軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話88:エフィ

音楽祭の後、消えるように帝都へ行ったアズが帰った。

俺が編入した時にも、ロムルーシ留学で不在だった。

春にはレクサンデル大公国の競技大会に連れ出したし、その時の大変な事件の後、一人帝都へも向かってる。

そして今回も帝都で何かあったとか。

家を継げない長子というし、大変そうだから落ち着くまで待とうと思ったんだ。

何せこっちの用件は刺激が強すぎる。

そう思っていたのに…………。

「お前の肝の座り方はなんだ?」

「いや、エフィに言われると困るんだけど?」

「俺は空気を読まない自信過剰だっただけだ」

言わせるな。

そうじゃなきゃ皇子に喧嘩売らないし、迷惑かけた故郷での競技大会に出ない。

ただそれで押し通すには、迷惑をかけるばかりってこともわかった。

だから自重と思って、腹の立つ上級生の挑発も受けずに籠っているんだ。

「もっと驚け。俺もヴィー先生もあの新顔には驚かされたのに」

「いや、驚いたよ。すっごく驚いてる」

そういうアズの目があらぬところを向くが、俺がそちらを向いても何もいない。

たぶんあの半魚人がいたんだろう。

もうその反応が違う。

俺は悲鳴を上げてヴィー先生に縋ったし、ヴィー先生も尻尾が倍くらいに膨らんで、獣人のような威嚇音を口から出してたというのに。

「アズのそれは驚いている内に入らない」

「えー」

初見は絶対知り合いには見られたくない醜態をさらしてこそ、驚いたってものだ。

なのにアズは最初こそ声を上げたが、その後は追っていくような冷静さがあった。

好奇心旺盛なネヴロフなら、怖いもの知らずでわかるが、アズはそういうタイプじゃない。

どういうわけか、あれが錬金術の精霊で、無害と即座に判断したんだ。

もしくはそんな未知の相手にも対処をすぐさま考えて行動を起こした。

「はぁ、なんだったら驚くんだ?」

「だからけっこう驚いてるって。知らないことだもん。離れてる間に変わってることもあるし」

「だったら、外の実験場には驚いたか?」

「まだ見てないから逆に驚けないな」

「なら、ここの建て替え話」

「え!?」

ようやく驚いた声をあげたんだが、これで驚くのかと、逆に俺がびっくりさせられる。

アズは驚きのまま、俺のほうにやって来て、詳細を促した。

「錬金術をするには手狭だろ。人数少ないからこそ今はいい。だが、国のほうがヴィー先生を呼び出して何かしてる。卒業生も過去の錬金術を調べるようにと声をかけた」

「うん、錬金術科に手を入れるのはわかるよ。けどラクス城校に戻らないの?」

「戻っても問題があるからな」

俺がその問題の一部だったからこそ言えることなんだが。

「あと何やら立て込んでる。魔法学科はあれだが、教養学科のほうでも音楽祭の後くらいからな。それと、やっぱり錬金術の教師の確保が難しい」

ラクス城校に戻っても、弱小状態は変わらないんだ。

いっそこっちを拡張して自由にさせるほうが、いいという判断だろう。

なんて、ヴィー先生が愚痴交じりに言っていた。

多分それで嫌がるのは後輩の一人イデスくらい、錬金術に興味がない者だけ。

俺も結局は魔法重視だが、そのためにも錬金術を身につけるつもりはある。

「テスタ老にも言われているしな」

「え、何を?」

思いのほか食いつきがいいな。

権勢には興味ないと思っていたんだが。

いや、何処か警戒感があるな?

そう言えばトリキスを中心にした薬学の話には乗っていたようだし、興味はあるのか。

もしくは、薬学に取り込まれるのは嫌だというところか?

錬金術を純粋にやってたらしいアズなら、そういうこともあるかもしれない。

「錬金術科での取り組みには大いに関心を寄せてる。ただ、立場が弱いこともわかってらっしゃるから、何か手が回らないことがあれば検討するというくらいだ」

「ふーん、何を検討するんだか」

棘のある言葉に見ると、アズは誤魔化すように笑った。

「そういえば、あの人魚も青トカゲみたいに得意な属性ってあるの?」

「人魚?」

「あれ? 人魚って言葉、あるよね?」

ルキウサリアの言葉を喋ってるせいか、アズが不安そうになる。

人間と魚の体を半分持ってるから、人魚。

その理屈はわかる。

ただ俺がその言葉で思い出すのは魔物だ。

「人魚と言えば川に住む魔物のことだな。一度見たことがあるんだが、人間のように見えるという上半身部分がだいぶ違うぞ」

「あ、そうなんだ? どんな風だったの、人魚って?」

途端に興味を示した。

変に理屈っぽい所や、大人びたところもあるのに、知らないことにはこうして衒いなく聞いてくる。

その積極性が、他よりも秀でた錬金術の才能を支えてるのかもしれない。

だが真似るのは、危険だ。

育ちが窮屈らしいし、そのせいか当たり前に危険やリスクに対処してる。

俺はまだ対処に頭が回らないから、アズを真似てもつまずく未来しか見えない。

「違うってどれくらい? あ、もしかして腕はなくて顔だけとか?」

「なんだそれ? 人魚の魔物の上半分は、人間に見せかけた疑似餌だ。だから近くで見ると人間じゃないことはわかる。そうだな…………」

俺がメモに、見たことのある人魚を描く。

それを見て、アズは呟いた。

「うーん、クリオネ」

「何語だ?」

「いや、まったく別の生き物思い出しただけだから」

アズは手を振ってまた話を変える。

「で、ヴラディル先生との間だとなんてなんて呼んでるの?」

「魚のほう」

単純すぎるせいか、アズが半端に笑う。

情緒も何もないことはわかってる。

だが人間か魚かわからない上に、青トカゲとも違いすぎて精霊とも判別がつかないんだ。

「青トカゲよりも出てこないから調べきれてないんだが、アズはあれが精霊だと思うか?」

「あ、そこからか」

何か考える様子で、アズは一度黙る。

「なんだ? 逆に何か精霊と断言できる要素でもあったのか?」

「うーん、なんていうか、理不尽な存在だともう、精霊かなって」

「理不尽?」

言われて俺はアズを見る。

けっこう、こいつの存在は理不尽だと思うんだが。

説明されたら理解できそうな気はするが、見た時にはだいたい理屈がおかしい気がする。

一から説明されればちゃんと意味があるのはわかるんだが、行動を起こす時には何も言わずにさっとやるから、理不尽に見える。

結果、本人が思う結果を招き寄せる、敵に回った側からすると理不尽な相手。

そもそも魔法に錬金術が勝つなんて、常識外れにもほどがあることを、最初に言いだしたのがアズだというのは他のクラスメイトからも聞いていた。

「新顔は、宙を泳いでたでしょ? その時点で地面から離れられない僕らからしたら、理不尽な存在じゃない?」

「だが魚は水を泳ぐだろう?」

「水と空気中じゃ違うよ。それに水だって結局は地面についてる存在だ。だったら水は僕たちと同じ道理で存在してる。なら、机に物を置くのと同じ。地面との間を隔てる何かがあるってことになるから、泳ぐことの理屈はわかる」

言いたいことはなんとなく、わかる気はした。

だからこそ、空気の中を泳ぐという、何もない中に浮かんだ存在は理不尽で、精霊くらいじゃないとできないという判断基準も、一応の納得はできる。

目の前で俺を見上げる青トカゲも、それで言えば理不尽だ。

「こいつも、突然姿を消すしな」

そう言って撫でると、青トカゲは顎を上げてじっと撫でられる。

そのくせ気が向かないと姿を消して、自分がいたい場所に突然現れるんだ。

さらには見えてるのに触れない時もあるし、全く理不尽だよ。

「仲良しだね」

アズが青トカゲを撫でてるのを見て言う。

これも日々質問のために機嫌とった結果なんだ。

懐かれてるのか、いいように使われてるのかたまにわからなくなる。

「魚のほうも、話を聞くくらいしてもらいたいものなんだが。今のところ青トカゲを介してしか、意思の疎通はできてない。青トカゲも、話を通してくれたりくれなかったりだ」

「いーなー」

こいつ、聞いてないな。

羨ましがるアズは指を出すが、青トカゲは一瞥をくれただけで俺に撫でられ続けていた。