軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

新勧と奇妙な集団【二】

そうして俺が大きくため息をつくと、シルティ先輩はニッコリと笑った。

「大丈夫大丈夫! この立ち合いは 魂装(こんそう) 抜きにするから!」

「……それはどうも」

……そういうことじゃないんだけど、まぁいいか。

(考えようによっては、これは良い経験だ)

剣術部の副部長と、こうして剣を交える機会なんてそうあるものじゃない。

(それに第一、シルティ先輩はあまり人の話を聞かなさそうだしな……)

早いところこの場をまとめるには、彼女と立ち会ってしまうのが一番だろう。

「ねぇねぇ、私はこの道着でやるけど……アレンくんはどうする? 道着に着替える? それともそのままやる?」

「このままで結構ですよ」

千刃学院の制服は伸縮性に優れ、そこらの道着よりもむしろ動きやすい。

彼女の問いかけも、それを理解してのものだ。

「そっか。それじゃ、はいどーぞ!」

そう言って彼女は、稽古用の木刀を一本手渡してきた。

「ありがとうございます」

そうして互いに準備が整ったところで、審判を務める生徒が声をあげた。

「これよりシルティ=ローゼット対アレン=ロードルの模擬戦を執り行います! 両者、体育館の中央へ!」

俺とシルティ先輩は、審判の言う通りに中央へと足を向ける。

「両者、準備はよろしいですね? それでは――始め!」

開始と同時に俺とシルティ先輩は、ともに正眼の構えを取った。

そして、

「……」

「……」

お互い黙り込んだまま、探り合いの時間が訪れた。

俺は先輩の体つきや佇まいから。彼女の得意とする『剣』を分析する。

(道着の上からでもわかる発達した太もも……。あの脚力から繰り出される突き、それと居合斬りには要注意だな……)

それともう一点、気になるところがある。

(……重心がやや後ろに流れている)

おそらく先輩の剣は『守りの剣』――防御を主軸に置き、カウンターを狙うものだろう。

大方の分析が終わったところで、俺は一言だけ声を掛けた。

「……先輩、来ないんですか?」

「ふふっ。後輩を相手に、試合開始から攻め立てたりはしないよ。先手はアレンくんに譲ってあげる」

「そうですか。では、行かせてもらいます。一の太刀―― 飛影(ひえい) ッ!」

間合いを詰めず、遠距離から一方的に攻撃できる便利な一撃を放った。

それを見た彼女は不敵に笑う。

「出たね、飛ぶ斬撃っ! でも――甘いよっ!」

おそらく大五聖祭で俺の戦いを見ていたのだろう。

彼女は面食らうことなく、迫り来る飛影を冷静に斬り付けた。

だけどそれは――想定の範囲内だ。

「――目くらましですよ」

「っ!?」

俺は飛影に自分の姿を隠して接近し、先輩の背後を取った。

「八の太刀―― 八咫烏(やたがらす) ッ!」

「 円心(えんしん) 流――風の円ッ!」

彼女は木刀を、円を描くように回転させて――襲い掛かる八つの斬撃を防ぎ切った。

まるで棒術を思わせるその動きはとても洗練されており、一瞬だけ見入ってしまうほどだった。

「ちょっとビックリしたけど……甘い、甘過ぎるっ! その程度の攻めじゃ、私の円心流は破れないよ!」

「どうやら、そのようですね……」

円心流か……凄いな。

まさかあの態勢不利の状況から切り返されるとは思わなかった。

きっと『守り』が得意な流派なんだろう。

(少し、面白くなってきたぞ……っ)

これまで俺が戦ってきたのは、ドドリエルやシドーさんのように『攻めの剣』を得意とする相手ばかりだった。

シルティ先輩のような『守りの剣』を相手にするのは……考えて見れば、これが初めてかもしれない。

「それでは、俺も本腰を入れて行きますね……っ」

「ふふっ、かかってきたまえっ!」

それから俺は、一足で互いの距離を詰め――あえて『素の斬撃』で攻撃をしかけた。

流派の技は使わない。

袈裟切り・ 唐竹(からたけ) ・切り上げ・切り下ろし・突き――基本的な剣術のみで攻め立てた。

(円心流に八咫烏のような同時の斬撃が通用しないのは、さっきの一幕で明らかだ……っ)

きっとまた『風の円』によって防がれてしまうだろう。

それならば、より速く、より重く、より鋭く。

研ぎ澄まされた一撃を連続で繰り出せばいい……っ!

「――しっ!」

「わっ、ちょ、早っ、待っ……っ!?」

連撃に次ぐ連撃で、少しずつ先輩の構えを乱す。

そして一瞬の隙が生まれたところへ、

「はっ!」

狙いすました突きを繰り出した。

だが、

「ひゃ……っ!? あ、危な……っ!?」

寸でのところで、彼女の木刀に防がれてしまった。

「……っ」

今のは、惜しかった。

ギリギリで反応されてしまったが、俺の突きが後コンマ一秒早ければ……きっと彼女の肩を射抜けただろう。

だけど、次は行ける。

次なら――崩せるっ!

そうして俺が前傾姿勢を取ったところで――彼女が口を開いた。

「ね、ねぇ、アレンくん……っ!? もしかしてあのときは、手を抜いてた……っ!?」

あのとき――おそらくだが、シドーさんと戦ったときのことだろう。

「いいえ、俺はいつでも全力ですよ」

「前に見たよりも、かなり速くなってる気がするんだけど……っ!?」

「そうですか? それは嬉しいですね」

他の人から成長を褒められるのは……素直に嬉しい。

もっと頑張ろうという気になるものだ。

「では、行きますよ」

「……っ」

俺が半歩前ににじり寄ると――彼女は重心を落とし、完全防御態勢を取った。

(……ありがたいな)

あそこまで守りの構えを取ってくれるなら、カウンターを警戒する必要が無くなる。

つまり――これまで以上に攻めに集中することができるっ!

「――はぁっ!」

「くぅ……っ」

踏み込みと同時に切り下ろしを放ち、先輩はそれをしっかりと木刀で受け止めた。

その後、カウンターの脅威が無くなった俺は、今まで以上に前へ前へと斬り掛かった。

「はぁあああああっ!」

「ちょ、ちょっと待った……っ! ま、待った待った待ったぁっ!?」

彼女は何度もそう言いながら、必死に俺の剣を 捌(さば) いた。

「なんですか?」

攻め手を一切に緩めず、一応の返答を返した。

「ちょ、ちょっと待って! お願いだから、ちょっとだけ考える時間をっ! 作戦タイムをちょうだいっ!?」

さ、作戦タイム……?

(戦闘中に考える時間、か……)

これが決闘ならば、そんな馬鹿な話は一蹴するところだけど……。

今回のこれはただの模擬戦だし、まぁいいか。

「はぁ、わかりました……。ちょっとだけですよ……」

「あ、ありがとう……っ!」

そう言って彼女は一歩二歩三歩と下がり、俺との距離を取った。

だがそれは――最悪の判断だった。

「あっ、先輩そこは……っ」

彼女が移動した先にあったのは、

「えっ……? へばっ!?」

打ち合いの最中に仕込んでいた二の太刀 朧月(おぼろづき) 。

そのうちの一つが、先輩の後頭部を正確に射抜いた。

「は、ぅ……?」

意識の外からの 痛烈な一撃(クリーンヒット) を受けた彼女は――白目を剥いて気絶した。

(な、なんて運の悪い人なんだ……っ!?)

俺がこの広い体育館に仕込めた朧月は、たったの三つ。

わざわざそこへ向かって、距離を取らなくてもいいだろうに……。

呆然として、意識を失った先輩を見ていると、

「ふ、副部長っ!? いったい何があったんですかっ!?」

「……斬撃だっ! よく見ろ、他にも仕込まれてるぞっ!」

「くっ、担架だ……急げっ!」

剣術部の部員たちが、慌てて担架を運んできた。

「しょ、勝者っ! アレン=ロードルッ!」

体育館が一時騒然となる中、審判は試合の結果をそう宣言した。

部員たちがシルティ先輩を保健室へ運んでいくのを横目に見ながら、

「とりあえず……教室に戻ろうか」

「そ、そうね」

「うん、そうしよう」

俺たち三人は教室に戻ることにしたのだった。

「ふぅ……」

A組の教室に戻った俺は、ようやく一息つくことができた。

「おつかれさま、アレン。災難だったね」

「大変だったね」

「あはは、まぁ良い経験になったよ」

『守りの剣』の崩し方、何となくだけど掴めたような気がする。

それから話は本題に――どこの部に入るかへと移った。

「それで、アレンはどこにするか決めた?」

「どう?」

リアとローズは、同時にこちらへ問いかけてきた。

「うーん……」

今日見て回った全ての部を、じっくりと思い返す。

そうして、

「……俺は入らないかなぁ」

一つの決断を下した。

「それって……無所属になるってこと?」

「うん、無理して入る必要も無いかなって思ってさ」

学生生活の醍醐味として、部活動には入ってみたかったけど……。

これだ! としっくりくるところが無かった。

(唯一気になっていた剣術部も、ちょっと違ったしな……)

無理して入るくらいならばいっそ、無所属でもいいかなと思ったのだ。

すると、

「そっか……」

「残念……」

何故かリアとローズは、二人して肩を落とした。

「……」

「……」

「……」

二人が難しい顔をして黙り込んでしまったので、会話の流れがピタリと止まる。

(えっ……これは俺が悪い、のか?)

その後、何とかこの沈黙を破るべく、俺が新たな話題を考えていると、

「……っ! ねぇ、それならいっそのこと、新しく部を立ち上げるのはどうかな!?」

「っ! いいアイディアだね」

リアが突然とんでもないことを言い出し、すぐにローズが賛同した。

「ぶ、部を立ち上げる……?」

「えぇ! どうせアレンのしたいことって言ったら、素振りでしょう?」

「ま、まぁそうだけど……」

間違ってはいない、間違ってはいないが……。

その言い方だと、まるで俺が素振りにしか興味が無い『素振り人間』みたいで……少し傷ついた。

「だったら、素振りをする部を立ち上げればいいのよ!」

リアは自信満々にそう言った。

「部として認められれば、学校の敷地をある程度自由に使えるし、何より部費をもらえるわ!」

「……敷地を自由に、か」

部費については正直どうでもいいけど……。

学校の敷地をある程度自由に使えるというのは、非常に魅力的だった。

(申請を出せば、プールも使っていいのだろうか?)

水の抵抗を受けながら、剣を振るったり、体を鍛えたり――修業の幅が広がることは間違いない。

「確かに……ありかもしれないな」

「でしょっ! もちろん私も入らせてもらうわっ!」

「私も!」

「い、いいのか? 本当にただ素振りをするだけだぞ?」

「えぇ、いいわ!(アレンと一緒にいる口実ができた……っ! それも三年間もっ!)」

「問題ない!(アレンの真横で剣術を学べる……っ! それも三年間もっ!)」

リアとローズは、コクコクと首を縦に振った。

どうやら二人ともかなり『素振り欲』に飢えていたらしい。

仲間を見つけたような気がして、少し嬉しかった。

「そうと決まれば早速、手続きに入りましょう!」

「善は急げ!」

そう言って二人は教室を飛び出し――わずか三分後に戻ってきた。

リアの右手には『部活動設立申請用紙』が握られている。

「やったわ、アレン! レイアが顧問になってくれるって!」

「部として認められるために必要な人数は三人。ぴったりだね!」

「そ、そうか……ありがとう」

俺が何も手を加えない間に、話はどんどんと進んでいった。

(まぁ……本当にただ素振りをする部だし、別にいいか)

一人で素振りをするのか、みんなで素振りをするのかの違いだけだ。

それならば、部としてみんなでやった方がきっと楽しい。

俺がそんなことを考えているうちにも、『部活動設立申請用紙』の空欄はどんどん埋まっていった。

「あっ……そうだ、アレン、部の名前を決めましょう!」

「アレンに決めて欲しい」

「そうだな……。うん、シンプルに『素振り部』なんてどうだ?」

部の活動内容を明確に表した、これ以上ないほどシンプルな名前だ。

「素振り部ね、いいと思うわ」

「うん、わかりやすい」

そうして創部に向けての作業を進めていると――部を見て回っていたA組のクラスメイトたちが、ぞろぞろと戻ってきた。

「おっ、なにしてんだアレン?」

「素振り部……? なんだ、部を立ち上げんのか?」

「なにぃ、アレンが部を……!? だったら、俺は入るぜっ!」

「わ、私も入る!」

「ねぇねぇ、アレン。私、水泳部に入るつもりだったんけど……兼部ってありかな?」

その後、兼部も可にした結果、A組全員が素振り部に加入することが決まった。

こうして素振り部は、創部したてながらも部員総数三十人という異例の規模を誇り、『校庭の隅で毎日毎日黙々と剣を振り続ける奇妙な集団』として、学院中に認知されていくのだった。