軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

入学試験とバレンタインデー【十二】

二月七日。

バレンタインデーを一週間後に控えたこの日、生徒会室の机に突っ伏したシィ=アークストリアは大きなため息をつく。

「はぁ……」

時刻は十六時。

千刃学院の授業が終わり、一般の生徒はみんな部活動に精を出している頃だ。

校庭からは素振り部の掛け声が響き、暖かな夕焼けが窓から注ぎ込む。

(うぅ、どうしよう……。もう後一週間しかないわ……)

シィはその美しい黒髪を指でいじりながら、 焦燥感(しょうそうかん) に心を焼かれていた。

決戦の日『バレンタインデー』に備え、それとなくアレン=ロードルの好きなチョコを聞き出そうとしたのだが……。

彼の目を見たその瞬間に頭が真っ白になってしまい、最近はまともに話しすらできていなかった。

「はぁ……」

不甲斐(ふがい) ない自分に嫌気をさしながら、何度目になるかもわからないため息をついたそのとき、

「――シィ、お前はいったい何をやっているんだ!」

「そんな思い悩んでばかりじゃ、前に進めないんですけど!」

リリムとフェリスは熱くそう言って、弱気なシィを奮い立たせようとした。

しかし、

「別に……思い悩んでなんかいないわ」

アレンのことで頭がいっぱいになった彼女には、二人の言葉は届かない。

「そろそろ頃合いだ」――そう判断したリリムとフェリスは、互いに目配せをして同時にコクリと頷く。

「ふっ、隠しても無駄だぞ。好きなんだろう? アレンくんのことが」

「とっくの昔から、バレバレなんですけど?」

二人がニヤニヤとそんな質問を投げた次の瞬間、

「なっ、ななな、何を言っているの……!?」

シィは顔を真っ赤に染めながら、勢いよく立ち上がった。

「大丈夫大丈夫、誰にも言わないから……な? 正直に本当の気持ちを話してみなって。もしかしたら、力になれるかもしれないぞ?」

「こう見えて私たちは、数々の恋愛教本を読み漁った『恋のプロ』。きっと何か協力できるはずなんですけど?」

「きょ、協力しくれるの……?」

悪魔の 囁(ささや) きを聞いたシィの心は、グラリと揺れた。

(食いついた……!)

(後一押しなんですけど……!)

リリムとフェリスは「この機を逃すまい」として、とびきり人の好い笑みを浮かべる。

「おぅともさ! 大事な親友のためならば、一肌でも二肌でも脱ごうじゃないか!」

「私たちにできることならば、なんでもするつもりなんですけど……!」

そうして幼馴染から心強い申し出を受けたシィは、

(現状、私一人では完全に八方塞がり……。今やアレンくんに話し掛けるのですら、困難を極める状況に陥っているわ……。このままじゃ、きっとジリ貧になるだけ……よね……)

十分に思考を巡らせたうえで、断固たる覚悟を決めた。

「二人の言う通り、確かに私はアレンくんのことが好きよ……!」

彼女はその白い肌を耳まで真っ赤に染めながら、大きな声でそう叫んだ。

「ふっ、ようやく認めたか。よし――それではこれより、『アレンくん攻略会議』を開始する!」

リリムが高らかに宣言し、フェリスは隠し持っていたクラッカーを鳴らした。

それから三人は素早くいつもの席に着き、早速会議を始める。

「なぁ、シィよ。一応聞いておきたいんだが……。最近の見るからに挙動不審な『あの態度』は、いったいどうしたんだ?」

「アレンくんと目が合ったら、露骨に視線を逸らすし、近付いたらそれとなく距離を空けてる。せっかく彼が気を利かせて声を掛けてくれても、その返答はあまりにそっけない。こんなことしてたら、どんどん距離が離れていくだけなんですけど……?」

「うっ……。そ、それはその……っ」

鋭い指摘を受けたシィは、伏し目がちに返答する。

「な、なんか変に意識しちゃって……。うまく話せないのよ……」

「なるほどな。予想通りではあるが、これはかなり『重症』のようだな……」

「シィの恋愛経験値は全くのゼロ。 生娘(きむすめ) の中の生娘だから、仕方がないと言えば仕方がないんですけど……」

「「「……」」」

そうしてなんとも言えない沈黙が降りたそのとき、まるで示し合わせたかのようにリリムとフェリスが同時に立ち上がった。

「少し残酷かも知れないが……一つ、これだけははっきりと言っておこう。本人はまるで自覚がないようだが、アレンくんの人気は非常に高い。見るからに優しい感じの整った顔立ち、明るく温厚な性格、『国家戦力級』の圧倒的な力――彼にはこれだけの魅力があるんだ。他の女子が見逃すはずがない」

「もしもシィが積極的な行動を取らず、このままどんどん時間が経過すれば――まず間違いなく、アレンくんは他の誰かに取られてしまうんですけど……」

『恋のプロ』を自称するリリムとフェリスから、あまりにも無慈悲な宣告を下されたシィは、

「……っ」

顔を真っ青にして息を呑んだのだった。