軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

602話:真聖女の遺物2

厄介ファンみたいな聖女教会から狙われるマクス。

ゆっくり謎の言語を読み解くためにも、聖女教会は排除でいい。

ただ相手を知らないというか、今回のことがなければ名前さえ認識してなかった。

宗教に疎いし、教えてくれる伝手もない。

問題を起こしたことから、親世代か祖父世代がいれば聞くこともできるけど、僕はその辺りは完全に繋がりが薄い。

「だから知ってる人に聞こうと思って」

僕は断崖の上の元修道院に来てた。

目の前にいるのは、ハリオラータの淀みの魔法使い、マギナとアルタの二人だけ。

他はすでにこの監獄を出て、作戦行動中だ。

「聖女教会とは、またつまらない者に関わったものですね」

アルタは気負いなく、そう言った。

どうやらガチガチの凶悪犯からすると、聖女教会はつまらないという評価らしい。

「それは危険がないと思っても?」

「えぇ? あの方たち、怖いのよぉ。怪我をしないように気をつけてほしいわ」

マギナは胸の前で両手の指を組んで、僕を心配するように言う。

しなを作るような動きをするけど、続く言葉は辛辣だった。

「悪いことをしているのに、絶対に認めないの。なのに他の人を悪人だと言って叫び回って見苦しいのよ。どうして存在しているのかしら?」

「あ、何かハリオラータと確執あったりする?」

マギナにしては辛い評価に聞くと、アルタは首を横に振る。

「奴らはちゃちな悪党です。信者を集めての詐欺が主な稼ぎ。後は人身売買に近い違法結婚」

冠婚葬祭は教会の管轄だ。

財産関係の管理は国だけど、正統性を支えるのは宗教観念。

この世界、貴族じゃなければ国に届け出ないこともあるし、働き手の数ってことで、男手の数さえ届け出ればいいって所もあるから、結婚を認めるのは教会しかない。

それだけ、教会で夫婦の誓いをすることのほうが重要だってことでもある。

国に届け出なくても、教会に記録されれば婚姻成立っていう秘密結婚ってものもあるくらい。

「違法ってことは、教会から破門にされてる聖女教会が結婚式上げるってこと? けど、誰がそんなところで結婚するの?」

聖女教会に結婚式を執り行う権利がないから、違法はわかる。

けど誰がそんなの望むかがわからない。

稼ぎってことは需要はあるんだろうし、お金にもなるんだろうけど。

アルタは苦笑して教えてくれた。

「金を積んでも、地元の教会で婚姻を認められないほどの前科のある者が主であるかと。他には犯罪者、傷病者、既婚者などが思いつきます」

なんかとんでもないこと言ってるね?

犯罪者はわかる。

思い合ってても片方、もしくは両方の家族が止める可能性があるだろう。

傷病者は、伴侶に世話をさせるためっていう世知辛い感じがあるけど、需要があるのはわかる。

けどわからないのが一つあった。

「…………既婚者ってそれ、重婚?」

「はい」

アルタがすぐさま肯定してきた。

マギナは頬に手を当てて楽しそうにする。

「うふふ、それほどに止められない思い、熱くて一途で切ないのでしょうねぇ」

うん、凶悪犯罪者には重婚程度どうってことないらしい。

突っ込むのはやめよう。

前世の娯楽小説にも、ハーレムって一ジャンルあったんだし、人間の嗜好にはあるものなんだと思おう。

僕は一人で十分だから、関係ない話だ。

「目の前で聖女の遺物燃やそうって乱入してきたんだけど、そう言うのが主要な活動じゃないんだ?」

「まぁ、皇子さまの前にわざわざ姿を現すなんて、お馬鹿さん。逃がしてくれないのに」

「マギナ、それは私たちにも言えることだ。言わないほうがいい」

全く悪びれないマギナに、アルタが馬鹿という言葉がそのまま返ってくるからと止める。

確かに目の前に来なければ、僕はハリオラータの動向を掴めなかった。

しかも僕がいるルキウサリアでことを起こしたら、もう捕まえないわけないよね。

そして今回も、聖女教会は僕の目の前で暴挙を働こうとした。

そうでなければ存在も知らなかったのに。

しかも僕が興味を持ったものを破棄しに来たんだ。

そんなことされるのは困るし、だったら、さっさと捕まえようっていう思考になる。

「いきなり火を点けようとしたから、話聞かない狂信者だと思ってたけど。捕まえるにしても派遣されてるだけの下っ端しかいない可能性もあるんだ。だからある程度情報が欲しい」

マギナはすぐにアルタに笑顔を向ける。

これは興味がないから説明はアルタに聞けってことか。

目を向ければ、アルタが真面目に応じる。

なんかこの二人だけ相手にしてると、犯罪者ってこと忘れそうになるな。

どっちも確実に危険人物なんだけど。

「聖女を人に貶める物を許さないという。その思想は聖女教会以前の、聖女騎士団からのお題目です」

「また知らない宗教団体? それとも教会騎士?」

「宗教団体ですね。何百年前だったか、一時期ムルズ・フロシーズが侵攻を受けた頃に、聖地奪還を謳った騎士団が乱立。その後期には、聖地奪還を謳って援助金をせしめる集団が現れ、その一つが聖女騎士団。なので、騎士団として活動したことはないはずです」

どうやら前身からして、名前だけが立派な感じの集団らしい。

「この聖女騎士団は、活動資金こそ詐欺で得ていました。しかし、活動としては聖女を超常の存在として周知させるという理念を主軸に真面目に努めていたようです。その一つに、聖女の遺物を収集、聖女の神秘性を貶めるものは破棄するというものがありました」

「そこは無駄に一貫してるのか。で、今では手段と目的が入れ替わったってこと?」

「というよりも、ウォレンシウムのような聖女の遺物、人間としての痕跡が多い国と事を構えたことで、軍と対立する形ですり減った末に、残った残滓が今の聖女教会ですね」

「アルタ、思ったより詳しいね。それって、魔法に何か関係した話だったりする?」

ハリオラータにしては珍しいと思って聞けば、アルタは笑った。

「ご明察。聖女の治癒の奇跡はご存じで?」

「あぁ、何かの戦争で欠損した重傷者も回復させてまた戦場に送り出したとかいう伝説」

そんなの現状無理な話だからこそ、伝説や奇跡と言われる。

前世でも再生医療はあったけど、欠損を完全に治すなんて無理だし、そのままリハビリもなく戦場復帰なんて現実的とは思えない。

「うーん、欠損した部位を繋いで回復させたならまだできそうだけど」

「そちらも聞きたいところですが、今は応えましょう。実際に聖遺物として、回復させられたという者の遺体が残っており、それを確認したところ、確かに腕に継ぎ目のようなものが確認できるのです」

「つまり、ハリオラータはあり得ると思ってる?」

「可能性は。魔法は私たちのように常人以上のことも当たり前に押し通します。であれば、聖女も何かしらそうした魔法的な特殊個体であった可能性がありますので」

つまり、ハリオラータとしても聖女は研究対象。

だからその聖女の足跡を追うように消してる、聖女教会の前身については調べた。

「まぁ、聖女の扱いについてはムルズ・フロシーズの内部でも派閥で争いがあるらしく。どうも聖女の奇跡を復活させようという試みも幾度となくされているとか」

「いちおう聞くけど、そういうこと知ってるのって、真っ当に調べた結果?」

聞いたら、アルタとマギナは揃って笑顔を返すだけ。

うん、これ絶対違法なことして調べた結果だ。

つまり、僕も知ったからって無闇に吹聴しちゃいけない感じの情報だな。

「って、そんな魔法で聖女の力を解明しようって、ハリオラータのやり方も聖女の神秘性貶めるってなるんじゃ?」

「うふふ、聖女の手記というものを手に入れたことがあるのだけれど、その時には紙一枚なのに、聖女教会以上に熱烈な方たちが奪いに来たわぁ」

熱く溜め息を吐くマギナは、甘い声で囁く。

ただ想像できる内容は絶対、血沸き肉躍るとか言える状況だったんだろう。

「ムルズ・フロシーズは内部にいくつもの会派と派閥が入り乱れています。そのせいで実力はピンキリの割に、しつこく苛烈な刺客が絶えず。どうも散逸した聖女の遺物を収集することで、教会内部で発言権に影響がある様子」

「それ今の話なんだ? じゃあ、その聖女の手記どうしたの?」

「内容は覚えたので、適当に囮にして潰し合いに利用しました。手に入れたのは、九尾の聖人でしたね。けれど表向き、その手記は争いの中で消失したことになったようです」

おっと、思わぬ人物が出た。

そしてさすがヨトシペの同輩というべきか、ハリオラータが仕組んだ潰し合いを勝ち抜いたらしい。

「ねぇ、皇子さま? つまらない話はもう終わらせて、楽しく甘ぁいお話をしましょ?」

マギナが誘うように指を立てるけど、その発言は食欲からだ。

僕は集中が切れたらしいと見て、大人しくさせるためにもお菓子をだす。

「はい、新しく作ってみたチョコチップマフィン。チョコレートを固形にして、生地に混ぜ込み焼いたものだよ」

この世界、チョコレートは基本飲料で、チョコチップなかったらしい。

だから食感や形状を教えたら、ココアパウダーに大量の油混ぜて練り上げたのには驚いた。

なんか作ってもらったチョコチップは思いの外ボソボソするし、匂いも弱いんだけど。

チョコチップなんて初めての食材を手にした料理人たちは、大いに沸いていたのが印象的だった。