軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話84:クトル

俺は血なまぐさい息を吐いて大笑いする。

見る先には慌てて走り去っていく帝室の馬車の列。

臆病に戻るようならまた狙えるが、先に行かれると追い駆ける以外にはない。

ただこっちは全身血まみれで、今隠れてる場所から動けもしなかった。

「あははは! こんなに楽しいのは久しぶりだ! なぁ、バッソ?」

「ふん、少しは気が晴れたことには同意しよう。だがうるさいぞ、クトル」

口元の大きな傷を隠すバッソは、ふてぶてしい語りの割に身長が小さく弟分としては可愛いと思う。

ただそのことで侮る者は皆、二度と口がきけないよう墓の下に送られるし、俺が弟分扱いをすると舌打ちしてくる。

なのに今はちょっと文句を言うだけ。

本当に気が晴れて機嫌がいいようだ。

「だが、今回の損失でまた動きにくくなるな」

バッソが気にするのは、俺たちがやってるハリオラータの動きについてじゃない。

また大々的に実験したりすると捕まる可能性が高まったのが嫌なんだ。

犯罪者ギルドが潰れた後に、潜伏したのはしょうがない。

捕まって一生できないよりましだが、それでもつまらないのは確かだった。

「ちょっとはめ外しすぎたか」

俺もこの数年のつまらなさを思い出して、反省してみる。

犯罪者ギルドの壊滅で人員は減って、正直こういう雑な襲撃に使える頭数が足りない。

だいたいが報復目的の割にあまり戦果もないしな。

「思い出したら腹が立ってきたぞ」

バッソはある程度昂ってた血も抜けて、苛立ちが勝ったようだ。

ただそこに、足音が近づきお叱りの声が降った。

「腹を立てる前に反省してよ、もう」

短く刈り込んだ髪に眼帯の仲間が現れ、俺とバッソは向けてた杖を下ろす。

「なんだ、カティか。他の奴も連れて来てくれ。見てのとおり俺たちは動けねぇ」

致命傷は庇って防いで、出血が多すぎる所は魔法で塞いだ。

その前に全力で魔法をぶっ放してた結果、今は魔力が足りずにこれ以上の回復もできない。

カティは俺たちの状況をわかっていて鼻を鳴らした。

「そもそも動けなくなった良質な人材を回収して、人体実験に使うつもりだったはずじゃん」

「あぁ、発動前に杖奪われちまって、おじゃんだな。あれ知ってる奴がいるなんてな」

「使ったら初見殺しだっていうのに、やり損なう奴が腕悪すぎるんじゃないのか」

バッソが言うとおり、実際その腕の悪い顧客もすでに捕まってるはずだ。

カティは別働で観測してたから、俺らの言うことに頷く。

「そこはあたしも見てたし、ちょっと仕方ないかな。相手、九尾の才人でしょ」

「いや、もう一人。錬金術科の銀髪がけっこうやり手だ」

俺が教えると、バッソも知ってることをカティに教える。

「他の組織に貸し出してる人員からの報告だと、ファーキン組の企みだいたい邪魔してる」

「ユーラシオン公爵家のお坊ちゃんさらうやつ? もういっそ始末する? それか攫って」

カティが面倒そうに言うのを俺は止めた。

「いや、殺すな」

俺の言葉にカティは片目を見開く。

「錬金術科とかいう落ちこぼれでしょ?」

「学園の報告でな、錬金術科じゃなくてもラクス城校入れる生徒が去年二人いたんだ。たぶんあの銀髪はその一人だ」

「俺たちを相手に足を止めさせた。状況判断は確かだろうな。それだけ発想力があるなら、面白いことをするかもしれない」

バッソもすぐ殺すのは惜しいらしく、その評価にカティも少し興味がでたようだ。

「つまりあの杖を壊した時の、あれ緑尾の才人じゃなくて?」

「ガキが指示を出してたな。しかも、それで何が起きるかも把握してた」

バッソに続いて俺はそう外れてないだろう予想を口にする。

「つまり、レクサンデル大公国であの杖が使われた時には、破壊までし果せたわけだ」

「へぇ、その上で残った残骸から得られる情報なんてほぼないのに、今日手に入れてすぐクトルたちに使ったわけだ? ふぅん、実験台としては面白そう」

九尾ほど名が知れてれば、そういうこともあると流す。

だがやったのは錬金術科という魔法の劣化技術をやる変わり者。

何か俺たちの魔法を高めるアイディアになるかもしれない。

そんな考えごとから気を引くように、カティが指を鳴らした。

「そう言えば、九尾の才人のもう一人が錬金術科だよね」

「だが奴は卒業してから魔法とは疎遠だろう」

バッソが言うとおり、魔法に関しての研鑽をしてるとは聞かない。

というか、あいつは魔法学科から錬金術科に行った、それこそ変わり種。

プライドを傷つけられた魔法学科のお偉い先生が怒って、錬金術科にはつらく当たるとか聞くし、今さら学園の魔法関係には手を出せない奴だ。

だが、本人の実力がある以上、独自に高めることはできる。

「赤尾が面白い魔法の研究してる可能性もあるな。もう少し学園に手を入れるか」

「俺はパス。そっちは未来の顧客がいるってんで爆破は現金だし」

「あ、地伏罠のデータいいのが出てるよ。爆発に方向性を付与できたの大きいね」

「すぐ見せろ! ぉぐ」

「肉えぐれてんだから動くなよ、バッソ」

呻くバッソに忠告するが、まぁ、遅いな。

自分で足場爆破したんだから、バッソは爆発の中心。

そのせいで足に重傷を負ってる。

カティは血の臭いが濃くなる中笑った。

「そう言えば、地伏罠の元になった道具の技術、学園から盗んだんだったよね。またいい物見つかるかもしれないよ」

「どうだろうな。最近のルキウサリアは妙に守り固めてる。前ほど上手く盗めるかどうか」

そういう俺にカティとバッソが眉を上げる。

「じゃあ、なんで学園に手伸ばすの?」

「あっちは戦闘向きじゃないのも多いぞ」

「ちょっとほしい触媒があってな。どうもルキウサリアが確保したって聞いたんだ」

俺たちはハリオラータ、魔法に人生かけてることが加入の要件。

そのためならなんでもするし、動く理由はもちろん魔法だ。

言っちまえば、報復なんて本気じゃない。

なのに学園まで獲物を追いかけるようなこと言ったから勘違いしたらしい。

逆に俺が魔法の触媒狙いと聞いて納得の顔になる。

正直公爵の坊ちゃんも皇子も、どうでもいいからな。

舐められると客が減るし、その分金もなくて魔法の研究資金が足りなくなるってだけだ。

「じゃあ、あれだ。あのお坊ちゃんと皇子を目くらましにしようか」

「あぁ、カティが言うとおり適当に狙って運良くルキウサリアで始末できればいい」

そうなればルキウサリアは対応に追われる。

隙ができたところが狙い目だ。

バッソも理解して血なまぐさい息を吐く。

「始末できなくても、そっちが本命と思えば他が緩むか」

「おう、それでな。ついでにルキウサリアで払いの悪い奴、先のない研究から離れない奴らを使おうと思う」

昔は構成員の半数が研究馬鹿。

ところが犯罪者ギルドが潰れて、研究じゃなく金やできた魔法に興味のある奴らが捕まって半減した。

そのせいで研究しかしたがらない金食い虫の比重が増えちまってる。

俺たちのほうにまで資金のしわ寄せが来てる状況だ。

だったら、いらない奴らはこの際使って処分も視野に入れる。

「いいんじゃないか。ルキウサリアで犯罪者ギルドの残党が狩りをしているとも聞く。こっちから切り捨てても時間の問題だ」

「殺されようが捕まろうが、あたしたち幹部の情報なんて持ってない奴使えば、そいつら洗う分の人が取られて警戒に穴開くかもしれないしね」

「あぁ、というわけで、カティ」

俺が目を向けるとカティは口の端を引き上げる。

「わかってるよ。今から追い駆けてルキウサリアの奴ら動かせってんでしょ。面倒な資料は回収破棄。…………そうだなぁ。時間稼ぎにルキウサリア入ってすぐに襲うふりして警戒させようか」

「あぁ、一度国内から誘拐されてるなら、狙われてるとわかれば時間かけてでも守りを固めて足が鈍るだろ」

そういう陽動に、カティ独自の魔法は適してる。

俺たちがそうして話してると、大勢の足音が近づいた。

そして俺の姿に動揺した声が上がる。

「頭目!? お前ら急いで治癒魔法だ!」

権力だ、勢力だとうるさい奴はだいたい帝都で捕まった。

お飾りだった俺が頭目として、ハリオラータの顔として頼られる状況になってるせいで、ずいぶんなあわてぶりだ。

人手足りないとか、資金集めに頭捻らなきゃならないとかあるけど、自分のために動きやすくはなったんだよな。

その点は犯罪者ギルドを潰した奴に感謝しよう。