軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

101話: お兄ちゃああああああん!(泣)

望まれたシチュエーションの範囲内で、どう編集しても取り繕えないようぶち壊す!

これだ。

……できるか? 俺にそんな器用なこと。

いや、やるのだ。不快だが総司の精神を降霊!

あいつは「好きにやって来い」と言った。気に食わんが、信じてるぞ相棒!

俺が意を決したところで、大音響で響いていた歌が止んだ。

最後の曲が終わったようだ。

わーわーと、ファンからの熱い声援はまだ続いているが、それも次第に収まる。

そしてある程度落ち着いたところで、詩織がおもむろに進み出て、神妙な面持ちで話し始めた。

「あの、最後に皆さんに、聞いて欲しいことがあります」

アイドルらしく、赤や白のカラフルでキラキラな衣装に身を包む詩織。

そんな彼女の真剣な雰囲気に、観客は静まり返る。

「皆さんも知っての通り、私は昨年、両親を失いました。父は事故で、母とは……虐待で」

世間的には、詩織は俺と同様に、母からのネグレクトを受けていた事になっている。

「昨年の審判で、母は母ではなくなりました。辛かったけれど、大切な弟と、覚悟を決めて闘いました。その弟とも、今では別々の後見人の方へ身を寄せています。私の活動が忙しいこともあって、それ以来、弟とは会えていません。ですが弟はなんと、ここアメリカ基地に住んでいるんです。今日もサブステージで、素敵なバンド演奏をしていたと聞いています。もしも、もしも今日ここで、奇跡が起きるなら、見てくれているのなら……」

ここで詩織は言葉をつまらせる……フリをする。

一瞬生まれる間。

会場に流れる、お涙頂戴の雰囲気。

次に口を開いたら、詩織は俺をステージ上に呼ぶだろう。

さあ、勝負だ。

「ステージに、上がってきてくれないかな、いおr……」

だっだっだっ! だん!

「え、はや……」

作戦その一、爆速で登場。

俺は詩織が俺を読んだ直後にスタートダッシュを切り、ものの数秒でその対面に立った。

息切れも一切していない。

本当に偶然居合わせたのなら、もう少し時間がかかるし、群衆をかき分けて進んだ疲労も見られるというもの。

これにより、観客は気付くだろう。

奇跡ではなく、予定調和だと。

会場に漂っていた感慨の空気が、すこしだけ「ん?」と首をかしげたのが分かった。

そして続けざまに、行動する。

俺はきょろきょろと周囲を見まわし、ステージ袖にマイクを持って控えるスタッフを見つけた。

そして、おどおどとそちらに向かう。

作戦その二、自らマイクを受け取りに行く。

スタッフが気を利かせた風に持ってくる前に自分から受け取りに行くことで、事前に打ち合わせていた印象を植え付けるのだ。

「あ、どうも」

わざと声が乗るように礼を言ってから、スタッフからマイクを受け取り、それを握って詩織に向き直る。

詩織は、「おまっ! はええよ!」っとでも言いたげな表情をなんとかごまかすために、涙をこらえるようなしぐさで顔を隠した。

「伊織、こんなにはやく来てくれるなんて……」

まあ、”はやく”とは言っても、”早く”ではなく”速く”だけどな。

あ、スタッフがカンペ出してる。

なになに、「伊織くんも、泣いてください」。

今世紀最大の無茶ぶり!

「ひ、ひさ、久しぶり、しお……姉さん」

俺は演技と分かる程度に大根な泣きまねをしながら、わざとらしく名前を言い直す。

これも打合せを匂わせるための演技だが、単に気を遣っただけととらえられなくもないかもな。

あ、これだと塩姉さんに聞こえそうだな。

まあいいか。俺にとって塩対応な姉ではあるのだから。

さて、問題はこれからだ。

「伊織、来てくれてありがとう。あの日以来だね……」

そう、ここからは、詩織が一人で話すターンが始まる。

今までは、俺が大根役者を演じることでぶち壊しにできた。

だがさすがに、詩織の話をぶったぎって邪魔するのは流石に不自然が過ぎる。

「お母さんのときは、ありがとうね。たくさん、助けてくれて」

しかし何もせず好きに喋らせたら、最悪そこだけ編集で切り取って、感動シーンとして放送することができるだろう。

「一番大変な時にそばにいられなくて、ごめんね」

このままだと、流れを詩織にもっていかれてしまう。

俺は行動できないが、放っておくこともできない。

「新しいおうちはどう? 仲良くやれて……」

だから、ここは任せるぞ。相棒。

「わあああああ! おっきいカメラだああああ!」

そのとき、会場に女児の声が響いた。

観客が静まり返っていた分、声がよく通る。

そしてその声は、聞き覚えのあるものだった。

…………宮本やん。

声の方を見やると、警備員の手をすり抜けた宮本が、ステージ下で構えているカメラの前でぴょんぴょん飛び跳ねている姿があった。

なに……やってるんすか、子供のふりして……。

「おにいちゃあああん! カメラだよおおお!」

あ、泣いてる。爛漫に笑いながら、みやもっさん、心で泣いてる。

そして、ちびっこ宮本が呼ぶ”お兄ちゃん”も登場した。

「何やってるんだ明里。迷惑だろう」

お兄ちゃん役、総司。

総司もカラーコーンを乗り越え、妹を連れ戻そうと手を伸ばす。

あ、笑ってる。申し訳なさそうに首を搔きながら、こいつ心で笑ってる。

観客の注意は既に、宮本へと集まっている。

子供がカメラの前ではしゃいでいる姿には、流石に怒るに怒れない。いや、むしろほっこりし始めてるな。

その雰囲気をなんとか打ち破ろうと、詩織は強引に話を続けようとした。

「えっと、伊織。新しい家族は……」

「おにいちゃあああん!」

「妹さんとお姉さんも……」

「カメラカメラあああ!」

「私もあれから……」

「いええええい見えてるううう!?」

「あ、の…………」

笑っちゃだめだ、笑っちゃだめだ、笑っちゃだめだ……。

ことごとくを遮られ、流石に詩織の眉間がひくつき始めた。

これで完全に、詩織の演説の流れは断たれたな。

宮本の声はマイクに乗っているだろうし、俺や周りの人間がバッチリよそ見しているところもカメラに映っているはずだ。

「……だから伊織、これからもよろしくね」

遮られながらも、何とか予定していた内容を話し終える詩織。

本来ならここで、うおおおおっとファンが騒ぐところなのだろうが、だれも聞いちゃいない。

皆、迷い込んだ子リス(17歳)と優し気なお兄ちゃん(17歳)に釘付けだ。

あ、宮本が警備員に連れ出された。

幼い声は聞こえなくなったけど、これで完

璧。

あとは、俺がいい感じに締めくくって、ここを去るだけだ。

俺はマイクを握り直し、詩織に向き直る。

「塩……姉さん。姉さんは俺にかまわず、アイドルを頑張って欲しい。俺には新しく家族ができた。そしてここには友達も沢山いる。だから、何も心配しなくていい」

そして俺は、

『なあ、みんな』

っと、英語で会場へ呼びかける。

すると、

「「うおおおおおお!!」」

「「イオリーーーー!!」」

ララバイのファンに負けず劣らずの熱量で、歓声が帰ってきた。

ステージの上から、なんとなく筋肉が集まってきていることに、俺は気付いていた。

オリバーさんが手を回してくれたのだろうか。

なんにせよ、最高のアシストだ。

「じゃあ詩織、アイドル活動、頑張ってくれ」

そして最後に、しれっと詩織呼びしてしまって、俺はステージを下りて行った。

小さく肩を震わせる、詩織を残して。