軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

303話:学生道中3

ほぼ問題なく、レクサンデル大公国へ向かう旅は続いた。

問題があると言えば、とびだしてくる魔物だけどそれも少ない。

「冬の間に飢えているせいか、攻撃性が強いですね」

ウェアレルは馬車の上から魔法を放つだけで駆除して済んだけど、そんなことを言う。

魔物の数は少ないと、集団でいる人を即座に攻撃してくるのは珍しいそうだ。

ちなみにもっとレアなのが、人間の賊。

帝国内は人間が大半だから賊も人間だ。

そういうのはルキウサリアからの護衛が先回りして倒してるけど、今回はどうやらそれを逃れた賊が二十人ほど出てしまった。

「あ、ようやく実験台が出て来たな」

「おい、やめろ。ネヴロフ」

ネヴロフの言い方にエフィが嫌そうに肘で突く。

言われた賊も、一部不穏な単語にたじろぐ。

それを頭目らしい男が叱咤した。

「ガキ相手に何びびってやがる!」

「けど、あの獣人でかいっす」

ネヴロフ身長伸びてるしね、冬毛で体積も増えてるし、見たことのない獣人だろうし。

「なんにしてもやることはやっておこう。ラトラス」

「えぇ、俺? ウー・ヤーって結構好戦的だよな」

ウー・ヤーに指名されたラトラスは、嫌がりつつ薬を入れた小壷を手に取る。

次の瞬間、身体強化の魔法で掻き消えるように動いた。

僕は目で追えないけど、感覚の鋭いネヴロフが鼻を向ける先を見れば、ラトラスの小柄な影が賊の後ろに現われている。

そして飛び上がると、壷の中身を賊にぶちまけた。

六人の賊が頭から小壷の中身をかぶると、そのままラトラスは素早くまた姿をくらましてこっちに戻る。

「今のはどれを使ったのかしら?」

使われた薬品の種別を聞くイルメに、僕は小壷の形と色、撒かれた薬の形状であたりをつける。

「たぶん地属性の特性強化薬だね。あの六人は後回しで他を対処しよう」

団塊となる特性を強化したもので、魔力を流すことで薬に引かれて土塊が集まってくる。

一時間で一キロくらいの土がつくのが、今までの検証結果。

動いたりしてたらどうなるかは様子見だ。

そのためウー・ヤーが別の錬金術で作った薬を手に取る。

僕とエフィが火属性の薬を色々作ったことに触発されて、属性の特性強化を魔法に活かせないかとウー・ヤーとイルメが興味を持ったんだ。

(青トカゲって、サラマンダーみたいに火の精霊かと思ったけど違うかもしれないね)

(考察理由を求む)

イルメが賊の相手で忙しいからってセフィラが聞いてくる。

イルメの声が聞こえる能力は、実際に耳で聞くことと同じ感覚らしく、大勢が喋ってる場所だと聞きわけることが難しいらしい。

(火属性に興味があるんだと思ったら、イルメたちが作る強化薬にも手を貸すことあったでしょ)

(限定鉱石。薬草を扱う実験では姿を見せませんでした)

(そう。だからそれで言えばもしかして地属性とかなのかなって)

(属性の偏りは見受けられません)

話してる間も、基本的に魔法で距離を取っての対応が続く。

その合間に強化薬の実践での実験も行われた。

周辺の警戒は御者台のウェアレルが担当し、杖を構えて危なそうだったら雷を撃つ気なんだろう。

(あ、もしかして鉱物さ、火山性の物に反応してるかも)

(可能性に同意。高温を経た鉱物に反応していた形跡があります。仮定の実証のため高温で熱した素材提示を提案)

それはまた戻ってからだね。

僕はそれよりも目の前のことに意識を戻した。

冷やすという特性を強化した薬で、賊を凍らせようとするネヴロフだけど、上手くいかないのは想定内。

水属性で魔法を使う時と同じで、凍る前に動いて脱出してしまうんだよね。

「飲ませたほうが早いかも」

「お、そうだな。腹冷えるとヤバいもんな」

僕の呟きに、ネヴロフは即座に近くの賊を捕まえて飲ませる。

ただただ不味いということもあり、賊は叫んで抵抗した。

そしてほどなく、腹を押さえてうずくまる。

「い、いてぇ…………」

「あれ、寒くないのか? アズー?」

「腹を下したんだろう。アズ、こっちのまきびしも上手くいかないんだが」

ウー・ヤーはネヴロフに答えて、僕に対策を聞く。

見ると、凍る特性にさらに方向性? 成長点? そういうものを弄った強化薬だ。

水と薬を合わせることで、針のように氷が成長して固まるもの。

けれど脆すぎて踏んでも砕けるだけでダメージにはならないらしい。

「そこは量で補うしかないんじゃない? 栗のいがみたいにさ」

「なるほど。つまりこうか」

エフィがけっこうな量を撒いた上で、魔力と水の魔法を合わせて、小さくても大量の針を出現させる。

大半が踏まれて砕けるけど、針は折れながらも賊の簡素な靴の隙間に入り込んだようだ。

「いて! うわ!?」

「か、頭! こいつらやべぇ!」

「子供相手に! 魔法使いかもしれないって言ってあったろ、今さら怖気づくな!」

「いやでも、呪文も何も! 隙ないじゃないっすか!」

どうやら賊は魔法使いを想定した上で、呪文を唱える隙を突こうとしていたらしい。

それに対して、いつでも魔法が放てるよう準備したままウェアレルが答える。

「人間の魔法使いならそれで、目論みどおりに行くこともあるでしょう。しかし他の種族はそれほど呪文や集中を重視はしません。しなくとも魔法を扱えるからです。そこが魔法を極められるという評価にも繋がっているのでしょう」

そもそも魔法が使いづらいのは人間だけ。

今でこそ最大勢力だけど、帝国以前は一番弱く数が少なかったとか。

そもそも魔法使えないと言われていた種族だから、攻撃方法が貧弱だったんだ。

学園の魔法学科もほぼ人間で、ウェアレルを筆頭に九尾と呼ばれる卒業生は、尻尾があることから人間はいなかったとか。

さらに、ヨトシペのような特異体質も入ってたっていうね。

ただ生まれ持った素質もさることながら、ウェアレルとヴラディル先生のような上位の魔法を扱う実力もあってこその九尾だ。

「温かいと上、冷たいと下、だからこっちを下に、そしてこっちを上に…………」

イルメは珍しく集中して魔法を使ってる。

同時に風を操って二種類の薬を上下に撒いているようだ。

「風で繋いで…………ここで回転!」

魔法で風を操っていたと思ったら、一瞬で竜巻が発生する。

けれど巻き込まれた数人を怯ませただけで、ほどけるように消えてしまった。

「確かに半分以下の魔力でそれらしいものはできるけれど、竜巻を作るためのタイミングがシビアだわ」

言いながらもう一度挑戦するイルメは、それこそ実験台よろしく賊に向き直る。

僕もそれを見て、改善案を出して見る。

「いっそ合わせ技にしたほうがいいかもね。ちょっと竜巻維持に集中して、イルメ」

言って、僕はイルメが作った竜巻に、さっきエフィが大量に作った氷の針とその欠片を投げ込む。

途端に竜巻に当たった賊が痛みを訴えた。

「ね?」

「はい、みなさん。実践も大事ですが、もう残っているのは最初の六人ですよ。現状、逃げられる前に終わらせましょう」

全体を見ていたウェアレルが、そう注意して来た。

見れば最初に団塊の強化薬をつけた六人以外、謎の攻撃の実験台にされて守りに入って動かない。

「じゃあ、もう土ぶつけようか」

「こういうことか?」

僕の提案に、エフィが地属性の魔法で土塊を作って投げる。

すると面白がったネヴロフが土塊を要求したから、僕も一緒になって土塊を作り、それをみんなで投げるという一種子供らしい遊びになった。

ただ結果は、薬のついているところから土塊が落ちないどころかどんどんくっついて重くのしかかられた賊が、ひぃひぃ言うことになる。

避けるのが下手だった一人は、顔面に土塊が固まってちょっと危なかった。

「全く使えないというわけでもないのが悩むな」

「けどウー・ヤー。薬ありきなら選ばないと全部は持てないよ」

「ラトラスの言うとおり、効率的にダメージを与えるか、動きを阻害するかね」

「方針を決めて揃えるってことだな、イルメ?」

「ネヴロフが使うなら阻害だろうが、俺だとダメージ重視か?」

競技大会に参加するエフィは、真剣に相談に入る。

けど賊を放置してるんだよね。

僕が目を向けると、ウェアレルは逃げられないように魔法で電気を走らせ、手早く賊を気絶させる。

その後は、手を叩いて相談をやめさせたウェアレルの号令の下、片づけを指揮されることになった。