軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

入学試験とバレンタインデー【十一】

不安、恐怖、 焦燥(しょうそう) ――受験生たちは、負の感情がない混ぜになった目をしていた。

(ま、マズいぞ……。すぐに事情を説明しないと……っ)

先ほどのトラブルを 傍(はた) から見た場合、『アレン=ロードル』という人間はとんでもなく情緒不安定な男に映ってしまう。

ルーの手を治療したかと思えば、次の瞬間には彼女の首を絞め出した。

さらにその数秒後には解放し、素直に謝罪の言葉を述べる。

(さすがにこの行動、サイコパスにもほどがあるぞ……っ)

何も知らない受験生たちが怖がるのは、至極当然の話だ。

俺は彼らの不安を取り除くべく、簡単に事情を説明することにした。

「みなさん、落ち着いて聞いてください。さっきのは、なんというか……。俺の霊核が少し暴走してしまったようでして……。その、申し訳ないです……」

そうして取り繕うことなく 真摯(しんし) に謝罪をしたが、

「ぼ、暴走って……」

「い、いやいや……。感情の起伏が激し過ぎるだろ……っ」

「柔和で優しい『表の顔』と 獰猛(どうもう) で暴力的な『裏の顔』……ありかも……」

この反応を見るに、あまり効果があったとは思えない。

(当の本人である俺が弁解しても効果は薄い……。ここは第三者の手を借りるしか……っ)

そうして助けを求めるように副理事長へ視線を向ければ、

「あ、あわわ……っ」

彼もまたゼオンの殺気に当てられ、腰を抜かしてしまっていた。

(これは……緊急事態だな)

俺は耳に装着した小型のトランシーバーを使い、急いでレイア先生へ連絡を回す。

「――こちらアレン。すみません、一瞬だけゼオンに体を奪われました……」

そうして端的に問題を報告すると、

「んな゛っ!?」

仕事椅子から転げ落ちたのか、ガチャンガチャンと騒々しい音が聞こえてきた。

「ど、どういうことだ!? いったい何があった!?」

「はい、実は――」

それから俺は、つい先ほど発生したトラブルを簡単に説明した。

特別試験の実施中、ルー=ロレンティという少女と剣を交えたこと。

彼女は魂装< 共依存の愛人(コンパニオン・パートナー) >を展開し、その能力は自身と対象の状態をリンクさせるものだと推測されること。

ルーがその手に小太刀を突き立てた結果、何故かその効果がゼオンに及び、ほんのわずかな切り傷を負ったこと。

それが原因で奴はぶち切れ、俺の左手の支配権を奪い取り、ルーの首をへし折ろうとしたこと。

彼女は一応無事だったが、どこかへ走り去ってしまい――そして現在受験生たちは怯え切っており、特別試験の実施が困難であること。

「なるほどな……。しかし、自身と標的をリンクさせる能力か……。これまで聞いたことのない、非常に珍しい能力だな」

先生は興味深そうにブツブツと呟く。

「――よし、とにかく事情は把握した。それで、ゼオンの状態はどうだ?」

「そう、ですね……。今はとても落ち着いているようです」

意識を魂の世界へ向ければ、そこにはざわめき一つない 静寂(せいじゃく) が広がっていた。

おそらく、あの表面がバキバキに割れた岩の上で寝ているのだろう。

「ふむ……。おそらく奴は、既にかなりの霊力を溜め込んでいるだろう。間違っても全身の支配権を奪われないよう、これまで以上に強く警戒してくれ」

「……わかりました」

ゼオンを外の世界に出してはいけない。

これは俺と先生の共通認識だ。

「ところで……特別試験の方はどうしましょうか?」

「確か受験生たちは全員、アレンを怖がっているんだったな?」

「だいたいそんな感じですね……」

チラリと彼らの方へ目を向ければ、一斉に目を 逸(そ) らされてしまった。

なんというか、少しだけ心が痛んだ……。

「ならば仕方あるまい。特別試験はそこで打ち切りして、受験生たちには通常通りの一般試験を受けさせてくれ」

「はい、わかりました」

その後、俺は特別試験を中断し、受験生たちを一般試験の会場へ誘導する。

そこから先は大きな問題が起きることもなく、淡々と試験を消化していった。

こうして途中いろいろなトラブルはあったものの……今年度の千刃学院入学試験は、無事に幕を閉じたのだった。