軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

577話:三回目の新学期2

三年目の入学式は、同じ寮の錬金術科、新入生のシレンと一緒に登校。

入学式と学科の説明は昼に終わる。

僕はクラスメイトとあれこれ精霊だとか錬金炉だとか、好きに実験をした。

そして昼になって、新入生の教室にラトラスと共に向かう。

「シレン、終わった?」

「あ、アズ先輩」

シレンの声に反応したのは、冬休みに顔を合わせた海人の双子イー・ソンとイー・スー。

面談で会った王族のマクス、伯爵令嬢のハルマも、僕の顔を見て思い出したような表情を浮かべる。

さらに返事しようとしたシレンは、横から押してくるもふもふに驚いて動きを止めた。

ラトラスの親戚の猫獣人ナムーが、体の割に短い腕を伸ばしてこっちに歩いて来てる。

「ラト兄、色々言われすぎて覚えられないよぉ」

「またそんな情けないことを言って。できないというよりも、できるよう努力なさい」

叱りつけるのはツィーチャという、後輩ウィーリャの親戚の子。

こっちも猫獣人で、なんかナムーに親近感から世話を焼いてるそうだ。

それも関係して、ラトラスも新入生の教室に来てた。

「ツィーチャも、ウィーリャから伝言で、俺らの舌に合う食べ物出す店教えてやってほしいって言われてるんだ。昼、一緒にどう?」

「シレン、僕のクラスメイトのラトラス。帝都出身でお店に詳しいから、お昼一緒に行って町の案内少ししてもらったらどうかなと思って」

「アズ先輩は昼どうするんすか?」

シレンが聞くと、ラトラスが面白がって教える。

「アズは、君らの一個上から呼び出しかかってるんだよ」

「なんか嫌だな、その言い方。僕が悪いことしたみたいじゃないか」

「どうだろう? アズは自分ができるから、けっこうできて当たり前って感じもあるし。案外ハードル上げないでくれっていう苦情だったりして」

ラトラスには、僕を呼び出してるからってウィーリャがツィーチャを託したんだ。

その流れで一つ下の後輩全員からの呼び出しと聞いて、ラトラスには何したのとか言われたし。

「二年目の学習に関してか、錬金術に関して、だと思うけど」

「それだったら、今までみたいに俺たちに声かけてからでもいいのに。今回アズだけでしょ」

「う、うーん。冬の間は錬金術のために色々動いてたから、後輩には何もしてないんだけどな」

ともかく呼び出されたから、僕もシレンをラトラスに預ける形を取ることになったんだ。

「アズ先輩、大丈夫っすか? お困りなら俺が」

「いや、そんな剣呑なものじゃないから。もう、ラトラスが面白がるせいで」

「本当にヒノヒメ先輩たちから言われて、アズに従う感じなんだね」

それはそれで頑張られても、僕の動きが阻害されることになっちゃうんだ。

だから、チトセ先輩に餌付けされた雰囲気もあるし、ラトラスが面倒みてくれれば懐くんじゃないかと思ってる。

なんて考えてたら、滑るようにイー・ソンとイー・スーが寄ってきた。

心持ち警戒すると、作り笑いで聞く。

「この学園都市の案内を、お願いできるのでしょうか?」

「そうであるならば、我らも共にしたいのだ」

けどそれにはラトラスが毛を逆立てた。

「え、けど二人ってチトス連邦の王族でしょ? 俺が知ってる店なんて、平民向けで全然」

途端に、海人の双子はラトラスのほうにずいずい押す。

「それこそ知りたいのだ。チトスとは売り物自体が全く違う故に、わからぬことが多すぎる」

「買いたいものがあっても、何処にあるか、なんという名なのかさえ覚束ないのですよ」

ラトラスに近づいて、できることなんてそうないかな?

ディンク酒のことはあるから、あまり楽観もしないほうがいい?

(ここは、狡いけどやっちゃおう。セフィラ)

(金欠により安価に食料を得ることのできる店舗を求めています)

あまりに現金な話に、僕は突っ込みそうになって一度深呼吸をした。

そう言えば、国外追放的な身の上だから、持ち出せる金銭なんてそうないんだ。

しかも長距離の旅で出費があり、さらに学園への入学にもお金がかかる。

そうなると、今どうやって生活してるのかが不安になった。

「…………ラトラスの厚意で、他にも人がいて、先約があるんだ。その上で教えてもらう気があるなら、お願いして」

「え、俺本当王族相手とか無理で…………って、なんで床に座ったの?」

「確かチトス式の敬礼? 跪拝っていう、目上に対する礼儀じゃなかったかな」

僕が教えると、床に両膝ついて両腕を上げるイー・ソンとイー・スーに、ラトラスが尻尾を膨らませて、自分もお座り状態になる。

「わかったから! けど、本当、俺が教えられるのは平民の範囲だから! あとから文句言われても困るからね!」

「ご厚意感謝します」

「口添えにも感謝を」

イー・スーがラトラスに言って、イー・ソンは僕に言った。

その上で、意味深にシレンを見る。

ヒノヒメ先輩って言ったからだろうな。

性格もシレンは田舎育ちの裏表のなさだし、王侯貴族的な含みの多い海人の双子からすれば、暖簾に腕押しになるのは目に見えてる。

現状僕もシレンに関してはヒノヒメ先輩の美貌にやられて、チトセ先輩に餌付けされたくらいしか知らないし。

クラスメイトになるんだから、そこの交流は放っておいてもいいだろう。

「はい、それじゃラトラス困らせないようにね」

「うす」

シレンが返事して、双子は腕を胸の前に上げて見せて返事にする。

ツィーチャもウィーリャに何か言われてたのか、頷いた。

ナムーはぼんやり無反応に見えて、耳は僕とラトラスに向いてるし、そっちは親戚だからいいだろう。

で、教室に残った新入生二人の内、ハルマがそわそわ僕を窺ってたから目を向ける。

「アズ先輩、不躾とは思いますが、鍛冶のできる場所をお教えいただけないでしょうか?」

「ハルマのやる気はいいことだよ。けど、まずは学園生活に慣れないと。いきなり初めてのことを二つ同時に始めるのはお勧めしないな」

ハルマに答えていると、マクスも寄って来て頼ってきた。

「では初めに、先達である先輩からお話を聞くことはできないだろうか? 先日の面談で話に出た、錬金術の謎解きとやらに詳しい先輩をご紹介いただきたい」

「あ、で、では私も、その、弓矢が得意な方というのは女生徒であれば、紹介にあずかりたいのですが」

僕の脳裏に、弓矢と本を持ったイルメの姿が思い浮かぶ。

その間に、マクスとハルマがお互いの話に興味を持った。

「女子生徒でそのような先輩が? 魔法を嗜む方は珍しくないが、弓となれば相応の膂力が必要になるというのに」

「話の流れで、たぶん女生徒と。ただ錬金術で謎解きという話も興味があります。いったいどのようなことを?」

そう言えば錠前づくりが趣味だったね、ハルマ。

つまるところかみ合いや組み合わせをずらしたり、隠したりもまたハルマの興味範囲か。

そして二人が紹介してほしいって言ってるの、同一人物だ。

「うん、わかった。二人とも来て。今ならまだ実験室に移動せずに教室にいるはず」

僕は内心でイルメはもちろん、新入生二人にも謝りつつ案内した。

「探求心が旺盛で、今はそっちに意識が向いてる。だから場合によっては他のクラスメイトに話聞いてみたほうがいいこともあるけど」

僕はそう言って、教室に連れて行ったマクスとハルマに、イルメを紹介した。

もちろんすぐ、エルフの宗教家系ってことで、フィジカル激強なことに気づいたマクスは作り笑いで動揺を隠す。

ハルマはエルフってことに驚いてたけど、狩猟でもなんでもやるって聞いて嬉しそうだ。

「というわけで、入学すぐに手を出すのは負担にしかならない。けどこういうのもあるよっていう話くらいなら、いいかなって」

「ふぅ、いいでしょう。これも先達としての務め。先の展望を示すのも役目の内ね」

イルメは実験室で精霊についてやるのを後回しにしてくれた。

これ、冬休みの内に落ち着くまでやらせたのが良かった感じかな?

まぁ、青トカゲにも人魚にも、好みじゃないのかあまり相手にされなかったのもあるかもしれないけど。

「それじゃ、よろしく。僕は後輩の教室行ってくるよ」

イルメはもちろん、教室にいたウー・ヤーとネヴロフ、エフィも対応してくれる。

僕は任せて、今度は一つ下の後輩の教室へ向かった。

けど誰もおらず、黒板に僕へのメッセージとして外の実験場にいると書いてある。

これはあれ?

放課後校舎裏に呼ばれるような?

いや、思い過ごしだろうけど、妙に真剣な様子と全員揃ってってことを勘繰ってしまう。

「えーと、来たよ。話って何かな?」

火を囲んでるのはいい。

新学期とは言え、まだ寒いし。

けどなんで、密談を見つかったように息を呑んでこっち向くの?

「え、あれ? 何なに? 囲んで何処に…………」

無言の後輩に囲まれて移動って言うか、囲んでた火の下に引き込まれる。

温かいけどそれじゃない。

囲んでたのは火だけど、その前に置いてあるのは何かの計画書。

後輩に呼び出された僕は、何かの計画に巻き込まれるようだった。