軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

560話:精霊と錬金炉5

錬金炉とフラスコの靄で、何故か赤い靄という新現象が起きた。

僕たちはすぐにフラスコに靄を作って、何度か錬金炉に入れて、再検証をする。

うん、同じのできたよ。

何これ?

なんでかみんなで首を捻りつつ、検証を続けた結果。

「これが十回で、こっちが一回で」

ウー・ヤーがビーカーにタグづけをしつつ呟く。

一回とか十回っていうのは、砂時計を回した数だ。

タイマーなんてついてないから、変化を確認した十六巡目からさらに錬金炉に入れる時間を調節したことを記録するためにね。

手動で時間を図って様子を見て、僕たちは変わらず赤い靄ができあがることを確認する。

十六巡目以降の長短に関係なく、ある程度炉の中に入れておくと、赤い靄になることがわかった。

「色から見る属性としては火ね。その上で温かいまま冷めないなんて。これも精霊さまの力の一端なのかしら…………」

イルメは大興奮であれこれ観察して、触っても害がないなんて特徴も書き出してる。

それを横目にラトラスは、錬金炉による変化に疑問を呈した。

「なんで火属性なんだろう? 全属性注ぐ形の錬金炉なのに」

ネヴロフはもっと単純に、フラスコの靄の特性を考える。

「っていうか、あっためたら消えなくなるのか、フラスコの靄って?」

入れる前は消えるような揺らぎがあった靄だけど、赤くなった後はビーカーに入れて口を開いてても消えない。

ビーカーの中でゆらゆらしてるだけ。

それが八個。

うん、やりすぎた。

「経過観察に残すにしても、数が多すぎるし半分は実験で消費しようか」

「経過時間の違いも気になるが、まず何に反応するかを見るほうが先か」

エフィの反応が早いのは、そわそわするのを隠すためっぽい。

ただ、目がうろうろしてるのは隠せてない。

また青トカゲが出てこないか気にしてるんだ。

けど顔を出したのは最初の一回のみ。

人魚にいたっては興味なさそうに棚の上に潜んだまま。

こういう時に疑問に反応してくれていいのに。

二択くらいの明確な疑問じゃないと駄目だったりする?

「アズはこれについてどう思う?」

ラトラスが振って来たふんわりした質問は、属性に関してかな?

「錬金炉に関連しての変化なのは確かだろうね。その上で色が属性と紐づいてるのもたぶんそう。で、錬金炉に刻まれた術式を通して影響を受けてる。だったら、これも何かしら魔法に関連のある形に変化したのかなとは思う」

「お、だったら火つけてみようぜ。ほら」

「おい、ネヴロフ!? まだどれを残すかも決めてないのに!」

ウー・ヤーが叱責するように止めるけど、ネヴロフは言いながらすぐさまマッチで火を点けてしまった。

うーん、錬金術の道具だからって、実験室に置いておいたのが悪かったのか。

けどここ以外ですぐに火を使いたいなんて状況、あんまりないんだよね。

なんて考えてる間、赤い靄はマッチで直火をつけられても無反応。

けど、火は確かに赤い靄に燃え移った。

「これは、どういう状態だ? 燃えてるが、消えないし、浮いてる?」

エフィが瞬きもせずに、火球に変化した赤い靄を見据える。

イルメもじっと観察して、そこからわかることを口にした。

「まるで、魔法で火を維持しているような状態に見えるわ」

確かに魔法は浮いた状態で火の玉を作れる。

その上空気で燃焼するんじゃなく、魔力で燃えるんだ。

だから魔力を維持する限り燃え続けるし、消えない。

けどビーカーの中に魔力を供給する人なんていない。

それでも赤い靄は、マッチの小さな火から燃え上がるように赤い靄の周辺に火を纏わせ、火の玉と言える形になっている。

(セフィラ、これに知性があるかわかる?)

感じる熱の灯る数で、否定の意志を確認。

僕たちが話してても反応はないから、屋敷でできた明滅する靄ともまた違う。

セフィラが生まれた時とも違うし、僕も錬金炉に入れたことはない。

だから、これはセフィラとは違うと断言はできた。

けど、自力で魔法を維持できるとしたら、それはセフィラに近いものと言える。

「ともかくやってしまったからには検証を続けよう。一人は仮称火の玉に変化がないか観察して。他はできるだけ、火の玉と近い条件のビーカーの中の赤い靄に水と風と土をかけてみよう」

結果で言えば、まさかの赤い靄が消えた。

「魔法も何も関係ねぇのに、赤い靄潰れるみたいに消えたな?」

ネヴロフは責任もって、作ってしまった謎の火の玉の観察しててほしい。

と言っても特に変化ないし、何故か燃え続けてる。

いや、セフィラが否定の熱を送って来たな?

だったら何か変化があったようだ。

「ネヴロフ、火の玉に変化ない?」

「おう、ない…………あ、ひと回り小さくなってる」

ネヴロフが気づいたのは、まさかの変化だ。

「これは消える時間を計ったほうがいいかもね」

僕はネヴロフに砂時計を渡して、中味の消えたビーカー三つを前に改めて検証を進める。

まずエフィが、水や土、風で消えた赤い靄について推測を挙げる。

「赤が火属性だから、他の属性にまつわるものに触れて消えたように見えた」

「だが魔法は関係ない、水、風、土だ。逆に、魔法で作った属性のものをつけるとどうなるんだ?」

ウー・ヤーが新たな検証を挙げるけど、迷う様子で残りのビーカーを見る。

すでに残すと言った四つになってるから、消費できる数に限りがあるせいだ。

それに、イルメは私見を述べた。

「突発的で、条件付けもその場限り。だったら、今ある分は検証に使ってもいいと思うわ」

「確かに改めて条件を揃えたほうがいいけど…………念のため一つは残そう」

僕が不安になるのは、天地の照応を調べた結果、セフィラの誕生日が僕と同じ天地の巡りだった可能性があるせいだ。

そしてそれに合わせて行った、魔法陣を使って錬金炉を再現する実験で、その天地の照応を再現したら、明滅するように変化が現れた靄。

今日この時という条件が関わってる可能性も否定できない。

「日にちや時間帯で変わる可能性もあると思うから」

僕の言葉にラトラスが検証すべきことをメモしながら頷く。

「そう言うのも考えなきゃか。じゃあ、今日は火に限定するとか?」

ラトラスの案を採用して、他属性については一回横に置く。

そうすると実験に使える赤い靄は三つ。

話し合いをして、魔法で火をつける、自然の火の中に入れる、直火にかけず温めるという手法を取ることが決まった。

「いや、なんだろうね、これ?」

目の前の結果に笑う僕に、エフィは頭を抱えた。

「なんだこれ? 全部違う火の玉になった?」

いうとおり、目の前にはマッチで火を点けた火の玉。

魔法で火を点けたことで燃え上がるんじゃなくて、球状に回転してる火の玉。

耐熱板に木を燃やしてつけた火の中に入れたら、マッチより大きくなった火の玉。

そしてビーカーで温め続けた結果、何故か赤みが強い靄のまま燃えるように揺らめいた。

イルメはせっせと記録しつつ、嬉しそうだ。

「まさかこんなことになるなんて、神秘的だわ」

「神秘はともかく、本当にまさかだったな」

ウー・ヤーは呆れた顔で、思いつきでこの結果を引き寄せたネヴロフを見る。

ラトラスはビーカーに向けて猫髭を開きつつ言った。

「けどこれ、精霊って言うより変わった火種だよね?」

ここからセフィラみたいな精霊っぽいものにはならなさそうなのは、僕も思う。

セフィラを知るクラスメイトたちも、揃って首を捻る。

光る大樹という形を取っていたけど、どう見ても自然物ではない姿を見せたんだ。

変わってはいるけど、見るからに火ってわかる分には、セフィラのような超常の存在になりそうにはない。

だからって赤みが強くなった靄も、そこからどうなるかなんて想像もできない。

セフィラへの進化が想像できない中、セフィラ自身を知らないエフィが僕だけに囁いた。

「なぁ、これも火属性を強化する可能性、あると思うか?」

「あー、そっちになる、可能性はあるかもね」

言われてみれば、これも火に関する素材であり、青トカゲが反応したもの。

つまり、青トカゲが食べることで、さらに変化する可能性が想像できる。

「…………ちょっと、保留にしようか。こっちで調べたいことが多すぎる」

赤い靄を食べる青トカゲを想像して待ったをかけると、エフィに突かれてそっちを見た。

すると不満げに半目になった青トカゲが、錬金炉の陰からじっと見据えている。

どうやら期待して出てきたところにお預け宣言だったようだ。

小動物虐めてるみたいな気になるけど、そんな気軽に食べないでほしい。

というか、大勢がいるといやだとか言っておいて、自分が気になるものがあれば出てくるって。

こういうところはセフィラと同じ、現金さだった。