作品タイトル不明
438話:エフィの決闘問題3
青トカゲについて一つの仮説。
青トカゲが食べたものは、何かが失われる。
食べ物であれば顕著に味。
そして食べられたものには、代わりなのかバフのような効果が付与される。
これは今までの懐いていた素材に関して、同じような効果があったものと推測された。
「火に属する鉱物や灰で反応した結果、効果が大きいのも同じ理由かもね」
「そうなると、こんななりで神ということにならないか?」
「そこは宗教的な神さまじゃないからノーカンで良くない?」
「精霊としては信仰対象だろう」
「奉らなければ野良だよ」
「の…………もうそれでいいか」
あ、エフィが諦めた。
と思ったら僕に投げるように聞く。
「それで、イルメに言うのか?」
「あぁ、そうか。さっきイルメに聞くって言ったから」
精霊信仰をするイルメに、神に類する相手を実験に使ってますなんて。
それがアウトかセーフかわからないけど、ともかくエフィは体裁整えようと考えてくれてたらしい。
けど僕が気にしてないから何かあるのかと思ったのかな。
うん、何も考えてないよ。
「正直、イルメは精霊に仕えたい人で、研究したい人ではないんだよね」
「あぁ、確かに。どちらも精霊に詳しくはあるだろうが、スタンスが違う」
「この青トカゲに会っても、どんな精霊か、どういうことができるかっていうのは考えるし、懸命に調べることはする」
「だが、どう使うか、なんだったらできるかなんて、敬うことしてたらできない発展ってには手を出さないだろうな」
つまりイルメは、青トカゲと引き合わせても、恐れ多くて実験台にはできないんだ。
そしてたぶん、精霊側もそれを受け入れる。
(セフィラ、僕から離れて違う人の所に行かなきゃいけなくなったら、誰のところ行く?)
(今もって、主人以上に侍るべき存在はいません)
(たとえば、仮定の話だよ。セフィラにとって居心地が良さそうな人は?)
(イルメです)
(だよね)
イルメだったら一も二もなくセフィラに従う。
知識の上では僕だけど、イルメはそれに劣っていてもセフィラが望むことには全力で応えようとするだろうから。
エフィとかだったら絶対にしないどころか、警戒して距離を置こうとするんじゃないかな。
そう考えると、全力で仕える気のあるイルメは、心が読めるセフィラからすれば安パイだ。
「それで、アズ。今後の青トカゲが精霊か否かの、調査の方向を決めたいんだが」
「それには比較対象必要じゃない? できることをある程度聞いて次に行くなら、次はできないこと聞いてみたら?」
「あぁ、そういうのもあるか」
思いつかなかったらしいエフィの顔をよく見れば疲れがある。
「何か疲れることあった? あ、もしかして調べるの夢中で休んでない?」
僕が思い浮かべるのはテスタを始めとした、ダム湖のゾンビ集団。
「そういうわけじゃない。ただ、息苦しくてな」
「息苦しい?」
「なんだ、それは聞いてないのか」
何かあるみたいだ。
そう言えばエフィほとんど教室にも来ない。
他のクラスメイトもバラバラだったりするから気にせずにいたけど。
でもエフィは授業時間以外にも見ないんだよね、まるで隠れるみたいに。
「授業以外何してるの?」
「ずっとここにいる。それ以外は教員室」
「え、なんで?」
エフィは苦笑すると、ちょっと投げやりに答えた。
「競技大会で準優勝したことは、こっちでも広まったからな」
「そうだね。僕たち以外にも参加や観戦いたらしいし、広まるだろうね」
ただ、大会中に事件が起きた。
だからまずはその事件についての噂が広がる。
大会の内容やその結果はその後だろう。
そして今、学園の中に大会の結果も広がり、教師にも学生にも広まってるのは確実。
学園という幅広い人たちが集まる場は、名前が売れる場でもある。
エフィにとってはいいことな気がしていたんだけど、どうやらその名の広まりが問題らしい。
「そのせいで、決闘の申し込みがひどくてな」
「決闘!?」
驚く僕にエフィは笑う。
「そういうことに慣れてないのはアズも貴族って感じだな。だが、魔法学科や騎士科に行くような学生だとよくある。例えば、ラクス城校の魔法学科で、俺の部下になる予定だった学生がいただろう?」
「あぁ、あのレクサンデル大公国でも絡んできた」
「そう。あいつがその上下関係を不服に思って、少しでも上に立つ俺に下扱いされたくないと訴えるには?」
「親に相談。もしくは就職先を変える」
「お上品だな」
答えたら肩を竦めて笑われた。
「だが、それは家の者やその関係のある別の家の者たちから、逃げたと言われるんだ」
戦う職に就く者が、不服や苦痛で与えられた立場を放棄するべきではないらしい。
そんなの戦争してたら言語道断だから。
背後で守る人たちへの裏切りでもある。
エフィ曰く、戦闘職の家では嫌だからって逃げるのは、やってはいけないこととして厳しく幼い頃から言い聞かせられるそうだ。
エフィが第一皇子にやらかしてなお、入学したのはそういうお家柄というか、慣習のせいもあるのかもしれない。
「それでもなお、不服を耐えかねるなら、自らの名誉をかけて決闘を申し込むんだ」
「名誉、ねぇ。つまりそれで勝ったら名誉を手に入れて我儘を聞いてもらえる。けど負けたら名誉を失って二度と誰かの上には立てない。そういうこと?」
「大筋はそうだが、そこは学生だ。ちゃんとした決闘とはみなされないから、将来的に成果をあげたらちゃんと評価される」
「けど、学園にいる間は絶対それでいじられるでしょ?」
「まぁ、そうだな。なんだったら、俺みたいに同じ国から出てる奴らがいると卒業後も物笑いの種だ」
エフィの言うことを大袈裟とは言えない。
何せ実際そうなるだろう虐めの様子を見た。
そしてその状況を打開しようとして、錬金術科に腕試しを申し込んだよね。
結果として負けて、レクサンデル大公国にも伝わったせいで、競技大会では白い目で見られた。
もう一つ皇子に喧嘩を売って負けた上に、上に迷惑をかけたっていうこともあったけど。
「競技大会では勝ったけど、錬金術科に逃げたエフィなら成敗して然るべきで、自分の名誉を高めるためにも使えるから決闘ってこと?」
「そうだな。もっとわかりやすく言えば、俺程度になら勝てると思っているんだ」
「それ、魔法の競技大会に出た人全員に喧嘩売ってない?」
「…………卑怯な手を使って、不当に勝ちを得たとも言われたな」
それはどこかで聞いたと思ったら、本人にも自覚があったようだ。
「入学式の時に聞いたはずだな?」
「そうだね。懐かしいなぁ」
「はん、聞いたのがお前たちだけで良かったよ。傍から見るとあんなに見苦しい負け惜しみだったなんて」
本気で恥じてるようで、僕を見ずにうろうろしてる青トカゲを指先であやしてる。
「それで、どうして決闘が殺到することに? 断れないの?」
「断って引く奴もいるが、そうじゃない奴も多い」
「そこは先生とかでどうにかできない?」
「それが、俺が一度受けたせいでな」
聞けば、最後まで一緒にいた取り巻き二人と決闘したのが始まり。
その時点では親しい仲での腕試し程度だったから、一対一でやったそうだ。
負けた後に取り巻き二人は、エフィの競技大会準優勝を称えたともいう。
「だが、俺が決闘をしたという話だけが広り、決闘しろと上級生が押し掛けたんだ」
「あー、卒業間近で箔が欲しいとかか」
「あぁ、それで俺も舐められたままは悔しいからな。受けてしまった」
「それ、その後の人も親しい相手じゃないからなんて言い訳できないね」
つまり最初は親しい友人だからって言い訳できたけど、その後にも決闘として一人を相手にしたら、我も我もと湧いて来た。
「相手してられないから隠れてるの?」
「いや、俺が断るようになったら、友人のほうに絡みに行く馬鹿が現れてな」
たぶん取り巻き二人のことだろう。
気弱そうだったし、あまり好戦的でもなさそうだし。
その二人を庇うためにエフィはさらに受けたとかか。
「ちなみに負けた?」
「いや」
「それじゃ余計に火が付くね」
「そうみたいだな」
結局人が多すぎて、相手をしていられなくなった。
だから錬金術科生徒以外立ち入り禁止のここに隠れてやり過ごすようになったそうだ。
青トカゲを指先で撫でながら、エフィはため息を吐く。
さすがに教室にも自由に行けない息苦しさに参ってるらしかった。