作品タイトル不明
441話:イルメの精霊談議1
エフィと実験室で別れて廊下を一人歩く。
決闘申し込みの件は、エフィが実験室を片づけてヴラディル先生に報告してくれるそうだ。
僕はイルメから精霊について聞くための、不自然じゃない方法を考えなくちゃいけない。
(たぶんもう帰ってるだろうし。明日かな)
(学内にいます)
セフィラに教えられて、行く先を資料室に変える。
「あら、アズ」
「イルメ、となんだか女子が揃ってる?」
広くもない資料室には、七人もの学生がいた。
僕の学年はイルメ。
後輩からは、ウィーリャ、ショーシ、クーラ、イデス。
就活生はトリエラ先輩、ワンダ先輩。
僕が入ると八人。
資料室はどう考えてもキャパオーバーだった。
「アズ先輩。音楽の教師がお話を聞きたいと仰っておりましたが」
「あぁ、うん。ありがとう、気を使ってくれて。けどあれって、すでに使われてるところには使われてると思うんだよ」
「そうした考えに名前をつけた発表すれば良いのですわ。他でこれから使われる時、アズの名前が載らないことになるよりもいいでしょ?」
ウィーリャに答えると、ワンダ先輩が自分の成果にしてしまえと言う。
僕は特に音楽関係にどうこうするつもりはないから、それは別に。
けど音響もまた科学の一つだし、錬金術として再興の一助にできそうではあるんだよね。
「だったら来年の音楽祭は、音響を体感してもらえる舞台作ろうか? 舞台の上から音を出したら、何処まで届くかを視覚的に見えるようにするとか」
音として伝わる空気の揺れをどうにか視認できるように?
いや、いっそ音に模した別のもの?
うーん、その前に音響に特化した施設を作るってけっこう大掛かりになりそうだ。
「予算かかりそうだから、いっそミニチュアのほうがいいか」
「本当に泉の如くアイディアが湧いていらっしゃるのですね」
そう言ったのはイデス。
あまり喋ったことないけど、他から僕がどんな生徒かは聞いてるらしい。
「いや、音楽関係疎くてね。だから他の人のアイディアに僕が知る錬金術を当てはめてるだけだよ」
「そうしたアプローチでの斬新さですか。私も学びを得たいものです。是非先輩の広い知見をお聞かせいただける席を設けていただきたく」
「…………期待に沿えないのは申し訳ないな。ほぼ社交もしてないのは知ってのとおりだ。たまたま知り合ったのも学園という環境だから。本当に学びたいなら、まずは錬金術で方向性を持ってからだね」
イデスの今のは、知り合い紹介してってことの遠回しなお願いだ。
錬金術科でも相手してくれる貴族を教えてほしいって。
まぁ、もっと疑うとソティリオスを紹介してくれって話だ。
けど残念ながらアズロスとして紹介できる伝手はない。
本当に紹介するならそれこそちゃんと錬金術師として働ける信頼性がないと。
今のイデスはあくまでラクス城校卒業の名目が欲しい以上には見えなかった。
「アズの基本は貴族だけれど、それと同時に錬金術師よ。貴族的な誘いは断るけれど、錬金術の誘いは時間が許す限りはつき合う。そこを逆にしては色よい返事なんてもらえないわ」
イルメがイデスにそんなアドバイスをする。
確かに、貴族的なことには引きぎみだけど、錬金術については最初から口だすね。
つまるところ、僕は錬金術馬鹿とでも思われてるようだ。
そんなイルメの評価を聞いて、ショーシは肩を落とす。
「錬金術は、お恥ずかしながらまだ、理解の及ばない点が多く。先輩方とお話しするのはいったいいつになることか」
「そんなに考えすぎる必要もないよ。僕たちみたいに最初から目指すところが決まってる学生のほうが珍しいって先生にも言われたからね。そんなものじゃない?」
「私は最初から料理だったけど、学んでみたら全然で困ってたんだよね」
やりたいことが決まってても、トリエラ先輩みたいなこともある。
ヴラディル先生が教えるのは錬金術の基礎で、そこから発展して料理って形にするには難しかっただろう。
ただちゃんと本人試行錯誤してそれらしいことはできてる。
イデスタイプだったワンダ先輩は、興味を持って取り組みもしてはいるんだけどね。
そしてここまで、竜人のクーラは無言。
うん、錬金術に実は興味ないからね。
ラクス城校卒業の資格も別にって話だし。
いや、今は後輩たちの進路相談じゃないんだ。
「イルメ、資料室で何をしてたの?」
「話し合いの場所に借りていただけよ。それと、以前ここで見た文献の表現が気になって。だからもう少ししたら出るから待ってちょうだい」
「あ、いいよ。久しぶりだから覗きに来ただけなんだ。イルメは相変わらず図書で調べるんだね。そろそろ錬金術の図書見るのなくなったりし…………」
「してるわ」
僕の言葉尻を捉えて、イルメはすぐさま食いついた。
「あの修道院の図書館にも時間が許せば行っているの。けれど門を通過しなければいけないことと距離、さらには貸し出しの制限で思うようにいかないわ。こちらの街で錬金術の書籍を集めるようなことはしていないのかしら?」
「お、おぉ…………し、てるって、聞いたような?」
思わず答えた途端、イルメが素早く近づいて、がっしり肩を掴まれる。
「紹介して」
「えっと」
「紹介、して」
「…………はい」
気おされました。
僕たちのやり取りを見てたイデスは、上品に口元に手を添えて呟く。
「これは錬金術云々ではないような気がいたします」
「もはやパッションですわね」
ワンダ先輩がイルメの押しの強さを指摘すると、ショーシが気遣ってかフォローした。
「あ、あの、それだけ錬金術にかける思いに動かされたということでは?」
「うーん、イルメちゃんって最初から精霊一筋だからなぁ」
トリエラ先輩から見ても、錬金術への情熱ではないんだぁ。
僕もそう思うけど、一応錬金術にも興味はあるんだよね、精霊関係で。
応じたことでイルメからは解放されたものの、さて、どうしたものか。
「錬金術の書籍を集めるような図書館? アズ先輩には、そのような伝手が?」
ようやく喋ったクーラは、僕の影響範囲を訝るらしい。
「少しね。帝国の第一皇子が留学してるでしょ。ルキウサリアがそれに合わせて図書の整理をしてるっていうのを聞いたんだ。後は知人に閲覧許可求めたら、話が回ったらしく手皇子からの許可も出て、運よくね」
「第一皇子は錬金術科に対して前向きよ。けれど一度も現れたことがないの。弟の皇子方はいらっしゃったけど」
イルメにそう言われると確かに第一皇子の動きって変だね。
けど出て行けないんだよ。
「アズくんやイルメちゃんが考えたあの動く絵。すごいと思ったのに幼い皇子さまたちにすぐ理解されてびっくりしちゃった」
「第一皇子殿下に教わったと仰っていたからには、留学されている殿下も相応に錬金術を深く学ばれた方ではあるのでしょうけれど」
トリエラ先輩とワンダ先輩の中では、第一皇子は錬金術師としては認識されてるようだ。
「えーと、興味ある人は一緒に行きますか? 錬金術関連の書籍で、必ず借りれるかはわかりませんけど」
あまり第一皇子に関して掘られたくもないから聞いたら、それぞれ悩みだす。
「じゃあ、ちょっと興味あるし。何かのヒントになればいいなってことで。こんな軽い気持ちでついて行ってもいいもの?」
トリエラ先輩はそういうけど、ワンダ先輩は図書の汚損の可能性があるためパス。
「わ、私は、興味があります。ご同行をお許しいただけますか?」
「書籍を当たるよりも、今はこの周辺で観られるオペラを学びたいので」
「まずは手近なところも目を通せていませんので」
ショーシは興味あり。
けどウィーリャは別のことがしたいし、イデスはそれらしいこと言ってるけどこっちも錬金術への興味は薄いからパス。
「それで、クーラは?」
「お気遣いいただきありがとうございます。ですが、私には仕える方がおりますので」
あ、はい。
こっちも錬金術よりアシュルね。
誘うならそっち誘ってからにしろってことらしい。
けど変に増やすとまたノイアンが困りそうだ。
ここはこの場で手を挙げた三人でいいか。
「それじゃ、予定決まったら改めて連絡するから」
イルメから精霊のこと聞きたかったのに、なんだかおかしな予定が立ってしまった。
授業以外で会う機会に、精霊の儀式とか権能とか何か聞けるチャンスがあればいいんだけど。