軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

603話:真聖女の遺物3

ある日の放課後。

マクスの滞在する家から、装飾的な箱が運び出された。

周囲は貴族屋敷が並んでおり、道の真ん中でその様子を見る者などいない。

もちろん箱の受け渡しも、本来なら玄関先でやるものじゃないけど。

箱は確かにマクスの手から、イルメへと受け渡された。

(観測者、十八人)

(ちょっと、多すぎない? それだと作戦変更も考えないと)

僕はマクスから装飾的な箱を受け取ったイルメを尾行しながら、セフィラに応じる。

これはおびき出しのための行動。

だから見た目弱そうな学生としてイルメが選ばれた。

入学直後にも、そんな理由で囮してもらったけど、イルメも変なことに慣れて来てる気がする。

一応安全策として、見られてる前提で囮の偽物の箱を用意してもらってるから、最悪奪われてもいい。

とは言え、危険は回避したいから、一対多数は避けなくちゃいけない。

(あんまり敵が多すぎるなら安全第一だ)

そう思ったらセフィラが追加で情報を出した。

(聖女教会の者は八名。残り十名はルキウサリアの護衛です。この学園都市の各所に普段以上の人員が配置されています)

(あ、はい)

僕の手回しで増えただけの人員だった。

ここは、八人の聖女教会が入り込んで釣れてる状況をちゃんと考えよう。

「ウェアレル、聞いた?」

「はい、場所も捕捉いたしましたので、いつでも攻撃は可能です」

隠れて移動してる僕には、ウェアレルがついてる。

一人で大丈夫だと思ったんだけど、側近たちに全力で止められた。

学生たちだけでやろうとしたところを、ヴラディル先生に報告必須にされ、そこからウェアレルが聞いた態で参加を表明して今の状況だ。

雷の魔法は早い。

だから生徒を守る上では有用だろう。

一応マクスの意向で、家宝的なものが乱暴なコレクターに狙われてるっていうことにして、聖女の遺物ってことは隠してある。

「捕まえてから身元と、侵入方法を洗うとして。何処で仕かけてくるかを見極めないと」

「イクトどのではない私から見ても、彼らは荒事に慣れている感じはありません」

「だったら楽?」

「いえ、逆です。引き際も加減も知らない素人だからこそ、怪我の危険がありますので、相手が実力行使に出た場合は安全を優先して制圧します」

襲って来た相手が怪我してもどうでもいいけど、襲われた錬金術科の学生が怪我するのは見過ごせない。

僕はウェアレルの提案に頷いて、様子を見守る。

危なかったら偽物の聖女の遺物は放棄していいと言ってあるし、イルメの尾行を続行した。

その間に動こうとする気配が立つけど、それは事前に止められる。

「お迎えに上がりました」

「あら、待っていて良かったのに」

歩くイルメに、いつか見たエルフの男性が話しかけていた。

錬金術を知るために、ルキウサリアへ来たイルメと一緒に、故郷を離れた従者的なエルフだ。

イルメが抱える箱に手を出さないところから、事情は知ってて来たらしい。

預かりものであり餌だから、無闇に受け渡ししないことで本物らしくみせるのかな。

ただイルメが危険な囮役ってことで、最低限守る壁になるために姿を見せたんだろう。

(退きました)

セフィラから端的なお知らせ。

どうやら少女一人なら往来でも襲おうとしてた聖女教会だけど、成人男性に見えるエルフが増えたら躊躇ったようだ。

(狙いはやっぱり聖女の遺物か。それで、マクスが言うように狂信的な目的? それともハリオラータが言うような金稼ぎ目的?)

(両者が混在しています。聖女を信仰するゆえに、聖性を高めるという行動理由に使命感を持つ者、王族が持つ古い文書であるならば、売れば相応の値段になり分け前を得られると期待する者。文書を人質に、身代金交渉を想定する者もあり)

(えー? 犯罪計画の方針さえちゃんとしてないの?)

マギナやアルタの辛辣さが正しかったと思えるくらいの雑さだ。

その上でやろうとしてることは確実に迷惑なのに、大人の男性が出てきたくらいで二の足を踏む。

犯罪者にしては思い切りが悪い、なんて思うのはハリオラータに毒されてるのかな?

「うーん? もしかして魔法使いでもない感じかな?」

「そうでしょうね。魔法使いであれば、幼く見えても他種族を勢い任せには襲いません」

ウェアレルが言うとおり、人間は魔法の扱いで他種族に劣る。

発動速度も魔力量も違うし、学園の研究者であっても同じで、種族差はなかなかに厄介だ。

そうと知ってる魔法使いからすると、エルフって時点で警戒対象。

それをせずに見た目だけで判断してるってことは、魔法の使えない人間の可能性がある。

そうなると、魔法で火種作ってたマクスの所の使用人が、選り抜きの人材だったのかもしれない。

だとしたら、これは勝ったも同然だ。

「奪ったとして、逃げる先考えてるのかな?」

「破棄が目的であれば、自らの命よりも目的を優先するでしょうが、犯罪者側からすれば、金銭目的の集団とのことでしたね」

「上は金銭目的になってるけど、末端はお題目信じてる人もいる感じらしいよ。たぶん上に近いほど金銭目的意識してる、かな?」

セフィラの情報を交えてウェアレルに答えつつ、それはそれで嫌な集団だなと思ってしまう。

僕の活動範囲で聖女教会を規制させるために、今回の作戦だ。

襲わせてことを大きくすることで、相手が自らを弱者と騒ぐことができないようにする。

そのためにも王族っていうわかりやすく強者側のマクスの手から、エルフっていうマイノリティに襲撃対象を変えさせた。

「あ、ラトラスに合流した。受け渡しも大丈夫そう」

「えぇ、相手は小柄な猫獣人。やはりこの機を狙うようですね」

イルメは人の多い場所で、ラトラスと合流し、そして箱を受け渡す。

服装からしても、ラトラスのほうが身分は低いと見てわかる。

何より家猫の獣人で、シュッとしてる分そこらの人間より小柄に見えた。

そして被毛に覆われた獣人の力なんて、見た目じゃ計れない。

魔法に疎ければ、身体強化の魔法の威力も知らない可能性もある。

「動きます」

ウェアレルは被毛に覆われた耳を動かして言った。

護衛付きのイルメから、単体で見た限りでは弱そうなラトラスへ。

その受け渡しの瞬間を狙って相手は動く。

人の中に紛れるように距離を詰めてるけど、同じことをしてるのは、聖女教会だけじゃない。

「おっそいなぁ」

言うや、ラトラスはにじり寄ってきた相手を一瞥もせずに避ける。

その手にはイルメから受け取った囮の箱がしっかり握られてた。

さらに伸びてくる別の手も、関節なんてなさそうな猫の動きでかわしていく。

「尾行もお粗末。完全に素人ね。ここで捕まえられるだけは捕まえましょう」

「は、仰せのままに」

イルメとエルフは手近な一人を即座に拘束。

他はラトラスに狙いを変えて追い駆けるけど、ラトラスは身軽に走りだす。

もう初速の時点で、聖女教会は相手にもならなさそうだ。

僕はイルメのほうへ情報共有に向かう。

「全部で八人。残り七人だ。知り合いに今日騒ぎがあるってことは伝えてあるから、すぐに役人が回って来ると思う。その時に引き渡して」

「八人? 思ったより入り込んでいるのね」

「うーん、組織立ってる割には少ないんじゃないかな」

僕はイルメに応じつつ、ラトラスの逃げる経路に先回りするため離れた。

ちょっと僕たちを振り返った聖女教会の人は混乱してる。

ばれてると思わってなかったみたいだ。

けど、ここで一人だけ離れる勇気もないみたいで、そのままラトラスを追う仲間を追っていった。

(マクスの所で捕まえてそんなに経ってないけど、指揮してる人っているのかな?)

(指示を出す存在はあるようです)

(八人の中には?)

(いません)

(門はもう押さえてあるし、この街にいるなら逃がさないけど)

(隣の王城の街にいるようです)

(そっちも出入押さえられてるから、捕まえて口割らせれば良さそうだね)

僕はウェアレルと進みつつ、セフィラに確認した。

「うん、よし。あとは…………ラトラス大丈夫かな?」

「屋根の上を走ると言うので、ヴィーが高い位置から見張っています。ただの人間では屋根の上に準備もなく登れないでしょうから、遠距離攻撃を持っていないなら大丈夫でしょう」

ヴラディル先生も守りについてる。

その上で獣人のハーフっていう人間より感覚が鋭い人が、さらに雷っていう魔法による速さの優位性まであった。

見える範囲に魔法を放てるとなれば、開けた高い位置で魔法を放つのは無双できそう。

うん、本当に聖女教会に勝ち目ないな?

「さて、見えてきましたね」

ウェアレルに言われて見ると、見慣れた屋敷がある。

第一皇子として僕が使ってる屋敷だ。

同時にラトラスも屋根から降りて走りだした。

貴族屋敷の端のほうだから、怒られることもないけど、さすがに貴族屋敷の屋根を走るのはやめたようだ。

「この!」

そしてそのまま屋敷の裏に向かうと、あえて足を緩めて聖女教会を追いつかせる。

ラトラス自身は猫の獣人として身軽に避けただけなのに、それに苛立って相手は周辺に似つかわしくない大声を上げた。

「いい加減にしろ!」

短絡に殴りかかるのをラトラスが避けると、屋敷の裏から現れる騎士。

聖女教会の人間は勢いだけで、止めることも逸らすこともできずに、騎士に殴りかかる格好になった。

突然殴られた上で、ラトラスが錬金術科のマントを着てることで、騎士はすぐに相手を睨む。

うん、よく説明もせずに騒ぎがあったら様子見てって僕がお願いした、屋敷の若い騎士だ。

駄目なところで騒いだって相手を威嚇するくらいのつもりが、まさか殴るとはね。

若い騎士はすぐにラトラスを庇うように立つと、不届き者がいると大声を出してくれたのだった。