者。

隠そうともせず、真っ正面からジッと見つめる者。

(き、気のせいじゃない、よな……っ)

その異様な状況に居心地の悪さを感じていると、

「ふふっ、みんなアレンくんに興味津々ね?」

「中々鮮烈な『剣王祭デビュー』を飾ったからな! くぅー、羨ましいぜ!」

「……いや、普通に 鬱陶(うっとう) しいんですけど」

会長たちはそう言って、軽く笑い飛ばしてくれた。

「よその視線なんか気にすること無いわ。気を楽にして、次の試合に備えましょう?」

「……はい、そうですね」

そうして俺は――先輩たちといつものように楽しく話しながら、二回戦の開始を待ったのだった。

その後、俺たちは破竹の勢いでひたすら勝ちを積み重ねていった。

ほとんどの試合は先鋒・次鋒・中堅での三連勝――ストレート勝ち。

リリム先輩とフェリス先輩は、稀に敗北することもあったけれど……。

副将に控える会長がしっかりと勝利を収め――ついにAグループ予選の決勝にまでコマを進めた。

「さぁ、それではいよいよ本日最後の試合――千刃学院対 占星(せんせい) 学院の決勝戦を開始致します!」

実況解説の女性は、ここに来て一番の大声を張り上げた。

「剣王祭では各グループの上位二校が本戦へ出場するため、既に両学院ともに本戦進出を決めております。――しかし、一位で突破するか、はたまた二位で突破するか。それによってこの先は、まさに天国と地獄!」

彼女は一呼吸置くと、さらに実況を続けた。

「本戦の組分けでは、一位突破した学院は他グループの二位と! 二位突破した学院は、他グループの一位とぶつかります! つまり千刃学院も占星学院も、ここはなんとしても一位突破を目指したいところでしょう!」

剣王祭本戦の組分けを初めて耳にした俺は、

(なるほど、これは負けられないな……)

この決勝戦の『重み』をしっかりと認識した。

各グループの一位突破は、氷王学院をはじめとした『五学院』で間違いないだろう。

順当に勝ち進めば、いずれは五学院とぶつかることになる。

しかし、それは可能な限り『後』の方がいい。

(本戦では『決勝戦』を除いた四戦をたった一日でこなすことになる……)

ベスト16・ベスト8・準々決勝・準決勝の四試合。

当然ながら一戦一戦が死闘であり、体力の消耗も凄まじいだろう。

(『連戦』かつ『トーナメント』という形式上――無駄な消耗や怪我を避けるという意味で、五学院と当たるのはなるべく『後』の方が有利というわけか……)

俺がそんなことを考えていると、

「さぁ、それでは早速選手紹介へと参りましょう!」

実況解説が恒例の選手紹介へと入った。

「まずは千刃学院が先鋒――アレン=ロードル選手! なんとこれまで全戦全勝! しかも、たったの一太刀も受けず『無傷で全勝』という快挙を成し遂げた、今大会のダークホースでございます!」

そして間髪を 容(い) れずに――次の選手紹介を始めた。

「さぁお次は占星学院が先鋒――スヴェン=ロズリック選手! 柔剣(じゅうけん) 流という南部発祥の珍しい流派に所属し、アレン選手同様ここまで全戦全勝という素晴らしい戦績を残しております!」

紹介を受けた一人の剣士が、ゆっくりと舞台へ上がった。

スヴェン=ロズリック。

両サイドの長い黒髪。

三つぐらい年上と見紛うような、穏やかな顔立ち。

身長はほとんど俺と同じ、百七十センチぐらいだ。

白の生地に黄色のラインが入った――まるで貴族服のような占星学院の制服に身を包む。

舞台へ上がった彼はこちらをジッと見つめると、

「――スヴェン=ロズリックだ。一つよろしく頼む」

スッと右手を差し出して握手を求めて来た。

「こちらこそ――よろしくお願いします、スヴェンさん」

彼の右手をしっかり握り、試合前の握手を交わす。

(スヴェンさん、真っ直ぐないい目をしているな……。それに何よりとても礼儀正しい人だ……)

これは 気持ち(・・・) の(・) いい(・・) 勝負ができそうだ。

俺がそんなことを考えていると、

「君は……中々つらい学院生活を送って来たんだね……っ」

スヴェンさんは俺の右手を握り締めたまま、よくわからないことを呟いた。

「……え?」

「あぁ、すまない……。『魂装の副産物』とでも言えばいいのかな……? 私は相手の手を握ると、その人がこれまでどういった人生を送ってきたのか――それを追体験することができるんだ」

「そ、そんなことが……っ!?」

「あぁ……。例えば『グラン剣術学院』、ここは本当に 禄(ろく) でもないところだね……。こんな酷い環境で、よくぞここまで腐らずに育っ、た……っ!?」

そこまで口にしたスヴェンさんは、突然顔を真っ青にして――繋いだ右手を振り払った。

「はぁ、はぁ……っ!?」

彼は過呼吸になりながら、額に大粒の汗を浮かび上がらせた。

「こ、これは……」

もしかして……『時の牢獄』での記憶を追体験してしまったのだろうか?

(もしそうなら、それは少し申し訳ないことをしてしまったな……)

彼がいったい『何億年分』の経験をしたかは、わからないけれど……。

この反応を見るにとてつもなく、苦しい思いをしたのだろう……。

(……しまったな)

能力を聞かされた時に一言断っておくべきだった……。

「あの……スヴェンさん、大丈夫ですか……?」

そうして俺が、顔面蒼白となった彼の元へ近付くと、

「ひ、ひぃ……っ!? く、来るな……『化物』め……っ!」

彼はそう言って舞台から飛び降り――控室の方へ猛然と走り去っていった。

「え、えぇー……」

一人舞台に残された俺が呆然としていると、

「……い、いったい何があったというのでしょうか!? アレン選手と握手をしていたスヴェン選手が――突如逃げ出してしまいました! え、えーっと……この件につきましては、剣王祭実行委員会の判断を待ちたいと思いますので、しばらくお待ちくださいませ!」

実況解説はそう言って、一度席を外した。

「……」

一人舞台に残された俺に――数万人の視線が突き刺さった。

「……やっぱりアレン=ロードルには、何か『裏』があるぜ」

「……だな。スヴェンのあの怯えよう……。なんらかの『脅迫』を受けたと見て間違いねぇぜ」

「いいや、もしかするとスヴェンのアレは『演技』かもしれねぇぜ?」

「ど、どういうことだ……?」

「簡単な話さ……。アレン=ロードルに『取引』を持ち掛けられたのさ。『多額の金を支払う代わりに勝ちを譲れ』、とな」

「な、なるほど……っ!」

ここからでは観客のみなさんが何を話しているのか聞こえないけれど……。

なんとなく俺の悪評が広まっているような気がした。

(はぁ……。なんで俺ばっかりこんな目に……)

せっかく『気持ちのいい勝負ができる』と思っていたら……これだ。

そうして俺が大きなため息をついていると、

「――大変お待たせ致しました! えー……審議の結果、先の先鋒戦につきましてはアレン=ロードル選手の不戦勝という裁定が下りました!」

実況解説はそう言って、俺の不戦勝を告げた。

その瞬間、会場のざわめきは一層大きなものとなった。

多分……観客のみなさんは、この結果に納得がいってないのだろう。

すると、

「――さ、さぁ! 予想外のハプニングはありましたが、気を取り直して――次鋒戦へ参りましょう!」

会場のざわめきを吹き飛ばすぐらい元気な声で、実況解説が予選を進めたのだった。

その後、占星学院との試合は熾烈を極めた。

次鋒戦は、激闘の末にリリム先輩が惜しくも敗北。

一対一と勝負が振り出しに戻ったところで――中堅戦において、フェリス先輩が強敵を相手に何とか辛勝をもぎ取った。

そして残された副将戦は、会長が危なげなくしっかりと勝利を拾った。

その結果、

「――Aグループの激闘を制したのは、五学院が一つ――千刃学院に決定いたしました! みなさま、大きな拍手をお願いします!」

俺たちはAグループ予選を一位で突破し、見事『剣王祭本戦』へとコマを進めたのだった。