軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

招待状と魔族【二】

まるで嵐のような会長とロディスさんが過ぎ去り、俺の元に平穏が戻った。

「凄いわね……。私のお父さんに負けず劣らずの親バカだったわ……」

「あはは、本当だな」

リアのお父さん、グリス=ヴェステリア国王も相当な 子煩悩(こぼんのう) だったが……。

会長のお父さんもかなりのものだ。

(……いや、娘を持つ父親というのは、そういう生き物なのかもしれないな)

そうして一息ついた俺は、ゆっくり周囲を見回した。

(……本当にいろいろな人がいるな)

武士の装束を着た人。

明らかにこの国のものではない、トリコロールカラーの珍しいドレスを纏った人。

南方の狩猟民族が好む、白い大きな帽子をかぶった人。

とても 異国情緒(いこくじょうちょ) あふれる会場だった。

そうしてキョロキョロと周囲を眺めていると――明らかに浮いた衣装を着た人が、俺の目に飛び込んできた。

「あれは……クラウンさん?」

そこにいたのは、オーレスト支部の支部長クラウン=ジェスタ―さんだった。

(しかし、凄いな……)

いくらドレスコードが無いとはいえ、まさか天子様が臨席される 慶新会(けいしんかい) にいつもの派手なピエロ衣装で臨むとは……。

本当に自由奔放な人だ。

「せっかくだし、挨拶に行こうか?」

俺が一歩前へ進もうとしたそのとき、

「……ちょっと待って、クラウンさんの隣を見てちょうだい」

いつになく真剣な表情で、リアはそう呟いた。

「クラウンさんの隣……?」

視線を少し横へ移すとそこには――いつもの赤い着物に身を包んだリゼさんがいた。

「残念だけど、挨拶はまた別の機会にしましょう。『 血狐(ちぎつね) 』とは、関わるべきじゃないわ……」

リアはそう言って、小さく首を横へ振った。

(う、うーん……)

いつかレイア先生が言っていた通り、リゼさんの評判はあまりよくないようだ。

(とてもいい人なんだけどなぁ……)

俺がそんなことを思っていると、

「――おぉ、アレンくんやないか!」

こちらに気付いたリゼさんは、クラウンさんを引き連れてやってきた。

「うわっ、見つかっちゃった……っ」

リアはあからさまに顔をしかめた。

相変わらず、彼女は表情が豊かだ。

「――リゼさん、クラウンさん。新年あけましておめでとうございます」

「……あけましておめでとうございます」

俺とリアが新年の挨拶をすると、二人も同じように返してくれた。

「いやぁ、それにしても……。新年早々アレンくんに会えるなんて、えぇ一年になりそうやわぁ」

上機嫌なリゼさんは、その狐のような細い目でジッとこちらを見つめた。

「あはは。俺もリゼさんに会えてとても嬉しいですよ」

「そ、そう……? な、なんやえらい嬉しいこと言うてくれるやないの……っ」

彼女は手元の扇子で口元を隠しながら、視線をプイと横へ逸らす。

そこへ、クラウンさんがいつもの軽口を挟んだ。

「やだなぁ、リゼさんは……いったい何を本気にしてるんすか? そんなのお世辞に決まっ……はぐっ!?」

すると次の瞬間、彼は突然胸元を押さえて苦しみ始めた。

「く、クラウンさん!?」

顔を青くした彼は、首を横に振りながらリゼさんの袖を掴む。

どうやら息ができなくなっているようだ。

「なぁ、クラウン……。口は災いのもと……気ぃつけや?」

凍てつくような恐ろしい 声音(こわね) が響き、クラウンさんは何度も首を縦に振った。

するとその直後、

「――ぷはぁっ!? はぁはぁ……っ。あ、ははは……相変わらず、容赦ないっすねぇ……っ」

なんらかの『力』から解放された彼は、荒い呼吸と共に苦笑いを浮かべた。

「ふふっ、せやけど……。そうやって わざと(・・・) でも苦しんでくれるとこは……嫌いやないよ?」

「あはは……バレました?」

「当たり前や。 息が(・・) できん(・・・) ぐらいで(・・・・) 、あんたが苦しむわけないやろが」

普通、苦しむと思うけど……。

やっぱりクラウンさんは、リゼさん同様にただものではないようだ。

「実際どうでした? なかなかいい感じの演技だと思ったんすけど……?」

「うーん、三点ぐらいやなぁ」

「おっ、五点満点っすか?」

「あほ、千点満点や」

「そ、それはまた手厳しいっすねぇ……っ」

そうして二人は、楽しそうに笑っていた。

なんというか、とても独特な世界観だった。

多分リゼさんとクラウンさんは、ずっと昔からの付き合いなのだろう。

(しかし…… わから(・・・) ないな(・・・) )

さっきの現象は、リゼさんの『力』によるものと見て間違いない。

(彼女の力を見るのは、 大同商祭(だいどうしょうさい) に続いてこれで二度目だけど……)

いったいどんな能力なのか、いまだ皆目見当がつかない。

「さて――それじゃうちはこのへんで、失礼させてもらおかな」

リゼさんは扇子で手を打ち、出口の方へ視線を向けた。

「あれ、もう帰っちゃうんですか?」

「天子様にはもう挨拶したし、次の商談も控えとるさかいな。今日はもうお 暇(いとま) させてもらうわ」

彼女はそうして小さく手を振り、

「ボクもこの後、オーレスト支部で会議があるんで……ここらで帰らせてもらうっす!」

それに続いて、クラウンさんは小さくお辞儀をした。

「そうですか。お仕事、頑張ってくださいね」

「ふふっ、おおきに」

「お気遣い感謝っす!」

そうして二人はリーンガード宮殿を後にした。

すると、さっきまで押し黙っていたリアが口を開く。

「天子様の開いた式典を蹴るなんて……。なかなか太い神経をしているわね……」

「あはは。あの二人らしいな」

そうしてとにもかくにも、ようやく一息つけたところで、

「あれは……天子様?」

大勢の護衛が付いた絶世の美女が、ゆっくりこちらへ歩いてきた。

(あの顔、新聞で見たことがある……。間違いない、ウェンディ=リーンガード様だ……っ)

リーンガード皇国を治める天子――ウェンディ=リーンガード。

年齢は確か俺と同じ十五歳。

背まで伸びた、淡いピンク色の綺麗な髪。

身長はリアとちょうど同じぐらい、多分百六十五センチ前後だろう。

非の打ち所の無い完璧なスタイル。

まるで天使のような、優しい顔つき。

肩口を露出した純白のドレス。

十歳のときに先代の天子様からその地位を継承し、卓越した頭脳と恐るべき 智謀(ちぼう) を併せ持つ、リーンガード皇国随一の才女だ。

彼女はゆっくりこちらへ歩みを進め、そして――。

「あら……。あなたは、アレン=ロードル様ですね?」

俺の前でピタリとその足を止めた。

「は、はい……っ」

予想外の事態に、俺は硬い返事を返すことしかできなかった。

「ふふっ、そんなにかしこまらないでください。今日はせっかくの慶新会ですから」

「あ、ありがとうございます……っ」

そうして天子様と初めて話をしたところで、

「――ヴェステリア王国が第一王女、リア=ヴェステリアです。天子様、本日は慶新会にお招きいただきありがとうございます」

リアは王女然とした立派な立ち振る舞いで、優雅に挨拶を述べた。

「リーンガード皇国が天子、ウェンディ=リーンガードです。こちらこそ、わざわざ足をお運びいただきありがとうございます」

そうして『王女様』と『天子様』が挨拶を交わしたところで、

「――ねぇ、アレン様? もしよろしければ、少し二人っきりでお話をしませんか?」

彼女はいきなり、とんでもないことを口にした。

(じょ、冗談だろ……?)

一国の王が俺のような一般市民になんの話があるのか……。

だが、相手はこの国の頂点――天子様。

彼女からの誘いをそう易々と断るわけにはいかない。

「は、はい……っ。自分でよろしければ、是非に」

「まぁ、ありがとうございます!」

天子様は花の咲いたような微笑みを浮かべると、

「――すみません、リア様。少しの間だけ、アレン様をお借りしてもよろしいでしょうか?」

今度は申し訳なさそうな表情で、リアに向かってそう言った。

「え、えぇ、それは構いませんが……」

彼女は王女であり、いまだ王ではない。

格上である天子様からのお願いを断れるはずもなかった。

こうして俺は、何故か天子様と二人っきりで話をすることになった。

「――リア。話が終わったらすぐに戻るから、少しだけ待っていてくれ」

「う、うん……っ」

不安げな表情を浮かべるリアと別れた俺は、天子様に連れられてリーンガード宮殿の二階へ移動した。

その間、凄まじい数の好奇の視線が背中に突き刺さる。

「お、おい……っ。天子様が男と一緒に――護衛も付けずに二人っきりで歩いているぞ!?」

「ちょっと待て……っ。あいつは確か……『アレン=ロードル』だ!」

「アレン=ロードルか……。噂によれば、近頃は『闇』に手を染めているらしいぞ……。あの血狐とも深い繋がりがあるそうだ……」

「も、もうあそことパイプを繋げたのか!? なんて手が早いんだ!?」

「とにかく彼とは、関わり合いにならない方がいい……」

き、聞こえているんだよなぁ……。

どうやら俺の悪い噂は、『剣術学院』という枠を軽く越えたようだ。

多分、もう収拾をつけるのは難しいだろう。

(はぁ、どうしてこんなことに……)

俺がそんなため息をついていると、

「――さぁ、アレン様。何もない部屋ですが、どうぞお入りください」

天子様はそう言って、目の前の扉を開けた。

「あ、ありがとうございます……っ」

そうして部屋の中へ入るとそこは――ごくごく普通の客室だった。

ベッドに 箪笥(たんす) など、本当に必要最低限の調度品だけが置かれている。

「天子様、こんなところでいったい――」

そうして俺が質問を投げ掛けようとしたそのとき。

カチャリ――と、鍵のかけられる硬質な音が響いた。

(……あれ? もしかして……閉じ込められた?)

なんとなくだけど、とても嫌な予感がした。

「て、天子様……?」

そうして恐る恐る声を掛けてみると、

「――ふふっ、やっと二人っきりで話せるわね。アレン=ロードル?」

先ほどとは打って変わって、鋭い眼光と刺々しい雰囲気を放つ天子様が口角を吊り上げたのだった。