軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

桜の国チェリンと七聖剣【二十四】

俺と謎の剣士は示し合わせたかのようにして、同時に駆け出した。

「――ハァッ!」

「ぬぅん!」

渾身の力を込めた斬撃がぶつかり合い、 紅(あか) い火花が舞い上がる。

緊迫した 鍔迫(つばぜ) り合いが続く中、

「はぁああああああああ!」

「ぬぉおおおおおおおお!」

互いの雄叫びが静かな島に響き渡る。

(ぐっ、なんて馬鹿力をしているんだ……!?)

腕力にはそれなりに自信があったつもりだが、 鍔迫(つばぜ) り合いの結果は互角。

(……いや。闇の力を展開してない今、わずかにこちらが押されているか……っ)

やはりこの男は、並の剣士ではないようだ。

「――ばらららら! おもしろい。おもしろいぞ、小僧! その細身で儂の 剛力(ごうりき) と張り合うとは……のぅ!」

彼は豪快に笑い、嵐のような連撃を繰り出した。

「……っ!?」

ときに 躱(かわ) し、ときにいなし、ときに受け止め――なんとか紙一重で防ぎ切る。

(ただの斬撃なのに……とんでもない威力だ……っ)

まともに防いでいるだけで、剣が叩き折られそうだった。

「どうしたどうした! 守ってばかりでは、勝負にならんぞ!?」

さらなる追撃を仕掛けんと、彼は大きく一歩踏み込んできた。

俺はその踏み込みに合わせ、

「言われなくたって、わかっている……っ! 一の太刀―― 飛影(ひえい) ッ!」

ほぼゼロ距離でカウンターの一撃を差し込んだ。

「ほぅ、 面妖(めんよう) な技を使うな!」

しかし――彼はなんとそれを左腕で握り、そのまま上から下へと押し潰した。

(嘘、だろ……!?)

確かに飛影の威力は控え目で、主に『牽制の一撃』やさっきみたく『切り返しの一手』として使用するのだが……。

まさか素手でねじ伏せられるなんて、夢にも思っていなかった。

(だったら、これでどうだ……!)

俺は重心をグッと落とし、彼の懐深くへ滑り込んだ。

「八の太刀―― 八咫烏(やたがらす) ッ!」

鋭く強靭な八つの斬撃が牙を 剥(む) く。

「一振りで八つか……悪くない!」

しかし――彼は演舞のような 流麗(りゅうれい) な 体捌(たいさば) きで、その全てを回避した。

(は、速い……!?)

二メートルを超す巨体ながら、驚くほどに俊敏な動きだ。

「そらそらそらぁ! こんなものか、小僧!」

「ぐっ!?」

そうして俺たちは『魂装』という手札を温存したまま、激しい剣戟を繰り広げた。

その後、どれくらいの時が経っただろうか。

(――よし、そろそろいけそうだな)

何度も剣を重ねるうちに、彼の無茶苦茶な腕力にも慣れてきた。

今や単純な斬り合いならば、完全に五分と五分。

ここから先は、剣術と魂装の戦いだ。

(……仕掛けるか)

俺はあえて左側に隙を作り、攻撃を誘い込む。

「――そこじゃ!」

すると狙い通り、左脇腹へ袈裟斬りが放たれた。

(ここで一気に……崩す!)

鋭利な太刀が俺の体へ接触したその瞬間、

「ハァ……ッ!」

闇の衣を一気に展開し、その刃を弾き返した。

「ぬぉ!? こ、小僧…… その(・・) 闇は(・・) ……っ!?」

突然の事態に彼は大きく目を開き、わずかによろめいた。

俺はその一瞬の隙を見逃さず、

「七の太刀―― 瞬閃(しゅんせん) ッ!」

最高最速の居合斬りで仕留めにかかった。

完璧な崩しから放った最速の斬撃。

(よし、入った……!)

確かな手応えを掴んだ次の瞬間、

「桜華一刀流―― 雷桜(らいおう) 」

雷鳴の如き一閃が走り、たちまちのうちに瞬閃をかき消した。

(は、 速過ぎる(・・・・) だろ(・・) ……っ!?)

一拍以上も遅れたあの状態から、互角のところまで持ち込まれた。

今の動きは、完全に人間の限界を超越している。

いや……注目すべきは、そこだけじゃない。

(今の あの技(・・・) は……!?)

俺が驚愕に目を見開いたそのとき、

「――お爺さま、いったい何をしているんですか!?」

鈴を転がしたような、美しい女性の叫びが響いた。

声のする方を見るとそこには――息を切らせたローズの姿があった。

その後ろには、リアや会長たちもいる。

どうやらこの剣戟の音を聞き、慌てて駆け付けてくれたようだ。

「え、えーっと……『お爺さま』……?」

呆気に取られた俺がポツリとそう呟けば、

「おぅローズ、久しぶりじゃのう! ちょっと見ぬ間に、随分とまぁ大きくなりよって!」

謎の剣士は太刀を収め、とても柔らかい笑みを浮かべた。

それを受けた彼女はがっくりと肩を落とし、大きなため息をつく。

「はぁ……。全く、どうしてアレンと斬り合っていたんですか?」

「それはお前……。これほどの霊核を秘めた剣士は、そう見られるものではないからのぅ! 『血が 滾(たぎ) った』というやつじゃ!」

「もういい年なんですから、そろそろ落ち着いてください……」

「ばらららら! 爺ちゃんの身を案じてくれるとは、ローズは本当に心の優しい子じゃのう!」

……この気の置けないやり取りに加えて、先ほど彼女が口にした『お爺さま』という言葉。

どうやらこの二人は、親族関係にあると見て間違いないようだ。

「――っと、すまないな、アレン。この人は桜華一刀流、十六代目正統継承者バッカス=バレンシア。かつて『世界最強』と呼ばれた超一流の剣士だ」

ローズがそう紹介すれば、

「ばらららら! 『かつて』ではない! 『名実ともに』世界最強の剣士だ!」

バッカスさんは豪快に笑いながら、しっかりと訂正を加えた。

「――して、小僧。我が孫娘と知り合いのようだが、名をなんというのだ?」

そう質問を投げ掛けられた俺は、

「あ、はい……自分はアレン=ロードルと言います。ローズさんとは、千刃学院で仲良くさせていただいています」

とりあえず、丁寧に自己紹介をしたのだった。