軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

516話:変える頃合い1

テリーに東の派兵を打診した。

僕の派兵は時間がなく、準備さえギリギリだったし。

けれどテリーのほうはどれだけでも事前準備に時間を取れるだろうから、僕の時ほど危険はないはずだ。

ただそれはそれとして、僕も今のままだと問題がある。

ソティリオスからも指摘あったし、テリーも肯定してた。

父だってテリーを密かに弟を送り込んできたのは、僕の状況が放置しておけないから。

「状況を変える頃合い…………なんだろうけど、人員を増やすと言っても、まず信頼できる人がいないのが難しいところだよね」

僕は執務室でぼやくように考えてた。

テリーが王城を拠点に社交してるのは、人員の働きを見たり、ルキウサリアの状況を確認するためだろう。

その僕にない信頼できる人員確保のため、地道に頑張ってるんだよね。

僕の側にいるのは家庭教師のヘルコフ、宮中警護のイクト、財務官のウォルド、侍女のノマリオラ。

この時点で所属がバラバラすぎて、伝手も何もない僕の現状が露呈してる。

調べたソティリオスもわかっただろうな。

この中で僕に人事権があるのはノマリオラだけだって。

「警護に使える人員くらいなら、俺の昔の伝手で五人くらいは引っ張って来れますけど」

そういうヘルコフは、父が人事権を持つ家庭教師。

そこは個人雇いだし、僕がお願いすれば譲ってはくれるとは思う。

けど問題は、どんな役職に就けるかってことだ。

平民で、官吏として登用されてるわけでもない。

そんな人に宮殿で動ける役職を与えるって相当難しい。

できて使用人で、皇子の師という今の立場よりも下になる。

そうなると、今まで以上に僕の側にいることはできない身分になってしまうんだ。

「今増やす必要が? それこそ宮殿に戻られてからでもよろしいのでは」

イクトは拙速じゃないかと言ってくれる。

それはあるけど、伝手がない以上、早めに検討しておいたほうがいいとも思う。

そのイクトは宮中警護って役職から、人事権はストラテーグ侯爵だ。

その辺り突くとうるさい上に、僕の側に入れても旨味はない。

貴族っていう身分が有名無実なイクトからすると、今の役職は決して悪いものじゃないんだよね。

「私の部下にしても、宮殿に戻った際には引き上げられるかと思いますが」

「そこは、どれくらい財務を父が掌握できてるかによるよねぇ」

ウォルドは財務の所属で、つけられた部下ももちろん財務。

だから財務長官が人事権を持ってて、この留学が終わればウォルドの部下は財務に戻る。

その財務長官に父の息のかかった人間が就いてるけど、父の周りは権力が弱い。

官吏にも派閥の柵があるし、どれだけその人事権を使えるかによるとしか言えなかった。

ウォルドは左遷も同然で来たから、特に部署に対する誇りも忠誠もないんだけどね。

だから僕も気にせず側に寄せてるし、今まで昇進とかとは無縁の状況。

けど人を増やすことを考えると、そういう官吏とのやり取りにも、一人噛ませてクッションにするくらいがいいんだと思う。

その伝手もあてもないから困るんだけど。

「戻りましたら女官の試験を受けることも考えております。つきましては皇妃殿下寄りの口添えをいただければ」

ノマリオラも状況をわかってて、そう言ってくれた。

女官となれば官吏の一人だ。

権限が増えるし、僕の意向を伝えるクッションになれる。

推薦人が必要になるけど僕には伝手がないから、そこは妃殿下で賄うことも考えてくれた。

けど問題がある。

官吏になればまた人事権が僕から離れる。

僕が成人して、きちんと役割をもらえれば女官としての仕事の内に、僕に従うことも入るけど、それも今は未定だ。

何よりノマリオラのプライベートに支障が出る。

「結婚、どうするの?」

ノマリオラは少しだけ視線を下げた。

不動なのに珍しい。

その上で、問題もわかってて、女官になるって口にしたようだ。

支障が出るもう一人のウォルドは、耐えるように口を引き結んでる。

ノマリオラとお付き合いしてるウォルドは平民だ。

基本的に貴族と平民は結婚できない。

けど、ノマリオラが貴族籍を抜けてウォルドの籍に入るなら平民同士で問題はなくなる。

そこに女官となると貴族籍を抜けるのが難しくなるんだ。

つまり二人の結婚が遠のくどころか目途も立たなくなる。

「答えられないのが答えだと思う。僕のためなんて言い訳にされる気はない」

はっきりと拒絶した途端、ヘルコフとイクトが視線を逸らした。

そう言えば、幼い頃には引き抜きみたいな形で僕の周りから遠ざける動きがあったな。

あの時にも、僕より自分のためにと言ったんだった。

今思うと子供の発言じゃない。

あんまり誤魔化せてなかったことを思って、僕もちょっと気まずくなる。

「ソティリオスが言うように、親の派閥の貴族との交流って持ったほうがいいのかな?」

僕にない人脈は、細いながら近くにあった。

けどそれはウォルドが止める。

「そこは引き継ぐ者だからこその意見ではないでしょうか。もちろん継嗣でなければならないということはありませんが、殿下の場合はあまり動かれるのも…………」

「そうだよね。僕の後に入学するテリーの邪魔になりかねないもん」

目立たない宮殿でも、僕と比べてテリーが落ち込むことがあった。

こっちで普段どおり振る舞っても二の舞の可能性がある。

人が多い分、より比較する言動も増えるだろうし。

だからって以前のように鈍間のふりしても今さら遅い。

何より、それはそれで人員確保の目標が遠のくんだ。

「皇帝陛下の手を減らすことはしたくないしな」

僕が頼れる伝手は皇帝である父しかいない。

ただそのリソースは有限だ。

安定した公爵たちとやり合うなら減らせない。

この屋敷に勤める騎士二人が、何故か僕に好意的な様子だけど、若手貴族だからやっぱり将来的に父の手足として働いてほしい。

もしくはテリーのために、かな。

「あの、封印図書館の学者先生方はどうです?」

ヘルコフが言うのは、帝国からの学者たちだ。

それを聞いてイクトは首を横に振る。

「本人たちは研究が第一だ。身内を紹介というのはありだが」

「ただ、それだとお身内を帝国で調べ直すことからですね」

ウォルドは使える人材に伝手があるかわからないという。

ノマリオラも、実家を思ってか謝罪してきた。

「お恥ずかしながら、ご紹介できる伝手もなく」

貴族令嬢で本来なら社交をして、人脈を得ているはずの立場。

けど病弱な妹のために社交よりも働きに出て、教育は受けてるけど、人脈は形成せずにいた。

「ない物ねだりしてもしょうがない。一応、ソティリオスに乗るって手もあるし」

途端にみんな疑わしげな顔になる。

言ったからには、ソティリオスは僕に人員斡旋の意向はあるんだ。

もちろんそれは下心ありだし、スパイの可能性大。

けどソティリオス個人の望みを知ってるからには、妥協と協力の余地はあるんだよね。

交渉によってはユーラシオン公爵家が関係しない人員を引っ張れると思ってる。

「ま、それも今すぐじゃない。まずすぐに対応しなきゃいけないのは、ルキウサリアだ」

何せ今回の連携不足が帝国にまで知られる結果になった。

ルキウサリアも国として手を打ったと見せなくちゃいけない。

屋敷の使用人なんて隠れた形じゃなく、目に見える形にしなくちゃいけないんだ。

そこで好きにされないように、僕も口を出す必要がある。

沈黙は肯定になってしまうからね。

その上でまだ連携を取る必要がある。

こっちも協力姿勢を見せなくちゃいけない。

「うーん、ここはいったんソティリオスにやったのと同じ時間稼ぎをしよう。というわけで、テリーと、王城での時間調整が必要だな」

僕は頭の中で予定を立てて、巻き込む相手を決める。

その上で指示を紙に書き出し、これを屋敷の執事に持っていてくれるようノマリオラに告げた。

そして王城へも伝えてもらう謁見要請は別に、ちゃんとした形式で書くために、ウォルドに筆記具を用意をしてもらう。

それを誰も止めないし、聞かない。

僕が何をして、どう動くかを、そもそも僕の周りはあからさまな危険がない限り、詮索しないんだ。

そのことに僕も今気づいた。

「うん、これが駄目なんだね。慣れすぎてて僕止める人いない」

口にしたら、全員がそう言えばって顔になる。

いや、無表情なノマリオラだけは違ったけど、ともかく結果しか出て来ない理由の一端は慣れだったようだ。