軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

576話:三回目の新学期1

冬の終わりにやってきた軍人のセリーヌは、新学期が始まる前にトライアン王国へ旅立った。

ついでにレーヴァンも、帝都に伝声装置を持って去ってる。

ただ新入生の海人の双子がやらかすのに出くわしたせいで、またすぐ戻らされるなじゃないかって頭抱えてたけど。

「さて、それじゃあ…………最後の新入生に会いに行くか」

僕は苦笑いを浮かべて、屋敷の錬金部屋にいた。

今日から新学期で、僕もアズロスとして準備を終え、今から隠し通路通って寮へ向かう。

ウェアレルはすでに登校してて、室内にはイクトとヘルコフが残ってた。

「あまり聡くてもアーシャ殿下の二重生活に気づきかねないが」

「その新入生、殿下の二重生活については聞いてないんですよね?」

「陛下からは、錬金術科に入れそうな人いたからって聞いてるよ。僕が世話するかどうかは、僕の予定重視でいいって」

七人いる錬金術科の新入生。

獣人二人は入試で見たし、高位の四人は面談で顔を合わせた。

そして最後の一人は、一度寮の部屋のほうに挨拶に来ていたらしい。

予想は外れたけど、父から送り込まれた人員はいた。

七人目の新入生である騎士家の男子生徒がそうで、皇帝派閥の寮に入ってたんだ。

地方騎士の出身で、宮殿に上がれない程度の家だけど、そういう家の出でも受け入れるのが、皇帝派閥。

出身地のラウィウストンという小国は、ハリオラータの実験場にされてた所だけど、悪いことしてたのはハリオラータだし、たぶん新入生は関係ない。

「ついでみたいに連絡来たから、本当にこれといった指示は出してないみたい。僕の二重生活も言ってないらしい。だけど同じ皇帝派閥の同科の先輩ってなると、僕も無視できないしね。初日の登校は一緒に行くことになってるから、その時に探りを入れつつ釘も刺すよ」

僕はそう応じて、隠し扉を開くと寮の部屋へ向かった。

さすがに皇帝派閥だし、危険なんてないとは思う。

とは言え、皇帝派閥で父から連絡が来た人員とは言え、訳アリの可能性が拭えてない。

妃殿下がこの人物ならと、父に推して急遽受験させることになった相手だとか。

つまり、ノマリオラと同じで何処かの息がかかってる可能性もあるわけだ。

「おはよう、シレン」

「うす、今日はよろしくお願いします、アズ先輩」

僕は普段とは違って、寮の中を通ると正面玄関へ向かった。

そこにはひょろっと背の高い新入生がいて、声をかけると無表情ぎみながら体育会系な返事。

うん、すでに僕より身長高い。

成長期特有の細さがあるけど、骨太に見えるから、たぶん騎士の子供として鍛えてたんだろう。

これでお勉強もできるって、生まれの身分が低くてもけっこうハイスペック?

僕が卒業年だから、世話にどれだけ手をかけられるかは微妙だ。

けどその年になって、父は息のかかった生徒を錬金術科に送り込んできた。

だったら、来年入学のテリーと錬金術科を繋ぐ意味もあるんだろう。

そうなると、忙しさにかまけて世話をしないというのも、弟のためにならない。

「行こうか。ずいぶん入寮が遅かったけど、帝都に戻ってたんだって?」

「はい、皇帝陛下のご厚意で受験したんで、ご報告に戻ってました」

このシレンと冬休みの間に会わなかったのは、ルキウサリアにいなかったから。

「そう言えば出身はラウィウストンだと聞いたよ。北のファナーン山脈沿いの国だよね」

「うちみたいな田舎知ってるんすね。本当、山しかない国っすよ」

「僕も帝都で育ったけど、田舎の小領主の出身だから、そんなに変わらないよ」

「そういう人ばっかみたいっすね、この寮も」

歩きながらシレンは、皇帝派閥のことを田舎者の集まりと評した。

特に自嘲も嫌味もなく、本当に感想を口にしただけのようだ。

ただ同じ木っ端な皇帝派閥でも、身分に違いがあるから言い方は気をつけたほうがいい。

僕は領主を任せられる貴族の家の出設定だけど、騎士は大半が貴族じゃないし、子供に受け継がれもしない地位だ。

つまり、シレンは平民とまでは言わないけど、貴族と数えるには微妙な立場。

本人気にしてないし、何処かカラッとした雰囲気が、前世にいた運動部っぽい。

中学くらいの運動部って、縦に伸びるか筋肉で横に幅取るかだった気がする。

シレンは縦に伸びたんだろうな。

前世では僕も縦に伸びるほうだったんだけど、今世では劇的には伸びないようだ。

成長痛が痛くなくていいけど、ちょっと物足りなく思ってしまう。

「騎士家出身なんだよね? 武術もやってたの?」

「うす、といってもそこまで本格的には。だからって手も器用じゃないんすけど」

「錬金術に興味あったの? なんか、上から推薦されたって聞いたけど」

水を向けた途端に、シレンが今までにない笑顔を浮かべた。

何処か照れたような雰囲気で、何より聞いてほしいと言わんばかりに目が輝いてる。

表情筋の動きが鈍いだけで、喜怒哀楽には素直なたちらしい。

「田舎騎士で跡継ぎでもないんで、行儀見習いで帝都行けたのも幸運っす。そこで兄貴が皇帝派閥に入れた方の下につけたのも、とんでもなく運がいいのはわかってるんですよ」

どうやら親が皇帝派閥じゃなく、兄、のさらに主人らしい。

田舎騎士ってことはラウィウストンで働いてるのが親。

つまり、跡継ぎ以外は帝都か伝手頼って奉公に出されてるのか。

先に奉公してた兄が上手くやって、その恩恵にあずかって帝都に行ったのがシレン、と。

前世とは違いすぎて、二十歳未満の子供にっていう意識が働いちゃう。

その上皇子なせいで、そういう市井の風習も疎いから、当人から説明受けるとちょっと面白く感じる。

「俺その日、たまたま兄貴に会いに、貴族屋敷の界隈歩いてて。そしたら、馬車が一つ俺の前で止まったんすよ」

「おぉ、なんかドラマチック」

「っす、しかも降りてらっしゃったのが、すらっとした黒髪のお姫さまで。すっごい美人」

「うん?」

僕の反応に、シレンは疑われたと思ったのか、さらに言い募る。

「いや、本当にお姫さまだったんすよ? ニノホトのお姫さまで、皇妃殿下のお友達だそうで、俺なんかじゃ一生お目にかかれないような偉い人で」

「んん? え、ヒノヒメ先輩?」

「そうっす!」

わ、全開の笑顔。

おっきいけど、表情は年相応に幼いな。

…………そして何してるの、ヒノヒメ先輩?

「そのお姫さまに錬金術に興味あらへん? ってなんかこう、不思議な発音で、柔らかく声かけられたんっす」

「あ、うん。ヒノヒメ先輩の口調って、独得だよね。それ、チトセ先輩も一緒だったんじゃない?」

「っす!」

あ、チトセ先輩相手でも満開の笑顔だ。

「めっちゃ美味い飯作ってくれて、その上勉強教えてくれた尊敬する先輩っす」

「ご飯が先にくるんだね」

健全な男子学生だぁ。

って言うか、妃殿下の紹介だと思ったら、ヒノヒメ先輩からの回し者だったよ。

え、海人の双子だけじゃないの?

逆にこの新学期、何が起こるか不安になって来るんだけど?

そんな話しをしながら、僕たちは並んで学園に入る。

僕は途中にある小雷ランプの街灯の説明したり、ラクス城校だけどアクラー校に教室があるとか説明も入れた。

そして入学式に向かうシレンとは、ラクス城校の講堂の前で別れることになる。

「ヒノヒメ先輩、チトセ先輩から、アズ先輩が一番の錬金術師だって聞いてるっす。すごい人だからしっかり学べって。よろしくおなしゃす!」

「う、うん。期待外れだと言われないよう、頑張ってみるよ」

先輩たち、何を言ったのかな?

って言うか、ヒノヒメ先輩から妃殿下、そして父に伝わって受験って。

それで入試通るってことは、これ、ヒノヒメ先輩が託宣で受験合格できるって確信して推した感じなのかな?

そうなると錬金術とは全く無関係ってなるし、知ってるのは先輩たちがこっちで学んだ範囲だけか。

「今年の新入生は、だいぶ濃いなぁ」

「そうなの? あ、そうなのですか?」

ぼやく僕に、いつの間にか近くにいたポーが元気に聞き返す。

仲良しの竜人アシュルもいて、言い直して無闇にかしこまってるのを正すべきか迷ってるような顔してた。

その一歩後ろに、同じく竜人のクーラがいるのはいい。

けど今日は、さらにウィーリャ、ショウシ、イデス、トリキス、タッドと一つ下の後輩たちが揃ってるのはどうしたんだろう?

「おはよう。揃ってどうしたの?」

「先ほどの方は新入生ですわね、入試で見ました」

「以前からの知り合いの方なのですか?」

ウィーリャとショウシが探るように、シレンについて聞いて来る。

続けてイデスとトリキスが真面目な顔で聞いてきた。

「本日の予定は入学式のため、自由であるはずですね」

「この後のアズ先輩のご予定をお聞きしたい」

なんかかしこまってる?

アシュルとクーラも、僕の返事を催促するように続けた。

「冬休みの間も錬金術のために登校していたと聞いているのである」

「今日もそのようなご予定でありましたら、お時間をいただきたく」

「昼過ぎたら新入生帰るし、送るならその前とかにどうですか?」

タッドが窺うように聞いて来てるけど、これはあれだ。

どうやら僕は、後輩に揃って新学期早々呼び出されることになったらしい。